2015年11月05日

大阪都構想って「損」

 大阪府知事・市長ダブル選挙の時期となり、また大阪都構想が取り沙汰されていますが、維新が「二重行政解消するのは、大阪都構想か、大阪会議か」みたいに、部分の議論に誘導するので、全体像の話があまり出てきません。

 でも大阪都構想の損得は、全体で考える必要があるので、そういう話をしてみます。
〇「簡単に」ではなく、ある程度まとまった記事としては「大阪都構想を、きちんと考えてみる」を見てみてください。
〇大阪都構想がどういう制度かという話は、「大阪都構想って、こういうこと」をどうぞ。

 大阪都構想の基本のひとつは、「(府と市が)別々にするより(府が)まとめてする方が効率的」ということです。わたしも、これに則って話をします。

 ただ、大阪都構想は「府と市を併せて、ひとつにする」のではなくて、「府と市を併せて、6つにする」(大阪府+5特別区)ものです。
 大阪市の年1兆7千億円の予算規模のうち、4千億円部分を大阪府と統合して、1兆3千億円部分を5つの特別区に分割します。(元データ 元サイト
 なので、「府と市を併せて、ひとつにする」のとは、色々と違ってきます。

 また「別々にするより、まとめてする方が効率的」という話、理論の話と具体化した設計図では、なかなか一緒になりません。そこも切り分けて、考えます。

01大阪都構想メリット_デメリット.jpg

・・・で、大阪都構想の損得を、簡単に全体的にみると、この表になります。プラスが「青」、マイナスが「赤」です。
 後は、この表の補足説明です。


 まず、「理論」の方から見ます。

●【行政コスト】【行政レベル(専門性)】

 広域側は、コストは削減できて、行政レベルも向上します。
 特別区側は、大阪市一体で行っていた事務を分割して、5つの特別区でそれぞれ行うのですから、コストは増加し、行政レベルは低下します。

 問題は、広域側のプラスと特別区側のマイナスのどちらが大きいかですが、基本的には、規模も1兆3千億円と大きく、分割数も5分割と多い、特別区側のマイナスの方が大きくなります。つまり、大阪都構想は全体としては、「行政の無駄を無くす」のではなく「行政の無駄を作る」のです。
 また、広域側のプラスは大阪府民全体で享受しますが、特別区側のマイナスは、大阪市民だけで負うことになります。

 この説明をした時の維新の方の反論として、「特別区は大阪市を5つに分割するのではなく、24区を5つに統合するから効率的になるんだ」というのがありますが、この点についての整理は「(論点5)特別区の行政サービスは低下する」を参照下さい。


●【その他】の「大阪市民の府の経費負担が不平等」

 一般に、市税を市に支払って、市から基礎自治のサービスを受け、府税を大阪府に支払って、大阪府から広域のサービスを受けます。
 政令市、中核市、特例市は、府の仕事の一部を政令市等が引き受ける制度ですが、府税の一部は貰えません。(権限だけの移管で、財源は移管しない)(地方交付税で多少補填されます)
 つまり、市が府の仕事を引き受けて、市の単位で決めたいなら、市税を割いて(基礎自治のサービスを削って)やりなさいという考え方です。

 大阪都構想は、大阪市が行っている府の仕事を、大阪市の財源とセットで府に集約するという制度です。
 そのため、大阪都構想の実現後、大阪市民は、大阪府から他の府民と同じように府の広域サービスを受けるだけなのに(=市の単位で決めることはできないのに)、「府税+市税の4分の1」を大阪府に納め、「市税の4分の3」で基礎自治のサービスを受けることになります。(大阪市民以外は、基本的に市税全部で基礎自治のサービスを受けます。)(詳しくは「(論点4)大阪市民だけが、市税を割いて余分に府財政を負担する」参照)


 次に「具体案(協定書案)」の方です。
 つまり、理論であったプラス面は、設計図の具体化に当たって、どう実現が見込まれているか?マイナス面は、どの程度と試算をし、マイナス回避にどのような手が打たれているかです。

●広域側の【行政コスト】【行政レベル(専門性)】

 まず、年40億円程度の行政コストの削減については、「僅か」としました。

 年40億円程度というのは、長期財政推計の平成45年度効果額229億円を、次の表のように分割した時の「府市統合に関係」の効果額です。(分類の考え方などは「(論点1)二重行政の無駄解消って、どれくらい?」を参照)

04効果額分類の集計表.jpg

 また、「僅か」としたのは、府市の統合規模は、大阪市の4千億円の事業部分に大阪府の一般会計予算2兆7千億円の一部(おそらく数千億円規模)を統合するのですから、「二重行政の無駄」など無くても数百億円の統合効果(=コスト削減)くらいはありそうなものだからです。

 次に「行政レベル(専門性)」の向上の「期待できず」です。

 まず「統合効果」というものを考えてみます。
 「府10」「市10」の事業を行っているなら、府の事業規模を20に拡大して実施した方が、コストを削減し、行政レベルも上がるという考え方です。もちろん、この効果を実現するには、府の事業を、一体のものとして合理的に拡大し、コストも必要最小限に、しっかり絞り込む必要があります。単に、府の組織の隣に、市の組織を並べて、今まで通りの仕事をするだけでは、当然、たいした統合効果は実現されません。

 そして府市の事業の一元化を普通に実現したとして、「凄い行政」になるかというと、大したことは無いと考えます。
 大阪都構想が主張する広域一元化というのは、政令市がない府県では既に実現されているものです。
 つまり近隣でいうと、政令市のある大阪府、京都府、兵庫県の体制から、奈良県、和歌山県、滋賀県、三重県の体制へ移るだけのことです。
 大阪都構想実現後の大阪府が、彼らが語るような「凄い広域行政」を行うには、単に府市の事業を一元化して規模を大きくするだけでなく、「凄い組織」に生まれ変わらせる必要があります。

 つまり、2つの組織 < 一元化 <<< 「凄い組織」になるよう工夫をした一元化 な訳です。

 では、具体案(協定書案)では、どうなっているのでしょうか。
 府市統合本部会議の資料まで広げると、大学、病院など事業部門や外部組織(AB項目と呼ばれています)について、少し検討したものがありますが、肝心の府庁本体に統合される予算4千億円、職員2千人部分について、どういうものにするのか、協定書案に具体的な記述はありません。

 そこで、統合後の予算や職員数をどのように試算しているかで、統合後の検討状況を推し量ってみます。

 予算額は、事業部門や外部組織(AB項目)で多少の精査・削減(=これが年40億円)していますが、それ以外は「府の予算額+市の予算額=統合後の府の予算額」です。

 職員数は、「府の職員数+精査後の市の職員数=統合後の府の職員数」です。
 「精査後の市の職員数」とは、現行数2243人から「府の削減計画と同等の効率化で286人削減(このうち、管理部門を中心に重複部分170人を当初から削減)」と「技能労務関係のアウトソーシングによる見直し593人削減」です。
 アウトソーシングは統合効果ではありませんし、市からの移行人員に対して府の削減計画(10年間、年1.6%減)を適用するのも統合効果ではありません。かろうじて「管理部門を中心に重複部分170人を当初から削減」が統合効果として評価できる程度です。

 統合後の予算や職員数の試算から見えてくるのは、「府市の事業を統合し、一体の事業として合理的に編成し、コストを必要最小限に絞り込む」ような一体化した事業の姿は、全く描けていないということです。この試算は「府の組織の隣に、市の組織を並べて、府と市の組織が同じ場所で、今まで通りの仕事をするだけ」の方に近いです。

 つまり、協定書案は、次のような評価しかできません。
 2つの組織 < 協定書案 < 一元化 <<< 「凄い組織」になるよう工夫をした一元化

 これでは、「行政レベル(専門性)」の向上は「期待できず」としか評価できませんし、行政コストの削減が、年40億円程度と「僅か」なのも当然です。
(参照:「(補1)大阪都構想の統合効果が悲し過ぎる」


●特別区側の【行政コスト】

 橋下氏らは、次の長期財政推計を使って、「特別区がちゃんとやっていけると確認した、住民サービスが低下することはない」と説明します。
 メリット・デメリット整理の表では、特別区側の具体案の「行政コスト」を「不明(全体の試算なし)」としました。なぜ、「全体の試算なし」なのかをご説明します。

02特別区の長期財政推計.jpg
元データ 元サイト

 長期財政推計の表の下の表は、上の表のH33までの赤字期間を、土地を売ったり、基金を取り崩したりして、遣り繰りが可能ということと、土地を売ったりして遣り繰りした後の累積値を示してるだけなので、とりあえず関係ありません。
 上の表がどういう試算でできているか、H45だけに着目して、見ていきます。
 H45の300億円の黒字のうち、財政収支推計Aが121億円、再編効果・コストBが179億円です。
 Aの財政収支推計121億円は、大阪都構想と関係なく、現在のままでも121億円の黒字が見込まれているということなので、大阪都構想の試算とは関係がありません。つまりBの再編効果・コスト、179億円が肝心です。
 179億円の内訳は統合効果・改革効果150億円、特別区再編による職員減67億円、そこから差し引く特別区再編によるコスト増が38億円です。(元データ 元サイト


 特別区側の【行政コスト】の増減は、特別区再編による職員減67億円、特別区再編によるコスト増38億円の部分です。
 特別区再編による職員減67億円の試算も、全く無茶(参照「大阪市一体の事務を5つに分割して実施すると、所要人員が減るという試算の背景」)なのですが、ここでは「特別区再編によるコスト増38億円」の話をします。

03コスト内訳.jpg
財政シミュレーション(元データ 元サイト
長期財政推計(元データ 元サイト 合計分の 元データ 元サイト

 この表は長期財政推計の明細から抜き出したものです。長期財政推計は協定書案をまとめた2014年7月のもの。それと、協定書案をまとめる前のパッケージ案(2013年8月発表)から作成した財政シミュレーション(2014年1月)の数字もセットで並べました。

 コスト試算の細目は、「システム運用経費」「ビル賃料(庁舎費用)」「議員報酬等」の3項目と分かります。パッケージ案の時は、この3項目の増加額だけでなく、変更前の現行支出額も資料にありました。「システム運用経費」「ビル賃料」「議員報酬等」の変更前の現行支出額の合計は120億円です。

 つまり、ざっくり言うと、コスト増試算38億円も、現行支出額120億円に対する増加額なのです。(32%増)(かなりざっくりな説明です。注釈は「(論点6)特別区のコスト試算は杜撰」を参照。)

 特別区全体の予算規模は1兆3千億円。「特別区再編による職員減」の試算は別にするため、人件費部分を除くと、概ね1兆2000億円。
 1兆2000億円のうち「システム運用経費」「ビル賃料(庁舎費用)」「議員報酬等」の3項目120億円について、5つの特別区に分割した時のコストを試算すると38億円増の158億円になった。
 だから、現行支出額1兆2000億円は、特別区再編後1兆2038億円になる。
・・・というのが、この「特別区再編によるコスト増38億円」です。

 でも変じゃありませんか?
 現行支出額1兆2000億円のうち、試算したのは3項目120億円部分だけです。3項目以外の支出の大半を試算せずに「コストの増減はない」と決め付けてしまってるのです。試算した3項目120億円は3割も増加してるのに。

 現行支出額の大半を、試算なしで「コストの増減はない」と決め付ければ、試算上は大幅なコスト増は出てきませんが、これでは全体の試算が無いのと同じです。そのため、「不明」としました。
 そして、全体試算が不明の中で、試算した3項目120億円について32%増という数字が出ているのは、大半を試算していない1兆2千億円のうちの何割かの部分が32%とかのコスト増になってもおかしくないということなので、とても危険なことです。
(参照「(論点6)特別区のコスト試算は杜撰」


●特別区側の【行政レベル(専門性)】

 特別区側は、大阪市一体で行っていた事務を分割して、5つの特別区でそれぞれ行うのですから、行政レベルは低下します。
 特に、市役所・本庁から特別区に分割配置される概ね4千人の事務は、単純に特別区に分割すると、今までの事務の引継ぎも困難で、著しい行政レベル(専門性)の低下が危惧されます。

 協定書案で、この点についての議論はほぼ無く、何の対策もなく、単純に分割するのみです。
(一部、一部事務組合へ移行しますが、この対策としては、一部過ぎます)
(参照「(論点5)特別区の行政サービスは低下する」)


●特別区側の【民意反映】

 理論だけで言えば「近くなる」ですが、特別区の規模が大き過ぎ、「住民の意思反映ができているか」についての指標の整理すら、全く行っていない現状では、「評価できず」としかできません。
(参照「(論点3)特別区になると、住民の意思が反映されるようになるの?」)


●【まとめ】 

 大阪都構想は、理論上でさえ、プラスよりマイナスの方が大きい、基本的に大阪市民に損を押し付ける構造の制度です。
 具体案(協定書案)は、プラス面を活かすものになっておらず、マイナス面は、無視して、問題ないかのように説明上糊塗しているため、何の対策もないままです。

05維新の説明部分.jpg

 このため、大阪府知事・市長ダブル選挙で、維新候補が大阪都構想を推すに当たっては、この部分だけを、ひたすら抽象的に素晴らしいんだと、これをやるしかないんだと、推すことになります。

「次に提案する具体案は、住民投票に掛けた今の協定書案ではない、見直しを行い、バージョンアップするから、問題なくなるのだ」というのは、どうでしょうか?
 次の点で、今、維新候補が言う「見直し」では、ここで挙げたマイナス面や問題の解消が期待できないと考えます。
〇松井氏が挙げる見直し点が、「区割り」「区名」といったもので、ここで挙げる問題とは掛け離れていること。
〇ここで挙げたマイナス面や問題の解消を図ろうとすれば、協定書案の抜本的な見直しが必要になりますが、それには、住民投票で市民に賛成を求めた協定書案が抜本的・構造的問題を抱える案であったことを認める必要があります。維新候補の主張は、そのような立場に立っていません。
〇4年掛けて、こんな具体案(協定書案)しか作れなかった方々が、「作り直したら、今の案の様々な問題を解消した素晴らしい具体案を作れる」という根拠が、そもそも、ありません。
posted by 結 at 03:49| Comment(0) | 概要 | 更新情報をチェックする

2015年08月31日

府市の利害対立する課題が、協議で解決する可能性

 前回の記事で「橋下氏らが大阪都構想で主張する『大阪府と大阪市が協議・調整を行っても、利害が対立し、何も決められない』というのは、当然『合意に向けて十分な努力を尽くしても』という前提が付くはずで、大阪戦略調整会議での党利党略の主導権争いなど、まだ、そういう議論に辿り着きもしていない」としました。

 今回は「では、ちゃんと協議・調整をすれば、利害の対立する課題を決めていくことができるの?」ということを整理したいと思います。

 橋下氏は「大阪府と大阪市が協議・調整を行っても、利害が対立する課題について、同意・決定することはできない」とし、「大阪都構想で(広域行政に関する)組織を一元化し、一元的な決定を行えるようにする必要がある」と繋がります。

 少し言い換えると「大阪府が、大阪市の権限や事業に跨る事案について、大阪府全体として政策決定を行おうとしても、その政策が大阪市に損なものであれば、大阪市の同意を得て、決定をすることなどできない。いくら話し合ったからと言って、大阪市が『損なこと』をいいですよとは言わない」、だから「大阪都構想で、大阪市の権限や事業も大阪府へ集約し、大阪府全体として政策決定を行えるようにする必要がある」です。

 これに該当する項目ということなのでしょうか、維新から二重行政解消名目で、大阪戦略調整会議で早く議論せよと提案されている府市の事業統合項目は、次のものです。(元データ元サイト

〇大学の統合(大阪府立大学・大阪市立大学)
〇港湾管理の一元化(大阪港・堺泉北港・阪南港)
〇病院の経営統合(府立病院機構・大阪市立病院機構)
〇府立産業技術総合研究所・市立工業研究所の統合
〇府立公衆衛生研究所・市立環境科学研究所の統合


 「なんや、住民投票で否決された協定書の一部を切り出して来て、実施させろと言うてるんか」な項目です。
 でも、そういうこと抜きでも、協議したからと言って、彼らの主張する形での決定は難しいかと、(直感的なものですが)思ってしまいます。
 でも、それでも「利害が対立する課題が、協議・調整で、同意・決定することはできない・・・と決め付けることはできない」と思うのです。

 「利害が対立する課題を、協議・調整で、同意できる可能性」について、整理してみます。


 まず、府と市の利害が対立した事例として、2008年〜2009年に行われた水道事業統合をモデル化して、議論の素材にしてみます。
 昔の話ですが、府と市の利害対立として典型的な事例ですし、コスト・効果が数字で示しやすいので、議論の対象として扱い易いのです。

〇大筋は沿いますが、ポイントは絞って、数字は大雑把です。厳密な事実の検証ではありません。モデル化し、あくまで議論の素材の扱いです。
〇実際の協議では、大阪府案に対し、大阪市案が示されて議論されていましたが、大阪府案に絞って見ていきます。
〇当時、府市担当者の協議は行き詰まりましたが、実際の協議では(当時の)橋下知事が大阪市案を丸呑みする形が合意に至り、その合意案は、府水道のユーザーである府下市町村に受け入れられず、頓挫しました。ここでは、府市担当者の協議で行き詰っていた部分を取り出して、見ていきます。


【目的】
 まず、協議の目的を設定します。
 府水道、市水道共に、水需要予測を誤り、浄水場に大幅に過剰な供給設備を抱えていました。

01経営資源効率化の基本構造.jpg

 府水道、市水道は、それぞれ3つずつ浄水場を所持していますが、上の図のように、府と市がそれぞれ、能力100の浄水場を50だけ使っているのなら、一方の浄水場を廃止して、残した浄水場を100使って、水供給をした方が効率的です。
 当時、こういった効率化で、30年間で2800億円の統合効果を生み出せるとされました。

 府市一体で経営資源を活用し、この統合効果を生み出すため、府市の水道事業の統合を検討したとします。

【概要】
(1)府市の水道事業(市の水道事業は浄水場部分のみ)を、一つの組織に統合し、府5割・市5割で代表組織を構成し、経営を行う。
(2)市水道の浄水場を廃止し、そのことで不足する水は、府水道の浄水場から供給を受ける。

【市側のデメリット】
 この案は、府側から提案され、市側が受け入れなかったものです。市側には、何が問題だったのでしょうか?わたしの指摘は、次の2点です。

〇「府市の水道事業を統合し、府5割・市5割で経営」について

 府は、府水道の大阪市以外への水供給事業の経営を10割から5割に落としますが、府市を統合した水道事業の5割を得ます。府としては、これをプラスと捉えていたようです。市側へも「フィフティの提案をした」程度の認識だったようでした。

 市側は「大阪市民の代表が運営する組織で、大阪市民の利益のために水道事業を運営する組織」です。なので、大阪市民への水道事業が決定的に重要で、大阪市民以外への水道事業の優先度は低くなります。
 だから、大阪市民への水供給事業の経営を10割から5割に落として、府水道の大阪市以外への水供給事業の経営の5割を得たとしても、「大阪市以外への水供給事業の経営関与」は「大阪市民への水供給事業の経営を5割に低下」の替わりにはならないのです。
 つまり、「府市の水道事業を統合し、府5割・市5割で経営」は、市側には「大阪市民への水供給事業の経営を10割から5割に低下させ、『大阪市民の利益を最優先としない者』に5割の経営を委ねる」提案でしかありません。

 市水道は、経常的な経費削減の取り組みで平成10年度から平成21年度までの11年間で年間経費を157億円削減し、平成23年度から平成27年度の5年間で年間66億円の経費削減に取り組むとしています。(「大阪市水道事業中期経営計画(平成23〜27年度)」より)

 大阪市民への水供給事業の経営の5割を失ってまで経営統合を行うなら、大阪市民に対する水供給で、経常的な経費削減の取り組みを遥かに超える経営改善が見込める必要がありますが、そのような経営改善は見当たりません。

〇「市水道の浄水場を廃止し、府水道の浄水場から水供給を受ける」について

 府市の水道事業を統合するなら、通常、会計統合も行います。
 市水道の浄水場原価(固定費含む)が1立方メートル40円に対し、府水道の供給価格は80円ですから、会計統合をして価格の平準化を行うと、大阪市民に対する水原価が現状の40円から、60円程度に跳ね上がります。

 これも統合協議の中で問題になった点ですが、2011年の大阪市長選に当っての橋下氏の発言では「この問題を回避するために、市水道部分と府水道部分の会計をそれぞれ独立させる(=「会計分離」)提案を行っていた」とされました。
 統合協議の記録で、会計分離の提案は確認はできませんでしたが、会計分離を前提に、ここでは考えることにします。(2012年の水道企業団と大阪市水道局の統合協議で具体的に示された、会計分離による統合案も参考にしました)

 会計分離を前提にすると、「市水道の浄水場を廃止し、府水道の浄水場から水供給を受ける」とは、(水供給の一部分ですが)市水道側は原価40円の浄水場を廃止して、替わりに80円で府水道から水供給を受けることになる(2012年の水道企業団と大阪市水道局の統合案を参考)ので、会計統合の場合ほどではなくても、大阪市民に対する水原価は上昇します。


 整理すると、上記の統合案では、府側は「経営資源効率化が実現され、30年間で2800億円もの統合効果が期待できる」として、大阪府全体では、ぜひ実施すべき案だと主張します。
 市側にとっては、「大阪市民の利益を最優先とする市民の代表が、大阪市民への水供給事業の経営の5割を失う」「大阪市民に対する水原価が上昇する」というデメリットばかりの案で、とても同意などできるものではありません。

 この大阪府と大阪市の利害が対立する状況は、協議・調整で合意できる可能性はあるのでしょうか?


 この府と市の利害対立に対し、合意の可能性を探るため、2つの整理を提案します。

【整理1】
 まず、「府市の水道事業を、一つの組織に統合」を止めることにします。

 最優先の目的は、「府市の(水道事業の)経営資源を効率的に活用し、巨大な効果を生み出す」ことです。 
 「経営資源の効率的活用」は、「市水道の浄水場を廃止し、府水道の浄水場から水供給を受ける」ことで実現されるのであって、府と市の水道事業が組織統合されるか、されないかは関係がありません。

 それなのに、府と市の水道事業の組織統合は、市側に「大阪市民への水供給事業の経営の5割を失う」という巨大なデメリットを発生させてしまいます。

 「経営資源の効率的活用」に近づく為には、府と市の水道事業の組織統合は、ひたすら邪魔をしているだけなのです。

【整理2】
 「市水道の浄水場を廃止し、府水道の浄水場から水供給を受ける」ことに伴う利益構造は、次のようになります。

02利益構造.jpg

*面倒な注釈(読み飛ばし推奨)
市水道の浄水場原価40円は、通常の変動費(浄水過程で必要となる電気代や薬剤費など)と固定費(浄水場の維持費、更新費など)を合わせたものです。
ただ、この場面では、正確には「浄水場を廃止して、府水道から水供給を受けると不要になる費用」であるべきで、それは「変動費、浄水場廃止で不要になる浄水場の維持費・更新費など」から「浄水場廃止の工事費、府水道から水供給を受けるための配水管工事費など」を差し引いたもので、通常の浄水場原価40円とは一致しません。ただ、ここでは議論の簡略化のために、通常の浄水場原価40円を使用します。


 「市水道の浄水場を廃止し、府水道の浄水場から水供給を受ける」と、市水道側は水1立方メートルごとに、原価40円の自前の水の替わりに、府水道から80円で水供給を受けることになります。
 府水道側は、市水道への水供給は余剰設備の活用なので、固定費を除く原価(=変動費)10円が追加費用として必要になるだけです。市水道へ80円で販売すると、70円の利益増となります。

 経営資源の効率的活用による効果額は、府水道の余剰設備を使用して、市水道へ水供給することで生み出されます。
 府水道から市水道へ40円で販売すると、市水道側はプラスマイナス・ゼロですから、経営資源の効率的活用による効果額を全部、府水道側で独占した場合になります。
 府水道から市水道へ80円で販売するというのは、経営資源の効率的活用による効果額を全部、府水道側で独占した上で、更に市水道側に負担増を負わせて、府水道側が利益を積み上げるというものなので、これで合意というのは無理があります。

 府水道から市水道へ40円で販売した場合が、府水道側が効果額を独占。
 府水道から市水道へ10円で販売した場合が、市水道側が効果額を独占。
・・・という構造ですから、府水道から市水道へ販売価格を10円と40円の間で設定すると、その価格によって効果額の府と市の配分割合を決定できます。


 整理前、府側の「経営資源効率化が実現され、巨大な統合効果」に対し、市側の「大阪市民への水供給事業経営の5割喪失」と「大阪市民に対する水原価上昇」でデメリットばかり、という利害の対立は、【整理1】【整理2】の整理後は、府水道から市水道へ販売価格を10円と40円の間のいくらにするかで、「効果額をどのように配分するか」に切り替わりました。
 ちなみに、整理前も、整理後も「経営資源効率化による効果創出」は何も変わっていません。

 「効果額をどのように配分するか」ならば、協議・調整で合意できる可能性はかなり高まったのではないかと期待します。

*蛇足ですが、上記の「市水道の浄水場を廃止し、府水道の浄水場から水供給を受ける」統合案は、2012年の水道企業団との統合協議で再試算を行うと、18年間で、市水道側のコスト増358億円(柴島浄水場の簿価300億円の土地を330億円で売却し、売却額330億円を全額、効果額計上した場合)に対し、府水道側の効果額270億円と、効果額は存在せず、逆にマイナスになるとされました。


 この水道統合協議を素材とした議論整理は、議論をシンプルにするために、様々な課題を切り捨てていますから、「こうしていれば、解決していた」ということではありません。
 それでも、「大阪府と大阪市で利害が対立する課題は、協議・調整を行っても、同意・決定することはできない」と決め付けてしまうよりは、一歩前進できる可能性があるということを示しているのかなとは思います。


 ポイントになりそうな点を挙げてみます。

【ポイント1】

 利害の対立する課題を、ここで挙げたような協議・調整でうまく行かせるには、例えば、事業統合の例でいうと、事業規模に比して、十分な統合効果が生み出されることが大切です。十分な効果が生み出されるなら、利害対立を効果の配分に置き換えて行ける可能性が高まるからです。
(勿論、ここでいう「効果」とは、一方だけが言い立てる効果ではなく、協議の関係者で理解を共有できる効果である必要があります)

 この記事の前段で、維新から二重行政解消名目で、大阪戦略調整会議で早く議論せよと提案されている府市の事業統合項目の次のものについて、彼らの主張する形での決定は難しいのかなと書きました。
〇大学の統合(大阪府立大学・大阪市立大学)
〇港湾管理の一元化(大阪港・堺泉北港・阪南港)
〇病院の経営統合(府立病院機構・大阪市立病院機構)
〇府立産業技術総合研究所・市立工業研究所の統合
〇府立公衆衛生研究所・市立環境科学研究所の統合

 それは(わたしの知る限りでですが)事業規模に比して十分な統合効果が示されていないと思うからです。

 効果が生み出されないのに、利害が対立する課題というのは、ある種のゼロサムゲーム(=奪い合いのゲーム)ですから、「お前のものを俺に寄越せ」「とられるもんか」という話を、ここで挙げたような協議・調整でうまく合意させるのは、困難に思います。

 ただ、効果を生み出さない事業統合などを、大阪府が要求する通りに合意されないといけないのかというと、市民としては「効果が無いなら、実現しなくてもいいんじゃない」と思ってしまいます。


【ポイント2】

 利害の対立する課題を、ここで挙げたような協議・調整でうまく行かせるには、(それぞれの立場からの)効果、コスト、リスク、問題点などを、しっかりと整理し、協議担当者で理解を共有することが大切です。

 この整理と理解の共有がうまく実現できれば、ある程度、合意点が見えてきます。
 勿論、この整理に当たって、柔軟な発想で、解決を困難にする点を解消・回避していけば、更に合意に近づきます。

 実際の協議の場に出てみると、このような整理の作業が進められない場合というのがあります。
 一番思い当たるのは、協議の一方が「自分の提案を一方的に押し付けようとし、相手方の提案をひたすら否定する」という交渉態度を採る場合です。

 ここでいう協議・調整というのは、双方が合意を目指して、双方の譲れない点と譲れる点をすりあわせ、合意できる点を模索する作業です。
 それなのに、協議の一方が「自分の提案だけが正しい」「相手方の提案は、間違いだ」「一切譲歩するつもりはなく、自分の提案通り以外の合意はない」と言ってしまっては、協議は成立しません。

 こういう交渉態度に出る場合、相手に何とかして、自分の提案を押し付けよう、相手を追い詰めて、無理にでもウンと言わせようとするので、相手方の対応の余地も狭めてしまいます。
 相手方が、双方の主張の中間的な妥協点を提案したりすると、「あなたの提案には一貫性がなく、おかしい。あなたのおかしな提案は取り下げて、わたしに合意しろ」のような揚げ足とりをされたり、「わたしの100の提案に対し、あなたは今まで0で提案していたが、50を提案されるのだな。では、今までの100か0かという議論ではなく、100か50かで協議しよう」のような一方的に譲歩を押し付けられたりと、損でしかないからです。
 そのため、協議の一方が「自分の提案を一方的に押し付けようとし、相手方の提案をひたすら否定する」という交渉態度を採ると、相手方も同じ交渉態度を採らざるを得ず、どうにも協議は動かなくなってしまいます。

 これは、会議のルールの問題とか、協議テーマの問題ではなく、プレイヤーの問題です。
 協議は、双方が合意を目指すことで進むというのは、当然のことです。だから、協議の一方が「自分の提案を一方的に押し付けようとし、相手方の提案をひたすら否定する」のでは、当然協議は進みません。
 でもこれは、「利害の対立する課題を、協議・調整で合意・決定することはできない」というのとは、少し違うように思います。

 「自分の提案を一方的に押し付けようとし、相手方の提案をひたすら否定する」交渉態度の例としては、第1回大阪戦略調整会議での橋下市長の交渉方法が典型的で分かり易いです。2時間の会議は少し長いですが、協議がみるみるうちに、動かなくなっていくのが分かり易く確認できます。


【ポイント3】

 前記の水道統合協議の例で、
〇整理前の府市の利害が対立した状態を解決する手段として、大阪都構想の方法を採り、大阪府知事が一元的に決定できるようにした場合と、
〇整理後の府市で効果配分できる状態まで持っていき、協議・調整で解決する場合とで、
「水道事業の経営資源の効率化」という効果は同じです。

 「水道事業の経営資源の効率化」は同じで、大阪府知事が一元的に決定できる方が、時間もかからず容易ですが、わたしは(時間がかかり、容易でなくても)協議・調整で解決する方法であって欲しいと思います。結論に、かなりの違いがあるからです。

 大阪府と大阪市の利害が対立する課題を、大阪府知事が一元的に決定するということは、「利益を大阪府が総取りし、損を大阪市に押し付ける」形で決定するということです。(大阪府知事が、利益を府と市で分け合うように提案するなら、そもそも利害は対立しません)

 大阪府と大阪市の利害が対立する課題を、府と市で協議・調整で解決するということは、一方的な損の押し付けなどではなく、利益を分け合うように合意を図るということです。

 誰かに一方的に損を押し付ける形で、決定が進められることを、わたしは好ましいとは思いません。それよりも、利益を分け合う合意を図る方が好ましく思います。
 まして、一方的に損を押し付けられるのが、わたしを含む大阪市民というのでは、なお更です。


(追記)
 念のためにお断りしますが、「大阪府と大阪市の利害が対立する課題」が、協議で解決する・しないに関わらず、大阪都構想に反対なのは変わりません。
 大阪都構想は「大阪府と大阪市の利害が対立する課題を安易に解決する」としても、「二重行政解消など主張される大阪都構想の効果は、あまり期待できず、住民サービスの低下など付随する問題の方が、ずっと大きい」(参照:大阪都構想を、きちんと考えてみる)からです。

posted by 結 at 21:03| Comment(0) | 広域行政 | 更新情報をチェックする

2015年08月16日

「大阪会議はポンコツだから、やっぱり大阪都構想だ」の3つのヘンな点

 「大阪都構想の成否は、議会が決めるべきではない。市民自身が決めるべきだ」と強引に住民投票を実施した挙句、住民投票で否決されて3ヶ月。
 最近のニュースによると、橋下市長や松井知事から「もう一度大阪都構想を」という発言を、次々されているようです。

 例を挙げると、次の通り。

〇大阪府の松井一郎知事(大阪維新の会幹事長)は29日、府と大阪市、堺市の首長と議員計30人でつくる「大阪戦略調整会議」(大阪会議)を「何も決まらない。二重行政の解消には制度を変えなければいけない」と批判し、廃案になった大阪都構想を再び掲げる可能性について言及した。(朝日新聞デジタル 2015年7月29日 元記事

〇橋下氏は、住民投票で否決された「大阪都構想」について「松井知事に訴えてもらいたい。都構想の訴えを続けるのであれば、知事をやってもらうのが一番だ」と語った。また、自民党が都構想の対案として提案した「大阪戦略調整会議」を「ポンコツ会議。絶対にうまくいかない」と批判した。(毎日新聞 2015年08月07日 元記事

〇維新の党の橋下徹最高顧問(大阪市長)は8日、大阪市内で開かれた大阪維新の会の会合で、大阪府と市を統合する「大阪都構想」について、「(住民投票の)一度の否決が決定的にすべてを結論づけるものではない」と述べ、再び実現を目指す考えを示した。(YOMIURI ONLINE 2015年08月08日 元記事

〇(大阪戦略調整会議の第2回会合流会後)報道陣から「これでもう一度都構想を訴えられる?」と聞かれると、橋下氏は「十分だと思います。これで(大阪会議が)大阪都構想の対案でないことはハッキリした」。(スポーツ報知 2015年8月13日 元記事

 総じて言うと「大阪戦略調整会議では、二重行政の解消は行えないから、やっぱり大阪都構想だ」と主張されているのかと思います。


 わたしは、この主張について、次の3つの点でヘンだなぁと思うのです。

【その1】
 「大阪府と大阪市が協議・調整を行っても、利害が対立し、何も決められない」というのは、橋下氏らが大阪都構想について主張していたことですが、それは当然の前提として「大阪府と大阪市が、合意に向けて十分な努力を尽くしても」という前提が付くはずです。
 もしそうでなくて、「大阪府は、交渉に際して何も譲る気がなく、一方的な主張を押し付けようとするだけで、真剣に協議・調整を行って合意を図る気がない」から、「大阪府と大阪市が協議・調整を行っても何も決められない」というのなら、そんなことで大阪市民に「大阪市を廃止して、府だけで決められるようにさせろ」(大阪都構想って、そういうことです)なんて言ってるよりも、まずは、真摯に協議・調整を行って合意をする努力をしろって、話ですから。

 さて、橋下氏らは、2回の大阪戦略調整会議で、「何も決められない」「やっぱり大阪都構想だ」と言うのですが、「大阪府と大阪市が、合意に向けて十分な努力を尽くした」とは、とても思えません。

〇まず、2回ぽっちで、1ヶ月もかけずの決め付けって、おかしいでしょう。しかも、11月の大阪府知事・市長選に向けたパフォーマンスをやってるなんて、みんな知ってることですし。
 選挙向けの応酬とかでなく、まずは何年か、じっくりと腰を落ち着けて協議をして、その間、改善できる点は改善して、評価はそれからでしょう。

〇まだ、具体的な協議は何もしておらず、「会議を、自分たちの好き放題に運営させろ」「そうはさせない」と党利党略をぶつけ合ってるだけです。大阪府と大阪市の対立ですら、無いです。


【その2】
 「反対派(主には自民党ですが。)が主張した大阪戦略調整会議では、うまく行かないから、大阪都構想しかない」
 橋下氏が、よく使う論法ですが、全く論理的ではありません。

 大阪戦略調整会議がダメだった(まだ判断するのは余りにも早計で、まだ初期不良の改善に努める時期と思いますが。)として、大阪府・大阪市にまたがる課題解決の方法が「大阪戦略調整会議」と「大阪都構想」の2つしか無い訳はありませんから、大阪戦略調整会議がダメなら、別の方法を様々に考えるのが先で、住民投票までして退けられた大阪都構想を「これしかない」と持ち出すのは、それが出尽くした後のように思います。

 別の方法の例を思いつきで挙げると、
〇今回、条例設置した大阪戦略調整会議は、その仕組みがうまく行かないと批判が多いようです。
 来年の4月には、同じような課題解消の目的で、地方自治法により指定都市都道府県調整会議を設置することとされていますから、この法設置の会議を、しっかりとした仕組みにして、再挑戦というのも、ひとつの方法かと思います。

 また、この地方自治法に基づく調整会議は、政令市のある道府県すべてに設置されるものです。もし、それでやってみて、大阪府だけうまく行かないのなら、「制度の問題ではない」可能性が高いです。
 「制度の問題ではない」ものを、「制度の問題だ!」として解決しようとしても、普通うまく行きません。

〇橋下氏らが主張する「二重行政の問題」は元々、大阪市が政令市で、府県並みの権限を持つことが問題で、政令市の持つ広域行政権限の一部(例えば港湾など)は府県に一元化されるべきだというものでした。
 普通、この問題提起であれば、政令市の権限範囲の見直しを国政に提起するのが王道です。
 大阪都構想は住民投票で否決されたことですし、王道に立ち戻って考えるのも、ひとつの方法かと思います。


 ただ、橋下氏らは「二重行政解消が必要だ!」と主張する訳ですが、大阪戦略調整会議に彼らが二重行政解消の課題だとして提出した案件を見ると、否決された協定書の府市統合の一部を切り出したもので、二重行政の無駄解消と言えるような統合効果は説明できていなかったものです。
 彼らがいう「二重行政解消」(=府市事業統合)が本当に必要なのか、大元に立ち戻って検討することも、併せて必要なように思います。


【その3】
 上記の話より更に大元の話として、「大阪戦略調整会議では、二重行政の解消は行えないから、やっぱり大阪都構想だ」という主張が成立するには、
「住民投票で大阪都構想に大阪市民が反対の投票をしたのは、『大阪都構想でなくても、大阪戦略調整会議(あるいはその他の方法)で二重行政は解消できる』と考えたから」
・・・というのが、最低限必要です。

 でも、わたしは住民投票で反対を投じた大阪市民のひとりですが、大阪戦略調整会議など眼中になく、「二重行政解消など主張される大阪都構想の効果は、あまり期待できず、住民サービスの低下など付随する問題の方が、ずっと大きい」(参照:大阪都構想を、きちんと考えてみる)と思って反対に投じただけなので、「大阪戦略調整会議では、二重行政の解消は行えないから、やっぱり大阪都構想だ」などと言われても、「何言ってんの、この人」「あれだけ大騒ぎして、住民投票をさせといて、結果が気に入らないと蔑ろかい?」としか思えません。

 住民投票直前の5月9、10日の世論調査の結果を見ても、反対と答えた人の理由は次の通りです。
(朝日)(元記事
「行政のむだ減らしにつながらないから」
「大阪の経済成長につながらないから」
「住民サービスがよくならないから」
「橋下市長の政策だから」

(産経)(元記事
「メリットが分からないから」
「住民サービスが良くならないから」

 「大阪都構想に期待していない」という理由が大半で、「大阪戦略調整会議(あるいは他の方法)でも、効果が期待できる」みたいな意見は見当たりません。

 橋下氏らが「大阪都構想は凄い効果がある政策だ」と主張してたことは、大抵知ってることですから、それに対して「そんなこと言われても、信用できない」「全然期待しない」として反対を投じたのに、「大阪戦略調整会議では、二重行政の解消は行えないから、やっぱり大阪都構想だ」などと言われても、やっぱり「何言ってんの、この人」でしょう。


 住民投票前の期間、橋下氏は住民投票について「何度もやるものではない。1回限り」と述べ、賛成多数にならなかった場合には都構想を断念する考えを示し、街頭演説やテレビ番組などで「衰退する大阪を変える最初で最後のチャンス」と訴えていました。(元記事
 舌の根も乾かぬうちに、「またまた大阪都構想」と言い出したことで、彼らの説明が「信用できないもの」ということを、自ら証明してしまったように思います。


(追記)2015.08.30
 上記の「大阪会議はポンコツだから、やっぱり大阪都構想だ」という主張をどう思うかという話と別に、橋下氏らが今「大阪会議はポンコツだから、やっぱり大阪都構想だ」と主張すること自体に矛盾を感じることを整理しておきます。

 橋下氏らは、「大阪戦略調整会議では、二重行政は解消できない。だから、やっぱり大阪都構想だ」と言い出しています。
 でも、橋下氏は住民投票前、住民投票について「何度もやるものではない。1回限り」と言ってましたし、やっぱり住民投票前、「大阪戦略調整会議では、二重行政は解消できない」と主張されていました。

 もし「大阪戦略調整会議では、二重行政は解消できない。だから大阪都構想だ」とお考えなら、住民投票前から、「住民投票が反対多数でも、再挑戦する」と言ってないとおかしいですよね。
 こういう矛盾というのは、「噓」があるっていうことです。
posted by 結 at 01:22| Comment(0) | その他 | 更新情報をチェックする
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。