2010年10月06日

区役所への分権をどう考える?

 前回、市役所改革のことを書いたので、市役所改革と関連した話題を、1〜2点取り上げてみたいと思います。
 まずは、都区制であれ、分市であれ、大阪市の分割には反対と書いてきましたが、区役所への分権をどう考えるかです。

 わたしは、政令指定都市という制度は、かなりメリットの多い制度だと考えています。
 それは、一般的に「市」の業務とされるものの中には、スケールメリットの働き易い事務が沢山含まれています。でも、スケールメリットをひたすら追求すると、市民から身近な距離に市役所の窓口を設けて、丁寧な対応をすることが難しくなってきます。
 一般の市では、スケールメリットの追求を多少抑えて、市役所の窓口が遠くなり過ぎないようにします。ただ、30万人規模を適正とする考え方では、スケールメリットの追求に多少偏っている気もしますが。
 政令指定都市では、スケールメリットの働き易い事務は市役所が担当し、市民に身近な部分の事務を区役所が担当することで、スケールメリットを十分に享受しながら、区役所の窓口が市民から遠くなり過ぎないようにすることができます。大阪市の場合、1区役所は平均すると10万人規模になります。(大阪都構想の場合、都庁と都区といっても、都庁はスケールメリットの働き易い事務を市役所の代わりに担当したりしないので、政令指定都市のような市の業務の機能的分担はありません。分市に近いと考えた方がいいです。)
 なお、ここでいう「市役所の窓口」というのは、単に物理的な窓口だけでなく、個々の市民を対象とした、様々な業務のことです。

 ただ、「区役所への分権」という視点で考えた時には、わたしは、大阪市は、もう少しだけ、区役所に予算などが移った方がいいように思っています。
 理由は、現状では、大阪市内の行政サービスを一律とし、市民が平等に行政サービスを受けられることに重点が置かれすぎ、区役所が市民から受けた要望へ柔軟に対応していくことを難しくしていると思うからです。
 ただ、このことは、市民の側も、住む区によって受けられる行政サービスや区役所での対応に多少の差が出てくることは、受け入れる必要はあります。とはいっても、大阪都構想とは違って「多少」の範囲ですが。

 どの程度の「区役所への分権」がいいでしょうか。
 わたしの考える「好ましい程度」は、一点目として、市役所での行政サービスの一部を圧縮し、各区10億円程度を区役所の裁量で使えるようにすることです。(大阪都構想では、都区の予算はもっと大きくなりますが、それより更に大きな現状の行政サービス全体を引き受けることになるので、現状の行政サービスに大鉈を振るわない限り、実質、区役所の裁量で使える予算は出てきません。それどころか、予算が不足する可能性も高いです。)
 ただし、どのように使うかは、ある程度、事前に決めて、他の予算と一緒に市議会の承認を受けることは、当然必要です。

 もう一点として、市の条例・規則で「市長が特に許可できる。」としていることの一部を、区長もできるようにすることです。例えば、税金や保険料の減免や福祉サービスの追加的な決定など。ただし、そのことで不足する財源は、区役所の予算で賄う考え方を採るようにします。

 現在の大阪市の行政サービス(より、やや減らしたもの)に、この程度の区役所の裁量によるサービスを加えれば、大阪市としての一定レベルの行政サービスを保障しながら、区役所が市民と直接接することで出てくる要望に柔軟を対応できるようになるのではと考えます。
 そして、次に考える必要があるのは、どのようにして、区役所が裁量を持った分を、区民の意見に副ったものとしていくかです。

 区議会などで、区民の代表を区役所へ送り、意見反映をするという方法は、不要だと思っています。
 一番目の理由として、区の行政に関連した情報は、区役所が一番持っているからです。
 それは、区役所で業務をしているというだけでなく、問合せ、苦情、要望といった形で、区民から一番生の意見を受けているのは、区役所の窓口だからです。区長は、それらの情報をきちんと報告する体制を作るだけで、十分な情報を得ることができます。
 区議会議員を選んだとして、区役所窓口に寄せられる区民の声以上に、網羅的で切実な「区民の声」を区議会議員が届けることは難しいと思います。

 二番目として、区議会を置くことで(市議会を否定してまで)期待するほどの区民の意見反映ができるのか疑問を持つからです。
 現状の市議会は、市政に対するチェック機能として、一定役割を果たしているとは思います。でも、現状で、市民の意見が十分に反映されていないと感じる部分があるからこそ、市役所改革という発想になるのだと思います。
 大阪都構想では、この原因は全て大阪市の規模が大きいためで、30万人規模にすれば全て解決するように語ります。でも、本当でしょうか?
 わたしは、市民の選んだ市議会を持ちながら、市政に市民の意見が十分に反映していない感じる部分があるなら、それは、議員の選出方法であったり、議会と市政の関係であったり、議会と予算の関係などといった制度全体の構造の中にも、大きく原因を持っているように思うのです。
 ですから、市議会と別に、区議会を置いたとしても、制度全体の構造は変わりませんから、結局、「区民の意見が反映されない」と感じるひとが出てくるだけのように思います。

 では、どうすればいいのでしょうか?
 区役所には、元から区民からの生の意見が集まっています。そこに、権限と財源が加わるなら、後は、区民のために多少の無理をしても頑張ろうとするインセンティブを設けることが、一番大切なのだと思います。
 わたしは、議会の予算審議のような事前の審査ではなく、毎年の区政を行った結果に対して、区民から直接評価を受けるような方法が良いのではと思います。そして、評価の高い区役所と評価の低い区役所では、職員の処遇を変えることを考えてみてはと思うのです。
 区民からの区政への評価は、第三者の調査といった方法もあるでしょうし、投票(又はアンケートの郵送)などで評価を貰う方法もあるでしょう。バウチャーを活用する方法もあるかもしれません。市民へお願いをする部分もでるかもしれませんが、色々な方法が考えられるはずです。

 区民が区政へ意見反映する方法は、選挙など既存の手段だけに固執するのではなく、もっと多様な考え方を検討する方がいいように思っています。
 そして、政令指定都市の規模のメリットを十分に活用しながら、このような方法で、区役所が区民からの要望に、柔軟に対応できるような方法が見つかれば、一番良いバランスの「区役所への分権」になるのだと思います。

 なお、余談ですが、「区民のために多少の無理をしても頑張ろうとするインセンティブ」のための方法を考えていた時、民間会社のように覆面調査員を派遣するのって、市民と接する窓口では、表層的かもしれませんが、効果あるのかなと思いました。
 上での議論のようなことと比べれば、導入にそれ程難しい点があるとも思わないので、やればいいのに、と思うのですが。(既に導入済みだったら、ゴメンナサイ。)


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posted by 結 at 03:07| Comment(2) | 行政組織 | 更新情報をチェックする

2014年05月05日

域内分権のコストと効果は見合うのか

 地方自治法改正案により、総合区の導入が議論に上がっています。
 これを機会として、(総合区には限定しませんが)行政区の区長権限強化を一般に指す「都市内分権」と、大阪都構想の特別区を比較してみたいと思います。

 観点としては、「地域別の住民サービス選択の希望」の実現と分権化に伴うコスト発生がリンクしていないことに着目し、コスト発生をできるだけ抑えながら「地域別の住民サービス選択の希望」を実現する方法を考えてみませんか?・・・です。


 まず、議論を視覚化、簡略化するために、簡単なモデルを作ってみます。

 まず、地域の想定として、市はa〜iの9個の行政区を持つとして、市を特別区に移行する場合、A〜Cの3個の特別区に分割するとします。

 業務毎に「m」と「r」のサービス選択(または「m」と「M」のサービス選択)があり、現在「m」で統一されてるものとします。
 「m−r」と「m−M」の違いは、「m−r」が一般的な排他的選択なのに対して、「m−M」は差異の小さな選択で、「M」は「m」に対して、一部例外的取扱いや細やかな地域的要望反映を求める程度の付加的選択とします。

 また、「m」と「r」(または「M」)のどちらを選択しても、コスト的な差異はないとします。
 ただし、全市統一で行うよりも、特別区単位(3分割)で行う方がコストは大きくなり、行政区単位(9分割)で行う方が、コストは更に大きくなるとします。

 また、全地域で「r」を希望しているのに、「m」で実施されるケースもあることとします。つまり、「行政が市民の希望を把握できていないケース」も想定に含めます。

00モデル説明.jpg

 現在の業務別の実施状況を次の通りとします。

01現状.jpg
 「分割難しい」は、「分割容易」より、分割実施する際にコストが大きい業務とします。
 「選択無し」は、法律などで決められていて、住民による選択の余地が無い業務とします。
 「分割不可」は、分割不可能というより、分割コストが大き過ぎる又は難しいとして、大阪都構想の中で一部事務組合が担当とされている業務を想定します。

 地域別の住民の希望を次の通りとします。

02希望分布.jpg

 特別区の場合に、地域別の希望を踏まえて、どのような住民サービスが実施されるかが、次の通りです。

03特別区.jpg
(業務05と業務12は、住民の希望は「r」なのに「m」のままとしています。これは、「行政が市民の希望を把握できていないケース」である業務04、05、11、12のうち、改善されるケースとされないケースがあると想定したものです。業務04、11が改善されるケース、業務05、12が改善されないケースです。)

・ひとつの市の中で、住民に近い部署の権限を大きくする都市内分権と違い、特別区はほぼ分市に近い手法なので、分割の困難性や必要性と関係なく、全ての業務を、特別区毎に分割します。
・ほぼ全ての業務を分割してしまうので、ほぼ全ての業務で地域別選択の反映が可能です。

・困難性や必要性と関係なく、全ての業務を分割するのですから、幅広い業務でコストが発生し、分割によるコスト発生は、とにかく大きいです。
・分割コストが大きいため、9分割が望ましいのにできません。3分割に止める必要があります。特別区の規模を小さくできないため、地域の希望を反映できないケース(業務06-d、07-f、13-d、14-f)や地域の希望が十分に届かないケース(業務05、12)が出てきます。


 都市内分権の場合に、地域別の希望を踏まえて、どのような住民サービスが実施されるかが、次の通りです。
(都市内分権は、権限移譲の範囲を極狭い範囲に止めるケースから、幅広く設定するケースまで、様々なパターンが考えられますが、ここでは「希望の多い・少ない」は考えず、分割容易な業務を全て権限移譲する場合を図にしました。)

04都市内分権.jpg

・どのような範囲・形態で業務分割を行うか、自由に設計することができます。
・地域の単位に即した、行政区単位(9分割)での分割が可能で、地域単位の希望に副ったサービス選択が可能です。

・業務分割から外れた業務での、選択改善はできません。
・権限移譲が中途半端にならないか、危惧を受け易いです。

(注意点)
〇特別区と都市内分権を同列で比較していますが、市の中で部署間の役割を見直す都市内分権と、市を廃止して、それぞれがひとつの市に近い特別区の設置(分市に近いもの)は、全くの別物です。

〇業務分割によるコスト増とは、
「今まで通りのサービスを行うためのコストが上昇」
「コスト上昇に伴う予算不足を補うための、サービスの一部カット」
「行政レベル低下による、サービス低下」
などを指します。

〇このモデルでいう「地域別のサービス選択が実現される」と、「個々の市民が行政に望んでいることが実現される」とは、大きく違います。
 特別区でも都市内分権でも、実現できるのは「業務を全市統一で行っているために、地域の希望を取り込めない場合」の改善のみです。
 「お金が足りないからできない」「法律などによりできない」「地域単位で見ても少数意見」などで実現されていない要望は、分権では実現されません。


 さて、この記事のテーマである権限分割によるコストと効果を比較してみましょう。

03特別区.jpg

 特別区の場合が特徴的ですが、コストは業務分割を行う業務01〜17の全てでコスト増を発生させますが、業務分割を行う業務01〜17の全てで、サービス選択の改善の効果がある訳ではありません。
 サービス選択の改善の効果を上げているのは、業務04、06、07、11、13、14の6つの業務だけです。

 業務分割は、(ほぼ)必ずコストを発生させますが、必ずしもサービス選択の改善に繋がる訳ではありません。
 闇雲に権限移譲・業務分割を行っても、コスト倒れになる可能性は十分にあります。


 都市内分権は、特別区と比較して、「権限移譲が不十分だ」「地域の意見反映ができないケースが出てくる」という批判が予想され、「可能な限り最大限の権限移譲を、どのように実現するか」といった議論に陥りることが危惧されます。

 でも、権限移譲がコストを発生させても、必ずしもサービス選択を改善しないことを考えると、「可能な限り最大限の権限移譲」は必ずしも一番良い答えとは言えません。
 都市内分権は、権限移譲の範囲などを自由に設計できる点に一番のメリットがあります。コストと効果の両方をよく考慮し、バランスの取れた権限移譲を目指すのが、より良い答えに繋がると思います。例え、「中途半端」と謗られようとも。


 この都市内分権を促す地方自治法改正案に対して、橋下市長が大阪市議会の大都市・税財政制度特別委員会で、「都構想と比較検討の対象となる。ただし、公選区長を選択できることが必要だ」という趣旨の答弁をしたことから、次のように報じられています。

--------------------------- 引用開始 ---------------------------
自治法改正案も議論の材料に=都構想と比較促す−橋下大阪市長
時事ドットコム (2014/04/07-19:08)
http://kiziosaka.seesaa.net/article/394166455.html

 大阪市の橋下徹市長は7日、今国会に提出された地方自治法改正案を基に、「大阪都」構想とは別の大都市制度見直し案を市議会に提示する考えを明らかにした。同日の市議会特別委員会での答弁。比較材料を提供することで、都構想の議論加速化を図る。
 改正案は、政令市の行政区をより広い権限を持った「総合区」に格上げできる制度の創設などが柱。区の権限強化や二重行政解消など、都構想と目的が共通する部分も多く、構想に反対する自民党や民主系会派など市議会野党に、対案として検討を進める動きがある。
 橋下市長は「(大阪には)都構想がふさわしいと思っている」と強調。一方で、同法改正案に関連し、「いくつかの案を用意して都構想と比較する議論にしていく」と、市議会に幅広い検討を促す方針を示した。 
 また、「権限移譲を進めると公選区長(が必要)になる。改正案で絶対譲れないのは公選区長」と指摘。改正案に公選区長制の導入を盛り込むよう、政府に働き掛ける意向を明らかにした。市議会には、公選区長制を取り入れた案も提示する考えという。
--------------------------- 引用終了 ---------------------------

 「都構想と比較し検討」「公選区長が必要」という点が強調されるため、様々に憶測されますが、次の市議会特別委員会での維新・河崎市議に対する橋下市長の答弁を聞くと、地方自治法改正案をかなり曲解した主張をされているようです。

 答弁の要旨は次の通りです。
〇地方自治法改正に基づいても、大阪市政の改革は進まない。
〇区長への権限移譲を更に進めようとするなら、公選区長が必要。
〇特に予算編成権を区長に移すためにも、公選区長が必要。
〇公選区長にするなら、公選区議会も必要。(市議が兼務)
〇公選区長にするなら、24区は絶対不合理で、5区だと思っている。

 橋下市長が「公選区長が必要」と主張しているのは、「区長を選挙で選べるようにしよう」と言ってるのではなく、行政区の権限強化を図る総合区を、強引にすり替えて「特別区みたいなもの」にしてしまおうと言ってるのだと分かります。
(普通に行政区や総合区の区長を選挙で選ぶことにしても、別に区長が予算編成権を持つことにもなりませんし、区議会も合区も必要ありません。)

 基礎自治体である市の中に、基礎自治体に相当する特別区を設置するのは制度的に矛盾しますから、地方自治法改正案も(漏れ聞く範囲では)そのようなものにはなっていません。
 橋下市長が主張する「公選区長が必要な総合区=特別区みたいなもの」は、彼の勝手な主張であり、制度に対する曲解です。

 また、ここで議論している域内分権のコストと効果の観点でいえば、それは都市内分権としてのメリットを失い、特別区と問題点の多くを同じくすることになります。


 次に特別区の場合のコストと効果です。
 特別区の場合、業務分割の選択の余地は無く、とにかく全部分割(一部事務組合への業務範囲と府への移管範囲が選択できる程度)です。
 コストは、とにかく全部分割なので、最大になります。それを少しでもマシにするためには、分権の効果を大幅に殺いでも、分割数をどれだけ減らすかになります。

 コストは、事務配置などに基づき、ひたすら真面目にコスト増となる内容を試算するしかありません。
 効果は、地域別のサービス選択の希望がどんな状態かによって、大きく変わります。

 上で挙げた「地域別のサービス選択の希望」の例は、様々なパターンを網羅するようにモデル化したものです。
 ここでは「地域別のサービス選択の希望」によってどう変わるかを考えるために、2つの極端なパターンを挙げてみます。

05希望パターン.jpg

 パターン1なら、特別区にした場合の効果は最大になります。「選択無し」の業務がどの程度あるかを十分に精査する必要はありますが、特別区(というより分市)を選択する十分な状況に思います。

 パターン2なら、コストが掛かるばかりで、(サービス選択を改善する)効果は見当たりません。 

 橋下市長は、過去のタウンミーティングで、行政サービスに対する希望は、区によってバラバラだと主張されていました。
 でもそうであれば、24区をそれぞれ特別区にしなければ、サービス選択を改善する効果は見込めません。現在の大阪都構想の、複数区をまとめて5つの特別区にするというのでは、駄目なはずです。主張として、合理性を欠いているように思います。

 わたし自身の中では、パターン2の方にかなり近いのではないかと思っています。

 基本的には市民のひとりとしての実感がベースですが、客観的に説明できるものとして、区割り案についての議論の経緯が挙げられます。
 もし、パターン1にそれなりに近いのであれば、サービス選択の希望の分布に沿って区割り案は作らなければならず、そうして作った区割り案は、市民の多数に「当然のもの」として受け入れられます。
 サービス選択の希望の分布に沿って区割り案を作れば、特別区の規模はそれに付随して決まりますし、規模に差異が出てくるのも別に普通のことでしょう。
 でも、サービス選択の希望分布に沿った、市民の多数に「当然のもの」として受け入れられる区割りなど存在していないから、区割り案作成は暗中模索で、決定打になるものは出てこないでいます。

 また、現在橋下市長らが推す5区分離案は、「サービス選択の希望の分布」を評価項目にせず作成したものです。パターン1の状態であれば、区のまとまりとして不都合があると、もっと具体的な例を多数挙げた批判が出てきそうなものですが、そういった批判もあまり聞きません。

 区の組合せについて、決定的な指針もないまま、いくつもの区割り案が提案され、どれも「これだ!」とならない状況というのは、パターン2に近い状況でないと考え難いのです。

 「地域別のサービス選択の希望」がパターン2に近いとすると、大阪都構想による特別区の設置は、コストばかり発生し、(サービス選択を改善する)効果はほとんど期待できないことになってしまいます。
 では、(ここでの議論の方法に当てはめると)大阪都構想の主張の中では、どのように正当化しているのでしょうか?

(1)ひとつには、特別区に分割してもコスト発生はしない(逆に若干コストは減少する)と主張していることです。5区への分割はコスト増にならないが、7区への分割はコスト増になるので選択できないとしています。
 このコスト試算の問題点については、以前の記事「大阪都構想財政シミュレーション(その3) 今のサービス維持に必要な職員数が知りたいのに」と「大阪都構想財政シミュレーション(その4) 家を建てるなら見積もりは取りたいよ」で議論しています。

(2)もうひとつには、サービス選択の改善が、地域別にどのように発生するかには言及せず、「特別区の単位で、サービス選択ができるようになることが効果だ」としていることです。

(3)また、「自分たちでサービスを選べるようになる」といった表現で、「個々の市民が行政に望んでいることが実現される」かのように印象付けている点も大きいと感じています。
 上で説明した通り、特別区になっても「個々の市民が行政に望んでいること(で、現在実現していないこと)」の多くは、実現する訳ではありません。


 (2)の「サービス選択ができるようになることが効果」になるのかについて、少し整理しておきます。
 わたしは、「サービス選択の改善を伴わなくても、サービス選択ができるようになることが効果になるのか」については、概念的な意味では効果になると思います。
 でも、サービス選択の改善効果やコストと比較すると微小過ぎて、これらの議論の中では、無視した方が良いものと考えます。

 次のような例え話にしてみます。
--------------------------- 例え話開始 ---------------------------
 この菓子店では、アーモンド、ストロベリー、ミルクの3種類のチョコレートを、同じ種類だけの3枚セット(例えば、アーモンド3枚)で200円で販売しています。
 これを「どれでも3枚選べます」で販売した時、(販売コストも上がってしまうので)いくらであれば買って貰えるのか、200円でテスト販売をしながら、アンケートしてみました。

 「アーモンド、ストロベリー、ミルク」の3種類3枚をセットで購入したお客さんに聞くと、「選べるのはいいね」と言って「220円とか230円なら、この選べる方がいい。250円なら迷うなぁ」という返事が、一番多い回答でした。50円の効果が生み出せてるので、コスト上昇分を足して220円で販売しても、十分に喜んでもらえそうです。

 アーモンドだけの3枚をセットで購入したお客さんに聞くと、「別に選べるようにしたのは、良いと思うけど」と言ってくれましたが、「今の200円より高くなるなら、今のままの方がいいな」という返事ばかりでした。「良いね」とは言って頂けても効果額にはならないので、コスト上昇分の値上げをしてしまうと、不満に繋がってしまいそうです。
--------------------------- 例え話終了 ---------------------------


 最後に、少し逆説的な話をしてみましょう。
 分権の目的が、区長の権限を強めることではなく、次の表の「地域別のサービス選択の希望」を実現することだとすると、この表を与えられて、最も効率的に実現できる体制は、どういうものでしょう。

02希望分布.jpg

 実はわたしは、あまり区長への権限移譲を頑張らない場合の、現行の市役所体制だと思っています。確認をしてみましょう。

 業務01、02、03、08、09、10、15〜18は、現状と変えなくても表の希望通りになっていますから、全市統一で行うのが、最も効率的です。
 業務04、05、11、12は「m」→「r」へ切り替えですが、「r」を全市統一で行えば、表の希望通りになるのですから、全市統一で行うのが、最も効率的です。

 問題は業務06、13ですが、これも市役所体制の中に、abcef区を対象に「m」で実施するチームと、dghi区を対象に「r」で実施するチームを作って実現するのが、特別区の3ヶ所分割よりコストも低く実現でき、3区をセットにする特別区ではできなかった全ての行政区の希望通りのサービス提供となります。

 業務07、14はもっと容易です。基本的に「m」を全市統一で実施する体制を作り、その体制の中でdeghi区向けにだけ例外対応をできるようにするだけですから、業務06、13のように2チーム編成する必要すらありません。

 しかも、業務06、13の「m−r」の2種類のサービス提供に見える希望も、実はよく整理・工夫をすると、業務07、14のような「m−M」に置き換えられる場合が多いので、更に効率化が期待できます。

 ではなぜ、最も効率的に表の希望通りのサービス提供が行える、現行の市役所体制で行こうという話にならないのでしょうか?
 わたしは、現行の市役所体制が「表で挙げたような『地域別のサービス選択の希望』を把握すること」、それから「地域別に異なるサービス選択の意思決定を行うこと」を苦手としてるからだと思います。

 でも、地域の希望通りのサービス提供を効率的に行えるかもしれない方法があるのに、「苦手そう」だけで諦めるのは、ちょっともったいない気がします。
 次回は「何とかならないの?」みたいなことを議論してみたいと思います。


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2014年06月08日

特別区か、都市内分権かの二択ではなくて

 前回「域内分権のコストと効果は見合うのか」では、特別区や都市内分権(=行政区の権限強化)について、コストと行政選択改善の効果が、どのように発生するかを、見てみました。
 そして、
〇コスト発生と効果発生は全然連動しないこと(つまり、やり方などによっては、コストばかりかかって、行政選択改善が図れないことも十分にある。)
〇特別区と都市内分権では、コスト発生の仕方や行政選択改善範囲にかなり差異がある。
・・・ということを見ました。

 そして、最後に「地域別のサービス選択の希望」の表を与えられて、その実現を行うだけなら、最も効率的に希望通りに実現できるのは、(区長への権限移譲を頑張らない場合の)現行の市役所体制ということをみました。
 ただ、現行の市役所体制でうまく行かない理由についての考えを挙げ、「何とかならないの?」を今回のテーマとしました。

02希望分布.jpg

 前回、(区長への権限移譲を頑張らない場合の)現行市役所体制が、このような表を与えられて、表通りの行政選択を実現するだけなら、最も効率的にできそうなのに、うまく行かない理由として、次の2つを挙げました。
〇「表で挙げたような『地域別のサービス選択の希望』を把握すること」が(現行の市役所体制では)苦手なのではないか
〇「地域別に異なるサービス選択の意思決定を行うこと」が(現行の市役所体制では)苦手なのではないか

 ではなぜ、地域別の希望の把握や、地域別のサービス実施の決定が苦手となるのでしょうか?
 それは、普通には「効率性」「公平性」に反するものだからです。

 「効率性」に反するというのは分かり易いかと思います。
 上記の表の業務6で「m」と「r」の選択がある場合、地域別に「m」と「r」に分けてサービス提供を行うより、「m」か「r」かのどちらかに決めて全市一律でサービス提供を行う方が、コストが低い=効率的なのは当然です。

 もし担当者が地域別に「m」と「r」に分けてサービス提供を行おうとしても、余分なコストをかける妥当性を、上司や財務担当者に納得させるのは難しいでしょう。
 逆に、現在、地域別に「m」と「r」に分けてサービス提供を行っているのだとしたら、一本にまとめてコストカットを行うことこそ、「行政改革」「事務の合理化」だとして、推奨されるはずです。


 「公平性」に反するというのは、説明し難いのですが、簡単に。
 「m」と「r」の選択がある場合、北区民が全員「m」を選び、都島区民が全員「r」を選ぶということは普通ありません。
 当然、要望としては北区民からも「m」と「r」の両方の希望が出てきますし、都島区民からも両方の希望が出てきます。その中から、どちらを選択するかを模索するのです。
 行政にとって、市民と公平に接するということは、北区民1の「m」という希望も、北区民2の「r」という希望も、大阪市民のひとりとして、希望を受け取るといことです。それは、北区民1の「m」という希望と都島区民1の「r」という希望も、大阪市民のひとりとして、希望を受け取るということでは同じです。
 地域に特有の特別な事情があるようなものを別とすれば、北区扇町の区民1の希望と、北区天満の区民2の希望を特に地域別の希望として、区別しないように、北区民1の希望と都島区民1の希望も、大阪市民のひとりとして、特に区別しないことが、基本的になります。
 地域別の希望の把握というのは、市民を同じ大阪市民のひとりとして、区別せず接する中では、結構難しいことなのだと思います。


 では「区長への権限移譲」は、この「効率性」「公平性」をどのように解決するのでしょうか。
 公平性については簡単です。区長は、基本的に区民の意見を聞き、他の区の区民の意見を聞きません。彼が聞く区民の意見の中で判断したものが、自然に「地域の選択」となり、解決します。
 区の中の地域別の意見を汲み取ろうとすれば同じ問題が出てくるので、行政区を5つも集めて特別区を作れば、元の行政区単位の地域の意見を汲み取るのは、やっぱり難しいでしょう。

 効率性については、ちょっと乱暴です。「区長への権限移譲」の時点で、業務分割により、コスト増が既に発生してしまっています。だから、区別で行政選択を行う時には、(既にコスト増になっているので)新たなコスト増は(基本)発生しません。そのため、選択段階で効率性は問題となりません。

 つまり、「区長への権限移譲」という手法は、シンプル(容易で確実性が高い)だけど、効率性は頭から犠牲にした手法といえます。


 市役所組織が、地域別ニーズの把握や地域別選択を認める意思決定が苦手であるならば、市役所組織より上位の立場で、地域別ニーズの把握や実施の意思決定を行い、事業実施を市役所組織を行えばいいという考え方が、出てくるように思います。

 単純に言って、市長が地域別ニーズ把握と実施の意思決定を行えばいいのですが、市長には、それ以外の行政運営の仕事がどっさりあるはずなので、現状、そんな風に機能していないのだと思います。(大阪市の場合、もう少しあって良いようには思いますが。)

 公募区長は、言い出した当初は副市長格とされ、各局より上位になるとされていました。(制度上は、現在も副市長格のはずです。)
 ですから、公募区長が地域別ニーズ把握と実施の意思決定という役割を担えても良かったの思うのですが、実際には、そうなってはいないようです。

 公募区長が、制度上副市長格のはずなのに、市役所組織(特に市役所本庁部局など)に対して、上位者として行政ニーズの反映ができない理由を、次のように考えています。

(1)区長が、区役所事務の長であること
〇所管事務が、本庁から指示を受ける立場なので、本庁にお願いする立場になりやすい。
〇所管事務の立場で考えるので、市政全般を判断する立場から、市役所組織に意見反映することが難しい。
〇区域の大阪市政全般をどうするかではなく、区役所事業の充実に終始してしまう。

(2)専門スタッフがいない
〇区役所事業以外の事業について、住民ニーズを持ち込まれても、妥当性を判断することができない。
〇本庁部局へ提案・交渉できる能力がない。


 この「公募区長が副市長格として市役所組織に対して上位者として機能しない理由」の想定が正しいのならば、「市役所組織より上位の立場で、地域別ニーズの把握や実施の意思決定を行う者」に必要なことが、裏返しで見えてきます。

〇区単位で区民と接し、区域内の市政全般に責任を負う立場にたつ。
〇区役所事務とは、完全に切り離す。(区役所事務の長とはしない)
〇本庁部局へ提案・交渉できる程度の専門スタッフを抱える。
〇特定の所管事務は持たず、区民要望の吸い上げに専念する。

 こういう責任者を「方面担当副市長」として設置するとして、どのように制度設計をすればいいか、少し考えてみます。

〇区長と全く別に、3区程度の担当地域について、市政全般を担当する8名程度の副市長を設置する。

〇方面担当副市長毎に、各局から専門人材の派遣を受け、10〜20人程度のスタッフを抱える。

〇区民の要望を聞き、各局との調整、交渉、政策反映に専念する。

〇2〜3ヶ月に1度、区役所単位で、区民が誰でも参加できる市政報告会を行い、質問・要望を受ける。質問・要望は、できるものはその場で回答するが、無理なものは、次回に報告する。

〇区民の声を聞ける行事等には、区長と共に参加する。

〇他地域担当の副市長・スタッフと、情報交換・相談・協調し、特に埋もれた市民の意見で共通するのものは、個別地域の意見とせず、複数地域あるいは全市共通の市民の声として、意見反映を図る。

〇方面担当副市長は、交渉・調整による事務事業への意見反映を主とするが、各局へ意見反映を働き掛けるための権限として「方面担当副市長が指定する任意の決裁について、副市長として決裁権者になることができる」というのがあればよいのかなと思う。(橋下市長が拘る「予算編成権」は不要かと。)

〇人材的には、公選や民間出身者ではなく、職員出身者のイメージ。自身の思いの実現ではなく、区民の意見の吸い上げに徹する調整型人材であることが必須。


 この方法のメリット

〇100人〜200人に人員体制が必要となるが、それでも、地域の声の行政への反映手段として、特別区設置や(ある程度の規模の)都市内分権と比較して、はるかに低コストで、制度移行のコストやトラブルも考え難い。

〇特に都市内分権と比較して、地域の声を反映できる業務範囲を絞る必要は無く、幅広い市政に対して、意見反映が可能。

〇特に特別区と比較して、現行24区の枠組みは、何も変える必要はなく、区長や区役所事業としての取り組みも、現状のまま推進できる。

 デメリット
〇コストとなるのは、人員体制程度。

〇想定通りに機能させられるかが、最大のポイント。そのためには、徹底的な問題点の洗い出しと対策、実施後の見直しが不可欠。


 地域意見の行政反映を低コストに実現する方法として、「方面担当副市長の設置」についてのイメージを、書き並べてみました。
 これは、前回「域内分権のコストと効果は見合うのか」で、特別区や都市内分権について整理した中で、特別区について「地域意見を反映したい規模と比較して、酷く大掛かりで高コストなのに、特別区の人口規模が大きくて、地域意見の反映には中途半端」と思う点や、都市内分権について「地域意見を反映したい業務と、区長に移管できる業務のミスマッチが起きるよね」と思う点に対して、「もっとシンプルに考えてみよう!」ということでまとめてみたものです。

 書き並べてはみましたが、「特別区や都市内分権より、方面担当副市長の方が優れてるから、ぜひこっちでやろう!」と提案するものではありません。
 個人の思いつきなんて、穴だらけが当然で、叩けばいっぱい問題が出てくるものです。
 実際、特別区はどうにも反対ですが、「ちょうど良い塩梅」の都市内分権なら、それなりに良いと思いますし。(「ちょうど良い塩梅」が難しいのですが。)

 地域内分権の目指すものは、区長の権限強化ではなく、地域の声をいかにうまく行政反映するのかですから、個人の思いつきでも、違うアプローチがあるよと、提示してみました。

 特別区か、都市内分権か、視野を狭めた二択の議論に陥らず、幅広い視野を持って検討してほしいなというのが、この記事の結びです。


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posted by 結 at 04:35| Comment(0) | 行政組織 | 更新情報をチェックする