以下の記事は、2008年〜2010年に掛けて行われた大阪府・市の水道統合協議で示された、統合によって大幅なコスト削減が実現できるという試算に基づいて、議論を行っています。
しかし、橋下市長が大阪市長になった後に、大阪市と大阪広域水道企業団との間で始められた統合協議(2012年3月〜)の中で、この記事で府案と呼ばれる方式(大阪市の柴島浄水場を全廃し、大阪市域で不足する水需要に対して、企業団の浄水場から配水を行う案)では、大阪市域のコスト増が現企業団側の収入増を上回り、大阪府全体で捉えても百億円単位のコスト増になると試算されています。
つまり、ちゃんと計算してみると、府市の水道を統合しても解消できる無駄は見つけられなかったということです。
詳細は、当ブログの「水道事業統合の統合効果が見当たらない」(2012年10月10日)をご参照ください。
************* 以下、記事本文 *************
前回の記事で、大阪府・市水道事業統合の話をしたので、この件で、何かよい方法ってないかを考えてみました。
ただ、この件って、ひとによって、事実関係の認識がいろいろで、そこで意見が分かれてしまうので、まず、わたしの理解している状況の認識を挙げてみます。(交渉経過や関係者の思惑のようなことは、この際、省きます。)
○大阪府、大阪市共に、浄水場の供給力は、需要に対して、過大な状況にある。
○大阪府は、設備更新時期に来ており、浄水場と送水管などの更新に、5000億円程度の費用が今後必要となる。
○(実現には至らなかったが)府市の合意案によると、大阪府・市両者の水道施設を有効に活用することで、3000億円程度の更新費用を削減できる。
○3000億円の費用削減により、府水道の水1トンの卸売り価格は、88円10銭(うち原価は82円)から、約10円の値下げができることが見込まれている。ちなみに、市水道の原価は、64円。
ただし、府水道は、統合と関係なく、10円10銭の値下げを表明しており、値下げ後は78円。(この値下げが、どのような根拠で行われるのか、大阪市側では不明。)
○大阪市側で、単純な組織統合が取れない理由としては、統合後組織の水卸売り価格は64円より高くなると考えられ、大阪市内の水道料金が値上げになると見込まれること。それと、現状、大阪市は、浄水から給水まで一貫して行っているので、大阪市内の水道料金は、大阪市が100%決定を行うことができるが、統合後組織から水の供給を受けることになると、統合後組織の意向に強く左右されてしまうこと。
府市水道事業統合の結果で、純粋にもったいないと思うのは、目指すべき効果は、大阪府・市の水道施設を有効に活用して、更新工事の費用を削減することであって、組織統合は必要条件ではないのに、組織統合の形態を巡って対立し、何の効果も挙げることができなかったことです。
ただ、それだけで放置は、もったいないので、現状を前提に、大阪市側のアプローチとして、何かできることはないかを考えてみました。
大阪市側の条件となる「府市水卸売価格一本化による水道料金値上げの回避」と「水道料金決定権の低下の回避」は、どちらも、組織統合は無理と言ってるようなものです。これらの条件を満たそうとした大阪市の組織統合案は、トリッキーなものにならずるを得ず、そのことが、交渉経過の混乱を招く一因となったように思います。
大阪市の条件を満たすためには、組織統合の考え方を捨てて、施設有効活用の方法を探した方がよさそうです。そんな都合のよい方法ってあるのでしょうか?
比較的容易な方法としては、府水道、市水道の組織は別々のままで、共同で、経営計画委員会のようなものを設けることです。阪急電鉄と阪神電鉄が、持ち株会社の下に置かれる図をイメージしてもらうと、近いのではないでしょうか。上位組織というより、協議組織のイメージの方が近いかもしれませんが。
この方法でも、水需要見込みや投資計画のすり合わせをすることで、組織統合に近い効果は挙げられるはずです。しかも、市水道も、水道料金や料金決定権の独立(水道料金値上げの回避)は確保できます。
ただ、現状としては、双方組織の信頼関係は皆無と思われるので、経営委員会の主導権はどうだとか、経営委員会は、府水道・市水道それぞれに、どのような強制権を持つのかといった不毛な議論に終始する可能性が高そうです。
そこで、できそうな方法として、大阪市が次のような提案をするというのは、どうでしょう?
○大阪市は、日量XXトンまで、XX円で府水道へ供給する協定を結ぶ用意がある。
○また、大阪市北部で受領した水を、大阪市南部で引き渡すことも、日量XXトンまでX円で請け負うことができる。(大阪市が府水道の水の送水を請け負うこと。)
○どちらも、利用実績に料金を求めるのみで、どのように利用するか(あるいは、利用しないか)は、府水道が自由に決めればいい。
○大阪市としては、ひとつの利用プランとして、「このような利用」をすることで、「これだけの投資削減」が可能で、XX円の水道料金の引き下げか可能と考える。(ただし、プランの例を提示するのみで、どのようなプランを採るかは、府水道の自由。)
○協定の期間としては、10年。ただし、この期間を超えても双方の施設の有効活用ができるよう、10年後に向けて、経営計画の協調ができることを望む。
○この提案については、府水道へ提案すると共に広く公表し、水道事業団を構成する市町の市民の活発な議論を期待する。
とりあえず、大阪市側として、こういった提案をすることでマイナスになる点はないように思いますし、少しでも、府市の水道施設の有効活用ができるきっかけとなるのなら、悪い方法ではないと思うのですが。