以下の記事は、2008年〜2010年に掛けて行われた大阪府・市の水道統合協議で示された、統合によって大幅なコスト削減が実現できるという試算に基づいて、議論を行っています。
しかし、橋下市長が大阪市長になった後に、大阪市と大阪広域水道企業団との間で始められた統合協議(2012年3月〜)の中で、この記事で府案と呼ばれる方式(大阪市の柴島浄水場を全廃し、大阪市域で不足する水需要に対して、企業団の浄水場から配水を行う案)では、大阪市域のコスト増が現企業団側の収入増を上回り、大阪府全体で捉えても百億円単位のコスト増になると試算されています。
つまり、ちゃんと計算してみると、府市の水道を統合しても解消できる無駄は見つけられなかったということです。
詳細は、当ブログの「水道事業統合の統合効果が見当たらない」(2012年10月10日)をご参照ください。
************* 以下、記事本文 *************
先日の全国知事会後のぶらさがり会見で、橋下知事が「二重投資になっている大阪府と市の水道を統合して経営効率を上げる必要がある。」という発言をされていたそうです。
わたしには、この発言も、前回の記事に続き、為すべき時に、為すべきことをなさなかった人の言葉に、感じてしまいます。
大阪府・市の水道事業統合の交渉経過は、ざっと次のとおりです。
2008年2月 橋下知事と平松市長が会談し、水道事業統合の検討開始
2008年4月 大阪府が、府と市で府下の水道事業を行う企業団方式を提案
2008年6月 大阪市が、市が府の水道事業を全面承継する案を提案
(議論について、平行線が続く。)
2009年1月 橋下知事、平松市長間で、市案を軸に進めるこをを合意
2009年2月 42市町村アンケートで、市案支持1市
2009年3月 大阪市が、大阪府の水道事業を指定管理者として受託する案(コンセッション方式)を提案。橋下知事が受入を表明。
(府下市町から、コンセッション方式では、受給市町の意見が反映できないと、反対意見多。)
2009年5月 大阪府が、独自に府水道の卸売料金の値下げを表明
2010年1月 市長会でコンセッション方式に反対し、大阪市を除く42市町で、府の事業を継承する企業団結成を決定
統合交渉における必要事項が、府側が「5000億円以上を予定する設備更新費用の抑制」(ただし、知事と水道部で、多額投資に対する危機感に差。)、市側が「大阪市内の水道料金の値上がりや料金決定権の低下の回避を最低条件としたうえで、メリットを模索。」と考えた場合、結果論ですが、橋下知事の立場からは、2度、統合交渉破綻を回避する方法があったように、わたしには思えます。
1度目は、2009年1月の市案を軸とすることの合意の時です。交渉が暗礁に乗り上げている時、橋下知事からの大胆な譲歩で、体裁に捕われず交渉の実を取ろうとしたことは見事ですが、結果からいえば、市案では、府水道部も、受給側の市町も、納得させることはできなかった訳です。(交渉上でいえば、これらが納得できるようにすることは、府側の役割です。)
勿論、そこまで橋下知事が案を作れる訳ではないので、トップ決着という乱暴なまとめ方をするのではなく、知事の勅命を受けた、水道部以外の人間を入れ、第三案を模索させるべきだったといえます。
ただ、この1度目についての指摘は、結果論だからいえることなので、より肝心なのは、2度目となります。
2度目は、2009年3月から4月で、受給側の市町が発言権の低下を問題と考え始めた当初に、大阪府からしっかりとした説得を行い、早く決定に持っていけば、まとまっていた可能性は高いと考えます。この時期であれば、「水道事業についての最終的な決定権は、きちんと大阪府が持っている。府営水道協議会からの意見は、きちんと大阪府から反映させる。」と表明することで、まとめられたのではないかと考えます。
ただ、この時点で、府水道部は、積極的に統合交渉をまとめようとしていたとは思えないので、橋下知事から、明確に指示を出す必要がありました。
この後は、破綻へまっしぐらです。
2009年4月の段階では、受給側市町は、統合交渉を明確に反対という態度は、なかなか出せなかったように思います。発言権の低下には反対でも、料金値下げには反対し難いからです。「受給側市町の意見も十分反映されるように、見直しを求める。」といった位に思います。
それが、2009年5月の大阪府の(府市統合と関係なしに)料金値下げを行うという発表で、一変します。受給側市町には、統合のメリットが何もないことになり、統合は問題のみが残るからです。
それでも、完全に破綻となるまで半年以上かかったのは、42市町の企業団へ移行する案をまとめ、関係市町との合意を背後で行っていくには、やっぱり数ヶ月が必要だったのでしょう。
結果から言えば、知事にとっては、5000億円以上の水道施設更新費用を大阪府が負うことを免れ、府水道部は、水道事業団となることで組織防衛に成功しました。大阪府にとっては、最低限の目的は達したことになるのでしょう。
水道事業団を負うことになった市町は、値下げの意向を料金に反映できると期待しています。それが期待通りとなり、知事が5000億円以上の施設更新費用に持っていた懸念が杞憂に終われば、みんなが幸せになったことになります。
ただ、この水道事業統合の結末は、大阪都構想に対して、悲しい影響を与えます。
ひとつは、大阪市にとって、大阪府は誠実な交渉相手と見れなくなったことです。まあ、大阪府にとっても、言うことをきかない大阪市との交渉は、ゴメンかもしれませんが。
もうひとつは、ここ数回話題にしている、大阪府と大阪市の実績比較についてです。理論上でいえば、大阪市の実績の方が優れていても、必ずしも大阪府への移管を妨げるとはいえません。大阪市の良い点を十分活かしながら、組織や事業を移管すると言えばよいからです。
けれども、水道事業統合の結末を見てしまうと、トップがどのように言ってさえも、大阪府の組織や業務は、強固にそのままなんだろうなと思わざる得ません。
それは、どのような説明がされたとしても、大阪市の実績の優れた点を活かした移管は、期待できないのかなということなのです。