2010年04月28日

大阪府・市の二重行政を解消しても、量的効果は少ないと思う訳(その1)

 大阪府・市再編の効果としてよく挙げられるのが二重行政の解消ですが、少し前に、大阪府と大阪市で行政の重複している部分を解消したとしても、予算削減額など、量としての効果は、言葉の持つイメージほどには、大きくないように思うと書きました。
 その理由について、書いてみます。

 二重行政というと、大阪府と大阪市が同じような業務をやっていて無駄だ。これを一元化すれば、無駄が解消できる。というような言い方がされ、これをイメージで受け止めると、一元化すると大阪市の使っていた予算の大半を節約できるように思えます。

 では、ここ数年、大阪府・市の二重行政の象徴として、よく報道されていた、水道事業で考えてみましょう。

 ここ数年の事業統合の議論は、大阪市が余剰の浄水能力を持ち、大阪府の浄水施設が更新時期に来ていたため、統合効果が期待されました。
 でも、普通は、余剰も不足も起きないように、施設を整備してきているはずです。(統合の議論を予想していた訳ではないですから。)
 では、それぞれ、余剰も不足もないなら、大阪府と大阪市の水道事業を統合することで、どのような効果が出るのでしょうか。
 浄水場も、水道管も減る理由が見つからないし、それなら、管理する人も今まで通り必要になるので、わたしには、大阪市の浄水場や事業所の「大阪市」を「大阪府」に架け替えるようにしか思えないのです。少なくとも、現場の施設は、今までと同じように運転され、今までと同じように、水の供給をするだけです。

 それでも、大阪府は一元化すれば、効果は出ると言うでしょう。「府市両者の施設を、有機的に活用し、より効率的な運用を図る。」とか、なんとか。具体的な内容をと聞けば、「水を供給する浄水場を、府市で区分せず、最適な浄水場から供給する。」とか、「浄水技術情報を共有する。」とか、「総務部門の統合」とか、挙げるのかなぁと想像します。

 確かにこの例でも、一元化すれば、効果は出るのでしょう。でもそれは、「大阪府・大阪市水道事業の二重行政解消」として、期待される効果と釣り合っているでしょうか。
 少なくとも、「予算額の半減」といったような、量的な劇的な効果といったようなものはないように、わたしには思えるのです。

 ちなみに、水道事業は、淀川流域で考えると、大阪府・市の他にも、京都府も滋賀県も、それぞれ水道事業を行っています。けれども、大阪府・京都府・滋賀県の事業を、三重行政と呼ぶかといえば、そんなことはありません。水の供給地域が完全に分かれているからです。
 では、大阪府と大阪市の水の供給地域が重なっているのでしょうか。そんなことはありません。大阪府は、大阪府下の大阪市以外に供給し、大阪市は大阪市内のみに供給します。

 それから、ここでの水道事業とは、浄水事業(川の水を水道水に浄水する作業)のみを指します。大阪市内では、大阪市が浄水から各戸への給水までを一元的に行いますが、大阪市以外では、大阪府が浄水をし、大阪市以外のそれぞれの市がその水を買って、各戸へ給水します。
 水道の供給が、大阪市以外では、府と市に分割されていることも、水の供給をそれぞれの市が別々にすることも、二重行政とは呼びません。ただ、大阪府下での浄水事業を、大阪市内を大阪市が行い、大阪市以外を大阪府が行うことだけを二重行政と呼びます。


・・・もし、この記事を気に入っていただけましたら、目次から、他の記事もどうぞ。
posted by 結 at 03:29| Comment(0) | 広域行政 | 更新情報をチェックする

2010年04月29日

大阪府・市の二重行政を解消しても、量的効果は少ないと思う訳(その2)

 水道事業のように、担当エリアをきっちり分けている場合、二重行政解消しても、あんまり変わらないかもというのが、前回でした。
 では、消費生活センターみたいなところで、大阪府が府下全域(大阪市を含む。)を相談の管轄をし、大阪市が大阪市内のみを管轄するというような場合は、どうでしょう。

 大阪市のセンターの事業は、完全に重複しているので、二重行政解消のお手本になりそうです。
 ただ、気を付けなければいけないのは、府下で相談にくる人の総数は変わらないということです。府が1日100件、市が1日50件の相談を受けていたとすれば、府のセンター1本にすれば、1日150件の相談を処理する必要があります。相談員1人の処理できる件数は変わりませんから、結局、大阪市のセンターの人員をそのまま、府のセンターへ吸収する必要ができてきます。
 削減効果としては、センター長が1名減(高らかに誇りましょう。)、総務と広報が少々(事務は減っても、アルバイトさんが1名減るだけかもしれません。)、他は市と府を合計しただけなんていうのは、結構ありそうなことです。しかも、府と市を合わせると、元の場所では入らないので、引越し経費が数千万円とか。

 「役所が、そんな忙しいところばかりじゃないだろ。市の業務を受け入れたからって、担当者の増員なんて必要ない部署の方が多いだろう。」といった意見も、聞かれそうですね。
 これは誤解です。どこの部署も、暇な時期、忙しい時期はあっても、仕事をこなすために、最低限必要な人数しかいない(ことになっている)のです。だから、市の業務分を受け入れるなど、事務量を増やす時には、人員の見直しをしなければならない(ことになっている)のです。
 だから・・・たぶん・・・「二重行政の解消!」っていっても、そんなに人員や予算の削減効果って出ないと思うのです。
 「人員と経験を統合し、今までより更に高度な業務の達成を図っていきます。」といったような、言うだけタダなお題目の効果は、色々出てくると思いますが。

 ちなみに、大阪府の消費生活センターのHPを見に行ったら、消費者からの相談、受け付けています。ただし、電話での相談の場合、各市の消費者相談窓口をご案内しますと書いてありました。
 二重行政の解消以前の話じゃないかと思うのは、わたしだけなんでしょうか。


(追記)
 大阪府議会の大都市制度検討協議会に大阪維新の会が提出した財源配分シュミレーションの資料の中に、大阪府・市の二重行政を考える上で、興味深い数字がありました。

 橋下知事は、大阪市が政令指定都市として府県に近い業務を担当していることを批判し、大阪市が担当する府県の業務の一部(特別区は中核市なみの権限を有するとして、政令指定都市より、少し業務範囲が小さくなるので、その差分の業務です。)を、大阪都に集約するとしています。

 この大阪都へ集約する業務の規模が、一般財源ベースで330億円の規模だと示されました。同資料によると、大阪市の予算全体は一般財源ベース(実際の予算額は、一般財源に国庫支出金などが加えられるため、ずっと大きくなります。大阪市の平成20年度の歳出額は、1兆5500億円です。)で8782億円ですから、二重行政解消が期待できる府市の広域行政の統合部分330億円は3.8%を占めるに過ぎません。

 大阪市の残りの事業96%(8452億円)は、8〜9の特別区に分割されます。
 大阪都へ統合される330億円のうち、何割のコスト減ができるのかはわかりませんが、8452億円の業務が8〜9の特別区に分割されることで、例え1割のコスト増になるだけでも、確実に吹っ飛ぶことが分かります。

 大阪都構想は、大阪市の担当する府県の業務の一部を大阪府の業務と統合し、残った業務を特別区に分割するものです。統合による効果だけが強調されますが、特別区に業務を分割することによるコスト増も確実に発生します。
 大阪都構想は、行政の効率化と語られる場面が多いようですが、わたしには、コスト増の方が遥かに大きいように思います。

・・・もし、この記事を気に入っていただけましたら、目次から、他の記事もどうぞ。
posted by 結 at 02:36| Comment(4) | 広域行政 | 更新情報をチェックする

2010年05月01日

一元化する広域行政って、何?

 大阪府・市の二重行政解消の量的効果にあまり期待しないとしても、意思決定を大阪府知事に集約し、迅速に大胆な政策を打ち出せるようにすることを狙っていると思うので、その点で、どう評価するかというのが、ひとつのポイントなのだと思います。

 ところで、「広域行政を一元化する」なんていう言葉はよく聞きますが、どんな業務のことなのかは、みんな知ってることなのでしょうか?
 わたしはよく知らないので、橋下知事から目の敵にされている、政令指定都市が持つ権限を、ネットで調べてみました。
 ウィキペディア http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%94%BF%E4%BB%A4%E6%8C%87%E5%AE%9A%E9%83%BD%E5%B8%82
 細かなことが色々と、書かれていますが、あまりピンときません。

 久留米市の記事 http://www.city.kurume.fukuoka.jp/1080shisei/2040keikaku/3090chuukakushi/chuukakush04.html
 やっぱり分かりにくいですが、分野別に書かれているので、ウィキベディアと合わせるとちょっとマシかも。(政令指定都市、中核市、特例市に分かれていますが、政令指定都市は、一般の市と比べて、全部の権限を多く持っていると見れば、いいようです。)

 それでも、やっぱり具体的にはイメージしにくいのですが、ざっくりと見て、橋下知事の話から想像される都市計画や国道や県道の管理などがありますね。
 意識してなかったものとしては、児童福祉・老人福祉・障害者福祉・生活保護などの福祉事業も、そうだったのですね。
 食品衛生など保健所の仕事が、政令指定都市の権限とは全然知りませんでした。市の業務だとばかり、思ってました。

 福祉事業の権限を府に返上したとして、市が全く関係なくなるのか、市は申請などの窓口受付をして、市から府へ書類を送って手続きになるかも分からないので、具体的に市民への影響ってどうなるか、やっぱり分かりづらいですが、都市計画などの「わたしには、直接関係ないよ。」なことだけじゃないことは、なんとか分かりました。
 今まで区役所に申請や相談をしていたことが、府の事務所へ出掛けることになるとか、今まで市役所・区役所の中で完結していた仕事が、市や区の窓口で受け付けた申請を、府に出掛けたり、書類を送って承認を貰うようになる・・・これも、「二重行政の解消」なのでしょうね。

 政令指定都市の権限を府へ集約するかを考える場合、気をつけたいのは、市の独自事業です。
 大阪市でも、大阪府でも、(福祉事業などで多いですが)法律で決められた事業以外に、府や市が独自に行っている事業があります。
 大阪市では、例えば敬老パス(70歳以上の高齢者が、年8万円まで市営地下鉄・バスを無料で利用できる制度)などがよく話題になりますが、大阪市のHPの高齢者事業のところを見ていると、高齢者電話訪問活動とか、高齢者訪問理美容サービス事業とか、徘徊認知症高齢者位置情報探索事業とか、寝具洗濯乾燥消毒サービス事業とかありました。多分、全国一律の事業じゃないと思うのですが。

 堺市が新たに政令指定都市になった場合のように、市が府から業務を引き継ぐ場合、市民への影響を最小限にするため、府の独自事業も、市の事業として継続する場合が多いのですが、逆だと、ひとつの市の事業を府下全体に広げる訳にはいかないので、継続しないと思った方がいいように思います。

 例として、思いつくのは、後期高齢者医療制度への移行時(市の国民健康保険から、都道府県単位の健康保険組合への移行)です。
 後期高齢者医療制度へ移行時に、負担増になる人数の見込みが、一部の市が国民健康保険税の減免を行っていたことから、大きな誤算となりました。
 減免を行っていた市は、移行した高齢者は市の国民健康保険ではなくなるので、減免の継続はできませんし、都道府県単位の組合は、そんな減免は国の指導にないので知らないとしたので、負担増になる方が激増する原因のひとつになりました。

 「広域行政の一元化」って、調べてみても、なかなかどうなるのかイメージが掴めないのに、影響だけは大きそうです。
 しかも、橋下知事は、「新市(都区)の権限は強化したい。」=「欲しい権限だけ集約して、それ以外は新市(都区)に任せたい。」というので、橋下知事の頭の中が分からなければ、専門家であっても、どうなるのか整理することができません。平松大阪市市長のいう、「中身が見えない。分からない。」というのは、大阪市民にとっては、かなり、悲痛で切実なことです。

 橋下知事が、大阪都構想を、大阪市と交渉せず、市議会選挙で市民の判断を問うというのならば、市民がきちんと判断できる、正しく具体的で網羅的な情報が、示される必要があるのだと思います。


・・・もし、この記事を気に入っていただけましたら、目次から、他の記事もどうぞ。
posted by 結 at 20:00| Comment(0) | 広域行政 | 更新情報をチェックする
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。