2014年08月17日

先ずはパッケージ案での税源配分・財源調整

 2014年7月23日の第17回特別区設置協議会(=法定協議会)で、大阪都構想の協定書(案)(元サイト)が示されました。
 橋下市長ら維新サイドが、強引に他会派を排除して多数を握って作成した協定書(案)として、その正当性については物議を醸しています。
 でも、橋下市長らが「設計図だけでも示させて」と主張した、大阪都構想の設計図とやらが、この協定書(案)であることは間違いないので、当ブログでは作成の経過より、その内容に着目です。

 このブログでは、「大阪市の市町村財源が特別区と大阪府にどのように配分されるか?」や「大阪市を5つの特別区に分割することで、コスト増がどうなるか?」に特に注目しているので、協定書(案)でも、まず見てみたいのは、税源配分・財源調整の部分です。

 ただ、協定書(案)の税源配分・財源調整を見ていくためには、先ずはパッケージ案での税源配分・財源調整を、整理・把握しておくことが、大事なようなので、今回は協定書(案)に入る前に、パッケージ案の税源配分・財源調整を見ていくことにします。


 協定書(案)の税源配分・財源調整の部分(元データ元サイト 資3-P09)から、主な点を抜粋してみました。

〇特別区の税源は、個人市町村民税、市町村たばこ税、軽自動車税等
〇法人市町村民税、固定資産税及び特別土地保有税を財政調整財源とし、府条例で定めた割合を、特別区財政調整交付金として特別区へ交付
〇特別区財政調整交付金は、地方交付税法に概ね準ずる算定方法で配分する普通交付金と、災害や財政収入減少など普通交付金算定後の特別な事情に配分する特別交付金とし、普通交付金は交付金総額の94%、特別交付金は6%
〇普通交付金の算定に当り、標準税等の算入率は85%
〇特別区財政調整交付金が目的の額を下回るおそれがある場合には、条例で定める額を加算する
〇特別区財政調整交付金に加算する額は、地方交付税や臨時財政対策債の発行可能額、公債費負担等を勘案

 さて、これらの点は、昨年8月に発表した、パッケージ案の中では、どうだったのでしょうか?

 パッケージ案での税源配分・財源調整の基本は、次の通りです。

大阪市の事業1兆6917億円(一般財源8590億円)を、特別区1兆3023億円(一般財源6350億円)と大阪府3952億円(一般財源2318億円)の分担にすると、大阪府側で一般財源で1634億円が不足する。(元データ元サイト パ04-P6)

101都構想後の歳出区分.jpg

 この大阪府側での1634億円の財源不足を賄うために、市町村財源の法人市民税、固定資産税、特別土地保有税と大阪市分の地方交付税(臨時財政対策債を含む。広域移管分を除く。)を財政調整財源とし、その24%を大阪府の財源にする。(元データ パ04-P27)

102都構想実現後の財源配分.jpg


 これを実現するものとして、パッケージ案でも、協定書(案)の税源配分・財源調整と、よく似た数字や説明が挙げられています。

〇法人市町村民税、固定資産税、特別土地保有税に加え、地方交付税(臨時財政対策債を含む)を財政調整財源とする。(元データ パ04-P14)
→なお、パッケージ案の中では、なぜ地方交付税を加える必要があるかの説明を行っており、地方交付税を調整財源に含めない協定書(案)では、当然、その点が問題となります。

〇財政調整交付金は、地方交付税法に準じた算定方法で配分する普通交付金と、特別な財政需要に応じて配分する特別交付金とし、普通交付金は交付金総額の90%、特別交付金は10%。(元データ パ04-P17)
→地方交付税の算定に当っては、全特別区を一つの市とみなし、新たな広域自治体と合算して算定。(元データ パ04-P19)

〇普通交付金の算定に当り、標準税等の算入率は85%。(元データ パ04-P17)

(なお、協定書(案)にある「財政調整交付金に加算する額」についての記述はありません。)


 では、「財政調整財源の24%を大阪府、76%を特別区に配分する財政調整案」と、「地方交付税法に準じた算定方法で配分する財政調整交付金」「標準税等の算入率は85%」は、繋がるのでしょうか?

 まず、基準財政需要額と基準財政収入額を整理してみます。

 パッケージ案の試算年度である、平成23年度の決算カードによると、大阪市の基準財政需要額と基準財政収入額は、次の通りです。(元データ元サイト

基準財政需要額 6060億円(基準財政需要額5200億円+臨時財政対策債860億円)
基準財政収入額 4674億円

 これに対してパッケージ案では、特別区分(現行の大阪市全体から、広域自治体への移転分を控除したベース)として、次の数字を挙げています。(元データ パ04-P8)

(特別区分)基準財政需要額 5645億円
(特別区分)基準財政収入額 4572億円

 この数字から算定される地方交付税交付基準額1073億円は、下の表の調整財源にする地方交付税(臨時財政対策債を含む)の額と一致します。

 また、大阪市全体の基準財政需要額6060億円と特別区分の基準財政需要額5645億円の差分415億円(=大阪府へ移転する基準財政需要額)は、下の表の広域自治体の地方交付税の移転額314億円と「大阪市全体の基準財政収入額4674億円と特別区分の基準財政収入額4572億円の差分」(=おそらく事業所税の一部が広域移転されたことに伴う基準財政収入額の移転額)102億円との合計と一致します。

102都構想実現後の財源配分.jpg
元データ パ04-P27)

(特別区分)基準財政需要額 5645億円
(特別区分)基準財政収入額 4572億円
は、この表のベースになる数字のひとつと考えられます。


 ここから、再現計算ができなくなります。

〇基準財政需要額

 パッケージ案では、財政調整の算定に用いる基準財政需要額は、
地方交付税基準 4934億円
生活保護等加算  183億円
 を合わせた5117億円だとしています。(元データ パ04-P32)

 地方交付税の算定を行った基準財政需要額5645億円が、なぜか財政調整の算定の場面では、地方交付税に準じて算定すると言いながら、4934億円になってしまっていますが、この理由は分かりません。


〇基準財政収入額

 普通交付金の計算を行う為には、基準財政収入額が必要なのですが、パッケージ案には、財政調整の算定に用いる基準財政収入額の記載がありません。
 普通交付金の額と、基準財政需要額から逆算で計算すると(元データ パ04-P32)
地方交付税基準 4934億円
普通交付金+公債費分 3585億円

・・・で、差引1349億円となるのですが、この数字が何とも変なのです。


 積上げで基準財政収入額を計算してみます。

法人市民税(超過課税分を除く)1024億円(元データ 決算カード)
固定資産税 2777億円(元データ パ04-P14)

元データ パ04-P33)
個人市民税等 1600億円
税交付金+地方特例交付金 474億円
事業所税 66億円(元データ パ04-P21)

地方譲与税+交通安全交付金 60億円

一般の地方交付税計算では「地方譲与税と交通安全交付金」を除き算入率75%、「地方譲与税と交通安全交付金」は100%です。

法人市民税+固定資産税+個人市民税等+税交付金等+事業所税の合計額
5941億円×75%=4456億円

地方譲与税+交通安全交付金=60億円

合計4516億円です。

 交付税算定に用いた基準財政収入額が4572億円(元データ パ04-P8)ですから、ほぼニアな数字を算出できていると分かります。(差分は、個人市民税の税源移譲相当額を100%算入すべきなのに、区分できず75%算入になっている点と思われます。)


 財政調整時の基準財政収入額は、上の計算から、調整財源に移ってしまう法人市民税と固定資産税を除いて計算すれば良いだけなので、すぐに計算できます。

個人市民税等+税交付金等+事業所税の合計額
2140億円×85%=1819億円

地方譲与税+交通安全交付金=60億円

合計1879億円です。

 こうやって普通に計算すると、1879億円が出てきました。上で計算した、財政調整の算定に用いる基準財政需要額4934億円から普通交付金3585億円を差し引いて逆算した、1349億円という数字は出てきそうにないのです。
 ぱっと考えても、個人市民税等+税交付金等+事業所税の合計額が2140億円ですから、それを85%算入して1349億円になる方がおかしいのです。


 そこで全く違うアプローチで考えてみます。
 パッケージ案は、特別区の6350億円に対し、基準財政需要額以外の裁量経費(特別区の裁量で使途を決められる財源)が1233億円ある(元データ パ04-P32)としています。
 でも、調整財源を除く特別区の財源(個人市民税等+税交付金等+事業所税の合計額)は2140億円ですから、その15%は321億円に過ぎません。
 都市計画税の特別区配分額313億円は、使途を決めて府から配分を受けるので、自由に使途を決められる訳ではありませんが、基準財政需要額には算入しないので、これも「裁量経費だ!」として合わせて634億円。
 特別区の財源で、基準財政収入に含めない部分をもっと増やすか、財政調整交付金の中に裁量経費が織り込まれていないと、1233億円の裁量経費など出てこないのです。

 一番考えられるのは、法人市民税と固定資産税の3939億円の15%=591億円が裁量経費に計上されている可能性です。
 でも、財政調整交付金の内訳は、普通交付金、特別交付金、公債費分(元データ パ04-P32)として挙げられていて、裁量経費の入り込む余地はありません。

 想像を逞しくして考えると、法人市民税と固定資産税の3939億円の15%=591億円を、基準財政収入額から差し引いて普通交付金の計算を行っていると仮定すると、大雑把には辻褄が合う(個人市民税等の15%の321億円+都市計画税313億円+固定資産税等の15%の591億円=1225億円で、逆算した基準財政収入額1349億円とニア)(算出した基準財政収入額1879億円−固定資産税等の15%の591億円=1288億円で、逆算した基準財政収入額1349億円とニア)のですが、さすがに乱暴過ぎる仮定だと思います。


・・・ということで、かなり努力したのですが、「地方交付税法に準じた算定方法で配分する財政調整交付金」と「標準税等の算入率は85%」で計算を行って、その結果が「財政調整財源の24%を大阪府、76%を特別区に配分する財政調整案」になるという再現計算を行うことはできませんでした。

・・・というか、基準財政需要額も基準財政収入額も(つまり、その結果の財政調整交付金や裁量経費も)、「明らかにしていない計算方法」を明らかにしないと、再現計算は無理なのでは?と思いました。(勿論、わたしの理解が追いついていない可能性は、十分にあります。)


 ここまで整理する中で気付いたことを、書いておきます。

(その1)
 「地方交付税法に準じた算定方法で配分する財政調整交付金」と「標準税等の算入率は85%」で計算を行って、その結果が「財政調整財源の24%を大阪府、76%を特別区に配分する財政調整案」になるという再現計算まではできませんでしたが、無関係というほど乖離している様子ではありませんでした。
 いくつかありそうな「明らかにしていない計算方法」を明らかにすれば、ぴたりと繋がるのでは?と思っています。


(その2)
 大阪市の平成23年度の一般財源額8605億円に対して基準財政需要額は6060億円です。裁量経費は2545億円で、一般財源に占める比率は30%です。税などの基準財政収入額への参入割合が75%(25%は裁量経費)で、基準財政収入額へ参入しない財源もありますから、そんなものです。。

 特別区の一般財源額6350億円に対し、地方交付税計算に用いる特別区の基準財政需要額は5645億円です。(元データ パ04-P8)裁量経費は705億円で、一般財源に占める比率は11%です。
 個人市民税などのうち15%しか裁量経費にならず、調整財源になる法人市民税、固定資産税が特別区の裁量経費を生み出さないなら、こんなものです。しかも裁量経費の主に部分となる、個人市民税などの15%は321億円でしかなく、府から使途を決めて配分を受ける都市計画税の313億円が半分近くを占めますから、裁量経費としての実感は、もっと小さいでしょう。

 裏返しで、大阪市から移管される大阪府の一般財源額は2255億円に対し、地方交付税計算に用いる基準財政需要額は415億円です。裁量経費は1840億円で、一般財源に占める比率は82%です。
 基準財政需要額が415億円しか移らないのに、一般財源額を2255億円も移せば、当然こうなります。地方交付税を税等の75%算入で受け取り、85%算入で配分すれば、それだけで裁量経費の4割を中抜きできます。更に税収の半分以上を占める法人市民税と固定資産税の裁量経費部分を、特別区への配分対象にしないなら、大阪府側が裁量経費でじゃぶじゃぶになるのは当然です。

 橋下市長らは、特別区になれば、大阪市より規模が小さくなって、住民サービスの選択がもっとうまく機能する(何かのサービスを止めることで、別のサービスに予算を振り向けられるようになる)のがメリットと主張しますが、基準財政需要額部分は、法定の業務で廃止できなかったり、廃止するとその分の財源が無くなってしまうので、他の住民サービスへ振り向けるのは困難です。
 何かのサービスを止めることで、別のサービスに予算を振り向けられるようになるというのは、裁量経費部分で初めて機能するのですが、裁量経費部分場がほとんど無くて、そんなことできるのでしょうか?

 パッケージ案では、財政調整に当り、特別区の基準財政需要額は4934億円であり、特別区の裁量経費は1233億円あるのだとしています。(元データ パ04-P8)この額であれば、一般財源に占める比率は19.4%です。
 それでも現行の30%が20%を切るまでに裁量経費は小さくなってしまうのですが、それ以上に、地方交付税計算での基準財政需要額5645億円が、なぜ財政調整では4934億円に減ってしまうのか、不可解に思っています。


(その3)
 結局のところ、「大阪市の事業の配分に伴って、財源を配分する」としていたはずが、「地方交付税法に準じた算定方法で特別区への配分額を決定」とか「標準税等の算入率は85%」に置き換わっているのが、「おかしい」と感じています。

 「大阪市の事業の配分に伴って、財源を配分する」なら、配分率決定も、財政調整も、全部、特別区、大阪府双方に対し、同じようにやれば良いのです。
 基準財政需要額の保障を最低限行う必要があるのなら、それも、特別区、大阪府双方に同じように行えば良いのです。

 大阪市分の財源の大半を、調整財源という形で特別区から切り離し、「地方交付税法に準じた算定方法で配分」「標準税等の算入率は85%」という配分方法を置き換えていくのは、特別区には最低限の財源だけ配分し、残りは大阪府が総取りという構図に見えてしまいます。


 今回は、パッケージ案での税源配分・財政調整について見てみました。
 協定書(案)でも、少し変わっている点はありつつも、数字など表面的には似たものに見えます。
 ただ、その文章を、協定書の文章(=立場の異なる組織が、契約書で、双方の権利・義務を確認しあう文章)として捉えると、全く違ったものに見えてきます。
 そのような観点で、次回は大阪都構想の協定書(案)の税源配分・財政調整を見ていきます。


・・・もし、この記事を気に入っていただけましたら、お勧め記事のまとめ目次から、他の記事もどうぞ。
   大まかに大阪都構想のことを知りたい方は、まとめブログをご覧ください。
posted by 結 at 02:52| Comment(0) | 協定書 | 更新情報をチェックする

2014年08月23日

大阪都構想協定書(案)の税源配分・財源調整を見てみた

 冒頭は、前回記事を繰り返します。
 2014年7月23日の第17回特別区設置協議会(=法定協議会)で、大阪都構想の協定書(案)(元サイト)が示されました。
 橋下市長ら維新サイドが、強引に他会派を排除して多数を握って作成した協定書(案)として、その正当性については物議を醸しています。
 でも、橋下市長らが「設計図だけでも示させて」と主張した、大阪都構想の設計図とやらが、この協定書(案)であることは間違いないので、当ブログでは作成の経過より、その内容に着目です。

 このブログでは、「大阪市の市町村財源が特別区と大阪府にどのように配分されるか?」や「大阪市を5つの特別区に分割することで、コスト増がどうなるか?」に特に注目しているので、協定書(案)でも、まず見てみたいのは、税源配分・財源調整の部分です。


 まず、確認のポイントです。
 協定書(案)以前に、パッケージ案で示していた大阪都構想案に、主に次の理由で賛同しません。
〇大阪市を特別区に分割することで発生するコスト増の試算を、歳出の大半に対して行わず、「試算していない」=「コスト増がない」と決め付けられていること。(特別区への分割による行政コスト増加・行政レベル低下の大半が無視されている)
〇本来、府税で負うべき広域行政経費を、政令市である大阪市では、大阪市民の単位で決めるからと、府税に加えて市税でも負担しているのに、大阪都構想は、大阪市民の単位で決めるのを止め、他の府民と同じように大阪府から行政サービスを受けることにするとしながら、コスト負担は、大阪市民だけが府税に加えて市税でも余分に負担を続ける、不公平な制度だから。

 それでもパッケージ案で示されていた「大阪市の事業の配分に沿って、財源を配分する」が、協定書の文章の中で、どのようになっているか、確認することは、大切です。
 大阪市民の身近な住民サービスの財源が確保されるか確認しようとすると、ポイントは次になります。
〇特別区担当業務の今までの所要財源を、(大阪府側の意向に関わらず)確実に保証するものとなっているか
〇府移管業務の今までの所要財源を超える負担を大阪市民に求めないよう、きちんと制限されているか

 なお、協定書(案)を短期でまとめるため、国との協議が必要な法令改正をほとんど求めず、東京都に適用されている法令のままで、大阪都構想を行うとしました。
 そのため、協定書(案)の文案以前に、主に次の2点がパッケージ案と大きく違っています。(その他、都市計画の事務分担など、様々に変更点があります。)
〇財政調整の調整財源を、パッケージ案では「法人市民税、固定資産税、特別土地保有税」の3税に加えて地方交付税としていましたが、協定書(案)では「法人市民税、固定資産税、特別土地保有税」の3税のみになりました。
〇(一般市以下とされる)東京都の特別区の事務分担に対し、大阪都構想では特別区は中核市並みの事務を担当するとされます。パッケージ案では、事務分担を法令で規程するとしていましたが、協定書(案)では、法令上は東京都の特別区の事務分担のままで、それ以上に特別区に事務分担させるものは、大阪府条例で移管するとなりました。


 では、ここから、協定書(案)の内容を見ていくことにします。
 協定書(案)の税源配分・財政調整の部分は、次の通りです。
元データ元サイト 資3-P09)
--------------------------- 引用開始 ---------------------------
五 特別区と大阪府の税源の配分及び財政の調整(第5条第1項第6号関係)

1 特別区と大阪府の税源の配分
 大阪府の税源は、地方税法(昭和25年法律第226号)に定める道府県税及び都の特例により課するものとされている市町村税に相当する税目(法人市町村民税、固定資産税、特別土地保有税、都市計画税、事業所税)とし、特別区の税源は上記を除く市町村税に相当する税目(個人市町村民税、市町村たばこ税、軽自動車税等)とする。
 なお、それぞれの税目の取扱いについては、地方税法に定めるところによるほか、大阪府及び大阪市の条例の例によるものとする。

2 特別区と大阪府の財政の調整
(一)財政調整の目的・財源及び配分の割合
 大阪府は、地方自治法第282条の規定により、大阪府と特別区及び特別区相互間の財源の均衡化を図り、並びに特別区の行政の自主的かつ計画的な運営を確保するため、法人市町村民税、固定資産税及び特別土地保有税を財政調整財源とし、これらの収入額に大阪府の条例で定める割合を乗じて得た額を特別区財政調整交付金として特別区に交付するものとする。なお、同交付金が目的を達成するための額ための額を下回るおそれがある場合には、条例で定める額を加算するものとする。
 大阪府の条例で定める特別区財政調整交付金の割合については、特別区の設置の日までの地方財政制度の動向も確認した上で大阪府知事と大阪市長で調整することとする。
 特別区の設置後3年間は毎年、その後は概ね3年毎に、大阪府・特別区協議会(仮称)において検証を行う。また、この割合は、税制改正など地方財政制度に大きな変更があった場合には適宜検証するものとする。

(二)特別区財政調整交付金の種類・割合
 特別区財政調整交付金は、普通交付金(地方交付税(昭和25年法律第211号)の規定による算定方法に概ね準ずる算定方法による配分を基本とし、生活保護費など義務度の強いものは実態に応じて算定。標準税等の算入率は85%とする。)と特別交付金(普通交付金の額の算定期日後に生じた災害等のため特別の財政需要があり、又は財政収入の減少があることその他特別の事情があると認められる場合に、当該事情を考慮して配分。ただし、特別区の設置後概ね3年間は、特別区における行政サービスの継続性や安定性に重点をおいて配分。)とし、普通交付金は財政調整交付金総額の94%、特別交付金は同額の6%とする。

(三)特別区財政調整交付金に加算する額
 特別区財政調整交付金に大阪府の条例で定めて加算する額は、当面、地方交付税を財源とする財政運営が不可避である点を鑑み、地方交付税や臨時財政対策債の発行可能額、公債費負担等を勘案したものとする。

(四)大阪市債の償還にかかる財政調整財源の負担
 特別区の設置の日前において発行済みの大阪市債(以下「既発債」という。)の償還に必要な経費(特定財源を充当するものは除く。)として、特別区が負担する額は、特別区財政調整交付金の交付を通じて財源保障を行う。大阪府が負担する額については、税源配分並びに大阪府及び特別区間の財政調整を通じて財源を確保する。

(五)都市計画税・事業所税の取扱い
 大阪府が課す目的税である都市計画税、事業所税については、大阪市の過去の事業への充当実績を勘案し、大阪府と特別区の双方の事業に充当することとし、交付金により特別区に配分するものとする。

(六)特別区の設置後の財政の調整に関する取扱い
 大阪府は特別区の財政運営が円滑に行われるよう、特別区財政調整交付金の交付のほか、必要に応じて、大阪府に継承される財政調整基金を活用し、特別区に対して貸付を行うものとする。
 その他財政の調整に関し、大阪府と特別区で調整が必要なものについては、大阪府・特別区協議会(仮称)で協議することとする。

--------------------------- 引用終了 ---------------------------

 なんか、長ったらしいのに、意味不明です。
 例えば、2(一)で財政調整交付金の普通交付金は「地方交付税の規定による算定方法に概ね準ずる算定方法による配分を基本とし、(中略)算定」としていますが、「概ね準ずる算定方法」って、どうするってことなんでしょうか?

 また例えば、2(三)の「特別区財政調整交付金に大阪府の条例で定めて加算する額は、(中略)地方交付税や臨時財政対策債の発行可能額、公債費負担等を勘案したものとする」としていますが、「勘案したものとする」って、どうすることなんでしょうか?

 この協定書(案)の文面では、府と特別区の財源配分・財政調整が一意に決まるように思えません。
 まして、「特別区財政調整交付金の割合については、特別区の設置の日までの地方財政制度の動向も確認した上で大阪府知事と大阪市長で調整することとする」として、何も決めていませんし。


 協定書(案)の文面から、府と特別区の財源配分・財政調整が一意に決まらないなら、当然財政シミュレーションも無理なはずですが、なぜか財政シミュレーション(元データ)が示されています。
 どうやって、財政シミュレーションができるのか、その前提条件(元データ、協0401-P35)を見ていくと、財政調整の説明として「法人市町村民税、固定資産税、特別土地保有税、地方交付税(臨時財政対策債を含む)をH24年度決算に基づく試算数値(大阪府23%、特別区77%)で、大阪府と特別区へ配分」と書かれています。
 H24年度決算の数値を使うというのは良いとして、「この協定書の文面から、どうやって試算したんだぁ!」というのが、まるまる飛んでしまっていますし、それより何より「地方交付税(臨時財政対策債を含む)が、なぜ調整財源に含まれているんだぁ!」(協定書文面では、調整財源は「法人市町村民税、固定資産税及び特別土地保有税」とされていて、地方交付税は含まれていません。)という、何とも、おかしな前提条件となっています。

 まことしやかに「協定書(案)に基づく財政シミュレーション」だと報道されていますが、調整財源が一致していないことからも、協定書(案)に基づいて財政シミュレーションが作られていないことは明らかです。

 
 協定書(案)と財政シミュレーションを繋ぐ情報は、協定書(案)の別紙・別表関係には見当たりません。
 かろうじて、それらしい説明をしている資料が、協定書(案)をまとめた第17回特別区設置協議会資料ではなく、第16回資料の中にありました。

201財政調整交付金に加算する額の算定方法.jpg
元データ 元サイト 04-P2)

 要するに、調整財源を3税+地方交付税にするのは、法改正が必要になってできないので、3税×配分割合で計算した調整交付金に、「地方交付税×配分割合」で算定した額を「条例で定める額」として加算することで同じ結果にするということのようです。

 この資料の「財政調整交付金に加算する額の算定方法」を前提に、「3税+地方交付税を調整財源とした交付金」と「3税を調整財源とした交付金に条例で定める額を加算」は一致するとして、財政シミュレーションはパッケージ案の「3税+地方交付税を調整財源とした交付金」の方で行い、協定書(案)は「3税を調整財源とした交付金に条例で定める額を加算する」としたということなのかと思います。

 ただ、残念なことには「財政調整交付金に加算する額の算定方法」の資料に挙げた「条例で定める額は、パッケージ案と同様の算定となるよう、地方交付税×配分率により算定した額とする」の部分が協定書(案)に無いなどのため、協定書(案)の文面からは、「3税+地方交付税を調整財源」とした財政シミュレーションは出てきません。


 では本題に戻って、協定書(案)の文面で、特別区の財源保証として機能するか、疑問に思う点を挙げてみます。

〇協定書(案)の文面で、財政調整として大事な点は、2(一)で財政調整交付金の普通交付金は「地方交付税の規定による算定方法に概ね準ずる算定方法による配分を基本とし、(中略)算定」としている部分です。ここしか、財政調整について客観的指標になる記述がないからです。
 それなのに、肝心な点が曖昧です。「地方交付税の規定による算定方法に『概ね準ずる』算定方法による配分を『基本とし』、(中略)算定」では、結局、どういう算定方法をするのか、一意に決まらないのです。

 協定書として、財源調整を一意に決めるようにするなら、「次に挙げる点を除き、地方交付税の規定により算定する。」とし、地方交付税の規定と異なる点を限定列挙する方法を採れば、いくらでもできます。(というか、協定書なら、例外事項を限定列挙する方が当然に思います。)

 そして一意に決まらないというのは、協定書(案)が財源保証として機能しないということです。
 例えば「大阪府の財政難により、歳出全体の10%削減を行うので、財政調整交付金の算定基礎とする基準財政需要額も、同様の削減を行って算定する」みたいな無理な要求が来た時に、「それは協定書に違反する」と特別区が拒否できるのが協定書の存在意義ですが、「協定書はあくまで、『概ね準ずることを基本とする』としているだけで『地方交付税の算定方法を遵守する』などと決めていない。10%削減でも協定書違反ではない」という話になるのでは、協定書の意味がありません。


〇協定書(案)は、財政調整交付金で不足する部分を、財政調整交付金に府条例で加算する額で補完するという構成です。
 文面からは読み取り難いですが、この「加算する額」とは、地方交付税の市町村分の一部を特別区に配分するというだけです。協定書(案)の文面では、大阪府が任意の交付金を特別区に与えるかのようにすり替わっていますが。

 協定書(案)の文面として大事な点は「同交付金が目的を達成するための額を下回るおそれがある場合には、条例で定める額を加算するものとする。」の部分です。
 一般的な解釈は「地方交付税の算定方法で必要とされる財政調整交付金の金額に、調整財源が足りない時、その不足分を加算額で補填する」になると思います。
(何か府の財源で凄く優遇してるように聞こえるかもしれませんが、大阪府も大阪市も、一般の税収だけでは財源が足りないから地方交付税を受け取っています。「地方交付税無しで財源が足りない時には、国から受け取った大阪市分の地方交付税の一部を加算額として配分するよ」と言ってるだけです。)
 ところが、その一般的な解釈を「同交付金が目的を達成するための額を下回るおそれがある場合には、条例で定める額を加算するものとする。」という文面は、保証しません。

 まずこの文面の「目的を達成するための額」とは、何を指すのでしょう?
 一般的な解釈では「地方交付税の算定方法で必要とされる財政調整交付金の金額」を指すと思いますが、別に「そうだ」とは何処にも書いていません。
 肝心な「目的を達成するための額」が何を指すかが、全く定義されていないので、後になって「『目的を達成するための額』とは、大阪府が決めた目標額だ」と言い出せば、どんな金額でも良いことになってしまいます。

 また、協定書(案)文面の「下回るおそれがある場合には、条例で定める額を加算するものとするものとする」の部分も凶悪です。
 一般にここは「下回るおそれがある場合には、目的額と財政調整交付金との差額を加算するものとする」とする部分です。それを「条例で定める額を加算」とすることで、加算する額は、大阪府が自由に決めていいことになってしまいます。

 また、財政調整交付金の配分割合については、大阪府・特別区協議会において検証を行うとされていますが、「加算する額」は協議事項だと明記されていません。
 「加算する額」は特別区に配分される調整交付金の総額を決める、とても大事なものですが、「あくまで大阪府が府条例で決定するものであって、特別区との協議事項や調整事項ではない」と言い張れば、特別区はその決定に、協議すらできません。

 結局、協定書(案)のこの文面では、加算額の決定は、大阪府側の裁量に強く依存し、地方交付税無しでは不足する財源を、府条例による加算額で補完するなど、保証されていないのです。


〇協定書(案)文面2(二)の「標準税等の算入率は85%とする。」の部分も大切です。裏返して読むと「標準税等の15%を裁量経費(自主的に使途を決められる財源)にする」という意味だからです。

 前回記事「先ずはパッケージ案での税源配分・財源調整」の中でも見ましたが、個人市民税など特別区の独自財源のうちの裁量経費部分は、321億円(H23年度)でしかありません。
 だから調整財源である法人市民税・固定資産税の15%部分591億円(H23年度)が配分されるかは、とても大事なのですが、協定書(案)の文面を読む限り、配分は無さそうです。(現在の大阪市を含め、一般の市町村では、個人自民税など独自財源に加え、法人市民税、固定資産税についても、「25%」部分を裁量経費として持つのは当然です。)

 法人市民税・固定資産税は調整財源ですから、配分に関する部分で15%部分を配分すると明記しない限り配分されることはありません。そして、そんな記述はないのです。

 裁量経費が乏しいというのは、「特別区単位で住民サービスの選択」どころか、独自の住民サービスが厳しく限定されるということです。


 協定書(案)の文面から、特に気になる点をいくつか挙げてみました。他にもいくらもありますが、書くのはこの程度にさせてください。


 一般に協定書の文面をまとめる作業は、大変です。
 双方の担当者が、曖昧になる点を潰してリスクを排除し、権利部分を明確に確定していく作業だからです。明確化する過程で、双方の利益・不利益は相反しますから、ぎりぎりの折衝を行うことになります。

 この協定書(案)が、そのようにして、まとめられた文面でないことは一目で分かります。大阪府側の立場で、それらしく、好き勝手に書き散らかしただけです。だから、特別区側の立場で十分な権利保証されてるかとして読むと、ボロボロになるのです。


 実は、協定書(案)の財政調整として大事な点である「普通交付金(地方交付税(昭和25年法律第211号)の規定による算定方法に概ね準ずる算定方法による配分を基本とし、生活保護費など義務度の強いものは実態に応じて算定。)」の部分も、この算定方法による配分割合と、掛け離れた配分割合にされる可能性があると考えています。

 パッケージ案で、調整財源に法人市民税・固定資産税・特別土地保有税の3税に、地方交付税を加える必要性を、次のように説明しています。(元データ元サイト パ04-P14)

「(前略)特別区の財政調整に必要な財源が3836億円であるのに対し、普通税三税(法人市町村民税・固定資産税・特別土地保有税)は3939億円であり、普通税三税だけでは財政調整財源を安定的にカバーできるとは言えない状況」

 つまり、平成23年度試算では3税だけでは安定的に財政調整するには足りないとするのですが、3税だけでも配分率97.4%で財源調整ができ、協定書(案)でいう加算額は必要ないことになります。

 ところが、先に見た「特別区財政調整交付金に加算する額の算定方法」の資料では、(市町村分の)臨時財政対策債は特別区で発行する(方向で検討)としています。(元データ元サイト P02)
 地方交付税を全額、特別区に配分をする訳でもないのに、臨時財政対策債の発行だけ、特別区に押し付けるというのは、何とも手前勝手な話ですが、そういうつもりだということです。

 ところで、試算に使用している平成23年度の臨時財政対策債は861億円です。
 例え97.4%であっても、3税だけで配分できてしまうと臨時財政対策債を特別区に押し付けることができなくなってしまうのです。

 もしパッケージ案と同じ、3税と地方交付税の配分率を同じにしたとして、平成23年度試算では、地方交付税1088億円、配分率76%です。地方交付税の配分額は827億円で、まだ臨時財政対策債の発行額861億円に足りません。同率ではまだ、安定的に臨時財政対策債を特別区に押し付けることができないのです。

 つまり、安定的に臨時財政対策債を特別区に押し付けるためには、3税だけで配分率の決定を行い、不足分だけ加算額(市町村分の地方交付税の一部配分)にするのでは無理なのです。

 これを解決する方法として、2つの方法が考えられます。
(1)臨時財政対策債の発行額を、「地方交付税の規定による算定方法に概ね準ずる算定方法による配分」の段階で、基準財政需要額から除いてしまう方法。
 スマートに全額を特別区に押し付けられますが、「特別区財政調整交付金に加算する額の算定方法」の資料(元データ P02)の「国との調整等を踏まえた算定式」を採ることができません。

(2)調整財源の配分割合を、3税だけで財政調整交付金を交付する場合の配分割合よりも、ずっと低い配分割合にしておき、多額に発生する不足額を加算額で補う方法。配分率を低くして加算額を大きくすれば、臨時財政対策債を特別区に押し付けるのに、支障は無くなります。

 実際、財政調整交付金の算定方法は協定書(案)の文面にありますが、調整財源の配分割合は「大阪府の条例で定めた割合を乗じて得た額を特別区財政調整交付金として特別区に交付するものとする」としているだけで、「算定額を満たすように配分割合を決定する」とは、どこにも書いていませんから、「協定書(案)に反する」とさえ、言えません。

 この場合、「財政調整交付金の割合は、特別区設置の日までに大阪府知事と大阪市長で調整する」で、初めて配分割合が示されることになると思うので、その数字を見て驚いてください。
 市議会では、低過ぎる配分割合にブーイングが起きるかもしれませんが、配分割合は「大阪府知事と大阪市長で調整する」ですから、一切口出しできません。「配分割合は低いが、その分はしっかりと『加算する額』で補うと約束しているので、何も問題ない」で押し切られて終わりでしょう。

 ただし、上でも記した通り、加算額は大阪府の裁量に寄る部分が大きいですから、特別区は(財政自主権を持った)自治体というよりも、大阪府から与えられる交付金で財政運営を行う、大阪府の下部組織の色彩がかなり強くなると思われます。


 ここまでの話の整理です。

〇「特別区担当業務の今までの所要財源を、(大阪府側の意向に関わらず)確実に保証するものとなっているか」というと、財源保証をするべき肝心な部分の表現が曖昧で、財源保証になっていません。
 まして「府移管業務の今までの所要財源を超える負担を大阪市民に求めないように制限」などされておらず、特別区への財政調整交付金や加算額を締め上げれば、「大阪市からの府移管業務に必要な財源」と関係なく、大阪市民の市町村財源を府に吸い上げられます。

 「明確には書かれていないが、協定書(案)のここの文章は、こういう意味だから、そういうことも含まれていて大丈夫」とか「協定書(案)の文面には明記されてないけど、運用でしっかり特別区の財源を確保していくから大丈夫」という言い訳が想像できますが、それならば、明記されていない意味・解釈や「運用でするんだ」の内容を、協定書(案)に書かないのがヘンです。そのための協定書なんですから。
 書かれていないことをアテにしろというのは、白紙委任を求めているのと同じです。


〇パッケージ案では「大阪市の事業の配分に沿って、財源を配分する」としていましたが、協定書(案)の文面では、表面上だけで見ても、特別区は「概ね基準財政需要額+(調整財源を除く)税収等の15%」という、普通の市町村より、かなり貧相な財源しか持たない自治体の姿にすり替わりました。

--------------------------- 計算比較 ---------------------------
 前回記事でみた、パッケージ案で使用された平成23年度数値を使って、一般の市町村と特別区の財源をざっくりと比較してみます。

個人市民税等(個人市民税、市たばこ税、軽自動車税、税交付金等)2074億円
固定資産税等(法人市民税+固定資産税。ただし法人市民税の超過課税分を除く)3801億円
都市計画税 572億円

(一般の市町村)
裁量経費(市町村や特別区の裁量で使途を決められる財源)
=(個人市民税等2074億円+固定資産税等3801億円)×25%+都市計画税572億円
=2040億円

基準財政需要額+裁量経費2040億円

(大阪都構想の特別区)
裁量経費(市町村や特別区の裁量で使途を決められる財源)
=個人市民税等2074億円×15%+都市計画税313億円(元データ元サイト パ04-P21)
=624億円

「概ね」基準財政需要額+裁量経費624億円

--------------------------- 計算比較 ---------------------------

 更に、特別区の財源の総額は、最終的には、大阪府による加算額で決まります。
 特別区財源に占める加算額の割合は不明ですが、臨時財政対策債を特別区に押し付けようとしていると考えると、特別区にとって無視できるような額にはならないでしょう。
 加算額の決定は、大阪府の裁量が大きいので、運用次第で特別区は「貧相な財源しか持たない自治体」というよりも、大阪府から与えられる交付金で財政運営を行う、大阪府の下部組織的なものに堕してしまいそうです。


〇協定書(案)がパッケージ案から、大きく変質してしまったなと思うのは、税源配分・財政調整について「大阪市の事業の配分に沿って、財源を配分する」という文言が無いことです。

 「パッケージ案で示されていた『大阪市の事業の配分に沿って、財源を配分する』は、『概ね基準財政需要額+(調整財源を除く)税収等の15%』と一致する」という主張もありそうですが、これはパッケージ案試算の時点で、一定の方法で試算すると、たまたまそうなったとしているだけです。
 協定書(案)の文面は、しつこい程に「検証」を謳い、状況の変化による見直しを示唆しています。
 でも、「大阪市の事業の配分に沿って、財源を配分する」という文言はどこにもなく、状況や運用の変化で「大阪市の事業の配分に沿って、財源を配分する」と「『概ね』基準財政需要額+(調整財源を除く)税収等の15%」が乖離することに対する是正について、直接の言及はありません。

 もし「大阪市の事業の配分に沿って、財源を配分する」を本当に大切にして税源配分・財政調整を考えるなら、
「大阪市から大阪府への移管事業に必要な財源額を、大阪府・特別区協議会において確認し、府移管事業所要額分を留保するものとして調整財源及び地方交付税(市町村分)の配分割合を決定する」
・・・といった方法だって、ちゃんとあるというのに。


〇協定書(案)には、「各特別区の長期財政推計〔粗い試算〕」(元データ元サイト)が添えられていますが、協定書(案)の税源配分・財政調整の文面に沿って作成されたものではありません。

 協定書(案)を前提としながら、「特定の財政運営」を行えば、この財政シミュレーション通りになるのかもしれませんが、協定書(案)には「特定の財政運営」を行うとは書いていないので、協定書(案)に沿えば、この財政シミュレーション通りになるとは言えないのです。

 パッケージ案における財政シミュレーションは、パッケージ案が示す通りにシミュレーションを行っているので、「設計図の一部」と言えました。

 協定書(案)における「各特別区の長期財政推計〔粗い試算〕」は、「もしかしたら、こうなることもあるかもしれないね」という「イメージ図」に成り果てました。
 そもそも協定書(案)の文面では、調整財源の配分割合も明らかにしないとしてるのに、なんで財政シミュレーションができるのでしょう?


〇協定書(案)を表面的になぞるだけでも、特別区は、かなり貧相な財源しか持たないように見えますが、結局、協定書(案)は、肝心な部分で曖昧だったり、大阪府の裁量次第だったりする点が多く、都構想後、「大阪市民が府税に加えて、市税からどれだけ大阪府の財政を支えるか」(=大阪市民が、自分たちの支払う市税のうち、どれだけを身近な行政サービスに使えるのか)について、十分、明確に示されているとは言えません。

 大阪市民が、この協定書(案)で大阪都構想に賛成するということは、「後で金額こっちで書いておくから、先にサインしていて」と言われて、支払い金額欄が空欄の契約書に、署名・押印することなんだと思います。
posted by 結 at 20:23| Comment(0) | 協定書 | 更新情報をチェックする

2014年09月29日

長期財政推計になって、変わったこと、変わらないこと(その1)

 第17回特別区設置協議会(2014年7月23日開催)で、大阪都構想の特別区設置協定書(案)が示されると共に、各特別区の長期財政推計[粗い試算](元データ 元サイト)が示されました。
 この各特別区の長期財政推計[粗い試算]は、第10回特別区設置協議会(2013年12月6日開催)で、パッケージ案ベースのものとして示された財政シミュレーション(元データ 元サイト)を、協定書(案)ベース(?)に更新したものです。
(併せて、「シミュレーション」という確実性の期待されそうな呼称を、「財政推計」という「天気予報並みに外れても責任負わないよ」な呼称に変えてしまいました。)

 各特別区の長期財政推計[粗い試算]が、以前の財政シミュレーションと、どういう点が変わったのか?変わっていないのか?見ていきます。

 また、各特別区の長期財政推計[粗い試算]には、以前の財政シミュレーションと条件を合わせた「その1」と、地下鉄・市バス・一般廃棄物収集の民営化が行われない場合の「その2」がありますが、ここでは「その1」を使って見ていくことにします。


 最初に言ってしまうと、長期財政推計になって、効果額も再編コストも、それなりに変化がありますが、「大きな影響があるか?」というと、それ程とは思いません。
 そこで今回は、効果額や再編コストの直接の数字ではないところで、大事かなと思う点を挙げてみます。


(1)協定書からは、長期財政推計の数字は出てこない

 一番本質的な話だと思いますが、協定書の税源配分・財政調整の記述から、長期財政推計が前提とする財政調整の特別区への配分額は出てきません。だから、長期財政推計は、協定書の示す姿とは言い難いものになりました。

 パッケージ案ベースの財政シミュレーションは、大阪府と特別区の事務配分に沿った財源配分にすると明確にし、3税(固定資産税、法人市民税、特別土地保有税)+地方交付税の76%を配分するものとして、財政シミュレーションは作成されていました。

 長期財政推計では、財政調整は「3税+地方交付税(臨時財政対策債を含む)をH24年度決算に基づく試算値(特別区77%)で配分」(元データ 元サイト 財政推計P35)とされていますが、協定書では3税を調整財源とし、配分割合は、特別区設置の日までに大阪府知事と大阪市長で調整するとしている(元データ 協定書P9)のみです。

 協定書と長期財政推計で調整財源の種類がそもそも合ってませんし、(まだ決められていない)配分割合を仮に置くのだとしても、協定書に記述に沿って、試算の条件を明らかにしながら、配分割合や加算額を設定するのでなければ、協定書に沿った長期財政推計だとは言えません。

 長期財政推計の「3税+地方交付税(臨時財政対策債を含む)をH24年度決算に基づく試算値(特別区77%)で配分」に合うように、財政調整する「つもり」なんだと説明されそうですが、協定書の記述に合っていません(3税で所要額を埋めるなら、当然3税の配分割合が地方交付税の配分割合より大きくなる。)し、協定書での文書での約束を避けて、口約束だけしかしない「つもり」をアテにして、わたしたちの身近な行政を委ねる訳にはいかないのです。

 協定書の税源配分・財政調整の記述は曖昧で、この記述からどのような財政調整になるか、一意に決まりません。(現在の大阪市長と結託した)府知事・府議会が恣意的に運用すれば、長期財政推計の前提に合わせた財源配分もできると思われますが、知事が替わって「そんな『つもり』など知らない」と言えば、全然違う財源配分に、いくらでもなってしまいます。協定書できちんと約束していないのですから。

 パッケージ案ベースの財政シミュレーションは、パッケージ案に基づく設計図の一部と言えるものでした。
 それに対して、協定書に基づくとは言えない長期財政推計は、「もしかして、うまくいったら、こんな風になるかもしれないね」というイメージ図に後退してしまいました。

 協定書の税源配分・財政調整の記述は曖昧さや長期財政推計との関係は、前回の記事「大阪都構想協定書(案)の税源配分・財源調整を見てみた」で詳しく説明していますので、ご参照ください。


(2)収支不足は大阪都構想と関係なく解消する

 橋下市長が、出直し市長選で強調してみせた次の3色グラフ。
維新グラフ_再編効果と現状維持を比較(積算).jpg

 「現状維持、莫大な借金、都構想が実現しないと平成45年までに、約2323億円の赤字。」という説明が、波紋・反発を呼びました。

 このブログでも以前の記事「大阪都構想財政シミュレーション(その2) 関係ない効果額を分けてみた」で、このグラフを取り上げました。

 ところで、この3色グラフの赤い部分にあたる収支不足額が、財政シミュレーション時と、長期財政推計で、次のように大きく変わりました。
赤字累積額比較.jpg
財政シミュレーション(元データ 元サイト
長期財政推計(元データ 集計データ

 財政シミュレーションでは「平成34年度以降、ある程度赤字額は収まるが、毎年数十億円程度の赤字がずっと続く」というものでした。
 それに対して、長期財政推計では「平成35年度には黒字に転換し、その後安定して黒字が続く」に変わりました。

 長期財政推計の数字を3色グラフ風にすると、次のようになります。
三色グラフ.jpg

 収支不足額の見込額の変更は、大阪都構想と直接関係するものではありませんが、出直し市長選で市長(候補)と知事が、大看板で説明していたにしては、たった数ヶ月で大きく変わってしまったものです。

 収支不足が大阪都構想と何の関係も無いと誰の目にも明らかになりましたから、「都構想を実現しないと、莫大な借金がたまるぞ」のような脅迫めいた話でなく、冷静にメリット・デメリットを比較して、大阪市民が判断できることを望みます。


(3)特別区の規模の差が大きい

 第14回特別区設置協議会(2014年7月3日開催)で区割り案の変更が提案され、従来の5区分離案の区割りから次のように変更されました。
〇B区(現在の湾岸区)から、住之江区の東部を分割し、南区へ編入。
〇B区(現在の湾岸区)から、福島区を北区へ編入。

 その結果、各特別区の規模は、
北区 63万人
湾岸区 34万人
東区 58万人
南区 69万人
中央区 42万人
 と、なりました。

 これに対するひとつの指摘は、北区63万人、南区69万人という巨大な特別区は、大阪都構想が標榜したニア・イズ・ベター(基礎自治体を住民に身近な規模にして、身近な行政への住民の意思反映を図る)の実現になるのかという点があります。
 ただ、ここでは、特別区の規模の差の方に着目してみます。

 現在の区割り決定に当たり、7区案が駄目だとされたのは、7区案では黒字転換が難しいということでした。
 これは、パッケージ案でのコスト試算では、歳出の大半の部分について規模比例(規模によるコスト差が発生しない)だとしているのですが、職員数に関しては、45万人規模より30万人規模では(同一規模当り)約17%の割り増しが必要だとして、5区案より7区案の職員数を割り増しして試算したため(元データ 元サイト パ試1-02P15)でした。

 湾岸区の34万人と南区の69万人では、2倍の差があり、当然、行政効率にもかなりの差が出てきます。

 湾岸区の34万人というのは完全に7区案の規模ですから、職員数の割り増しが必要なはずです。
 パッケージ案に基づく財政シミュレーションと違い、長期財政推計では、試算の根拠は碌に示されていませんから、十分な確認はできませんが、「特別区の概要」の数字(元サイト)を見ると、(十分かどうかは別にして)湾岸区に職員数の割り増しがされている風です。
区別職員数.jpg

 特別区の規模差による行政効率の格差は、パッケージ案の検討では想定していない、やっかいな問題を引き起こします。

 元々、財政調整は、区民1人当りの財政規模の均衡をひとつの基準にしてきましたが、特別区の規模で歴然とした行政効率の格差があると、それでは中々合意できなくなってくるのです。

 協定書についての野党勉強会の中で、財政調整を担う大阪府・特別区協議会(一般に都区協議会と言われるもの)で、協議が中々まとまらないだろうと指摘されていました。

 その典型になりそうなのが、規模による行政効率の格差で、大規模区である南区、北区、東区は区民1人当りが同水準であるように求めるでしょうし、湾岸区、中央区は、実際の行政効率を反映した小規模区への割り増しを求めるでしょう。
 どちらにとっても重要なことですし、どちらが正しいというのはありませんから、中々まとまりそうに思いません。

 難しいからこそ、当事者間の利害対立が起きる前に方向性の整理をしておいた方がよいのですが、大阪府は関係ないからなのか、適当に特別区間で対立しておいて貰った方が、大阪府としては都合が良いのか、その整理は見当たりません。

 そもそも、湾岸区の職員数の割り増し自体、配置数から推測しているだけで、本当に行っているのか、どういう基準でどの程度の割り増しとしているのか、といったことは、何も示されていません。
 だから、本当に小規模区がちゃんと運営できるのかも、確認もできません。


 次回は、長期財政推計になって、効果額や再編コストがどのように変わっているか、数字の変化を見ていくことにします。
posted by 結 at 04:34| Comment(0) | 協定書 | 更新情報をチェックする
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