橋下市長ら維新サイドが、強引に他会派を排除して多数を握って作成した協定書(案)として、その正当性については物議を醸しています。
でも、橋下市長らが「設計図だけでも示させて」と主張した、大阪都構想の設計図とやらが、この協定書(案)であることは間違いないので、当ブログでは作成の経過より、その内容に着目です。
このブログでは、「大阪市の市町村財源が特別区と大阪府にどのように配分されるか?」や「大阪市を5つの特別区に分割することで、コスト増がどうなるか?」に特に注目しているので、協定書(案)でも、まず見てみたいのは、税源配分・財源調整の部分です。
ただ、協定書(案)の税源配分・財源調整を見ていくためには、先ずはパッケージ案での税源配分・財源調整を、整理・把握しておくことが、大事なようなので、今回は協定書(案)に入る前に、パッケージ案の税源配分・財源調整を見ていくことにします。
協定書(案)の税源配分・財源調整の部分(元データ、元サイト 資3-P09)から、主な点を抜粋してみました。
〇特別区の税源は、個人市町村民税、市町村たばこ税、軽自動車税等
〇法人市町村民税、固定資産税及び特別土地保有税を財政調整財源とし、府条例で定めた割合を、特別区財政調整交付金として特別区へ交付
〇特別区財政調整交付金は、地方交付税法に概ね準ずる算定方法で配分する普通交付金と、災害や財政収入減少など普通交付金算定後の特別な事情に配分する特別交付金とし、普通交付金は交付金総額の94%、特別交付金は6%
〇普通交付金の算定に当り、標準税等の算入率は85%
〇特別区財政調整交付金が目的の額を下回るおそれがある場合には、条例で定める額を加算する
〇特別区財政調整交付金に加算する額は、地方交付税や臨時財政対策債の発行可能額、公債費負担等を勘案
さて、これらの点は、昨年8月に発表した、パッケージ案の中では、どうだったのでしょうか?
パッケージ案での税源配分・財源調整の基本は、次の通りです。
大阪市の事業1兆6917億円(一般財源8590億円)を、特別区1兆3023億円(一般財源6350億円)と大阪府3952億円(一般財源2318億円)の分担にすると、大阪府側で一般財源で1634億円が不足する。(元データ、元サイト パ04-P6)

この大阪府側での1634億円の財源不足を賄うために、市町村財源の法人市民税、固定資産税、特別土地保有税と大阪市分の地方交付税(臨時財政対策債を含む。広域移管分を除く。)を財政調整財源とし、その24%を大阪府の財源にする。(元データ パ04-P27)

これを実現するものとして、パッケージ案でも、協定書(案)の税源配分・財源調整と、よく似た数字や説明が挙げられています。
〇法人市町村民税、固定資産税、特別土地保有税に加え、地方交付税(臨時財政対策債を含む)を財政調整財源とする。(元データ パ04-P14)
→なお、パッケージ案の中では、なぜ地方交付税を加える必要があるかの説明を行っており、地方交付税を調整財源に含めない協定書(案)では、当然、その点が問題となります。
〇財政調整交付金は、地方交付税法に準じた算定方法で配分する普通交付金と、特別な財政需要に応じて配分する特別交付金とし、普通交付金は交付金総額の90%、特別交付金は10%。(元データ パ04-P17)
→地方交付税の算定に当っては、全特別区を一つの市とみなし、新たな広域自治体と合算して算定。(元データ パ04-P19)
〇普通交付金の算定に当り、標準税等の算入率は85%。(元データ パ04-P17)
(なお、協定書(案)にある「財政調整交付金に加算する額」についての記述はありません。)
では、「財政調整財源の24%を大阪府、76%を特別区に配分する財政調整案」と、「地方交付税法に準じた算定方法で配分する財政調整交付金」「標準税等の算入率は85%」は、繋がるのでしょうか?
まず、基準財政需要額と基準財政収入額を整理してみます。
パッケージ案の試算年度である、平成23年度の決算カードによると、大阪市の基準財政需要額と基準財政収入額は、次の通りです。(元データ、元サイト)
基準財政需要額 6060億円(基準財政需要額5200億円+臨時財政対策債860億円)
基準財政収入額 4674億円
これに対してパッケージ案では、特別区分(現行の大阪市全体から、広域自治体への移転分を控除したベース)として、次の数字を挙げています。(元データ パ04-P8)
(特別区分)基準財政需要額 5645億円
(特別区分)基準財政収入額 4572億円
この数字から算定される地方交付税交付基準額1073億円は、下の表の調整財源にする地方交付税(臨時財政対策債を含む)の額と一致します。
また、大阪市全体の基準財政需要額6060億円と特別区分の基準財政需要額5645億円の差分415億円(=大阪府へ移転する基準財政需要額)は、下の表の広域自治体の地方交付税の移転額314億円と「大阪市全体の基準財政収入額4674億円と特別区分の基準財政収入額4572億円の差分」(=おそらく事業所税の一部が広域移転されたことに伴う基準財政収入額の移転額)102億円との合計と一致します。

(元データ パ04-P27)
(特別区分)基準財政需要額 5645億円
(特別区分)基準財政収入額 4572億円
は、この表のベースになる数字のひとつと考えられます。
ここから、再現計算ができなくなります。
〇基準財政需要額
パッケージ案では、財政調整の算定に用いる基準財政需要額は、
地方交付税基準 4934億円
生活保護等加算 183億円
を合わせた5117億円だとしています。(元データ パ04-P32)
地方交付税の算定を行った基準財政需要額5645億円が、なぜか財政調整の算定の場面では、地方交付税に準じて算定すると言いながら、4934億円になってしまっていますが、この理由は分かりません。
〇基準財政収入額
普通交付金の計算を行う為には、基準財政収入額が必要なのですが、パッケージ案には、財政調整の算定に用いる基準財政収入額の記載がありません。
普通交付金の額と、基準財政需要額から逆算で計算すると(元データ パ04-P32)
地方交付税基準 4934億円
普通交付金+公債費分 3585億円
・・・で、差引1349億円となるのですが、この数字が何とも変なのです。
積上げで基準財政収入額を計算してみます。
法人市民税(超過課税分を除く)1024億円(元データ 決算カード)
固定資産税 2777億円(元データ パ04-P14)
(元データ パ04-P33)
個人市民税等 1600億円
税交付金+地方特例交付金 474億円
事業所税 66億円(元データ パ04-P21)
地方譲与税+交通安全交付金 60億円
一般の地方交付税計算では「地方譲与税と交通安全交付金」を除き算入率75%、「地方譲与税と交通安全交付金」は100%です。
法人市民税+固定資産税+個人市民税等+税交付金等+事業所税の合計額
5941億円×75%=4456億円
地方譲与税+交通安全交付金=60億円
合計4516億円です。
交付税算定に用いた基準財政収入額が4572億円(元データ パ04-P8)ですから、ほぼニアな数字を算出できていると分かります。(差分は、個人市民税の税源移譲相当額を100%算入すべきなのに、区分できず75%算入になっている点と思われます。)
財政調整時の基準財政収入額は、上の計算から、調整財源に移ってしまう法人市民税と固定資産税を除いて計算すれば良いだけなので、すぐに計算できます。
個人市民税等+税交付金等+事業所税の合計額
2140億円×85%=1819億円
地方譲与税+交通安全交付金=60億円
合計1879億円です。
こうやって普通に計算すると、1879億円が出てきました。上で計算した、財政調整の算定に用いる基準財政需要額4934億円から普通交付金3585億円を差し引いて逆算した、1349億円という数字は出てきそうにないのです。
ぱっと考えても、個人市民税等+税交付金等+事業所税の合計額が2140億円ですから、それを85%算入して1349億円になる方がおかしいのです。
そこで全く違うアプローチで考えてみます。
パッケージ案は、特別区の6350億円に対し、基準財政需要額以外の裁量経費(特別区の裁量で使途を決められる財源)が1233億円ある(元データ パ04-P32)としています。
でも、調整財源を除く特別区の財源(個人市民税等+税交付金等+事業所税の合計額)は2140億円ですから、その15%は321億円に過ぎません。
都市計画税の特別区配分額313億円は、使途を決めて府から配分を受けるので、自由に使途を決められる訳ではありませんが、基準財政需要額には算入しないので、これも「裁量経費だ!」として合わせて634億円。
特別区の財源で、基準財政収入に含めない部分をもっと増やすか、財政調整交付金の中に裁量経費が織り込まれていないと、1233億円の裁量経費など出てこないのです。
一番考えられるのは、法人市民税と固定資産税の3939億円の15%=591億円が裁量経費に計上されている可能性です。
でも、財政調整交付金の内訳は、普通交付金、特別交付金、公債費分(元データ パ04-P32)として挙げられていて、裁量経費の入り込む余地はありません。
想像を逞しくして考えると、法人市民税と固定資産税の3939億円の15%=591億円を、基準財政収入額から差し引いて普通交付金の計算を行っていると仮定すると、大雑把には辻褄が合う(個人市民税等の15%の321億円+都市計画税313億円+固定資産税等の15%の591億円=1225億円で、逆算した基準財政収入額1349億円とニア)(算出した基準財政収入額1879億円−固定資産税等の15%の591億円=1288億円で、逆算した基準財政収入額1349億円とニア)のですが、さすがに乱暴過ぎる仮定だと思います。
・・・ということで、かなり努力したのですが、「地方交付税法に準じた算定方法で配分する財政調整交付金」と「標準税等の算入率は85%」で計算を行って、その結果が「財政調整財源の24%を大阪府、76%を特別区に配分する財政調整案」になるという再現計算を行うことはできませんでした。
・・・というか、基準財政需要額も基準財政収入額も(つまり、その結果の財政調整交付金や裁量経費も)、「明らかにしていない計算方法」を明らかにしないと、再現計算は無理なのでは?と思いました。(勿論、わたしの理解が追いついていない可能性は、十分にあります。)
ここまで整理する中で気付いたことを、書いておきます。
(その1)
「地方交付税法に準じた算定方法で配分する財政調整交付金」と「標準税等の算入率は85%」で計算を行って、その結果が「財政調整財源の24%を大阪府、76%を特別区に配分する財政調整案」になるという再現計算まではできませんでしたが、無関係というほど乖離している様子ではありませんでした。
いくつかありそうな「明らかにしていない計算方法」を明らかにすれば、ぴたりと繋がるのでは?と思っています。
(その2)
大阪市の平成23年度の一般財源額8605億円に対して基準財政需要額は6060億円です。裁量経費は2545億円で、一般財源に占める比率は30%です。税などの基準財政収入額への参入割合が75%(25%は裁量経費)で、基準財政収入額へ参入しない財源もありますから、そんなものです。。
特別区の一般財源額6350億円に対し、地方交付税計算に用いる特別区の基準財政需要額は5645億円です。(元データ パ04-P8)裁量経費は705億円で、一般財源に占める比率は11%です。
個人市民税などのうち15%しか裁量経費にならず、調整財源になる法人市民税、固定資産税が特別区の裁量経費を生み出さないなら、こんなものです。しかも裁量経費の主に部分となる、個人市民税などの15%は321億円でしかなく、府から使途を決めて配分を受ける都市計画税の313億円が半分近くを占めますから、裁量経費としての実感は、もっと小さいでしょう。
裏返しで、大阪市から移管される大阪府の一般財源額は2255億円に対し、地方交付税計算に用いる基準財政需要額は415億円です。裁量経費は1840億円で、一般財源に占める比率は82%です。
基準財政需要額が415億円しか移らないのに、一般財源額を2255億円も移せば、当然こうなります。地方交付税を税等の75%算入で受け取り、85%算入で配分すれば、それだけで裁量経費の4割を中抜きできます。更に税収の半分以上を占める法人市民税と固定資産税の裁量経費部分を、特別区への配分対象にしないなら、大阪府側が裁量経費でじゃぶじゃぶになるのは当然です。
橋下市長らは、特別区になれば、大阪市より規模が小さくなって、住民サービスの選択がもっとうまく機能する(何かのサービスを止めることで、別のサービスに予算を振り向けられるようになる)のがメリットと主張しますが、基準財政需要額部分は、法定の業務で廃止できなかったり、廃止するとその分の財源が無くなってしまうので、他の住民サービスへ振り向けるのは困難です。
何かのサービスを止めることで、別のサービスに予算を振り向けられるようになるというのは、裁量経費部分で初めて機能するのですが、裁量経費部分場がほとんど無くて、そんなことできるのでしょうか?
パッケージ案では、財政調整に当り、特別区の基準財政需要額は4934億円であり、特別区の裁量経費は1233億円あるのだとしています。(元データ パ04-P8)この額であれば、一般財源に占める比率は19.4%です。
それでも現行の30%が20%を切るまでに裁量経費は小さくなってしまうのですが、それ以上に、地方交付税計算での基準財政需要額5645億円が、なぜ財政調整では4934億円に減ってしまうのか、不可解に思っています。
(その3)
結局のところ、「大阪市の事業の配分に伴って、財源を配分する」としていたはずが、「地方交付税法に準じた算定方法で特別区への配分額を決定」とか「標準税等の算入率は85%」に置き換わっているのが、「おかしい」と感じています。
「大阪市の事業の配分に伴って、財源を配分する」なら、配分率決定も、財政調整も、全部、特別区、大阪府双方に対し、同じようにやれば良いのです。
基準財政需要額の保障を最低限行う必要があるのなら、それも、特別区、大阪府双方に同じように行えば良いのです。
大阪市分の財源の大半を、調整財源という形で特別区から切り離し、「地方交付税法に準じた算定方法で配分」「標準税等の算入率は85%」という配分方法を置き換えていくのは、特別区には最低限の財源だけ配分し、残りは大阪府が総取りという構図に見えてしまいます。
今回は、パッケージ案での税源配分・財政調整について見てみました。
協定書(案)でも、少し変わっている点はありつつも、数字など表面的には似たものに見えます。
ただ、その文章を、協定書の文章(=立場の異なる組織が、契約書で、双方の権利・義務を確認しあう文章)として捉えると、全く違ったものに見えてきます。
そのような観点で、次回は大阪都構想の協定書(案)の税源配分・財政調整を見ていきます。
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