2016年02月07日

市大の府大吸収合併案は「傲慢だ」と松井知事は語る

 毎日放送VOICE1月20日放送分で、大阪市立大学(の理事者ら)が、市大による府大吸収合併案を提案しているというニュースがありました。
 内容は、次の通りです。

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大阪市立大学が方針 「府大を吸収すべき」に知事「ありえない」
毎日放送VOICE 2016.01.20放送分

 大阪府立大学と大阪市立大学の統合問題で、市立大学が「新大学は大阪市単独で設置し、市大が府大を吸収するべき」という方針であることが分かりました。
 松井知事は「ありえない。傲慢だ」と怒り心頭です。

 府と市の両方の議会で条例が可決され、前に進むことになった府大と市大の統合。新大学は、府と市が共同で設置することを基本に議論することになっています。
 しかし・・・

【大八木友之アナ】大阪市立大学は、新大学を大阪市が設置し、府立大学を吸収したいと考えていることが分かりました。

 市大によると、新大学は、市が単独で設置し、府大を吸収する形で統合するべきという方針であることが分かりました。
 市大は、共同設置では、大学の予算や計画案で、その都度それぞれの議会で承認が必要になるなど、意思決定がスムーズでなくなる為だとしています。

 市大側は今月に入り、大学幹部らが統合議論を進める議員らへ、説明を積極的に行っていて、「設立団体がひとつであることが望ましい」と明記した資料を配布しています。

【自民党プロジェクトチーム座長 奴井和幸府議】市大として吸収したいというような言い方ね。全て市がやりたいと。(市大側は)2つあるよりも、ひとつの方がいいんじゃないですかと。

 これに対し、大阪府の松井知事は、市単独での設置はありえないと激怒しました。

(問い 市大の単独設置について)
【松井知事】傲慢極まりないと思いますね。大学の理事者のみなさんですかね。
(問い 単独設置ということはありえない?)
【松井知事】ありえません。無理です。それぞれが共同設置、これが一番現実路線ですよ。

 一方の大阪府立大学は「正式に聞いていないが、統合の前提が崩れるのでは無いか」としています。
--------------------------- 引用終了 ---------------------------

 市大による府大吸収合併案は、松井知事がお怒りなだけでなく、吉村市長もすぐに否定のツイートを出し、実現性はないと思うので、特に賛否を考えるつもりもありません。
 ただ、この案が面白いと思うのは、維新の広域行政一元化の主張に、きちんと則っている提案だということです。

(1)府大と市大の統合・一元化は、実現されます。

(2)大阪都構想は、大阪府と大阪市の協議・協力による広域行政の運営はうまく行かないと否定し、大阪府が一元的に指揮・決定を行えるべきとして提案されているものです。
 それならば、府大・市大を統合した新大学も、大阪府・大阪市の共同設置にして、共同運営にするよりも、大阪市単独の運営にした方が(大阪都構想の提案趣旨からすると)望ましい運営が行えるとなるはずです。

(3)市大による府大吸収合併案は、大阪府が府大に支出している年間約100億円を市に財政移転する必要があります。
 それでも(大阪都構想で行われている主張に沿うならば)「大阪府が府大に行っていた支出を、大阪市が大阪府に代わって行うだけだから何も問題ない」であるはずです。

 それなのに、なぜ松井知事はお怒りなのでしょうか?
 上記のニュースで報じられていた松井知事の会見の該当部分は、次の通りです。(元データ

--------------------------- 引用開始 ---------------------------
【記者】
 あと、話題変わりまして、大学の統合なんですけども。大阪市立大学のほうが、大学側として、今、大阪府と大阪市で新大学については、共同設置することを基本というか、軸として話し合っていくということになっていますけども。大阪市大としては、大阪市が単独設置して、形としては、大阪市大が府大を吸収することが望ましいというように考えているようなんですけども、そのことに関して知事はどうでしょうか。

【知事】
 まあ、本当に傲慢きわまりないなと思いますね、大学の理事者の皆さんですかね。自分たちが、今、市大でそうして活動できる、研究できるのは、その原資というのは誰が負担しているか。大阪市民の皆さんが一生懸命税を納めて、その負担の上に成り立っているわけですよ。今度、市大が、じゃ、府大を吸収してやるということであれば、市民の皆さんの大学への今の税の負担というのは、その倍になるわけです。そういうこともわかっておっしゃっているのかね。本当に、自分たちのポジションを守りたいという姑息な考え方の人たちが、大学にいるというのが、僕は残念で仕方がない。要は、大学というのは学生のためにあるので、大学で教鞭をとっている皆さん方のいやすい環境をつくっていくとか、そういう話じゃないんですよ。この人たちが優遇・厚遇されて、「ああ、これはいい職場だな」というようなために、大学はあるわけではないので。ちょっと勘違いしちゃだめだよと言いたいね。
 それと、大阪市は、やっぱりガバナンスきいていないですね。大阪市が予算を組む中で、市大予算も運営費交付金というのは、決められていくわけですよ。僕と橋下市長とでは、これは共同設置でやろうということを、役所同士は覚書を交わしているわけです。それを、大学の人たちが、どなたとかは知りませんけど、それが事実なんかどうかも、僕はこの目で確かめたわけじゃないので。今、大八木さんが言うようなことが事実であれば、ちょっと傲慢やな、何を考えているのと思いますね。

【記者】
 ということになりますと、じゃ、単独設置ということは、あり得ないというお考えでしょうか。

【知事】
 あり得ません。無理です、そもそもが。これ、大阪府が吸収するのも、今の大阪府の財政状況だけでは無理です。100億ですから。これは、それぞれが、やっぱり共同設置。これが一番、現実路線ですよ、どう考えても。

【記者】
 その設置形態は、いろいろ1法人1大学、知事はそういう方針ですけども、1法人1大学なのか、1法人2大学なのか、いろんな選択肢はあるんですけども、じゃ、その設立団体自体は共同設置というのは、譲れないところというか。

【知事】
 大阪府と大阪市が、それぞれある間はね。それ、譲れないというか、それ以外は、ないんです。片方だけが、それを両方支えるだけの体力は、今ありません。

【記者】
 仮に、今、あり得ないとおっしゃったんですけど、大阪市が単独設置をした場合、大阪府として出資だけする、出資法人だけになるという選択肢は、ありますでしょうか。

【知事】
 これ、府議会通りません。やっぱり、僕は、今度、府民の皆さんの税金の使い方、税を預かっているわけですよ。今度、府民全体から見て、お金だけ出して、口は出さんときやなんていう府民は、いてないと思いますよ。府民の皆さんの税を投入する限り、やっぱり負担をするのであれば、府民の意見、府民の声というものは、そこに反映させろというのが、納税者である府民の意見だと思います。

【記者】
 長い議論を経ていくものだと思うんですけども、これも仮定の話で恐縮なんですけど、都構想が実現していた場合、大学というのは、どこが設立していることになるんですか。

【知事】
 都ですよ、首都大学東京と同じ形です。都構想が実現していれば、要は、設計図の中にも、協定書の中にも書いていましたけども、大阪市が、今やっている広域事業、広域的な仕事の分野について、現在のそこにかかっている予算を、今度は都に移すという話なので、都が一元的に広域事業を実施するという形が、都構想ですから、都構想が実現していけば都がやることになっています。そのときには、それは、大阪市民の皆さんに何らマイナスではないわけです。市民の皆さんは、都になったときは、都民でもあるわけですから、今の大学の運営費交付金というのは市民の税で大学を運営しているわけですから、そちらの運営する組織が、新しい広域自治体である都に移るだけの話ですから、市民にとっても、府民にとっても何らマイナスはありません。

【記者】
 あと、1法人1大学というお考えを示されているんですけど、現状は、2法人2大学なんですが、統合のやり方としましては、先に法人を1法人にして、2大学を残して、あとで2大学を1大学にしていくというやり方というか、スケジュールで描いていらっしゃるのでしょうか。

【知事】
 プロセスとしては、それはあるでしょうね、1法人1大学が理想です。もちろん1大学にはしなければならない。学部の再編が、一番効果が上がる部分ですから。要は、大学の機能が強化される部分ですから。なので、それぞれが別々の大学というのは、やはり効果としてのマックスまでは、行かないので。ただ、1法人2大学でも、節約はさまざまなところに、そういう改善効果は出てくると思いますよ。だから、1法人1大学になる途中のプロセスとして、ありだなと思います。

【記者】
 ありがとうございました。
--------------------------- 引用終了 ---------------------------

 気になる点を挙げます。

(1)市大による府大吸収合併案(=大阪市による単独設置案)では、大阪市が府大分の予算(約100億円)を、追加で負担することになるので、(大阪府からの財政負担なしに)実現するのは困難だと主張しています。
(この説明には疑義がありますが、記事末尾の(追記)で整理します)

(2)「市大による府大吸収合併案(=大阪市による単独設置案)にして、大阪府が予算の支出だけするのはどうか」の問いに対しては、「府民の税を投入して負担するならば、府民の声を反映させろというのが当然だ」とします。


 (2)について、もう少し整理してみましょう。

 (2)を言葉だけで「問題なし」と言い繕うとしたら、「大阪府の事業と予算をセットで、大阪市に移管するだけのこと。大阪府民の税金を、大阪府民の一員である大阪市民(の代表)が、その使いみちを決めて大学を運営するは、何の問題もない」となるのでしょうか?

 でも実際のところ、府税として大阪府民全体で負担する100億円を、大阪府民のうち、3割の大阪市民(の代表)だけが支出に関与し(=どう使うか、意見反映でき)、大阪市民以外の7割の府民(の代表)は意見反映できないというのでは、納得されないというのは、わたしも当然の理屈だと思います。


 次に、逆を考えてみましょう。「府大による市大吸収合併案で、大阪市が予算の支出だけするのはどうか」という問いについてです。

 言葉だけで言い繕うとしたら、「大阪市の事業と予算をセットで、大阪府に移管するだけのこと。大阪市民は大阪府民でもあるのだから、大阪市民の税金を、大阪府民(の代表)が、その使いみちを決めて大学を運営するは、何の問題もない」となるのでしょうか?

 でも実際のところ、大阪市民だけで負担する100億円について、全く負担してない、大阪市民以外の府民が7割の決定権を持ち、負担する大阪市民が3割の決定権しか持たない(=3割の意見反映しかできない)というのでは、やはり納得されないのが、普通に思います。

 例えば、次のようなことになったら、どうでしょう?
--------------------------- 開始 ---------------------------
 府大が市大を吸収合併し、でも、その予算100億円は、大阪市民の市税で負担を続けている。
 現在、大阪市内にある市大医学部と大学病院の、彩都ライフサイエンスパーク(茨木市)への移転が提案され、大阪市民からは多くの反対の声が上がり、大阪市民を代表する3割の府議は揃って反対したが、大阪市以外の府議の大半が賛成し、旧市大医学部と大学病院は、彩都ライフサイエンスパーク(茨木市)への移転される。
 それでも、大阪市民だけが市税で、旧市大分の100億円を負担し続ける。
--------------------------- 終了 ---------------------------

 例え話ですが、あっても不思議はない話で、大阪市民のひとりとして、全く納得できません。


 松井知事は、上記の会見の中で、大阪都構想が実現していた場合について、次のように説明しています。
--------------------------- 引用開始 ---------------------------
都構想が実現していれば、(中略)大阪市が、今やっている広域事業、(中略)現在のそこにかかっている予算を、今度は都に移すという話なので、(中略)都構想が実現していけば(大学運営は)都がやることになっています。そのときには、それは、大阪市民の皆さんに何らマイナスではないわけです。市民の皆さんは、都になったときは、都民でもあるわけですから、今の大学の運営費交付金というのは市民の税で大学を運営しているわけですから、そちらの運営する組織が、新しい広域自治体である都に移るだけの話ですから、市民にとっても、府民にとっても何らマイナスはありません。
--------------------------- 引用終了 ---------------------------

 ごちゃごちゃと言ってますが、大阪都構想が実現していた場合は、府大と市大は統合され、大阪府の単独設置になります。
 当然、大阪府は、市大分の予算100億円を今までより余分に支出しますが、それは(今まで大阪市で負担してきた)大阪市民の市税100億円で負担します。
 つまり、「府大による市大吸収合併案で、大阪市が予算の支出だけする」場合と、基本的に同じです。

 松井知事は「大阪市民の皆さんに何らマイナスではない」というのですが、大阪市民の市税100億円の使い道を大阪市民で100%決められていたのが、3割の決定権しかなくなる(市税100億円を負担していない、大阪市民以外の府民に7割の決定権が移る)のは、どう考えても、大阪市民にマイナスな話です。


 さて、府大と市大の大学統合と、その財源負担の話をしてきましたが、「大阪都構想が実現していた場合」の話は、大学だけの話ではなく、大阪市から大阪府へ一元化される広域事業全般に、同じように言えます。

 その規模は、法定協で大阪都構想の協定書案を議論した時の資料によると、大阪市の財源規模8450億円のうち、2288億円(約3割)になります。
(元データ 7/18-P27 元サイト)
http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/19163/00159774/01shiryo01.pdf#page=27
http://www.pref.osaka.lg.jp/daitoshiseido/hoteikyo/16hoteikyo.html

 大阪市民が負担する市税が多くを占める、大阪市民(の代表だけ)で100%使い道を決めていた年間2288億円(うち、市税や市分の地方交付税だけでも1509億円)について、大阪市民が7割の決定権を失う大阪都構想。普通に考えれば、大阪市民に、巨大なマイナスな提案です。
 大阪都構想を実現したい人は、そう言わないだけで。


(この記事と併せて、次の記事もどうぞ。「(論点4)大阪市民だけが、市税を割いて余分に府財政を負担する」)


(追記)
 松井知事は、上記の会見の中で、市大の府大吸収案に対して「市大が、府大を吸収してやるということであれば、(大阪)市民の皆さんの大学への今の税の負担というのは、その倍になる」「大阪市が、府大と市大の両方を支えるだけの体力はない」と説明します。

 でも、この話、少しヘンだなぁと思うのです。

 自治体が大学を運営していると、その規模などに応じて基準財政需要額にカウントされます。そして、自治体の基準財政需要額の総額に対して税収(の一定割合)で足りない分は、国から地方交付税の配分を受けます。

 府大を大阪市に移管した場合、府大に対応した基準財政需要額も、大阪府から大阪市へ移ります。つまり、府大に対応した地方交付税分が大阪府で減り、大阪市で増えることになります。

 大阪府市統合本部の大学統合の検討資料(元データ 元サイト)によると、平成23年度の大阪府から府大に対する運営交付金は約105億円、それに対して府大に対応する基準財政需要額は約110億円。
 府大を大阪市に移管しても、地方交付税がその分増えるので、大阪市側で100億円の負担増など起きないはずなのです。

 まあ、府税で負担するのでなくても、府知事・府議会で使い道を決められる100億円の地方交付税が減って、大阪市に移ってしまうのは、松井知事としては、我慢ならないことなのかもしれませんが。
 それでも「大阪市民の税の負担が倍になる」「大阪市が、府大と市大の両方を支えるだけの体力はない」と言ってしまうと、事実に反する説明のように思います。
posted by 結 at 16:12| Comment(0) | 広域行政 | 更新情報をチェックする
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