2015年04月30日

(総論)大阪都構想のメリット・デメリットを見てみたら

 「大阪都構想って、こういうこと」で挙げた、大阪都構想のメリット・デメリットについて、(論点1)〜(論点6)で見てきました。
 (論点1)〜(論点6)の話のポイントです。

(論点1)二重行政の無駄解消って、どれくらい?

 協定書案とセットで出された長期財政推計の年間差引効果額は229億円(平成45年度)。その中で「府市の組織統合による効果額」は、39億円だけ。
 大阪市の事業4千億円を、大阪府の一般会計2兆7千億円と統合する試算なのだから、二重行政の無駄などなくても、もっと統合効果がありそうなもの。
 39億円という小さ過ぎる統合効果は、普通の類似事業統合の統合効果の捻出にも失敗してるということ。
 これは「二重行政の無駄が存在するとは示せなかった」または「二重行政の無駄があるとすれば、この案では、その解消などできない」ということで、「二重行政の無駄が解消される」というのは、無理があります。


(論点2)広域行政一元化で、大阪が成長するの?

 大阪府への広域行政の一元化は、「大阪府庁が大阪府全域の仕事をしようとしてるなら、大阪市との調整なしで決められる方が、大阪府庁としては仕事をし易い」という程度の意味で「良い」。

 ただ「良い」として、「その効果がどの程度なのか?」と考えると、
〇大阪府の予算規模が14%増になる程度(ただし大阪府内全体では、大阪市分が減にで差引ゼロ)
〇今も広域行政が一元化されている奈良県、滋賀県、和歌山県などと、同じになるだけ
〇統合後の大阪府庁が、1+1を10にも100にもする革新的な行政組織になるなら凄いですが、普通の類似事業統合の効果捻出にさえ失敗してて、普通に一体になった行政組織の姿も描けていない
・・・というのでは、大した期待は抱けません。

 大阪都構想の広域一元化は、裏返しで言うと「大阪府が、大阪市民の代表との調整無しで、大阪市民の市税を使えるようにすること」。
 でも、市民の利益との調整無しで、大阪市民に市税で府政の財政負担を強いるのは、あまり正当性がありません。


(論点3)特別区になると、住民の意思が反映されるようになるの?

 大阪都構想では「行政への住民の意思反映」を強調するのに、5年間に4度も研究会・協議会を行いながら、「住民の意思反映が可能な限界規模」も、「住民の意思反映ができているか」の指標も、一度も検討されたことはありません。

 なので客観的な議論はなく、感覚的議論が交わされますが、橋下氏自身、当初、50万人規模が限界と主張してたのに、協定書案で示されているのは、南区69万人、北区63万人、東区58万人です。

 身近というには巨大な特別区の協定書案は、「現状の大阪市より小さい」を「住民の意思が反映される」にすり替えて説明してるだけで、「市政に市民の声が届いていない」と思う市民に対して、「声が届かない」が解消されるように、設計などしていないのです。


(論点4)大阪市民だけが、市税を割いて余分に府財政を負担する

 大阪都構想実現後、特別区が市税の概ね4分の3、大阪府が「府税+概ね市税の4分の1」。
 特別区は、府県の仕事も担当して中核市に近いのに、市税を全部使える中核市に対して、特別区は市税の4分の3しか持ちません。
 特別区の自由な住民サービスに使える財源に至っては、現在より半減。

 大阪都構想の矛盾は、「大阪市が、広域行政の権限を持つべきではない」としながら、「大阪市民の単位で決めるからと市税で負担してきた財政負担を、大阪市民で決めるのを止めても、大阪市民に負担させ続ける」ことです。
 二重行政解消を謳いながら、大阪市民の広域行政経費の二重負担は、今より固定化します。

 大阪府が、大阪市域で、府県が行うべき仕事をするというのなら、大阪市民が支払っている府税で、行えばいいのです。
 大阪市民は、地方税の約半分(他の府民より多い)を府税として支払い、人口割合3割の大阪市地域が府税総額の約6割を支えるのですから。


(論点5)特別区の行政サービスは低下する

 大阪市の特別区への分割は、24店舗のスーパーマーケット会社の分社を例にすると分かりやすいです。「地元密着サービスの実現」をお題目に、4〜5店舗の5社に分社したら、店舗の外見は特に変わらなくても、仕入れや企画を担当する本部の分割は、大きく影響します。
 仕入れ規模が小さくなって価格交渉力が低下すれば、仕入原価が上がります。本部の人員が少なくなって、仕入れ規模も小さくなるのでは、産地直送の企画や、プライベートブランドの開発も難しくなるでしょう。

 大阪市を特別区に分割するなら、「今まで通りの機能維持に必要な人員・コスト」を試算して、事務削減や住民サービス廃止などで、どう埋め合わせるかの検討が必要ですが、そういう検討もしないまま、「特別区は今までと同じ財源額を持つので、住民サービスの低下はない」と繰り返すだけです。


(論点6)特別区のコスト試算は杜撰

 協定書案とセットで出された長期財政推計の年間差引効果額は229億円(平成45年度)の試算では、特別区への再編で47億円のコスト削減ができるとしています。
 この試算の重要なポイントとして、「(人件費を除き)コスト増は38億円で済む」があります。

 38億円のコスト増とは、システム、不足事務所スペース、議員報酬等の3項目の現行支出額約120億円が32%増になるという試算で、特別区が担当する(人件費を除く)年間歳出額1兆2千億円の大半を試算せずに「増減なし」としてしまっています。
 でも、システム、不足事務所スペース、議員報酬等の3項目以外でも、現実にはコスト増になるものは、無数に出てきます。

 特別区歳出額の1兆2千億円部分の大半について、分割後の運営経費をちゃんと試算しておらず、実際どんなコスト増が発生するのか全然分かっていないという点は、大阪市民にとって巨大なリスクです。
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 (論点1)〜(論点6)を通してみて、勿論、大阪都構想に反対です。
 メリットが判然とせず、言葉巧みに不平等な負担や特別区のコスト増のリスクを押し付けようとする提案に、賛成するのは無理です。

 (論点1)〜(論点3)でメリットの整理をする中で、大阪都構想の理念みたいなものには、否定的ではありません。
 「府市統合で行政の無駄が解消され、大きな統合効果が出る」のなら良いことですし、「広域行政一元化が、大阪を発展させる」のなら、それも良いことです。「特別区の設置によって、住民の意思が反映された、きめ細やかな行政が実現し、住民サービスが向上する」なら、大歓迎です。
 ただ、それらが実現されるようには、制度設計されていないのです。

 パンフレットの表紙には、素晴らしい利益になるという言葉が踊っていても、実際に設計にそれを裏付けるものはなく、不平等な契約規定や大きなリスクが、契約規定の細かな文字の中に潜り込ませてある。そんな投資案件が持ち込まれた感じです。

 橋下氏はバブル期の大阪市の失敗事業を、繰り返し批判します。でも、それらの失敗事業を繰り返さないように反省するのなら、現状の大阪都構想の協定書案のような杜撰な事業には、はっきり「ダメ!」と言うことが大事です。


【大阪都構想のまとめ記事】

大阪都構想って、こういうこと

論点1:二重行政の無駄解消って、どれくらい?
論点2:広域行政一元化で、大阪が成長するの?
論点3:特別区になると、住民の意思が反映されるようになるの?
論点4:大阪市民だけが、市税を割いて余分に府財政を負担する
論点5:特別区の行政サービスは低下する
論点6:特別区のコスト試算は杜撰

総論:大阪都構想のメリット・デメリットを見てみたら


過去記事の整理:大阪都構想の議論のかけら
〇橋下氏街頭演説 こういう大阪都構想の説明はいけないと思う・再び(ミニ版)
〇大阪都構想の「事業配分に沿った財源配分」が、大阪市民に損だと思う3つの理由
〇協定書の大阪都構想が出来が悪いのは、こんな所
〇橋下氏の「2200億円は、大阪市域外には流れない。特別会計で管理する。都区協議会がチェックする」に矛盾と思うこと
〇特別区の区議数を、現在の大阪市議と同じ86人にしたのは妥当か?
〇大阪都構想を知るには、協定書を読めばいいのか?

posted by 結 at 00:20| Comment(0) | 概要 | 更新情報をチェックする
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