2015年04月24日

(論点6)特別区のコスト試算は杜撰

 前回「(論点5)特別区の行政サービスは低下する」で、大阪市の基礎自治の仕事を、5つの特別区で分割して実施するのは、コスト増を引き起こすと整理しました。

 ところで「(論点1)二重行政の無駄解消って、どれくらい?」では、協定書案と併せて出された長期財政推計の平成45年度差引効果額229億円(17年間で2634億円と言われてる試算の最終年度額です)を次のように分類しました。
(この長期財政推計は、4月中旬から全戸配布したパンフレット「特別区設置協定書について」で、特別区の財政運営が十分に可能だと検証したとする「(12)各特別区の長期財政推計」の詳細版です)

01効果額分類の集計表.jpg

 この分類で言うと、特別区への分割・再編で85億円の効果額があり、分割によるコスト増38億円を差し引いても47億円の効果額がある(=コスト削減ができる)とされています。

 特別区への分割はコスト増のはずなのに、大阪都構想の試算の中では47億円のコスト削減ができることになっている。
 この違いが、どうして出てくるのかを、今回は整理します。


 効果額85億円を、長期財政推計の効果内訳(元データ 記事後段の表です)から大別すると、効果額85億円のうち、市政改革プランの改革効果額が18億円で、職員体制の再編(=職員数削減による効果額)が67億円です。

 市政改革プランの18億円は、プール、スポーツセンター、老人福祉センター、子育て活動支援拠点、教育相談事業のサテライト設置場所を(主に24ヶ所から)9ヶ所又は18ヶ所(特別区に1〜2ヶ所)に削減する効果額です。(元データ 記事後段の表です)
 「この効果額は、特別区への分割・再編効果ではない」という意見もあるでしょうし、特別区の数が8〜9区から5区になったことで、数字も変わるように思います。
 ただ、市政改革プランの18億円は、ここでの議論では重視しないので、この説明だけにします。

 この試算で重要なのは、次の2点です。
〇増えるはずの職員数を大幅削減して、67億円の効果額を生み出せるのか
〇コスト増は試算通り38億円で済むのか

 どちらも重要ですが、今回は「コスト増は試算通り38億円で済むのか」を採り上げます。

 コスト増試算の38億円の内訳は次の通りです。

02コスト内訳.jpg
財政シミュレーション(元データ 元サイト
長期財政推計(元データ 元サイト 合計分

 2014年1月時点のコスト増の試算52億円が、協定書をまとめた2014年7月時点で38億円になりました。
 この変更の主な理由は、次の2点です。
〇特別区の区役所庁舎のスペース不足対応を、民間ビルの賃貸から新築に切り替えました。新築時に現在民間ビルを借りている分も収容するので、民間ビル賃料は現在より減少するそうです。
〇区議総数を当初試算の243人から、現在の大阪市議と同じ86人にしました。(この点の疑義は、次の記事参照:特別区の区議数を、現在の大阪市議と同じ86人にしたのは妥当か?

 ざっくり言うと、システム、不足事務所スペース、議員報酬等の3項目についての当初の試算52億円を、民間ビル賃借を新築に切り替えるなどの見直しをしたのが、協定書時点のコスト増試算38億円です。

 そして、当初の52億円のコスト増試算は、算出根拠を辿ると、次のように試算されています。

(注)民間ビル賃借料の増が表で14億円が、下の説明は22億円だったり、長期財政推計のランニングコスト増って20億円と言われてるのに表では14.2億円だったり、数字のズレについてはコチラを参照ください。(参照:ランニングコストの資料間での差異の整理

〇システム運営経費 82億円→97億円(元データ 元サイト)15億円増 18%増
〇ビル賃料 20億円→42億円(元データ 元サイト)22億円増 110%増
(執務面積比較では、現有186,609uに対して不足70,757u)(元データ 元サイト)38%増

(「各特別区に新たに必要となる経費」の内訳)(元データ 元サイト
〇議員報酬 17億8900万円→34億8100万円 17億円増 95%増
〇各種行政委員会委員報酬 0円(記載なしなので)→6000万円

 これらを合計して考えると、(執務面積をビル賃料だけで考えたり、各種行政委員会委員報酬の現行を0円で置いたり)少し乱暴ですが、
現行支出額120億円→特別区分割後175億円(55億円増 46%増)
になっていることが分かります。

 だから、ざっくりと言ってしまうと、協定書時点のコスト増試算38億円も、現行支出額120億円に対する増加額なのです。(32%増)


(以下、厳密には一般財源額ベースと思いますが、ビル賃料やシステム運営費で、支払額=歳出額と一般財源額を特に区分していないと思うので、コスト増減の発生の元になる歳出額ベースで話をします。)

 大阪都構想で特別区のコスト増減の試算とは、特別区が担当する1兆3千億円部分の事務事業(元データ 元サイト)を、5つの特別区でそれぞれ再構築した時、5つの特別区の年間コスト額合計が1兆3千億円より、どれだけ多くなるか(または、少なくなるか)を確かめることです。

 ただ長期財政推計では、職員体制の再編効果(=職員数削減による増減額)と(その他の)再編コストは別項目で試算されていますから、(その他の)再編コストの試算は、(特別区等の)H26職員数12828人(元データ 元サイト)×800万円=1026億円を概ねの人件費部分として差し引いた、1兆2千億円部分のコスト増減の試算になります。


 協定書時点のコスト増試算38億円とは、試算対象の事務事業1兆2000億円が、1兆2038億円(0.3%増)になるということです。

 でも変じゃありませんか?
 試算3項目の現行支出額120億円に対して38億円は32%増なのに、なぜ全体では0.3%増になるのでしょう?

 試算対象の事務事業1兆2000億円に対して、試算3項目の現行支出額120億円は約1%です。残り99%を試算せずに「増減なし」としているため、試算3項目の32%増が、全体では0.3%増になるのです。

 でも、歳出額の大半を試算せずに「増減なし」とした結果って、1兆2千億円の事務事業を、5つの特別区でそれぞれ再構築して実施した時のコスト試算と言えるのでしょうか?
 前回「(論点5)特別区の行政サービスは低下する」で、よくある事務として、パンフレットを特別区毎に作成すると、デザイン料が5倍掛かったり、印刷単価が上がるから、コスト増になるよという例を挙げました。
 パンフレットの作成経費は、システム、不足事務所スペース、議員報酬等の3項目に含まれませんから、38億円のコスト増試算では「増減なし」にされていますが、現実にはコスト増になります。そして、歳出の大半を試算していないのですから、このパンフレットの作成経費のような例は、無数に挙がってきます。


 大阪都構想の統合効果が、大阪市の広域部分4千億円(元データ 元サイト)の大阪府への統合で生まれるのなら、大阪都構想のコスト増の多くは、大阪市の事務事業1兆3千億円部分を5つの特別区で分割することで発生します。
 試算した3項目は、52億円増、38億円増(ランニングコスト14億円増)のどの数字を使っても、数十%の増加です。

 特別区歳出額の1兆2千億円部分の大半について、「大阪市の基礎自治体事務を5つの特別区に分割した後の運営経費」をちゃんと試算しておらず、実際どんなコスト増が発生するのか全然分かっていないという点は、大阪市民にとって大きなリスクです。

 もし、年間1兆2千億円の歳出部分うちのたった1千億円、2千億円が、数十%のコスト増になるだけでも、平成45年度229億円効果額も、17年間で2634億円の累積効果額も簡単に吹き飛び、「黒字だぞ!」と誇らしく語る財政見通しは、簡単に大幅赤字に転落します。
 そして、試算していないコスト増は、身近な住民サービスの原資を削って負担することになるので、住民サービスへ大きく影響します。

 大阪市の歳出額1兆3千億円部分を、全市一体の運営から、5つの特別区へ分割し、それぞれ再構築して実施するというのは、巨大な変更です。
 それなのに、まともなコスト試算も示さず、市民に何を判断しろというのでしょうか?


(追記)
 「増えるはずの職員数を大幅削減して、67億円の効果額を生み出せるのか」の説明を割愛しました。
 職員を大幅削減できるとする試算には、大いに疑義がありますが、例え67億円の効果額が実現しても、上記記事の通り「1兆2千億円の一部分でも、コスト増が数十%になれば」簡単に吹っ飛んでしまいます。
 歳出全体をしっかりと試算することの方が、圧倒的に大事なのです。


【大阪都構想のまとめ記事】

大阪都構想って、こういうこと

論点1:二重行政の無駄解消って、どれくらい?
論点2:広域行政一元化で、大阪が成長するの?
論点3:特別区になると、住民の意思が反映されるようになるの?
論点4:大阪市民だけが、市税を割いて余分に府財政を負担する
論点5:特別区の行政サービスは低下する
論点6:特別区のコスト試算は杜撰

総論:大阪都構想のメリット・デメリットを見てみたら


過去記事の整理:大阪都構想の議論のかけら
〇橋下氏街頭演説 こういう大阪都構想の説明はいけないと思う・再び(ミニ版)
〇大阪都構想の「事業配分に沿った財源配分」が、大阪市民に損だと思う3つの理由
〇協定書の大阪都構想が出来が悪いのは、こんな所
〇橋下氏の「2200億円は、大阪市域外には流れない。特別会計で管理する。都区協議会がチェックする」に矛盾と思うこと
〇特別区の区議数を、現在の大阪市議と同じ86人にしたのは妥当か?
〇大阪都構想を知るには、協定書を読めばいいのか?

posted by 結 at 04:52| Comment(0) | 概要 | 更新情報をチェックする
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