2015年04月10日

(論点5)特別区の行政サービスは低下する

 特別区設置協議会に、知事・市長案として、大阪市の特別区への分割が機能低下に繋がることを示したことが、過去にありました。(元データ 元サイト
01生活保護検討の方向性.jpg

 「生活保護の本庁機能は、特別区の水平連携で、一体性を維持したまま移行することで、機能維持ができるのではないか」とするもので、裏返しにいうと「生活保護の本庁機能は、特別区ごとに分割移行すると、機能維持ができない」ということです。

 これは「大阪市の生活保護の本庁機能の解体は、勿体ないから、大阪府へ移管しろ」とする知事・市長案の一部として提案されたもので、特別区設置協議会で、特別区ごとの分割移行が決まった後は、一切語られなくなりましたが、「生活保護の本庁機能は、特別区ごとに分割移行すると、機能維持ができない」という事実は、変わりません。

 その時に示された生活保護の事務体制は、次のものです。(元データ 元サイト

02生活保護体制.jpg

 この中で、生活保護の本庁機能と呼ばれたのは、福祉局 生活福祉部 保護課の75人。
 予算や人員の確保をしたり、事務改善や制度変更への対応を検討したり、条例・規則の改正を行ったり、研修や広報を行ったり、現場が必要とする物品の調達や業務委託の発注、システム開発・運用・修正(の委託)などを行う75人を5つの特別区に分割配置して、ひとつの特別区15人で、75人で行ってきたのと全く同じ仕事をするのは、どう考えても無理です。

 生活保護を取り上げましたが、市役所・本庁の特別区への分割配置は、全体として同様の問題を抱えます。

 わたしはこの問題を説明する時、複数店舗を展開するスーパーマーケットの分社を例にします。
 24の中規模店舗を展開するスーパーマーケット会社を、「地元密着サービスの実現」をお題目に、4〜5店舗の5社に分社したら・・・というものです。
 店舗の外見は特に変わらないでしょう。でも、仕入れや企画を担当する本部機能の分割の影響は、大きいです。
 仕入れ規模が小さくなりますから、価格交渉力低下で、仕入原価が上がります。産地直送の企画や、プライベートブランドの開発も難しくなるでしょう。
 だからといって、店主が仕入れから販売まで一人で仕切り、市場の小規模な出物を集めてきて、お客さんにフェイス・ツー・フェイスでお勧めするようなマネが出来る訳ではありません。

 市役所・本庁の事務で、どのようにコストアップが発生するか、よくある事例として、市民向けの制度説明パンフレットの作成で見てみます。

(1)予算確保 毎年のものでも、予算の確保や予算の執行管理は必要です。
   →24区分でも(ひとつの特別区のエリアとなる)5区分でも事務量は変わらないので、特別区移行で5倍に

(2)原稿作成 前年の原稿をベースにするとして、制度変更点の修正や制度変更のお知らせ頁の作成、問合せの多い事項の説明強化などを行います。
   →24区分でも5区分でも事務量は変わらないので、特別区移行で5倍に

(3)発注事務 デザインや印刷の発注を行います。
   →24区分でも5区分でも事務量は変わらないので、特別区移行で5倍に

(4)デザイン委託 市民向けだと見易くするために、デザイン事務所へ委託します
   →24区分でも5区分でもデザイン料は変わらないので、特別区移行で委託経費は5倍に

(5)印刷発注 印刷を行います。
   →24区分が5区分になり、1発注の印刷部数が減少すると、印刷単価は上がります。特別区移行で印刷経費は上昇します

(6)校正 1文字の間違いも駄目ですから、徹底的な校正・確認を行います。
   →24区分でも5区分でも事務量は変わらないので、特別区移行で5倍に

 事務量も経費も、増える要素ばかりで、減る要素は見当たりません。
 このことは、事務改善・制度変更対応の企画・検討だったり、条例・規則の改正だったり、研修や物品調達、システム運用などでも、割と同じです。


 こういった大阪市を5つの特別区へ分割することによるコスト増の指摘に対し、「24区役所を5つの特別区の区役所へ集約するのだから、コスト増ではない」という反論があります。そうなのでしょうか?

 経費面で見ると、発注・購入・業務委託の大半は、区役所でなく市役所側で行われますから、集約というより、大半が発注や委託の分割です。(部分的には「変わらない」ものもありますが)全体としてはコスト増です。

 事務量的に見ると、市役所・本庁機能の分割は、(全く同じ仕事をするには)全部が5倍でなくても、数倍単位の増加を引き起こしがちです。

 これに対して、区役所の集約で、1区・月1000件の申請事務を10人で担当していたとして、5区分を1つの特別区に集約して月5000件を10人で処理など無理です。月5000件なら、基本は50人が必要になります。区役所・総務部門の集約化などで、多少の削減ができたとして、1割も集約効果がでれば上出来ではないでしょうか。(まして、24支所での窓口維持は、結構な増要素です)

 そして、特別区の職員数12000人のうち、元区役所の職員は5000人、市役所・本庁から分割配置が概ね4000人です。(参照:大阪市の本庁機能の分割を考える

 ひとつの特別区で平均すると職員数2400人で、元区役所の職員は1000人、市役所・本庁からの分割配置が800人。(だから、現在の区役所職員数分のスペースしか確保していない、現在の区役所の建物ではスペースが足りず、特別区移行で区役所庁舎の新築が必要になるのです)
 元区役所の職員の1000人から集約効果100人を出しても、市役所・本庁で元々4000人で担当していた仕事を、特別区で800人で行う穴埋めには、ほど遠いです。


 この結果、現状の大阪市と、大阪都構想実現後の特別区で、どういった差が出てくるかを把握するには、次の整理が必要です。
(1)今まで通りの機能維持に必要な人員・コストの試算
(2)人員増・コスト増を埋め合わせるための(例えば、研修の廃止や広報の廃止などの)事務削減をどうするか
(3)(2)で埋めきれない人員増・コスト増を、住民サービス廃止や他部門の事務削減で、どう埋め合わせるか

 でも、大阪都構想の協定書案で、こういった(1)〜(3)の整理・検討をしないまま、橋下氏は「特別区は今までと同じ財源額を持つので、住民サービスの低下はない」と繰り返すだけです。

 市役所・本庁の分割は、大阪都構想(というか自治体分割)の最も難しい部分で、この部分をしっかり、どのように解決するか整理した上で、提案するのでなければ、おかしいのですが・・・


【大阪都構想のまとめ記事】

大阪都構想って、こういうこと

論点1:二重行政の無駄解消って、どれくらい?
論点2:広域行政一元化で、大阪が成長するの?
論点3:特別区になると、住民の意思が反映されるようになるの?
論点4:大阪市民だけが、市税を割いて余分に府財政を負担する
論点5:特別区の行政サービスは低下する
論点6:特別区のコスト試算は杜撰

総論:大阪都構想のメリット・デメリットを見てみたら


過去記事の整理:大阪都構想の議論のかけら
〇橋下氏街頭演説 こういう大阪都構想の説明はいけないと思う・再び(ミニ版)
〇大阪都構想の「事業配分に沿った財源配分」が、大阪市民に損だと思う3つの理由
〇協定書の大阪都構想が出来が悪いのは、こんな所
〇橋下氏の「2200億円は、大阪市域外には流れない。特別会計で管理する。都区協議会がチェックする」に矛盾と思うこと
〇特別区の区議数を、現在の大阪市議と同じ86人にしたのは妥当か?
〇大阪都構想を知るには、協定書を読めばいいのか?

posted by 結 at 17:24| Comment(0) | 概要 | 更新情報をチェックする
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