まず、大阪都構想の目的だと主張されてるのは、主に次の3点と思います。
(1)大阪府と大阪市の二重行政を解消し、行政の無駄を無くす
(2)大阪府と大阪市の広域行政を、大阪府に一元化する
(3)巨大な大阪市を小さな自治体にして、首長と住民の距離を縮め、住民の意思が反映される自治体にする
次に、大阪都構想の制度としての説明を、一番シンプルにすると
〇「大阪市を廃止して、市町村の替わりとなる5つの特別区を設置する」
〇「大阪市の行っていた業務のうち、広域行政部分を大阪府に移管し、基礎自治体の事業(=広域行政部分とした以外の事業)を特別区が担当する」(基礎と広域の権限整理)
・・・の2つかな?と思います。
2番目の「基礎と広域の権限整理」をもう少し説明すると、大阪都構想は、特別区の住民となる大阪市民を(特にサービス面で)特別扱いする制度ではありません。
「政令市の大阪市が、府県の仕事までいっぱいしてるので、大阪市の仕事を、府県の仕事と、市町村・特別区の仕事に分けて、大阪府は府県の仕事を府下一律で行うんだ」という考え方の制度です。
5つの特別区を地域的に挙げると、次の通りです。


大阪府と特別区の業務の分担から、代表的なものをピックアップしてみます。
【大阪府】
都市計画・大学・高校・病院・国府道・下水道・消防・港湾・企業支援など
【特別区】
保健所・児童相談所・小中学校・幼稚園・保育所・ゴミ処理・国保・生活保護・地域振興・福祉・戸籍・住民票などなど(府へ移行されなかった市民サービス全部)
特別区の業務分担は、概ね中核市並みと説明されています。ただ、政令市の権限も残ってたり、一般市の大事な権限もなかったり、結構ズレがあります。
ここまでの説明だけなら、「大阪都構想」なんて言わなくても、大阪市を分市で5つの中核市にして、政令市の権限を大阪府へ移管すると、大体、同じになります。
--------------------------- 補足説明開始 ---------------------------(追記 2015.07.12)
大阪都構想を説明する時、「5つの特別区では、それぞれ、区長を選挙で選ぶことができるようになり、区議会も設置され、特別区それぞれで、予算の使い方を決めたり、条例を定めたり、できるようになる」と、何か特別なことができるように説明されます。
でも、大阪市を分市して、5つの中核市にするなら、分市後のそれぞれの市で、市長や市議を選挙で選び、それぞれの市で予算の使い方を決めたり、条例を定めたり、できるのは、当たり前です。
特別区は、大阪市廃止後の大阪市民の「市町村の替わり」になるものですから、「市長・市議」が「区長・区議」という呼び方になるだけで、区長(=市長)や区議(=市議)を選挙で選び、それぞれの特別区(=市のようなもの)で、予算の使い方を決めたり、条例を定めたりするのは、当たり前なのです。
--------------------------- 補足説明終了 ---------------------------
では、「大阪市を5つの中核市に分市」と大阪都構想って、一体何が違うのでしょうか?
それは、大阪市を廃止して設置する「特別区」っていうのが、普通の市町村とかなり違うものなのです。
特別区が、普通の市町村とどのように違うかを理解するのが、「大阪都構想がどういうものか」を理解する一つのキーワードになります。
普通の市町村と特別区の違いを端的に言うと、特別区は、大阪府の影響をとても受け易いのです。
大阪府に対して、守口市は独立した自治体です。会社に例えると、大阪府という会社と、守口市という会社があって、取引関係はあっても別会社。
守口市は、大阪府の下部組織ではないし、大阪府が、守口市民の支払った市税のうち、どれだけを守口市に与えるかみたいな、関与はできないのです。
これに対して、特別区は大阪府の子会社みたいなもので、会社としての体裁はあっても、親会社からの影響を受け易い立場にあります。
ちなみに、現在の大阪市の24区(=行政区)は大阪市の内部組織で、例えば北区役所は、大阪市役所の一部署です。会社に例えるなら、大阪市役所北支店。支店をいくつ合併しても、支店は支店だし、支店長は社長にはなりません。
大阪市の内部組織の24区(=行政区)と、市町村の替わりである特別区は、全くの別物です。
さて、特別区は、どんな風に大阪府の影響を受け易いのでしょうか?
まず「権限」についてです。
特別区の話の前に、まず、普通の市町村の話です。
府県の権限と市町村の権限(=担当する業務範囲)は、法律で決められています。
普通に市の権限だけを持つ「一般市」に対して、政令市、中核市、特例市は、それぞれの市域で、一般の市の権限(=担当する業務)に加えて、府県の権限の一部を担当します。

それぞれの市の権限(=担当する業務)は、法律で決まっていることなので、大阪府が変えることはできません。
特別区の場合、法律で決まっている権限(=担当する業務)は、一般市より小さいです。
ただ、大阪都構想の場合、特別区に、大阪府の権限(=担当する業務)を大阪府の条例で委任して、中核市並みの権限を与える(=中核市並みの業務を担当させる)としています。

中核市などの権限(=担当する業務範囲)は法律で決まっているので、大阪府が変えることはできませんが、特別区の権限(=担当する業務範囲)は、大阪府の条例で決めるので、大阪府が(勝手には無理としても)変えることができます。
ですから、大阪都構想に反対の方からは「特別区の権限は不安定」と指摘を受けます。
次に「財源」についてです。
特別区の話の前に、まず、普通の市町村の話です。
政令市、中核市などの権限(=担当する業務範囲)と、府税・市税の配分を並べてみました。

政令市、中核市、特例市は、府県の業務の一部を担当するのに、府税(の一部)は移管されてなくて、市税を府県の業務の財源に充てます。
このことについて、法定協議会の前身の協議会で、橋下市長が端的な指摘をしています。
「大阪市民は、市役所を通じて広域のことを決めようとするから、市税で負担することになるんだ。大阪市民は、府税も払っているからダブル負担だ。市役所を通じて、口出ししようとするから、責任も負わなきゃいけないことになる」(要約済みです。参照:大阪市民の単位で何も決められないのに、大阪市民の市財源で負担するのはおかしい)
言い方は、ともかくとして、そういうことなんだと思います。
わたしは余り納得できないのですが、政令市(その小規模版の中核市、特例市も同じ)が府県の権限を、自分たちで決めたかったら、府税の移管はしないから、(本来、身近な行政のための財源である)市税の一部を割いて、やってねという仕組みです。(国からの地方交付税が、多少補填してくれますが)
普通の市の場合、市税と府税の流れは、こんな風で、シンプルそのものです。

これに対して、特別区の財源の仕組みは、かなり複雑です。

複雑になってるのは、市税の一部と特別区の地方交付税が一度大阪府に集められて、大阪府から特別区へ交付する流れになるからです。特別区へ交付しなかった分は大阪府の財源になります。
〇特別区が、大阪府を経由せず、直接に市民から受け取るのは市税は約4分の1です。(大阪府からの交付金に依存するので、影響を受け易いのです)
〇財政調整後、特別区の財源となるのは、市税(市財源)の約4分の3。大阪府の財源となるのが約4分の1。
(注)特別区設置協定書には、財源配分の割合は、知事と市長が協議して決めるとするだけで、明記されていません。説明の配分割合は、法定協議会の資料に、見通しとして示されている数字を使用しています。
こういう複雑な財源配分の仕組みを採るのは、
〇特別区間で財政格差があるため、財政調整をして、財政格差を無くすため
〇調整財源など、市財源(市税や特別区の地方交付税)の一定割合を大阪府の会計に繰り入れるのは、大阪市から広域行政の事務と財源をセットで移管するため
・・・だとしています。
この結果、政令市である大阪市の業務範囲から、特別区は中核市並みへと業務範囲が縮小し、府税と市税の配分は、特別区が市税の概ね4分の3、大阪府が「府税+概ね市税の4分の1」になりました。

特別区は市の業務に加えて府県の業務の一部も担当し、中核市に近い業務を担当するのに、市税の4分の3しか持たない結果になってて、何かヘンです。
特例市や一般市と比べると、特別区は特例市や一般市より多くの仕事を担当するのに、特例市や一般市と同じに市税を持たない結果で、何ともヘンです。
大阪都構想に反対の方からは「特別区は、普通に市町村が持つ財源も与えられなくて、村以下」とします。
大阪都構想に賛成の方からの説明は「(大阪市民はいっぱい市税を払うから、例え大阪府が4分の1抜いても)特別区は中核市並みの財源『額』が与えられる」となるようです。
簡単にメリット・デメリットを並べてみましょう。
【メリット】
〇二重行政の無駄が解消される(と主張されている)
〇大阪府が一元的に広域行政を行うことで、大阪が成長する(と主張されている)
〇自治体運営に住民の意思が反映され、地域ニーズを反映したきめ細やかな住民サービスができる(と主張されている)
【デメリット】
〇大阪市民にとって、市町村(=現在の大阪市)の替わりとなる特別区が、(特に財政的に)大阪府から独立しておらず、影響を受け易い。
〇(大阪市民以外の府民は、そんな負担しないのに)大阪市民だけが、(府税に加えて)市税の一部を割いて余分に大阪府の財政を負担する、不公平な制度になる。
〇大阪市一体で行っている事務を、5つの特別区で分割して実施することになるため、スケールメリットが失われ、毎年の行政コストの増加や、専門性の低下による行政レベルの低下が予想される。
(示されてる試算では、大阪市一体の事務を、5つの特別区で分割して実施すると、毎年の行政コストが下がり、今まで通りの財源で黒字が出るとされてますが、試算の内容を詳しく見ると、色々とヘンなところが・・・)
ちなみに、大阪都構想というのは、大阪市の年間1兆7千億円の歳出額のうち、4千億円部分を大阪府と統合し、1兆3千億円部分を5つの特別区に分割するものです。
4千億円部分を統合する統合効果と、1兆3千億円部分を5分割するコスト増のどちらが大きいかなんて、それほど議論が要る話とは思わないのですが。
その他にも、初期費用が巨大だとか、一部事務組合に問題があるよとか、財政難の大阪府の影響を特別区が受けたりしないの?とか、色々と指摘を受けてることはありますが、割愛します。
メリット・デメリットを箇条書きで挙げてみましたが、例えば、メリットで挙げてる内容って、現在の制度設計で、お題目通りに効果が本当に出てくるの?みたいに、色々と追加で知って置きたい話がいっぱいあります。
次回以降、そういった論点の整理を、一項目ずつしていきます。
論点1:二重行政の無駄解消って、どれくらい?
論点2:広域行政一元化で、大阪が成長するの?
論点3:特別区になると、住民の意思が反映されるようになるの?
論点4:大阪市民だけが、市税を割いて余分に府財政を負担する
論点5:特別区の行政サービスは低下する
論点6:特別区のコスト試算は杜撰
総論:大阪都構想のメリット・デメリットを見てみたら
過去記事の整理:大阪都構想の議論のかけら
〇橋下氏街頭演説 こういう大阪都構想の説明はいけないと思う・再び(ミニ版)
〇大阪都構想の「事業配分に沿った財源配分」が、大阪市民に損だと思う3つの理由
〇協定書の大阪都構想が出来が悪いのは、こんな所
〇橋下氏の「2200億円は、大阪市域外には流れない。特別会計で管理する。都区協議会がチェックする」に矛盾と思うこと
〇特別区の区議数を、現在の大阪市議と同じ86人にしたのは妥当か?
〇大阪都構想を知るには、協定書を読めばいいのか?