2014年7月23日の第17回特別区設置協議会(=法定協議会)で、大阪都構想の協定書(案)(元サイト)が示されました。
橋下市長ら維新サイドが、強引に他会派を排除して多数を握って作成した協定書(案)として、その正当性については物議を醸しています。
でも、橋下市長らが「設計図だけでも示させて」と主張した、大阪都構想の設計図とやらが、この協定書(案)であることは間違いないので、当ブログでは作成の経過より、その内容に着目です。
このブログでは、「大阪市の市町村財源が特別区と大阪府にどのように配分されるか?」や「大阪市を5つの特別区に分割することで、コスト増がどうなるか?」に特に注目しているので、協定書(案)でも、まず見てみたいのは、税源配分・財源調整の部分です。
まず、確認のポイントです。
協定書(案)以前に、パッケージ案で示していた大阪都構想案に、主に次の理由で賛同しません。
〇大阪市を特別区に分割することで発生するコスト増の試算を、歳出の大半に対して行わず、「試算していない」=「コスト増がない」と決め付けられていること。(特別区への分割による行政コスト増加・行政レベル低下の大半が無視されている)
〇本来、府税で負うべき広域行政経費を、政令市である大阪市では、大阪市民の単位で決めるからと、府税に加えて市税でも負担しているのに、大阪都構想は、大阪市民の単位で決めるのを止め、他の府民と同じように大阪府から行政サービスを受けることにするとしながら、コスト負担は、大阪市民だけが府税に加えて市税でも余分に負担を続ける、不公平な制度だから。
それでもパッケージ案で示されていた「大阪市の事業の配分に沿って、財源を配分する」が、協定書の文章の中で、どのようになっているか、確認することは、大切です。
大阪市民の身近な住民サービスの財源が確保されるか確認しようとすると、ポイントは次になります。
〇特別区担当業務の今までの所要財源を、(大阪府側の意向に関わらず)確実に保証するものとなっているか
〇府移管業務の今までの所要財源を超える負担を大阪市民に求めないよう、きちんと制限されているか
なお、協定書(案)を短期でまとめるため、国との協議が必要な法令改正をほとんど求めず、東京都に適用されている法令のままで、大阪都構想を行うとしました。
そのため、協定書(案)の文案以前に、主に次の2点がパッケージ案と大きく違っています。(その他、都市計画の事務分担など、様々に変更点があります。)
〇財政調整の調整財源を、パッケージ案では「法人市民税、固定資産税、特別土地保有税」の3税に加えて地方交付税としていましたが、協定書(案)では「法人市民税、固定資産税、特別土地保有税」の3税のみになりました。
〇(一般市以下とされる)東京都の特別区の事務分担に対し、大阪都構想では特別区は中核市並みの事務を担当するとされます。パッケージ案では、事務分担を法令で規程するとしていましたが、協定書(案)では、法令上は東京都の特別区の事務分担のままで、それ以上に特別区に事務分担させるものは、大阪府条例で移管するとなりました。
では、ここから、協定書(案)の内容を見ていくことにします。
協定書(案)の税源配分・財政調整の部分は、次の通りです。
(元データ、元サイト 資3-P09)
--------------------------- 引用開始 ---------------------------
五 特別区と大阪府の税源の配分及び財政の調整(第5条第1項第6号関係)
1 特別区と大阪府の税源の配分
大阪府の税源は、地方税法(昭和25年法律第226号)に定める道府県税及び都の特例により課するものとされている市町村税に相当する税目(法人市町村民税、固定資産税、特別土地保有税、都市計画税、事業所税)とし、特別区の税源は上記を除く市町村税に相当する税目(個人市町村民税、市町村たばこ税、軽自動車税等)とする。
なお、それぞれの税目の取扱いについては、地方税法に定めるところによるほか、大阪府及び大阪市の条例の例によるものとする。
2 特別区と大阪府の財政の調整
(一)財政調整の目的・財源及び配分の割合
大阪府は、地方自治法第282条の規定により、大阪府と特別区及び特別区相互間の財源の均衡化を図り、並びに特別区の行政の自主的かつ計画的な運営を確保するため、法人市町村民税、固定資産税及び特別土地保有税を財政調整財源とし、これらの収入額に大阪府の条例で定める割合を乗じて得た額を特別区財政調整交付金として特別区に交付するものとする。なお、同交付金が目的を達成するための額ための額を下回るおそれがある場合には、条例で定める額を加算するものとする。
大阪府の条例で定める特別区財政調整交付金の割合については、特別区の設置の日までの地方財政制度の動向も確認した上で大阪府知事と大阪市長で調整することとする。
特別区の設置後3年間は毎年、その後は概ね3年毎に、大阪府・特別区協議会(仮称)において検証を行う。また、この割合は、税制改正など地方財政制度に大きな変更があった場合には適宜検証するものとする。
(二)特別区財政調整交付金の種類・割合
特別区財政調整交付金は、普通交付金(地方交付税(昭和25年法律第211号)の規定による算定方法に概ね準ずる算定方法による配分を基本とし、生活保護費など義務度の強いものは実態に応じて算定。標準税等の算入率は85%とする。)と特別交付金(普通交付金の額の算定期日後に生じた災害等のため特別の財政需要があり、又は財政収入の減少があることその他特別の事情があると認められる場合に、当該事情を考慮して配分。ただし、特別区の設置後概ね3年間は、特別区における行政サービスの継続性や安定性に重点をおいて配分。)とし、普通交付金は財政調整交付金総額の94%、特別交付金は同額の6%とする。
(三)特別区財政調整交付金に加算する額
特別区財政調整交付金に大阪府の条例で定めて加算する額は、当面、地方交付税を財源とする財政運営が不可避である点を鑑み、地方交付税や臨時財政対策債の発行可能額、公債費負担等を勘案したものとする。
(四)大阪市債の償還にかかる財政調整財源の負担
特別区の設置の日前において発行済みの大阪市債(以下「既発債」という。)の償還に必要な経費(特定財源を充当するものは除く。)として、特別区が負担する額は、特別区財政調整交付金の交付を通じて財源保障を行う。大阪府が負担する額については、税源配分並びに大阪府及び特別区間の財政調整を通じて財源を確保する。
(五)都市計画税・事業所税の取扱い
大阪府が課す目的税である都市計画税、事業所税については、大阪市の過去の事業への充当実績を勘案し、大阪府と特別区の双方の事業に充当することとし、交付金により特別区に配分するものとする。
(六)特別区の設置後の財政の調整に関する取扱い
大阪府は特別区の財政運営が円滑に行われるよう、特別区財政調整交付金の交付のほか、必要に応じて、大阪府に継承される財政調整基金を活用し、特別区に対して貸付を行うものとする。
その他財政の調整に関し、大阪府と特別区で調整が必要なものについては、大阪府・特別区協議会(仮称)で協議することとする。
--------------------------- 引用終了 ---------------------------
なんか、長ったらしいのに、意味不明です。
例えば、2(一)で財政調整交付金の普通交付金は「地方交付税の規定による算定方法に概ね準ずる算定方法による配分を基本とし、(中略)算定」としていますが、「概ね準ずる算定方法」って、どうするってことなんでしょうか?
また例えば、2(三)の「特別区財政調整交付金に大阪府の条例で定めて加算する額は、(中略)地方交付税や臨時財政対策債の発行可能額、公債費負担等を勘案したものとする」としていますが、「勘案したものとする」って、どうすることなんでしょうか?
この協定書(案)の文面では、府と特別区の財源配分・財政調整が一意に決まるように思えません。
まして、「特別区財政調整交付金の割合については、特別区の設置の日までの地方財政制度の動向も確認した上で大阪府知事と大阪市長で調整することとする」として、何も決めていませんし。
協定書(案)の文面から、府と特別区の財源配分・財政調整が一意に決まらないなら、当然財政シミュレーションも無理なはずですが、なぜか財政シミュレーション(元データ)が示されています。
どうやって、財政シミュレーションができるのか、その前提条件(元データ、協0401-P35)を見ていくと、財政調整の説明として「法人市町村民税、固定資産税、特別土地保有税、地方交付税(臨時財政対策債を含む)をH24年度決算に基づく試算数値(大阪府23%、特別区77%)で、大阪府と特別区へ配分」と書かれています。
H24年度決算の数値を使うというのは良いとして、「この協定書の文面から、どうやって試算したんだぁ!」というのが、まるまる飛んでしまっていますし、それより何より「地方交付税(臨時財政対策債を含む)が、なぜ調整財源に含まれているんだぁ!」(協定書文面では、調整財源は「法人市町村民税、固定資産税及び特別土地保有税」とされていて、地方交付税は含まれていません。)という、何とも、おかしな前提条件となっています。
まことしやかに「協定書(案)に基づく財政シミュレーション」だと報道されていますが、調整財源が一致していないことからも、協定書(案)に基づいて財政シミュレーションが作られていないことは明らかです。
協定書(案)と財政シミュレーションを繋ぐ情報は、協定書(案)の別紙・別表関係には見当たりません。
かろうじて、それらしい説明をしている資料が、協定書(案)をまとめた第17回特別区設置協議会資料ではなく、第16回資料の中にありました。

(元データ 元サイト 04-P2)
要するに、調整財源を3税+地方交付税にするのは、法改正が必要になってできないので、3税×配分割合で計算した調整交付金に、「地方交付税×配分割合」で算定した額を「条例で定める額」として加算することで同じ結果にするということのようです。
この資料の「財政調整交付金に加算する額の算定方法」を前提に、「3税+地方交付税を調整財源とした交付金」と「3税を調整財源とした交付金に条例で定める額を加算」は一致するとして、財政シミュレーションはパッケージ案の「3税+地方交付税を調整財源とした交付金」の方で行い、協定書(案)は「3税を調整財源とした交付金に条例で定める額を加算する」としたということなのかと思います。
ただ、残念なことには「財政調整交付金に加算する額の算定方法」の資料に挙げた「条例で定める額は、パッケージ案と同様の算定となるよう、地方交付税×配分率により算定した額とする」の部分が協定書(案)に無いなどのため、協定書(案)の文面からは、「3税+地方交付税を調整財源」とした財政シミュレーションは出てきません。
では本題に戻って、協定書(案)の文面で、特別区の財源保証として機能するか、疑問に思う点を挙げてみます。
〇協定書(案)の文面で、財政調整として大事な点は、2(一)で財政調整交付金の普通交付金は「地方交付税の規定による算定方法に概ね準ずる算定方法による配分を基本とし、(中略)算定」としている部分です。ここしか、財政調整について客観的指標になる記述がないからです。
それなのに、肝心な点が曖昧です。「地方交付税の規定による算定方法に『概ね準ずる』算定方法による配分を『基本とし』、(中略)算定」では、結局、どういう算定方法をするのか、一意に決まらないのです。
協定書として、財源調整を一意に決めるようにするなら、「次に挙げる点を除き、地方交付税の規定により算定する。」とし、地方交付税の規定と異なる点を限定列挙する方法を採れば、いくらでもできます。(というか、協定書なら、例外事項を限定列挙する方が当然に思います。)
そして一意に決まらないというのは、協定書(案)が財源保証として機能しないということです。
例えば「大阪府の財政難により、歳出全体の10%削減を行うので、財政調整交付金の算定基礎とする基準財政需要額も、同様の削減を行って算定する」みたいな無理な要求が来た時に、「それは協定書に違反する」と特別区が拒否できるのが協定書の存在意義ですが、「協定書はあくまで、『概ね準ずることを基本とする』としているだけで『地方交付税の算定方法を遵守する』などと決めていない。10%削減でも協定書違反ではない」という話になるのでは、協定書の意味がありません。
〇協定書(案)は、財政調整交付金で不足する部分を、財政調整交付金に府条例で加算する額で補完するという構成です。
文面からは読み取り難いですが、この「加算する額」とは、地方交付税の市町村分の一部を特別区に配分するというだけです。協定書(案)の文面では、大阪府が任意の交付金を特別区に与えるかのようにすり替わっていますが。
協定書(案)の文面として大事な点は「同交付金が目的を達成するための額を下回るおそれがある場合には、条例で定める額を加算するものとする。」の部分です。
一般的な解釈は「地方交付税の算定方法で必要とされる財政調整交付金の金額に、調整財源が足りない時、その不足分を加算額で補填する」になると思います。
(何か府の財源で凄く優遇してるように聞こえるかもしれませんが、大阪府も大阪市も、一般の税収だけでは財源が足りないから地方交付税を受け取っています。「地方交付税無しで財源が足りない時には、国から受け取った大阪市分の地方交付税の一部を加算額として配分するよ」と言ってるだけです。)
ところが、その一般的な解釈を「同交付金が目的を達成するための額を下回るおそれがある場合には、条例で定める額を加算するものとする。」という文面は、保証しません。
まずこの文面の「目的を達成するための額」とは、何を指すのでしょう?
一般的な解釈では「地方交付税の算定方法で必要とされる財政調整交付金の金額」を指すと思いますが、別に「そうだ」とは何処にも書いていません。
肝心な「目的を達成するための額」が何を指すかが、全く定義されていないので、後になって「『目的を達成するための額』とは、大阪府が決めた目標額だ」と言い出せば、どんな金額でも良いことになってしまいます。
また、協定書(案)文面の「下回るおそれがある場合には、条例で定める額を加算するものとするものとする」の部分も凶悪です。
一般にここは「下回るおそれがある場合には、目的額と財政調整交付金との差額を加算するものとする」とする部分です。それを「条例で定める額を加算」とすることで、加算する額は、大阪府が自由に決めていいことになってしまいます。
また、財政調整交付金の配分割合については、大阪府・特別区協議会において検証を行うとされていますが、「加算する額」は協議事項だと明記されていません。
「加算する額」は特別区に配分される調整交付金の総額を決める、とても大事なものですが、「あくまで大阪府が府条例で決定するものであって、特別区との協議事項や調整事項ではない」と言い張れば、特別区はその決定に、協議すらできません。
結局、協定書(案)のこの文面では、加算額の決定は、大阪府側の裁量に強く依存し、地方交付税無しでは不足する財源を、府条例による加算額で補完するなど、保証されていないのです。
〇協定書(案)文面2(二)の「標準税等の算入率は85%とする。」の部分も大切です。裏返して読むと「標準税等の15%を裁量経費(自主的に使途を決められる財源)にする」という意味だからです。
前回記事「先ずはパッケージ案での税源配分・財源調整」の中でも見ましたが、個人市民税など特別区の独自財源のうちの裁量経費部分は、321億円(H23年度)でしかありません。
だから調整財源である法人市民税・固定資産税の15%部分591億円(H23年度)が配分されるかは、とても大事なのですが、協定書(案)の文面を読む限り、配分は無さそうです。(現在の大阪市を含め、一般の市町村では、個人自民税など独自財源に加え、法人市民税、固定資産税についても、「25%」部分を裁量経費として持つのは当然です。)
法人市民税・固定資産税は調整財源ですから、配分に関する部分で15%部分を配分すると明記しない限り配分されることはありません。そして、そんな記述はないのです。
裁量経費が乏しいというのは、「特別区単位で住民サービスの選択」どころか、独自の住民サービスが厳しく限定されるということです。
協定書(案)の文面から、特に気になる点をいくつか挙げてみました。他にもいくらもありますが、書くのはこの程度にさせてください。
一般に協定書の文面をまとめる作業は、大変です。
双方の担当者が、曖昧になる点を潰してリスクを排除し、権利部分を明確に確定していく作業だからです。明確化する過程で、双方の利益・不利益は相反しますから、ぎりぎりの折衝を行うことになります。
この協定書(案)が、そのようにして、まとめられた文面でないことは一目で分かります。大阪府側の立場で、それらしく、好き勝手に書き散らかしただけです。だから、特別区側の立場で十分な権利保証されてるかとして読むと、ボロボロになるのです。
実は、協定書(案)の財政調整として大事な点である「普通交付金(地方交付税(昭和25年法律第211号)の規定による算定方法に概ね準ずる算定方法による配分を基本とし、生活保護費など義務度の強いものは実態に応じて算定。)」の部分も、この算定方法による配分割合と、掛け離れた配分割合にされる可能性があると考えています。
パッケージ案で、調整財源に法人市民税・固定資産税・特別土地保有税の3税に、地方交付税を加える必要性を、次のように説明しています。(元データ、元サイト パ04-P14)
「(前略)特別区の財政調整に必要な財源が3836億円であるのに対し、普通税三税(法人市町村民税・固定資産税・特別土地保有税)は3939億円であり、普通税三税だけでは財政調整財源を安定的にカバーできるとは言えない状況」
つまり、平成23年度試算では3税だけでは安定的に財政調整するには足りないとするのですが、3税だけでも配分率97.4%で財源調整ができ、協定書(案)でいう加算額は必要ないことになります。
ところが、先に見た「特別区財政調整交付金に加算する額の算定方法」の資料では、(市町村分の)臨時財政対策債は特別区で発行する(方向で検討)としています。(元データ、元サイト P02)
地方交付税を全額、特別区に配分をする訳でもないのに、臨時財政対策債の発行だけ、特別区に押し付けるというのは、何とも手前勝手な話ですが、そういうつもりだということです。
ところで、試算に使用している平成23年度の臨時財政対策債は861億円です。
例え97.4%であっても、3税だけで配分できてしまうと臨時財政対策債を特別区に押し付けることができなくなってしまうのです。
もしパッケージ案と同じ、3税と地方交付税の配分率を同じにしたとして、平成23年度試算では、地方交付税1088億円、配分率76%です。地方交付税の配分額は827億円で、まだ臨時財政対策債の発行額861億円に足りません。同率ではまだ、安定的に臨時財政対策債を特別区に押し付けることができないのです。
つまり、安定的に臨時財政対策債を特別区に押し付けるためには、3税だけで配分率の決定を行い、不足分だけ加算額(市町村分の地方交付税の一部配分)にするのでは無理なのです。
これを解決する方法として、2つの方法が考えられます。
(1)臨時財政対策債の発行額を、「地方交付税の規定による算定方法に概ね準ずる算定方法による配分」の段階で、基準財政需要額から除いてしまう方法。
スマートに全額を特別区に押し付けられますが、「特別区財政調整交付金に加算する額の算定方法」の資料(元データ P02)の「国との調整等を踏まえた算定式」を採ることができません。
(2)調整財源の配分割合を、3税だけで財政調整交付金を交付する場合の配分割合よりも、ずっと低い配分割合にしておき、多額に発生する不足額を加算額で補う方法。配分率を低くして加算額を大きくすれば、臨時財政対策債を特別区に押し付けるのに、支障は無くなります。
実際、財政調整交付金の算定方法は協定書(案)の文面にありますが、調整財源の配分割合は「大阪府の条例で定めた割合を乗じて得た額を特別区財政調整交付金として特別区に交付するものとする」としているだけで、「算定額を満たすように配分割合を決定する」とは、どこにも書いていませんから、「協定書(案)に反する」とさえ、言えません。
この場合、「財政調整交付金の割合は、特別区設置の日までに大阪府知事と大阪市長で調整する」で、初めて配分割合が示されることになると思うので、その数字を見て驚いてください。
市議会では、低過ぎる配分割合にブーイングが起きるかもしれませんが、配分割合は「大阪府知事と大阪市長で調整する」ですから、一切口出しできません。「配分割合は低いが、その分はしっかりと『加算する額』で補うと約束しているので、何も問題ない」で押し切られて終わりでしょう。
ただし、上でも記した通り、加算額は大阪府の裁量に寄る部分が大きいですから、特別区は(財政自主権を持った)自治体というよりも、大阪府から与えられる交付金で財政運営を行う、大阪府の下部組織の色彩がかなり強くなると思われます。
ここまでの話の整理です。
〇「特別区担当業務の今までの所要財源を、(大阪府側の意向に関わらず)確実に保証するものとなっているか」というと、財源保証をするべき肝心な部分の表現が曖昧で、財源保証になっていません。
まして「府移管業務の今までの所要財源を超える負担を大阪市民に求めないように制限」などされておらず、特別区への財政調整交付金や加算額を締め上げれば、「大阪市からの府移管業務に必要な財源」と関係なく、大阪市民の市町村財源を府に吸い上げられます。
「明確には書かれていないが、協定書(案)のここの文章は、こういう意味だから、そういうことも含まれていて大丈夫」とか「協定書(案)の文面には明記されてないけど、運用でしっかり特別区の財源を確保していくから大丈夫」という言い訳が想像できますが、それならば、明記されていない意味・解釈や「運用でするんだ」の内容を、協定書(案)に書かないのがヘンです。そのための協定書なんですから。
書かれていないことをアテにしろというのは、白紙委任を求めているのと同じです。
〇パッケージ案では「大阪市の事業の配分に沿って、財源を配分する」としていましたが、協定書(案)の文面では、表面上だけで見ても、特別区は「概ね基準財政需要額+(調整財源を除く)税収等の15%」という、普通の市町村より、かなり貧相な財源しか持たない自治体の姿にすり替わりました。
--------------------------- 計算比較 ---------------------------
前回記事でみた、パッケージ案で使用された平成23年度数値を使って、一般の市町村と特別区の財源をざっくりと比較してみます。
個人市民税等(個人市民税、市たばこ税、軽自動車税、税交付金等)2074億円
固定資産税等(法人市民税+固定資産税。ただし法人市民税の超過課税分を除く)3801億円
都市計画税 572億円
(一般の市町村)
裁量経費(市町村や特別区の裁量で使途を決められる財源)
=(個人市民税等2074億円+固定資産税等3801億円)×25%+都市計画税572億円
=2040億円
基準財政需要額+裁量経費2040億円
(大阪都構想の特別区)
裁量経費(市町村や特別区の裁量で使途を決められる財源)
=個人市民税等2074億円×15%+都市計画税313億円(元データ、元サイト パ04-P21)
=624億円
「概ね」基準財政需要額+裁量経費624億円
--------------------------- 計算比較 ---------------------------
更に、特別区の財源の総額は、最終的には、大阪府による加算額で決まります。
特別区財源に占める加算額の割合は不明ですが、臨時財政対策債を特別区に押し付けようとしていると考えると、特別区にとって無視できるような額にはならないでしょう。
加算額の決定は、大阪府の裁量が大きいので、運用次第で特別区は「貧相な財源しか持たない自治体」というよりも、大阪府から与えられる交付金で財政運営を行う、大阪府の下部組織的なものに堕してしまいそうです。
〇協定書(案)がパッケージ案から、大きく変質してしまったなと思うのは、税源配分・財政調整について「大阪市の事業の配分に沿って、財源を配分する」という文言が無いことです。
「パッケージ案で示されていた『大阪市の事業の配分に沿って、財源を配分する』は、『概ね基準財政需要額+(調整財源を除く)税収等の15%』と一致する」という主張もありそうですが、これはパッケージ案試算の時点で、一定の方法で試算すると、たまたまそうなったとしているだけです。
協定書(案)の文面は、しつこい程に「検証」を謳い、状況の変化による見直しを示唆しています。
でも、「大阪市の事業の配分に沿って、財源を配分する」という文言はどこにもなく、状況や運用の変化で「大阪市の事業の配分に沿って、財源を配分する」と「『概ね』基準財政需要額+(調整財源を除く)税収等の15%」が乖離することに対する是正について、直接の言及はありません。
もし「大阪市の事業の配分に沿って、財源を配分する」を本当に大切にして税源配分・財政調整を考えるなら、
「大阪市から大阪府への移管事業に必要な財源額を、大阪府・特別区協議会において確認し、府移管事業所要額分を留保するものとして調整財源及び地方交付税(市町村分)の配分割合を決定する」
・・・といった方法だって、ちゃんとあるというのに。
〇協定書(案)には、「各特別区の長期財政推計〔粗い試算〕」(元データ、元サイト)が添えられていますが、協定書(案)の税源配分・財政調整の文面に沿って作成されたものではありません。
協定書(案)を前提としながら、「特定の財政運営」を行えば、この財政シミュレーション通りになるのかもしれませんが、協定書(案)には「特定の財政運営」を行うとは書いていないので、協定書(案)に沿えば、この財政シミュレーション通りになるとは言えないのです。
パッケージ案における財政シミュレーションは、パッケージ案が示す通りにシミュレーションを行っているので、「設計図の一部」と言えました。
協定書(案)における「各特別区の長期財政推計〔粗い試算〕」は、「もしかしたら、こうなることもあるかもしれないね」という「イメージ図」に成り果てました。
そもそも協定書(案)の文面では、調整財源の配分割合も明らかにしないとしてるのに、なんで財政シミュレーションができるのでしょう?
〇協定書(案)を表面的になぞるだけでも、特別区は、かなり貧相な財源しか持たないように見えますが、結局、協定書(案)は、肝心な部分で曖昧だったり、大阪府の裁量次第だったりする点が多く、都構想後、「大阪市民が府税に加えて、市税からどれだけ大阪府の財政を支えるか」(=大阪市民が、自分たちの支払う市税のうち、どれだけを身近な行政サービスに使えるのか)について、十分、明確に示されているとは言えません。
大阪市民が、この協定書(案)で大阪都構想に賛成するということは、「後で金額こっちで書いておくから、先にサインしていて」と言われて、支払い金額欄が空欄の契約書に、署名・押印することなんだと思います。