2014年04月18日

(補2)児童相談所と一時保護所にみるコスト試算の精度

 この記事の元になる大阪都構想財政シミュレーション(その1)〜(その4)の中で、「大阪都構想パッケージ案と財政シミュレーションでは、特別区担当の事務を、大阪市一体での事務運営から、5つの特別区で分割して行うことについてのコスト試算が十分ではない」ということについて、指摘してきました。

 特に、「大阪都構想財政シミュレーション(その4) 家を建てるなら見積もりは取りたいよ」では、5区案で約55億円とされているコスト増は、
〇システム運営経費 82億円→97億円 (15億円増)
〇ビル賃料 20億円→42億円 (22億円増)
〇議員報酬 17億8900万円→34億8100万円(17億円増)
〇各種行政委員会委員報酬 0円(記載なしなので)→6000万円(約1億円増)

というもので、

〇特別区の歳出額1兆3千億円のうち、システム運営経費、ビル賃料、議員報酬等の現行の合計支出額120億円と、歳出額の1%しか試算対象にしていない。
〇試算対象とした120億円は5分割で55億円増と、実に46%増になったという試算結果なのに、歳出額1兆3千億円を5分割しても55億円増だなんて、コスト試算でいいの?

という問題指摘をしました。(詳細や元資料は、以前の記事「大阪都構想財政シミュレーション(その4) 家を建てるなら見積もりは取りたいよ」を参照ください。)

 大阪都構想パッケージ案には追加資料として、児童相談所の一時保護所を各特別区に分割して配置した場合のコスト試算が示されています。
 この試算は、事務を5つの特別区で分割して実施した時のコスト変化について、感覚を把握するよい参考資料になると思うので、整理しておきます。


 大阪都構想パッケージ案追加資料の児童相談所一時保護所の試算を見る前に、まず、パッケージ案での児童相談所についての試算を、5区分離案で見ておきます。

 まず、人件費を除く予算支出の部分です。
 支出増が想定されているのは、システム運営経費、ビル賃料、議員報酬のみです。
 議員報酬は児童相談所の支出に関係ないので、除外。
 システム運営経費(元データ12/6追-P43、元サイト)も、児童相談所が個別システムを運営していたとして、基幹システムになってるとは思えない。その他140システムのうちの1システムとして、140システムで1億円のコスト増なので、児童相談所システムとしてのコスト増は無視できるレベル。
(ちなみに、児童相談所で個別システムを運用せず、PCでオフィスソフトなどを活用してIT化を図っている場合もありますが、その場合、個別システムの運用経費増以外、コスト増は計上されていないので、コスト増は試算上無いことになっています。)

 つまり、児童相談所を1ヶ所から、特別区毎の5ヶ所に分割しても、ビルの賃料以外、「人件費を除く予算支出」は変わらないというのが、パッケージ案でのコスト試算です。

 次に人件費部分です。
 パッケージ案は業務別の職員数試算を示していませんが、児童相談所は中核市の法定外業務として追加する必要があるので、業務別試算が示されています。(元データ パ02-P17、元サイト

 現員151人(ただし、こちらの資料(元データ 3回児P3、元サイト)では170人)に対して、特別区分割後の合計数は177人。
 算出方法としては、横浜、名古屋、京都、神戸、福岡、横須賀の職員1人当たりの相談受付件数を指標として算出と説明されています。

 「職員1人当たりの相談受付件数を指標として算出」とは、「職員1人当たりの相談受付件数」を「相談受付1件当たり職員数」に裏返して、特別区別の相談受付件数に「相談受付1件当たり職員数」をかけて算出したということと思われます。

 これは「児童相談所の業務量が、相談受付件数に比例する」という決め付けがあって、初めて成り立ちますが、「児童相談所の業務量が、相談受付件数に比例する」といえるなら、大阪市の現在の職員数151人(というか、多分170人)を、相談受付件数で按分するだけでいいのです。
 でも、そう言えないから現在の職員数の按分ではなく、1からの算出にしたはずです。
 それなのに、大阪市の業務と関係のない「横浜、名古屋、京都、神戸、福岡、横須賀の職員1人当たりの相談受付件数」を持ち出してきて、「児童相談所の業務量が、相談受付件数に比例する」として試算をしても意味がないのです。
 計算手順を複雑にすることで、「児童相談所の業務量が、相談受付件数に比例する」という無理な前提での試算を、それらしく見せ掛けているだけです。

 この試算で、A区33人、B区36人、C区38人、D区43人、E区27人という試算結果が示されています。この試算は「E区の児童相談所は27人で運営できる」ということを試算したはずなのですが、正直なところ、この試算結果から「E区の児童相談所が27人で運営できることが、確かめられた」とは、とても言えないと考えます。

 でも、そう試算されています。

 5区案で、特別区分割後の児童相談所の職員数合計177人とは、一時保護所の職員数を含んだ数字です。一時保護所は、共同設置を前提に試算していますから、各特別区の児童相談所は、この数字から共同設置の一時保護所の職員数を差し引くことになります。

 ざっくりとまとめると、パッケージ案では、児童相談所は特別区分割後、予算面ではビル賃料の増以外変わらない、人件費面では職員数は170人(151人より、他の資料を見てると170人と思えるので。)から177へ微増程度で、ほとんど変わらないというコスト試算を示しています。


 次に、パッケージ案追加資料で示された、一時保護所を特別区毎に設置した場合の職員数や所要経費の試算について、見ていきます。(元データ 元サイト

 共同設置の場合として、第1一時保護所(定員70名)と第2一時保護所(定員30名)の2所体制で、大阪市全体で入所定員100名を基準として比較します。

 まず、一時保護所を特別区毎に設置した時の一時保護所の入所定員がこれ。(元データ12/5追-P12)
00区別入所定員.jpg

 次に、入所定員別の職員配置の考え方がこれ。(元データ12/5追-P20)
01職員配置の考え方.jpg

 職員配置の考え方を当てはめた保護所別の職員数がこれ。(元データ 12/5追-P21)
02保護所別職員数.jpg

 その結果の職員数を比較すると、次のようになります。(元データ 12/5追-P13)
03職員数比較.jpg


 次に、人件費を除く予算額(物件費)を見ていきます。
 考え方の整理として、
〇児童定員数によるもの→定員に比例する経費
〇職員数によるもの→定員増に伴って増加するが、増加割合は比例より小さくなる経費(スケールメリットの働くもの)
〇1所単位で定額で計上するもの→定員に関わらず一定の経費(スケールメリットが凄く働くもの)
 で、構成されるとしています。

 結果、入所定員ごとの物件は、次のようになります。(元データ 12/5追-P14)
 なお、非常勤職員等の報酬も物件費に含みます。
04物件費.jpg

 これらの結果として、共同設置(定員70+30の2所)と5区分離案の場合の特別区毎に設置した場合の経費比較を行うと次のようになります。(元データ 12/5追-P17)
05総括表.jpg

 では、試算された結果を見てみましょう。

 ただ、その前に、
〇この試算では、職員と非常勤職員の区別を強調していますが、事務量の評価としては同じですから、職員数は合計人数に着目します。
〇物件費は、非常勤職員の報酬なども含むので、本来の意味の人件費と物件費の区分になりません。この点も人件費と物件費を合わせた総コストにのみ着目します。

 総括表にも記載していますが、共同設置と比較して、特別区ごとに一時保護所を設置すると、職員数は9割増、歳出額=運営コストは7割増となります。
 また、一時保護所運営の交付金(=特定財源)が、特別区ごと設置で運営コストが上がるほどに増えてくれないので、歳出額から特定財源を差し引いた特別区の実際の負担額(一般財源ベース)は83%増となり、実際の歳出額の増加よりも、負担は更に重くなります。


 一時保護所を共同運営(=大阪市全体で一括運営)した場合に対する、特別区ごとで分割運営した場合の7割〜9割のコスト増は、パッケージ案で共同運営を推奨していることから、特殊な事例との主張もあるかと思います。

 でも、試算の内容を見る限り、特筆するほど、特殊な事例とは思いません。
 栄養士、看護師、事務職員など、規模に関わらず、1所ごとに1名配置を必要としている点は、スケールメリットが働き易くなってる点に思います。
 でも、共同運営の場合も第1と第2の2所運営になるため、特別区ごとに5所運営と差が出にくくなっています。普通の1所を5所に分割した場合の比較と比べると、スケールメリットの働き難い要素をもった事例とも思います。

 物件費の試算の中で示された、経費の分類、
 【規模に比例する経費】
 【規模と共に増加するが、増加割合が小さくなる経費】(スケールメリットの働く経費)
 【規模に関わらず一定の経費】(スケールメリットの凄く働く経費)
 で、経費はこれら3つの合計という構造は、それぞれの割合やスケールメリットの働き方を変えてやりさえすれば、大抵の業務に適用できるものです。

 児童相談所業務の一時保護所を除いた部分=相談部門は、特別区ごとの設置で現在の1所を5所に分割しても、総コストはほとんど増えないとコスト試算がされていますが、それは経費や所要人員が「件数に比例する」と決め付けているだけで、一時保護所で行ったのと同じ試算を行えば、スケールメリットの働く経費部分が、それなりにあるはずです。(一時保護所についても、経費や所要人員が入所定数に比例すると決め付けてしまえば、1所を5所に分割しても、総コストは変わらないという試算になります。)

 一時保護所が特殊な事例かというと、「件数が少ない」とか「高い専門性が求められる」などで、現在、区役所別に窓口を置かず、市役所など大阪市全体で1ヶ所の窓口を置いている業務なら、同様に検証・試算を必要とする業務は、いくらでもあると思います。

 また、一時保護所がそれなりにスケールメリットが働くといっても、件数の増加と共に経費や所要人員が増える種類の業務です。
 区役所や福祉事務所で行う業務に対する統括部門で行っている仕事は、同じ内容を行うためには、規模と関係なく同じ人員、同じ経費が必要になります。
 例えば、生活保護業務の次の組織図の中で、赤枠で囲んだ企画部門75人は、特別区にそれぞれ配置する時、どのように人員体制で配置し、それまで行ってきた仕事を行っていくのでしょうか?
06生活保護体制.jpg

 大阪都構想パッケージ案は、こういった点について、どのように対応していくのか何も示さないまま、総枠の職員数のみを決めて、「職員数を削減できた」とするのです。

 一時保護所で示されたスケールメリットについての試算は、コスト試算をせずに「総費用は変わらない」とか「コスト、所要人員は規模に比例」といった決め付けを行うのでなく、もっと丁寧な試算や議論が必要なことを示しているのだと思います。


 最後に運営のお知らせ。
 大阪都構想財政シミュレーション(その1)〜(その4)についての補足の議論は、まだいくつか予定していたのですが、新しい話もしたいので、今回までとさせていただきます。
 

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posted by 結 at 03:57| Comment(0) | 概要 | 更新情報をチェックする
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