2014年03月14日

(補1)大阪都構想の統合効果が悲し過ぎる

 前回まで大阪都構想財政シミュレーション(その1)〜(その4)として、財政シミュレーションとその元となったパッケージ案について見てきました。
 その中で、余談として割愛した、小さめの話題を、いくつか取り上げてみたいと思います。

 今回は、「大阪都構想財政シミュレーション(その2) 関係ない効果額を分けてみた」の中で、「広域事務の統合効果が微小過ぎる」としたことについて、もう少し触れてみたいと思います。

 なお、橋下市長は失職による市長選挙期間中で、「橋下前市長」または「橋下氏」などの呼称が正確と思いますが、ここでは「橋下市長」の呼称で他の記事などと統一させて頂きます。


 では、始めます。
 橋下市長が、知事時代、二重行政について端的語ったものとして、次の言葉をよく覚えています。

「何故、市の職員が多いかっていうと、大阪全体のことをやる職員もいっぱいいるからなんですよ。大阪府庁とダブっちゃってるんですよ。これ全部一緒にしてですね、大阪の全体のことをやる職員と、住民に身近な職員を分ければね、大阪府庁と大阪市役所、併せて考えれば、職員、もっともっと減らせられるんです。で、そのお金を、どんどん、教育、福祉、医療に回せばいいじゃないですか。」
(以前の記事「橋下知事、大阪都構想を語る(その4)」参照。毎日放送「ちちんぷいぷい」2010年7月26日放送分より)

 つまり、「大阪府庁と大阪市役所のダブっちゃってる所を一緒にして、無駄を無くして、そのお金を教育、福祉、医療に回す」と。
 どこまで事実かを別にすれば、とても分かり易い話です。

 そこで今回は、大阪都構想が、パッケージ案、財政シミュレーションまで具体化されてきて、「大阪府庁と大阪市役所のダブっちゃってる所を一緒にして、無駄を無くす」がどうなっているかを、見てみましょう。


 まず、大阪市役所の広域だとされた部門が、財政的、人員的にどのように府庁に統合されるとされてるかです。

01大阪市の基礎広域分割イメージ(財源).jpg
元データパ04-06 元サイト

02職員体制再編イメージ.jpg
元データ12/6シ-P60 元サイト

 ざっくりというと、大阪市から大阪府へ歳出規模で約4000億円、一般財源規模で2300億円、職員数で2243人が広域事務として移管・統合されるということのようです。


 次に予算面での統合効果を見てみましょう。
 まず、財政シミュレーションに大阪都構想の効果額として挙げられている、H45時点の362億円全体です。
 「大阪都構想財政シミュレーション(その2) 関係ない効果額を分けてみた」で使用した、都構想と関係・無関係で区分した、効果の内訳です。(元データ1/17シ-P20 元サイト

(都構想関係)
03H45効果額仕分(都構想関係).jpg

(都構想無関係)
04H45効果額仕分(都構想無関係).jpg

 次に都構想関係の項目のうち、府市統合の関係でなく、特別区分割による項目を、赤表示にして除くと次のようになります。

05H45効果額仕分(府市統合のみ).jpg

 特別区分割による項目として除外した理由は次の通り。
〇特別区側の「職員体制の再編」は、「特別区に分割すると職員数が減らせる」としての効果額なので除外。再編コスト52億円も合わせて除外。
〇「委託老人福祉センター」「子育て活動支援事業」「スポーツセンター管理運営」は、施設又は活動拠点を24ヶ所から18ヶ所に減らすことによる効果額なので、除外。
〇「プール管理運営」は、施設を24ヶ所から9ヶ所に減らすことによる効果額なので、除外。
〇「子育ていろいろ相談センター管理運営」は、本来都構想と関係ない項目だが、パッケージ案の区分では「子育て活動支援事業」と合わせて1項目だったために、都構想関係に分類されてたもの。「子育て活動支援事業」と合わせて除外。

 なお、「その他(効果額1億円未満 16項目)」は詳細不明のため、除外しませんでした。

 都構想関係の効果額から、府市統合関係のみを取り出すと、差引効果額で年間28億円となりました。職員削減の他は、ほとんどAB項目の事業部局や外郭団体関係などであることが見て取れます。

 府市統合による効果額が、全て「二重行政の無駄解消」と言えるとも思いませんが、「二重行政の無駄解消」で今後生み出される可能性がある財源とは、基本的にこの28億円の一部だろうということになりそうです。


 年間28億円というのは、府市統合の事業規模を考えると、なんとも僅かな額です。
 では、どうしてこういう効果額になるのか、AB項目を除外して、市役所の広域事務担当と府庁の統合に着目して、もう少し詳しく見てみましょう。


 まず、次の表の歳出規模で約4000億円、一般財源規模で2300億円の移管について。
01大阪市の基礎広域分割イメージ(財源).jpg

 AB項目の事業部局や外郭団体関係の効果額は約13億円ですが、それ以外としては、次の通りです。
06AB項目以外の府市連携による効果見込額.jpg
元データ パ08-P17)

 市政改革プランとの重複部分=今後の財源発生しない部分を含めて、ようやく1億円です。
 つまり、大阪市から移管される歳出規模で約4000億円、一般財源規模で2300億円の大半について、移管後の予算規模の見込みは、単純に「府の予算額+市の予算額」になっていることが分かります。


 次に、次の表の職員の移管についてです。
02職員体制再編イメージ.jpg

 H25年度2243人がH45年度1361人と、882人の削減とされています。これだけを見ると、大幅な人員削減に見えますが、内訳は次の内容になります。
(12月の財政シミュレーション資料から取った上の表はH25開始に対し、内訳説明に使用する8月パッケージ案の資料がH24開始なこと。8月パッケージ案資料は下水道関係461人がダブルカウントにされているが、12月財政シミュレーション資料では補正されてること(元データ 12/6追-P27)など、多少の誤差があります。)

元データ パ02-P11)
〇技能労務関係(下水道関係と思われる。)アウトソーシングによる見直し 593人減

〇重複部門(1650人)に対する見直し
・現行の大阪府の削減計画を参考に目標を設定(▲1.6%年)するなどにより、10年間効率化を推進 286人削減
・286人削減のうち、管理部門を中心に重複部分170人を再編当初に効率化

 また、これ以外に、移管人員以外の大阪府現員への対応として
〇大阪府の現行の大阪府職員数管理目標適用のH27〜H30分、285人を削減

 さて、この説明を理解しようとすると、「現行の大阪府職員数管理目標」というのが重要なようです。
 大阪府職員数管理目標は平成24年度末に立てられた中期管理目標で、その大元は、平成21年8月の「組織戦略」のようです。この中で、職員数の管理目標を、平成20年度の職員数10223人に対し、平成30年度8500人規模にする(元データ 元サイト)としています。

 平成20年度の10223人を平成30年度で8500人とした場合、削減率は17%弱ですから、「重複部門(1650人)に対する見直し」の「現行の大阪府の削減計画を参考に目標を設定(▲1.6%年)するなど」というのが、大阪府のH21〜H30の期間で実施中の職員削減を、「同じ期間、同じ削減率」で行うという意味のようです。
 ありていに言ってしまうと「大阪府はH21年度から10年計画で16%の職員削減に努めているが、大阪市はそんなことできてないだろう。大阪市移管の人員も同じ期間、同じ率で削減を行え」ということになりそうです。

 さて、これらの職員数削減は「府市統合による職員削減数」として捉えられるのでしょうか?

 まず、「技能労務関係のアウトソーシング 593人減」は、アウトソーシングによる効率化で府市統合による効果ではありません。裏で委託料もしっかり発生しています。

 「現行の大阪府の削減計画を参考に目標を設定(▲1.6%年)するなど」の285人も、考え方で言えば、「大阪市から移管されてくる人員は、『大阪府の厳しい基準から見ると』余剰人員を抱えているだろうから、府並みにシェープアップしろ」ということですから、これも府市統合による効果ではありません。

 大阪市からの移管人員でなく、大阪府の現職員に対するH21〜H30の期間で実施中の職員削減のうち、H27〜H30分だけ取り出した285人も、府市統合の効果では、全くありません。


 府市統合による職員数削減が全く無くなってしまいました。でも、最初に挙げた統合効果の項目別の表では、「職員体制の再編」で14億円(170人削減)があったはずですが、どこに行ったのでしょうか?

 実はここに、考え方としておかしな点があります。
 170人削減とは「管理部門を中心に重複部分を再編当初に効率化」として挙げているものです。同じ業務の府の部門と市の部門を統合したならば、管理部門が重複して不要になるのは当然です。統合効果の最たるものです。
 ところが、この170人削減が「現行の大阪府の削減計画を参考に目標を設定(▲1.6%年)するなど」の285人削減に含めるとされてしまっているのです。だから、削減としては、285人削減だけで、170人削減は無いのです。

 理屈で考えると、とてもおかしいです。
 170人削減は「管理部門を中心に重複部分」で、人員移行時に当然不要になる分で、当然削減されるもの。大阪市の人員が、大阪府より余剰を抱えているなら、170人削減した後の職員数に対して「現行の大阪府の削減計画を参考に目標を設定(▲1.6%年)するなど」の285人削減(170人を削減した後ですから、少し減ります。)をするべきで、170人+285人=455人削減でないとおかしいのです。

 役人さんたちに、こういう大事な点での「勘違い」などありえませんから、理屈を超越した判断があったと考える方が妥当に思います。
 例えば「パッケージ案作成前に、大都市局長と府の総務部長の間で、府市統合の職員数削減は、移管人員に府並みの削減を行うとして16%削減(285人)にすると取り決めをした。その後、管理部門など移管しても重複で不要になる人員(170人)があることが判明。170人は重複で不要だから、当初から移行しないとしたが、職員の削減は最初の申し合わせ通りに16%削減(285人)に止めるとして、170人は285人に含めるとした」みたいなような。

 では、この「10年間で16%削減」というのは厳しいのでしょうか?
 厳しいかどうかの評価は、見方で変わると思いますが、ギリギリまで絞った削減数ではないと考えます。ギリギリまで絞って削減するなら、一律の削減割合など無理だからです。
 「どの部門でも可能な程度の平和な削減率」という印象を持ってしまいます。


 ここまでの話を整理してみます。

 府市統合と捉えるなら、大阪都構想のパッケージ案では、大阪市の広域部門として、歳出額4000億円、一般財源額で2300億円、職員数2243人が移管されます。

 ただし統合効果は、(大まかに言えば)予算的には横滑りで「府の予算+市の予算」になるだけで、統合効果は、ほとんど計上されていない。
 職員的には、移管人員に対して、10年間で16%の一律削減を課すだけ。
 ・・・ということのようです。

 これなら、府の職員さんは楽チンだし、統合効果など生まれるはずもありません。

 本来は、どうあるべきなのでしょうか?
 予算でも職員数でも同じですが、府と市の事業を合わせた規模を想定し、その統合した規模に(最低限)必要な予算額と職員数を試算するべきものです。同じ事業の統合なのですから、当然、「府の予算+市の予算の合算額」より小さくなって、その分が府市統合の効果額になるはずです。

 わたしは「二重行政などない」と考える方ですが、それでも歳出額で4000億円規模の市の事業を、(府側が市の2倍規模と考えて)8000億円規模の府の事業と統合するなら、数百億円程度の統合効果額など、出てきて当然です。(勿論、その他の問題もいっぱいありますから、やるべきかは別の話ですが。)

 「府と市の事業を合わせた規模を想定し、必要な予算額と職員数を試算し、統合効果を算出する」
 大阪都構想が、府市統合で二重行政解消を謳い、統合効果から生み出された財源で成長へ向けた投資に振り向けるというならば、最も肝心な点のひとつのはずです。それがなぜ、こんなことになってしまっているのでしょう?

 府の職員さんの意図はよく理解できます。「職員さんによる、職員さんのための『改革』」ならば、こんなものでしょう。

 橋下市長、松井知事の意図ではないと思います。こんな検討で放置して、良いことなど、何も無いからです。ただ、おふたりとも、職員さんに任せたら「細部」はチェックしない傾向が見受けられるので、そこまで見ていないのかなと思います。

 不思議などは、維新の府議・市議さんなど、大阪都構想を推進する立場の方たちです。
 こんな内容のパッケージ案を示されたら、本来の姿の「必要な予算額と職員数を試算を求める」というのは、当然のことだと思います。その結果生み出される効果額が、投資の原資となり、大阪都構想のメリットとして強調される点になるのですから。

 現在、橋下市長らから主張されてる通り、1月末で区割り案を1案に絞り、法定協議会の議論を次のステップに進めるのなら、本来の姿の所要予算額・職員数の試算について、昨年の9月、10月の法定協議会で強く要請されているのが、当然だと思います。
 でもわたしは、法定協議会での要請どころか、その他の場面でも「そういった試算が必要だ、なぜしていないんだ」という声を、聞いた記憶がありません。

 最も大切な、府市の事業統合の部分で、まともな試算をしないから、統合効果が生まれず、それを埋め合わせるように、分割で本来増えるはずの特別区の職員数を減らして「再編効果だ!」と言ってみたり、関係の無い効果額をいっぱい積み込んで見たり、それでも単年では小さ過ぎるから、19年分も累計して、「凄いだろ!」と宣伝している姿は、あまりにも、あるべき姿とは外れています。そんな説明で、市民に大阪都構想の正しい理解が伝わるはずもありません。

 最も大切な点の検討を(大都市局などに)求めることをせず、スケジュールを進めることばかりに熱心な維新の府議・市議さんなど、大阪都構想を推進する立場の方たちって、実は大阪都構想の中身など、どうでも良い方々なのでしょうか?


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posted by 結 at 01:18| Comment(0) | 概要 | 更新情報をチェックする
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