2014年03月08日

大阪都構想財政シミュレーション(その4) 家を建てるなら見積もりは取りたいよ

 今回は【前提3】を見ていきます。
 今回の話は、「歳出規模1兆7千億円の大阪市を、広域事務と5つの特別区に分割した後の運営経費を試算して、1%の運営経費の差が許容できないといった、凄い精度の議論に何故なるのか?」という話です。

 でももっとシンプルに言ってしまうと、「大阪市の基礎自治体事務を5つの特別区に分割して運営する時のコスト増試算は『試算が甘い』というより『試算が無い』だよ」って話です。

 また、先にお断りですが、パッケージ案や財政シミュレーションの試算は一般に、一般財源額を用いていますが、以下の議論は歳出額をベースに話をします。(特別区部分でいうと、歳出額1兆3000億円(元データ パ04-P6 元サイト)一般財源額ペースでは6350億円(元データ パ04-P27)と2倍程度の差があります。)

 一般財源額とはシンプルにいうと、歳出額から(国などからの)特定財源を差し引いたもので、財源配分などの議論を整理するためには有効です。
 ただ、大阪市を5つの特別区に分割した時のコスト増減は、大阪市が発注先などに支払う「歳出額」で起きて、歳出額の変化が結果として一般財源額の変化となるので、歳出額側で捉えた方が分かり易いのです。

 実際、パッケージ案がコスト試算で用いている、システム運用経費の「見積り」やビル賃料の基準にしている「賃借単価4900円/u」は、実際の支払い額=歳出額と思います。
 単に都構想によってシステム運用経費などが上がっても、国などからの特定財源が増える訳ではないので、「歳出額の増」=「一般財源額の増」と用いるのでしょう。


【前提3】 特別区担当業務を5つの特別区で実施することにした時のコスト試算で、歳出額の9割方(厳しく言うと99%)は試算対象から除外してるけど、そこは気にしないでね。

 まず、パッケージ案で「大阪市の基礎自治体事務を5つの特別区に分割した後の運営経費についての試算」としているものを見てみましょう。

 5区案の特別区設置のコスト試算(ランニングコスト)(=特別区担当業務を、5つの特別区で実施した時の現状とのコスト差の試算)は、最新の2013年12月6日資料では、次の通りとされています。(元データ12/6追-P45、元サイト

〇システム運営経費 15億円(総括表の「約20億円」を補正。以下説明の試算明細を参照。府システム増加分3億円を除外)
〇民間ビル賃料 22億円
〇各特別区に新たに必要となる経費 18億円

合計約55億円

 この55億円というのは、コスト増になる金額ですが、元々、いくらの支出が55億円のコスト増になるのかを確認します。

〇システム運営経費 82億円→97億円(元データ 12/6追-P43)
〇ビル賃料 20億円→42億円(元データ 07-P15 元サイト
(執務面積比較では、現有186,609uに対して不足70,757u)(元データ 07-P13)

(「各特別区に新たに必要となる経費」の内訳は議員報酬と各種行政委員会委員報酬のことなので)(元データ 07-P08)
〇議員報酬 17億8900万円→34億8100万円
〇各種行政委員会委員報酬 0円(記載なしなので)→6000万円

 これらを合計して考えると、(執務面積をビル賃料だけで考えたり、各種行政委員会委員報酬の現行を0円で置いたり)少し乱暴ですが、
現行支出額120億円→特別区分割後175億円(55億円増 46%増)
になっていることが分かります。

 システム運営経費、ビル賃料、議員報酬等の現行の合計支出額は120億円。これは、特別区の歳出額1兆3千億円のうち、約1%を試算対象にして、5割増しの試算結果になったということです。


 さて、特別区の特別区の歳出額1兆3千億円のうち、システム運営経費、ビル賃料、議員報酬等の現行の合計支出額120億円以外に、コスト試算をしてないのでしょうか?

 無理に言うと【前提2】で検討した特別区の所要人員を特別区分割の試算を行ったとしたとして、H25職員数12866人×800万円=1030億円に対して、コスト試算を行ったことになります。
 ただし、特別区の所要人員試算は、前回記事で見た通り、「中核市5市の平均職員数で職員を配置したら何人になる」という計算をしただけで、「特別区が担当する業務を、5つの特別区で実施するための所要人員」の試算はしていないので、「大阪市の基礎自治体事務を5つの特別区に分割した後の運営経費」のコスト試算をしたとは、評価できません。

 他には、児童相談所一時保護所の5区・7区への分割配置の試算をしていますが、これは試算してみただけで、(分割配置はしないとして)結果をコスト反映していないので、とりあえず無視でいいと思います。

 そうすると、特別区の歳出額1兆3千億円のうち、コスト試算の対象としたのは1150億円(システム運営経費、ビル賃料、議員報酬等の120億円+人件費1030億円)。歳出額の9割にもなる約1兆2千億円は、何の試算もしていないのです。何の試算もしないまま、コスト増減がないとして、財政シミュレーションを行っているのです。


 コスト試算の方法としては、必ずしも全体の試算をせず、一部だけ試算して全体の推計を行う方法もあります。
 そういう方法に当てはめると、1兆3千億円のうち120億円部分を試算して55億円増の46%増ならば、試算していない1兆2千億円に対しても46%増になるとして5500億円のコスト増が発生するという結果になります。

 勿論、5500億円のコスト増など荒っぽ過ぎて全く信頼性はありません。でも、全体の1%だけ試算して、1兆3千億円全体に対するコスト増が55億円だけなんていうコスト試算は、5500億円のコスト増より更に信頼に足りません。


 ここまで整理すると、コスト試算の精度は結構荒っぽいのに、特別区の歳出額1兆3千億円に対し、170億円=1.3%のコスト差でしかない、7区案の可否が議論されてしまう理由に辿り着きます。

 コスト試算対象にした3項目120億円が55億円増になる部分の荒っぽさは、ある程度共有されます。でも、この試算から、120億円が、200億円増とか、300億円増になるとは考えないでしょう。

 特別区の歳出額1兆3千億円のうち120億円だけを試算対象と捉えると、その試算結果は「10億円程度動くことはあっても、100億円も動くことはない」となります。その結果を、歳出額1兆3千億円全体に対する試算が、100億円も動くことがないという話にすり替わるのです。

 これが、個々の試算の精度は荒っぽいのに、歳出額全体としては1%誤差も発生しないかのような議論になってしまっている理由です。
 歳出額全体の9割方(人件費見込みも誤差を想定しないので、実質99%)を「変わらない」と思い込んで、歳出見込みを立てれば、1%の試算部分が多少荒っぽくても、全体の歳出額は1%未満の誤差しかないことになるのは当然です。


 でも、このコスト試算の捉え方は正しいのでしょうか?歳出額のうち、コスト試算の対象にしていない1兆2千億円部分は、本当に変わらないのでしょうか?

 1兆2千億円部分のうち、変わらない部分も多分少なくありません。代表例として、生活保護費の総支給額は、大阪市全体でも、特別区毎に事務を行っても変わらないでしょう。でも、生活保護の事務経費は、当然変わる部分になります。
 印刷発注費、物品調達費、業務委託費などなど、特別区に分割され、発注単位が細切れにされると、単価アップやコスト増になりそうなものは無数にあります。

 コスト試算した3項目は5割増でしたが、もし平均3割増と仮定しても、コスト試算していない1兆2千億円のうち、5区分割でコスト増になる部分が3千億円もあれば、コスト増は1千億円程度発生してしまいます。コスト増になる部分は全く把握してないのですから、コスト増が2千億円でもおかしくはありません。
 「試算対象外にした1兆2千億円部分は、変わらない」としたパッケージ案の試算前提を外して、実際的に考えれば、5つの特別区に分割した後のコスト増がどうなるかなど、千億円単位で、実は把握していないのです。

 大阪都構想財政シミュレーションは、10億円単位、1億円単位の細やかな歳入・歳出見込みを19年間に渡って示しますが、「試算対象外にした1兆2千億円部分は、変わらない」とした試算前提を外してしまえば、タダの数字遊びです。そして、「試算対象外にした1兆2千億円部分」のうち、それなりの割合は「変わる」のです。


 例え話をしてみます。
 4千万円で建てた家を、2軒の小さな家に建て替えようと思います。
 玄関だけ、建築業者さんに見積りを取ると、前回は玄関だけで100万円だったのが、2軒分の玄関だと150万円になると言われました。だから、2軒の小さな家への建て替え費用に4050万円のローンを組んで、建て替えを建築業者さんへ依頼することにしました。

 あなたは家を建て替える時に、玄関以外の見積もりを取らずに、「前に家を建てた時と建築費は同じだろう」と家の建て替えを依頼しますか?玄関だけの見積もりでは、「前に家を建てた時」より、5割の単価アップが提示されているのに?わたしは、恐ろしくて、そんなの賛成できません。


 大阪都構想は様々に危うい点を抱えますが、特別区歳出額1兆3千億円の大半の部分について、「大阪市の基礎自治体事務を5つの特別区に分割した後の運営経費」の試算をしておらず、実際どんなコスト増が発生するのか全然分かっていないという点は、特別区から住民サービスを受ける大阪市民にとって、最大のリスク要因だと思います。
 統合効果どころか、1千億円単位のコスト増が起きても、何の不思議もないのです。そのコスト増は、特別区の住民となる大阪市民が、身近な住民サービスを削って負うことになります。

 大阪都構想だといって、大阪市一体で運営している歳出額1兆3千億円の事務を、5つの特別区で分割して運営するならば、しっかりとしたコスト試算の上で議論を行い、市民に提示するのでなければ、市民に何を判断しろというのでしょう?

 まとめです。
 支出全体の1%しかコスト試算しないで、再編コストは(府側を合わせて)60億円だとし、特別区でサービス維持に本当に必要となる職員数を試算しないで、人件費削減効果91億円だとし、更に大阪都構想に関係ない項目までいっぱい積上げてた結果、やっと出来上がる財政シミュレーション。でも大阪都構想を実現すれば、現実と掛け離れたシミュレーションとは全く違った現実が、市民を待ち受けることになります。
 こんな財政シミュレーションを見せられて、市民に何を判断しろというのでしょうか?

 大阪都構想財政シミュレーションについての一連の議論は、ここまでです。
 ただ、ここまでの話の中で、取りこぼした話題がいくつかあるので、次回以降、補足の議論として、少し書いてみます。
 例えば、「歳出額1兆3千億円の大半について、5分割して事務を行う時にどんなコスト増が発生するか、全予算の試算をせずに、ある程度妥当な試算を行う方法の提案」とか、「パッケージ案の現在の試算方法の妥当性を、児童相談所の特別区分割配置時のコスト試算と、パッケージ案追加で行われた一時保護所分割配置時のコスト試算を、比較することでみてみよう」とか、そんな話です。
 少し、のんびりした更新になりますが、お付き合い頂けると、嬉しいです。


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posted by 結 at 21:54| Comment(0) | 概要 | 更新情報をチェックする
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