2014年03月04日

大阪都構想財政シミュレーション(その3) 今のサービス維持に必要な職員数が知りたいのに

 今回は【前提2】を見ていきます。
 今回の話は、「『歳出規模1兆3千億円の大阪市の基礎自治体事務を5つに分割して経費削減ができる』という試算が、どんな前提の上に成り立つのか」のうちの半分です。(残りの半分は、次回の【前提3】をお待ちください。)

 
【前提2】 特別区の所要人員の試算は、特別区の実際の担当業務の運営に必要となる職員数を試算していないけど、そこは気にしないでね。

 大阪都構想パッケージ案は、大阪市の基礎自治体業務を5つの特別区に分割することで、職員数を平成25年度の12866人から10916人へと1950人削減し、91億円の効果額を上げるとしています。
0042職員体制再編算入効果額2.jpg
元データ12/6シ-P61 元サイト

 でも、大阪市一体で行ってきた事務を、5つの特別区で分割して行うようにすると職員数を15%削減できるというのも、ヘンな試算です。どのような試算がされているか、見てみることにしましょう。

 パッケージ案「2 職員体制」に特別区の職員数の求め方が示されています。
 資料はいっぱいあります(元データ 02-P12 元サイト)が、思いっきりシンプルに言うと、中核市の例として、豊中市、高槻市、東大阪市、尼崎市、西宮市の5市を挙げ、人口10万人当りの5市の平均職員数を特別区の人口に掛けて、各特別区の職員数を算出するというものです。
 中核市権限外の特別区業務の補正(元データ 02-P16)と、大阪市の実情を踏まえるとして「児童相談所」「教育委員会事務局」「保健所・保健センター」「生活保護」についての補正(元データ 02-P17)を加えてます。

 だから簡単にいうと、豊中市、高槻市、東大阪市、尼崎市、西宮市5市の平均の職員数を、特別区に配置するということです。そうすると、職員数を15%削減できるのだそうです。

 パッケージ案はこの試算方法について、「『現行の人員配置をベースに決める方法』と『他の中核市の職員数をベースに決める方法』の2通りがあるが、他の中核市の平均で職員数を決める方が『スリムで効率的な最適な職員体制』だ」と言葉を重ねます。(元データ 02-P4)

 ただ、この試算方法には致命的な問題があります。
 特別区が担当する業務を、この「スリムで効率的な最適な職員体制」で、(質的・量的に同等に)実施できるのか、全く試算も検討もしていないのです。

 特別区が担当する業務は、大阪市の現行業務から、大阪府へ移管する業務を除いた全ての業務です。
 この試算が成り立つためには、「特別区が担当する業務」と「豊中市、高槻市、東大阪市、尼崎市、西宮市の5市を平均した業務」が同量であることが必要ですが、その精査を一切していません。(考え方として、「法定の権限範囲が同等だから、業務量も同等だ」で片付けたいようです。)

 主に業務量の差異が出てくるポイントは2つです。
〇(法定外の)その市独自の住民サービスなどの業務量が同量か。
 例えば、橋下市長は塾代助成事業を始めましたが、当然、法定外の独自事業で、中核市5市は行っていないでしょう。でも、このための事務量は作業項目を列挙すると、馬鹿にできない事務量と分かります。
 このような法定外の住民サービスの業務量を、実際の比較もせず、同量と決め付けてしまうのは、無茶な話です。

〇法定の住民サービスの中でも個々の事務に「合理的な理由に基づく差異」はないか。ということがあります。
 以前の記事「大阪都構想パッケージ案のコスト論」で挙げた例でいうと、例えば、「子ども手当のようなものを念頭として、対象者に申請を呼び掛ける事務」を考えても、「広報紙や掲示板で、対象者に申請を呼びかける」という事務と、「広報紙等に加えて、対象者に申請を呼びかける書類を送り、その送付時に必要事項をプリントした申請書を同封し、受け取った対象者はプリント済み申請書を確認して、記名・押印、送付すれば申請完了」という事務は、住民にとってみれば全く別物です。
 同じ法定の住民サービスでも、どれだけ住民のために丁寧なサービスを行うかで、業務量には当然差異が出てきます。このような差を、実際の比較もせず、同量と決め付けてしまうのは、無茶な話です。

 「特別区が担当する業務」と「豊中市、高槻市、東大阪市、尼崎市、西宮市の5市を平均した業務」には、事務作業量として差異はありそうなのでしょうか?

 これに答えを出すためには、きちんと業務比較を行う必要がありますが、ざっくりとは次のように捉えられると思います。

 通常、事務作業は規模が大きくなる程、スケールメリットが働きます。260万人規模の大阪市が、50万人規模の中核市と全く同等の事務を行っているならば、人口当りの職員数は中核市より大阪市の方が少ないはずです。でも、実際の人口当たり職員数は、中核市より大阪市の方が15%程度多い。
 この差を事務作業量の差として捉えると、「スケールメリット分+15%」の職員数の差が、事務作業量の差であると、ざっくりと捉えられるように思います。

「大阪市が、中核市より人口当たり職員数が多いなら、事務作業量の差でなく、大阪市の職員が非効率なだけだ」という意見もあるかもしれません。根拠は見当たりませんが、その場合についても考えてみましょう。

 もし仮に「大阪市の職員が非効率」というのが事実だったとして、「豊中市、高槻市、東大阪市、尼崎市、西宮市5市並みに特別区の職員数を減らした」からといって、「非効率な大阪市の職員」が急に効率的になる訳でもありません。
 「非効率な大阪市の職員」を中核市と同数配置しても、中核市と同量の事務作業量は処理できません。そのため、この試算の通りに職員数を減らすと、結局、特別区では職員不足で住民サービスに影響が出るという結果になってしまいます。(そもそも根拠が無い仮定ですが。)


 「豊中市、高槻市、東大阪市、尼崎市、西宮市5市の職員数をベースに特別区の職員数を決める方法」の妥当性を示すシンプルな方法があります。
 1区分でいいので、パッケージ案の特別区職員配置案に基づいて、事務担当案を(職員個人単位まで)作成し、現状の事務作業の担当と比較して、無理なく「特別区が担当する業務」を実施することができると示せば良いのです。

 ただ、現状のパッケージ案にそういった検討は、一切見当たりませんし、法定協議会での議論でも、現状との具体的比較の要望に、事務局側は一切の拒否を通しています。
 まあ、ぱっと見ただけでも、パッケージ案の職員配置案で、「特別区が担当する業務」を現状どおり行うなんて、できそうにないので、当然かもしれませんが。


 この特別区の職員配置案のヘンな点を例え話にしてみました。
--------------------------- 例え話開始 ---------------------------
 市子さんは、ガトーショコラが好きです。家でお祝いの時には、お気に入りのケーキ屋さんで、ホール(丸のまま)で3000円するガトーショコラを買ってきて、5人の子どもたちに振る舞います。

 でもある時、「子どもたちも、好きなケーキを選べる方がいいわよね」と、5人の子どもたちに「好きなケーキを買ってきなさい」とお気に入りのケーキ屋さんまで買いに行かせることにしました。
 でも市子さんは、お気に入りのケーキ屋さんのカットケーキの値段は知りません。そこで「そういえば駅前のケーキ屋さんなら、苺のショートケーキが1カット300円だったわよね。」と子どもたちに300円ずつ持たせました。

 子どもたちがケーキを買いに出掛けて、市子さんは考えます。
「あら、ホールで買ったら3000円だったのに、5人が一人ずつ買ったら1500円で済むのね。わたしって、お買い物上手。」

 さて、いつものお気に入りのケーキ屋さんに着いた子どもたちは、ガトーショコラを1カットずつ買うことはできるのでしょうか?
 また、せめて、そのお店でショートケーキは買えるのでしょうか?(お気に入りのお店のショートケーキの値段は、まだ知らないのですが。)

--------------------------- 例え話終了 ---------------------------

 ここまでの説明をすると、「少なくとも特別区で、中核市と同等の住民サービスは受けられるんだよね」と問われることがあります。
 でもわたしは、この中核市ベースの職員配置で、中核市並みの予算額を使うなら、中核市と同等の住民サービスも難しいと考えます。

 理由のひとつは、中核市が、現在の職員数と予算規模で現在の住民サービスを実現しているのは、何十年も工夫と研鑽を重ねた結果です。中核市が政令市になったからと、すぐに大阪市と同等の住民サービスができないのと同様に、政令市の仕事しか知らない大阪市の職員に、中核市の職員数と予算を配置したからと、現在の中核市が行うサービスと同等住民サービスを行うのは無理だと思います。

 もうひとつは、現在のパッケージ案が、案を企画した橋下市長らの都合で、ヘンな所に政令市の尻尾を残しているので、中核市的に最適化した住民サービスができないからです。
 例えば、電算システムは現在の大阪市のものを、ほとんどそのまま使用するとしていますが、システムは仕事のやり方を決めてしまいます。システム利用業務が、ヘンに政令市的な手厚い事務を行うと、それ以外の業務が手薄になって、全体のサービスレベルを落としてしまいます。
 また例えば、現在の24区に支所を置いて、現在の区役所と同等の窓口事務を行うとしていますが、このことは特別区区役所への実務部隊集約の方向性と矛盾します。支所での広範な窓口事務は、かなりの事務負担になり、全体のサービスレベルを落とすことになります。


 この中核市並みを基準とした職員配置の試算方法を信用する気にならない、もうひとつの理由を挙げておきます。

 同じような試算方法を、維新の会は2010年当時も主張していました。
 当時の試算対象は歳出額で、「大阪市の住民1人当たり歳出額60万円に対して、最適な30万人規模の市は平均30万円で行政運営をしている。非効率な大阪市を、最適規模の30万人規模の特別区にすれば、行政コストを半分に効率化でき、効率化した財源で都市成長のための投資ができる」といった主張でした。

 当時も、維新の府議さんへ「実施している住民サービスの差を比較しない、この主張はおかしい」と投げかけましたが、納得できる回答はありませんでした。

 現在、財政シミュレーションが示され、35万人規模の7区案さえ「規模が小さくコストが見合わないので、選択肢にならない」にすっかり変わってしまいました。何の理由説明もありませんが、特別区分割で(人件費以外の)歳出額削減の話は、もうどこにもありません。
 全く同じ理論構成で、「大阪市を最適規模の特別区に分割すると、職員数を減らせる」と言われて、信じる気になりますか?


 特別区が実際に担当する業務を考慮していない「大阪市一体で行ってきた事務を、5つの特別区で分割して行うようにすると職員数を15%削減できる」というヘンな試算が成立しないと、財政シミュレーションはガタガタになります。
 ゼロになるだけで現状より112億円のコスト増ですから、少しでも所要人員が増えるとなると、5区案も(コスト差170億円差の)7区案の状態(またはそれ以上に酷い状態)にすぐに陥ってしまいます。

 でも、橋下市長が法定協議会で、この試算の見直しを断固拒否したとしても、現実がこの試算通りにならないなら、大阪都構想実現後の特別区の運営は職員不足でガタガタになります。
 その時になって、橋下市長が「試算上では問題が起きないことは確認されている。試算通りにうまく行かないのは、区民が選出した区長の責任だ」と責任逃れに成功したとして、区政運営も大阪市民も、酷い目に遭うのには変わりないのです。

 ちゃんと「特別区が担当する実際の業務を、5つの特別区で、現状と量的・質的に低下させることなく実施するための所要人員」を試算しましょうよ。


(追記)2014.03.09
 冒頭、今回は
「『歳出規模1兆3千億円の大阪市の基礎自治体事務を5つに分割して経費削減ができる』という試算が、どんな前提の上に成り立つのか」のうちの半分で、残りの半分は、次回の【前提3】をお待ちください。
 としましたが、次回記事の「大阪都構想財政シミュレーション(その4) 家を建てるなら見積もりは取りたいよ」で、この解説をすると、記事が更に読みにくくなるため、この記事に追記することで、補完とさせていただきます。

 今回の記事で、「特別区分割において、中核市5市の平均値で特別区の職員配置数を決めることで91億円の経費節減ができるとしており、現状の住民サービス維持を前提とした所要職員数の算定を行っていない」ということを見てきました。

 ただ、これだけでは、「歳出規模1兆3千億円の大阪市の基礎自治体事務を5つに分割して経費削減ができる」になりません。人件費以外の経費の増加が、職員数削減で生み出した91億円以上になると、全体では増加してしまうからです。

 そして、次回記事「大阪都構想財政シミュレーション(その4) 家を建てるなら見積もりは取りたいよ」の中で見たとおり、特別区が担当する現行歳出額1兆3千億円のうち、特別区職員の人件費を除いた1兆2千億円部分を、5つの特別区で分割して実施する時のコスト増を試算する時に、「1兆2千億円全体を試算対象とせず、120億円部分のみを試算対象とすることで、コスト増を55億円に止めた」ことを確認しました。

 1兆2千億円全体について、コスト増試算を行っていれば、コスト増の金額は職員数削減による91億円を遥かに上回る可能性がありましたが、全体の1%=120億円部分のみを試算対象にすることで、人件費以外の経費の増加は、91億円を下回る55億円に止まり、「歳出規模1兆3千億円の大阪市の基礎自治体事務を5つに分割して経費削減ができる」という試算が出来上がりました。

 勿論、現実に特別区が担当する現行歳出額の1兆2千億円部分を5つの特別区で分割して実施するなら、試算対象外とした99%部分にもコスト増のなる部分が多分にありますので、試算通りの結果は期待できません。


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posted by 結 at 18:48| Comment(0) | 概要 | 更新情報をチェックする
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