2014年02月15日

大阪都構想財政シミュレーションを見てみた(その1)

 昨年10月の府議会の質疑で、自民府議が大阪都構想について「当初、4000億円の財政効果があるとしていたが、まったく期待できない。」と質問したのに対し、松井知事は「実現すれば1000億円の効果があり大きい成果となる。」と答弁をしたというニュースがありました。(元記事
 ところが昨年12月、法定協議会(=特別区設置協議会)で、大阪都構想の財政シミュレーションが示され、5区案で2022年度(平成34年度、大阪都実現後8年目)、7区案で2029年度(平成41年度、大阪都実現後15年目)で単年度の収支不足解消する見通しという結果に、橋下市長は「5区案を中心に検討すべき」と提案したそうです。(元記事

 なんか変です。1000億円も効果額があれば、初期費用の発生する1年目は無理でも、2年目には(多い年でも300億円程度の)収支不足などすぐ解消するはずですが、なぜ、8年とか15年とか掛かるのでしょう?

 同じような矛盾を、橋下市長のツイッターでの次の発言から感じます。
「しかし現在の試算では年に1000億円ほどは行革効果が出てきます。年に1000億円ですよ! さらに別の効果がたくさんあります。」(2014年2月5日)(元ツイート
「大阪都にするための費用は行革効果で十分賄えます。財政シミュレーションを見て下さい。20年後には1300億円ほどの財源が積み上がります」(2014年2月5日)(元ツイート

 後のツイートの「20年後には1300億円ほどの財源が積み上がります」というのは、勿論「使わなければ」ですから、コスト増や収支不足を差し引いた後とはいえ、20年で1300億円では、年平均65億円でしかないことになってしまいます。

 この大阪都構想の年1000億円と強調される効果額と、財政シミュレーションの小さな効果額の違いは何なのでしょう?
 そういう点に着目しながら、今回は大阪都構想の財政シミュレーションについて、見ていきたいと思います。


 まず、パッケージ案が効果額として挙げている数字を確認します。(元データ12/6追-P37、元サイト
 当初、2013年8月にパッケージ案を出した時の継続的な効果額は、AB項目等の効果(府市の類似事業の統合、大阪市の事業の民営化など経営形態の変更、大阪市の市政改革プランの効果など)として706億円(一般財源額645億円)。職員体制の再編(ようするに職員削減)が5区案で170億円〜270億円。合計して、5区案で年間876億円〜976億円(一般財源額815億円〜915億円)としていました。

 その後に精査・修正があり、12月の財政シミュレーション作成時点として、次の数字を挙げています。
 AB項目等596億円(一般財源額563億円)。職員体制の再編が5区案で220億円〜320億円。合計して、5区案で年間816億円〜916億円(一般財源額783億円〜880億円)とされました。
 要するに、全体で50億円ほど減ったということです。

0010継続的効果額.jpg

 また、コストについても精査・修正があり、継続的なコスト増は5区案で8月時の60億円〜90億円を60億円としています。(元データ12/6追-P45)


 ところが、5区案で年間816億円〜916億円(一般財源額783億円〜880億円)とした効果額は、そのまま財政シミュレーションに行く訳ではありません。いくつかの補正が必要になります。

 まず、AB項目等の一般財源額563億円には、既に実行済みで予算反映済みのため、今後、大阪都構想の実現を決めても、新たに財源を発生させない分が「効果額」として含まれています。
 例えば、563億円の効果額には、市政改革プラン関係の一項目として、赤バス廃止による効果額10億円を含みますが、もう今年度から実施済みですから、この10億円を効果額に積上げたところで、新たに10億円が出てくる訳ではありません。
 財政シミュレーションには、今後新たに生み出される効果額のみを計上する必要がありますから、「既に実行済みで予算反映済み」の部分を除く必要があります。
 この額が270億円で、AB項目等の一般財源額563億円は、293億円になります。

(大阪都構想の効果額には、地下鉄民営化など大阪都構想と直接関係の無い効果額がいっぱい積み込まれていると指摘されています。大阪都構想の実施を決める前に「既に実行済みで予算反映済み」の効果額というのは、多くは大阪都構想と関係がない効果額になりますが、関係がない効果額を除いたということではありません。差し引いた後の293億円にも関係がない効果額はいっぱい残っています。)

 また、AB項目等の一般財源額563億円には減収を伴うものがあり、地下鉄民営化のように現在地下鉄会計から大阪市へ支払っている分担金が支払われなくなる分や、地下鉄民営化では税収増を効果額に計上しているため、税収増に対応した地方交付税の減少分を差し引く必要があります。
 税収増に伴う地方交付税の減額と分担金収入の減額が66億円。これを差し引いて、AB項目等効果額の563億円は、227億円(293億円−66億円)になります。
 この227億円が、今後新たに実際に発生する効果額ということです。

 事務分担に基づき、227億円を配分すると、特別区215億円、広域自治体(=大阪府です)12億円になるそうです。

0021財政シュミレーション算入効果額1.jpg
0022財政シュミレーション算入効果額2.jpg
元データ12/6シ-P54)


 次に、職員体制再編の5区案で220億円〜320億円の効果額です。
 この効果額は、平成24年度の大阪府・大阪市の職員数30127人を、最終年度(平成45年度)で標準配置数25972人(▲4155人)にするというものです。効果額に幅があるのは、最終年度の配置数に「裁量範囲」として幅を持たせているためで、裁量範囲は25250人〜26490人(▲3637人〜▲4877人)とされています。

0030職員体制推移.jpg
元データ12/6追-P32)

 この数字も、財政シミュレーションへの反映前に、いくつかの補正があります。
 まず、財政シミュレーションは平成25年度を起点とするため、平成24年度の職員数30127人と平成25年度の職員数29465人の差662人を効果に含みません。

 次に、財政シミュレーションでは計上する職員の対象を、平成25年度大阪市職員(経営形態変更の5657人を除く)15109人としています。
 この平成25年度15109人を、5区案の平成45年度で12277人(広域1361人、特別区10916人)に削減するとしています。削減数は2832人(広域882人、特別区1950人)です。

 ここでパッケージ案の数字と大きな乖離が出ています。パッケージ案が標準配置数で4155人削減なのに対して、財政シミュレーションの削減数が2832人。2832人に平成24年度中の削減数662人を加えても3492人。パッケージ案の削減数4155人と663人も差が出てしまいます。
 この663人の差について、財政シミュレーションの資料に説明は見当たりませんが、パッケージ案の人員削減項目と財政シミュレーションの職員再編の削減数の算出方法を比較すると、パッケージ案で削減項目に挙げている「現在の大阪府職員に対する大阪府職員数管理目標を適用しての削減分」(平成24年度以降分で770人)が除外されているようです。人数的にもニアなので、この分ではないかと思われます。
 まあ、大阪府が(大阪都構想と関係なく)平成24年度以前から計画的に実施している人員削減が、財政シミュレーションに計上されないのは、当たり前かなと思いますが。

 あと、大阪市は平成25年度以降に402人の人員削減計画を既に立てていて、この分は既に計上済みなので、除外する必要があるとのことです。

0041職員体制再編算入効果額1.jpg
0042職員体制再編算入効果額2.jpg
元データ12/6シ-P60)

 これらを全部合わせると、財政シミュレーションに計上される職員数削減は、5区案で2430人、年間135億円(広域44億円、特別区91億円)になるそうです。
 つまり、職員体制の再編の5区案で220億円〜320億円の効果額とされたものは、財政シミュレーションでは135億円の計上となります。


 ここまでを総括すると、一般財源額でAB項目等563億円。職員体制の再編が5区案で220億円〜320億円。合計して、5区案で年783億円〜880億円とさえる効果額は、財政シミュレーションには、AB項目等227億円、職員体制の再編135億円、合計年362億円で計上されることになります。

 最大880億円が、362億円と随分減ってしまいましたが、考え方を辿っても、この362億円が実際に今後財源として出てくる効果額です。
 第1回の府市統合本部会議で打ち出された、組織統合による効果目標4000億円と比べると、随分小さくなりました。
 これでも、まだ継続的なコスト増は差し引いていないし、大阪都構想と関係ない項目を全部除いた訳でもありません。


 さて、財政シミュレーションの表を作る前に、まだ整理しておくことがあります。
 職員体制の再編の135億円ですが、何しろこの金額になるのは平成45年度です。大阪都実現から19年目、現在から20年後です。あまりにも気が長過ぎるので、その間の途中の数値も見ておきましょう。
 また、大阪市の収支不足額も、財政シミュレーションのひとつのテーマのようなので、それも挙げておきます。(いずれも5区分離案です。)

(平成27年度から平成45年度までの職員体制再編効果額の推移)
0050職員体制再編効果額推移.jpg
元データ1/17シ-P20 元サイト

 職員再編効果は、広域では初年度から14億円あり、5年目の平成31年度で20億円、10年目の平成36年度で32億円、最終年度19年目の平成45年度で44億円と、なだらかに増えていくことが分かります。

 これに対し特別区では、初年度は▲26億円で当初マイナスが続き、黒字になるのはやっと5年目の平成31年度で4億円、10年目の平成36年度でも33億円、そこから急に延びて最終年度19年目の平成45年度には92億円になります。

(平成27年度から平成45年度までの大阪市の収支不足額の推移)
0060収支不足推移.jpg
元データ 12/6シ-P14)

 大阪市の収支不足ですが、ピークとして300億円を超えるのは、4年目・平成30年度と5年目・平成31年度であり、そこからどんどん下り始め、8年目・平成34年度には127億円と200億円を切り、9年目・平成35年度以降は100億円から40億円の間程度で推移します。


 ここまでの話に着目して、財政シミュレーションの結果を整理すると次のようになります。(元データ12/6シ-P14 元データ1/17シ-P20)

 全体としてはこうです。
00705区分離財政シミュレーション全体.jpg

 少し見難いので、5年目、10年目、15年目、19年目だけを抜粋してみました。
00805区分離財政シミュレーション抜粋.jpg

 普通に考えて、19年目の効果額見込み額年間307億円で、大阪都構想の効果額の評価をするのは、気が長過ぎます。(実際、その他の影響の方が大き過ぎて評価不能だと思いますし。)
 一応、パッケージ案が19年目の効果額を「効果額」と呼ぶので、それに合わせた話はしますが、普通に改革効果の評価をするなら、5年目か、せいぜい10年目でしょう。
 5年目として年間約100億円規模、10年目として年間約220億円規模というのが、大阪都構想の効果額の規模として、妥当性が高いように思います。

 橋下市長が就任1年目で打ち出した市政改革プランの最終年度3年目の年間効果額が235億円(参考記事)、関・平松市政での行財政改革計画(平成18年度から平成22年度の5年間)の最終年度年間2719億円(参考記事)と比較して、大阪市を廃止・解体までして行う改革規模としては、小さ過ぎるように思います。


 大阪市の収支不足解消の必要性も、大阪都構想の必要性として説明される場面を見かけますので、大阪市の収支不足が大変な平成33年度までに着目し、当初10年目までを抜粋してみました。
00905区分離財政シミュレーション当初.jpg

 こうしてみると分かると思いますが、収支不足が一番大変な平成33年度までの期間の効果額が小さくて、あまり収支不足対策になっていないのです。

 収支不足対策として考えるなら、大阪都構想の資産承継で、一番資金繰りが苦しい時期に、1000億円超の財政調整基金を大阪府に渡してしまって苦しい財政運営を行うよりも、100億円規模程度の即効性のある財源再建策を別途検討し、財政調整基金を含めた補てん財源の活用を含め、収支不足対策を考える方が妥当性が高いように思います。


 次に、7区分離案の数字を5区分離の数字と比べてみましょう。
 まず、7区分離案は全体として、こうです。
01107区分離財政シミュレーション全体.jpg

 続いて、一部年度をを抜粋して、7区分離案と5区分離案を比較したもの。
01007区分離財政シミュレーション比較.jpg

 5区案と7区案を比べた場合、19年目(H45)の最下段の差引効果額(7区案135億円、5区案307億円)の比較で分かる通り、約170億円の差でしかありません。
 でも、
〇170億円の差を埋めるには、効果額がそもそも小さい。(5区案で19年目307億円)
〇170億円のコスト差を全て特別区が負うので、特別区の負担が大きい。
〇7区案では、特に平成33年までの特別区の収支不足の大きい時に、再編コストと職員体制再編の赤字で収支不足を更に悪化させてしまうため、特別区の財政が成立し難い。
・・・ということが分かります。

 このような形で、7区案と5区案の財政シミュレーションを比較すると、7区案を選択することは難しいと説明されるのは、一定分かります。


 さて、ここまで見てきて、特に7区案と5区案の財政シミュレーション比較の結果などを考えた時、少し大きな目で捉えると、何かヘンだなぁと思うのです。

 主にヘンだなぁと思うのは2点です。

 1点目ですが、特別区の「職員体制の再編の効果額(又はコスト)」とその他の「再編コスト」の合計額は、特別区の担当する歳出額1兆3千億円(元データ 元サイト)の事務を、大阪市全体で一体として行う体制から、5つの特別区で別々に行う体制に移行した時の歳出額見込み(正確には一般財源額)の差です。
 5区案の職員体制再編の91億円と再編コスト▲52億円を合わせた39億円とは、5分割すると1兆3千億円が39億円削減され、約1兆2960億円になるという意味です。7区案は同様に133億円増え、約1兆3130億円になるという意味です。

 5区案と7区案に歳出額見込みの差は約1.3%なのですが、そもそもそんなに精度の高いコスト試算ができるのでしょうか?
 コスト試算については、次々回の記事で詳しく見ますが、感覚として(好意的にみて)10%精度の試算までは言えても、1%精度の試算ができているとは、全く思いません。
 5区案と7区案の歳出見込みの差、約1.3%とは、コスト試算の精度を考えると誤差に消えてしまう差なのです。それは、「どちらでもいい」のではなく、5区案を選択しても、誤差の振れ方で、7区案同様(又は7区案より酷い)、赤字に悩む可能性が十分にあるということです。

 でも財政シミュレーションを見る限り、5区案も7区案も100億円単位で結果に誤差が出てくるようにはとても見えません。それはなぜなのでしょう?


 2点目ですが、大阪都構想を元々、府市再編と称していたことに立ち戻って考えてみます。
 「大阪府と大阪市が類似の事務を行っていれば、それを一本にまとめれば、コスト削減が行えるはずだ。」という考え方で始めたはずです。「二重行政の無駄解消」という言い方はともかく(現実には「二重行政の無駄解消」と言えるようなものは、あまり見つかっていません。)、類似事務の一本化は、全体としてはコスト削減になるはずです。

 でも大阪都構想は、府市再編という言い方をされますが、正しくは、大阪市を広域+5つの基礎自治体に分割し、広域事務の部分を大阪府と統合するものです。歳出規模でいうと、広域事務が約4千億円、5つに分割する基礎自治体業務が約1兆3千億円です。(元データ
 広域事務約4千億円が大阪府と統合され、その一部は統合効果を発揮して、コスト削減が期待できる。これはいいのです。
 逆に基礎自治体事務約1兆3千億円は、一体の事務を5つに分割して、5つの特別区の区役所(現在の大阪市の区役所というより、市役所のようなものです。)で類似事務を行います。普通は、分割によるコスト増が発生します。
 統合する広域事務4千億円より、分割する基礎自治体事務1兆3千億円の方が、歳出規模も大きく、分割数も多く、ほぼ全て類似事務です。
 普通に考えると、広域事務の統合によるコスト削減より、基礎自治体事務の分割によるコスト増の方が大きく、全体としてコスト増を発生させるはずです。

 でも、この財政シミュレーションでは、5区案では基礎自治体事務約1兆3千億円を5つに分割しても、若干ですが、コスト削減ができるとしています。それはなぜなのでしょうか?

 1点目の疑問も、2点目の疑問も、その答は、財政シミュレーションの元となる大阪都構想パッケージ案が、いくつかの「無理がある」前提の上に成り立っていることと関係があると考えています。

 次回の記事では、財政シミュレーションを支える、いくつかの前提について、見ていきたいと思います。


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   大まかに大阪都構想のことを知りたい方は、まとめブログをご覧ください。
posted by 結 at 23:49| Comment(0) | 概要 | 更新情報をチェックする
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