2013年08月27日

大阪都構想パッケージ案のコスト論

 前回記事「今更ですが、大阪都構想での事務分担の議論」では、特別区設置協議会の第3回〜第5回で取り上げられた、8業務の事務分担の議論(その中でも、特に特別区の業務体制と関わりの深い5業務)について、ざっくりと見てみました。
 ざっくりとまとめると、「特別区の担当にするのは、地域の実情に応じた施策が期待できる点で望ましいが、そのためのコストや専門人材などの確保・配置などを踏まえないと、議論は難しい」などの委員の意見に対し、事務局である大都市局が「財政調整や職員体制はパッケージ案で示す予定」として、実質の議論は、8月9日第6回協議会でのパッケージ案の提示まで、持ち越しになったのかなというのが、議論を聞いていての印象でした。

 8月9日の第6回協議会でパッケージ案が示されましたが、業務別の情報は乏しく、業務別の議論は難しいようです。
 ただ、それ以前に、大阪都構想全体のコストも十分明らかにされていないようで、今回のパッケージ案の大きな問題のひとつと思います。
 効果額の水増しなど、色々と論点の多いパッケージ案ですが、今回は、大阪市を特別区に分割することによるコストの増減が、パッケージ案でどのように評価されているかに着目して見ていきたいと思います。


 パッケージ案についての報道記事をひとつ挙げると、次のようなものです。
--------------------------- 引用開始 ---------------------------
「大阪都」の節約効果、最大976億円 府市が試算 「年4000億円」目標に遠く及ばず
日本経済新聞 2013/8/9 22:42
http://kiziosaka.seesaa.net/article/371662206.html

 大阪市を特別区に分割して大阪府とともに再編する「大阪都構想」を巡り、府と市は9日、具体的な制度設計を議論する法定協議会に、都構想で節約できる「効果額」は976億〜736億円との試算を盛り込んだ事務局案を提示した。二重行政解消や人件費削減による効果としているが、都構想と関連の薄い項目も含んでおり、今後議論を呼びそうだ。

 松井一郎知事は就任直後、二重行政解消により府市の合計予算の5%に当たる年間4000億円の削減を目指す考えを示したが、今回の試算はその目標に遠く及ばない結果となった。

 法定協では自民党市議から都構想の実現可能性に疑問の声が出たが、終了後、橋下徹市長は記者団に「批判を受けてきたが、一歩一歩進んできて都構想の姿形が見えてきた」と強調した。

 法定協では今後、区の名称案や区役所配置なども公表し、来年度初めには区割りを確定。同6月までに最終的な制度設計である「協定書」を完成させ、府市議会の議決を得た後、来秋にも住民投票で是非を問う。ただ、法定協の日程は既に約2カ月遅れており、今後、スケジュールがずれ込む可能性もある。

 今回の事務局案は、市内24区を7区と5区に再編する計4案について効果額や区の設置費用、職員数などを試算した。

 市を中核市並みの権限を持つ区に再編した場合、将来的に職員を約4200〜1200人削減できると試算。人件費圧縮効果として約270億〜30億円を計上した。

 改革効果について、事務局案は「制度の実現前から取り組んできた改革と実現後に発生する効果すべて」と幅広に定義。このため、都構想とは別に取り組む市営地下鉄の民営化による効果約275億円や、市単独で実施している市民サービス削減などの効果237億円も含めたとしている。

 一方、大阪都移行に伴う「初期費用」は約640億〜300億円と想定した。住民基本台帳など基幹システムの改修に約430億〜160億円、区庁舎の改修費用に約191億〜125億円を計上。毎年必要な経費としてスペース不足を補う民間ビル賃料や、区議会経費など約130億〜60億円も盛り込んだ。

 財政面では、市が抱える約5兆円の地方債のうち約3兆3000億円分を償還財源と合わせて都が引き継ぐとした。区間の財政格差を補正するため、地方税の一部や地方交付税を税収の少ない区に重点配分する財政調整制度の仕組みも提示。また、構想実現には約125の法令改正が必要になることを付記した。

--------------------------- 引用終了 ---------------------------

 この記事の中から効果とコストの金額だけを抜き出すと、大阪都構想の効果額は年間976億〜736億円、コスト増は年間約130億〜60億円、初期費用が約640億〜300億円とされています。
 特に、効果額は議論の多い点で、記事でも指摘されている通り、「都構想と関連の薄い項目」でかなり水増しされています。少し厳しく、ざっと見たところでは、「100億円とか200億円とか残るかなぁ?」「効果の帰属はほとんど大阪府かなぁ」という印象を持ちました。(効果額については、別の記事で改めて取り上げます。)
 実質の効果は、水増し分を抜いた効果額から、年間130億円〜60億円とされるコスト増を引いた部分になります。効果額が小さくて、年間のコスト増が大きいと「赤字」なんてことも起こりますから、年間のコスト増がどうなるかの評価は大切です。


 まず、パッケージ案の資料構成を概観します。(元サイトはコチラ
資料1 大阪における大都市制度の制度設計(パッケージ案)【総括】

以下、4つの区割り案ごとに
1 事務分担(各区割り共通)
2 職員体制
3 財産・債務の承継
4 財政調整
5 大阪版「都区協議会」(各区割り共通)
6 法改正事項(各区割り共通)
7 特別区設置に伴うコスト
8 府市再編による効果
9 特別区のすがた
です。

このうち、今回の議論に関わりそうなのは、
1 事務分担(各区割り共通)
2 職員体制
4 財政調整
7 特別区設置に伴うコスト
くらいでしょうか?

 まず、コストの前提となる事務分担です。
 府市統合と言われますが、この資料(資料により数字が多少異なります。)(元データ 1-P29)によると、大阪市の全事業1929のうち、大阪府に統合となるのは253事業で13%に止まります。また、特別区1676事業のうち、一部事務組合など水平連携で行うのは94事業に止まります。
 現在の大阪市の事業の大半は分割され、それぞれの特別区で行うことになります。

 この事務分担を財源面でも見ておきましょう。(元データ 4-P27)
 大阪市の予算を一般財源ベースでみると、8605億円。このうち大阪府に移管されるのは2255億円で26%です。
 金額ベースでは、事業数での比較より大阪府移管のウエートは大きくなりますが、それでも、「現在の大阪市の事業の大半は分割され、それぞれの特別区で行う」というのが基本であることは、変わりません。

 次に、コストの対になる、財源=収入がどうなるかですが、財政調整の資料(元資料 4-00)で、色々と複雑な議論を行っていますが、結局のところ、大阪市の平成23年度決算額で、大阪府に移管される事業の歳出額と特別区が担当する事業の歳出額に区分し、それに対応する財源額を配分するということです。(元データ 4-P16)
 特別区の財源=収入は、一般財源ベースで合計6350億円、実際の歳出ベースで合計1兆3023億円です。(元データ 4-P6)


 さて、大阪市を特別区に分割することによるコストの増減ですが、「7 特別区設置に伴うコスト」に次のように挙げられています。

試案1(7区案)で(元資料 07-P5)
民間ビル賃貸料  53億円
議員報酬等    18億円
システム運用経費 約50〜60億円
合計 約120〜130億円

試案3(5区案)で(元資料 07-P5)
民間ビル賃貸料  22億円
議員報酬等    18億円
システム運用経費 約20〜50億円
合計 約60〜90億円

 そして、この数字から、上記の記事では、大阪都構想のコスト増は年間60億円〜130億円と報じられることになります。

 ところで、前回の記事で議論に上がった児童相談所や保健所ですが、大阪市で1ヶ所の児童相談所や保健所を、それぞれの特別区に配置し、5〜7ヶ所に分割するとしているこのパッケージ案で、ビル賃貸料とシステム運用経費以外は、費用は変わらないのでしょうか?
 児童相談所や保健所を特別区ごとに5〜7ヶ所設置することで、事務所ごとに必要になる費用とか、特別区がそれぞれに発注することで単価が高くなる費用とかは無いのでしょうか?

 (人件費の話は後ほど別に話しますが)このパッケージ案のコスト試算は「大阪市の事業を、特別区それぞれで行うこととして5〜7に分割しても、ビル賃料と議員報酬等(行政委員会委員報酬を含む)、システム運用経費以外の支出は、変わらない」としてしまっているのです。

(追記 2013.10.26)
--------------------------- 追記開始 ---------------------------
試案1(7区案)で約120〜130億円とされるコスト増が、どの程度の増加率で試算しているのかを見てみましょう。

(民間ビル賃料)(元データ 07-P13)
 執務室面積比較で、現有186,609uに対して、特別区分割後の所要278,760u。一部、過剰になる区もあるので、差引で不足する執務室面積は、123,234u。
 現有面積に対する不足面積割合は、66%。つまり、必要となる執務室面積は、66%増ということです。

 ちなみに、賃料で比較すると(現在は市所有で賃料の発生しない庁舎も多いため)、現在の賃料20億円に対して、特別区分割後の賃料は72億円で、53億円の増加。増加率は、265%で3倍を軽く超えます。(元データ 07-P15)

(議員報酬等)(元データ 07-P8)
 議員報酬(政務活動費を含む)は、現行17億8900万円に対して、特別区分割後は34億8700万円で、16億9800万円の増加。増加率は95%になります。

 その他に、各種行政委員会委員報酬として、1億2000万円が増加するとして計上されています。(現行経費の記載なし。)

(システム運用経費)(元データ 07-P9)
 システム運用経費は、現行76億9000万円に対して、特別区分割後は123億2000万円又は138億2000万円で、46億3000万円又は61億3000万円の増加。増加率は60%又は80%。
(ただし、システム運用経費の試算は基幹システム以外の部分が雑過ぎると思われるので、上ブレリスクがかなりあり。)

 執務室面積が66%増、議員報酬が95%増、システム運用経費が60%増又は80%増という試算です。
 これら3項目で、現行経費114億7900万円が231億2700万円又は246億2700万円に増加すると試算している訳です。これが、約120〜130億円とされるコスト増の中身です。

 特別区の現行予算での総支出額は約1兆3000億円。(元データ 04-P06)
 そのうち、115億円部分の試算をして、約120〜130億円のコスト増と試算した訳です。
 そしてパッケージ案では、1兆3000億円のうち115億円部分以外の試算をせず、1兆3000億円に対して約120〜130億円のコスト増(約1%のコスト増)なのだとします。

 でも、1兆3000億円のうち、115億円部分以外試算していない、このコスト計算って、変じゃないですか?
 115億円部分は試算で60%〜95%のコスト増になっているのに、他の部分を試算していないから1兆3000億円に対して、約1%のコスト増試算って、変じゃないですか?
--------------------------- 追記終了 ---------------------------

 これでは、大阪都構想のコスト増を試算したことにはなりません。
 大阪市の事業を特別区で分割して行うことにした時の経費変化は、基本、変わらないか、増えるかです。増える場合は最高5〜7倍に増える場合もあります。(24区役所を5〜7特別区に集約することの影響評価は、後述します。)
 特別区の支出は1兆3000億円ですから、もし平均1割のコスト増になっただけで、1300億円のコスト増になり、上で行ってるような、効果・コストの議論は吹っ飛びます。

 現状の住民サービスを維持しながら、大阪市が一体として行ってる事業を5〜7の特別区で行うことにした時のコスト増がどうなるのか、例え大変だとしても、きちんと試算をしなければ、大阪都構想の是非など、議論できないのです。


 もし、ここで言ってるように、特別区への分割でコスト増が起きたとすると、それは市民にどのように影響するのでしょうか?

 もし、大きなコスト増(例えば、平均1割で1300億円のコスト増など。)が起きると、当然、統合効果で相殺できません。(そもそも、統合効果って、上の記事で挙げられてる水増しの数字よりずっと小さいですし、大半は大阪府に帰属するので、特別区で起きるコスト増に充てることはできません。)
 収入=財源額は、大阪市の時の歳出額で決められてしまっているので、基本、増やすことはできません。

 収入が決められてしまってる中でのコスト増は、短期的には資産の投売りで繋いでも、結局は支出削減の努力で贖うしかありません。無駄削減で大きな効果が出ればいいですが、10年以上も無駄削減を続けた後ですから、乾いたタオルを絞る作業です。コスト増に見合う支出の削減をしようとすれば、住民サービスの削減・廃止を行わざるを得ません。
 つまり、事前の説明の中でコスト増の説明をしていなくても、実際に特別区に移行してコスト増が起きれば、市民は住民サービスの削減・廃止で、そのコスト増を負担することになります。


 次に人件費部分について、見ていきます。
 大阪市を特別区に分割することによるコストの増減は「7 特別区設置に伴うコスト」に挙げられているはずなので、本来、人件費の議論も含まれているはずなのですが、「7 特別区設置に伴うコスト」では人件費の増減の話はなく、「2 職員体制」で挙げた特別区設置後の職員数と現行の職員数の差が、特別区設置に伴う職員数の増減で、イコール特別区設置に伴う人件費の増減という資料構成になっています。
 ・・・ということで、「2 職員体制」ので特別区の職員数と、現職員数との増減を見ていくことにします。

 「2 職員体制」での特別区の職員数の求め方は、資料がいっぱいある割には、シンプルです。
 いっぱい計算をしてますが、思いっきりシンプルに言うと、中核市の例として、豊中市、高槻市、東大阪市、尼崎市、西宮市の5市を挙げ、人口10万人当りの5市の平均職員数を特別区の人口に掛けて、各特別区の職員数を算出するというものです。(中核市でやってないが、特別区が担当する業務に対する職員数などの補正は、色々とやってます。)(元データ 5区02-P12)
 7区案については、規模が小さくて5区案より効率性が劣るということで、17%程度の職員数の割り増しを行っています。(元データ 02-P14)

 簡単にいうと、中核市の職員数と同数程度の職員数を特別区に配置するということです。

 大阪市の平成24年度の市長部局等の職員数11850人(広域移管の職員数を除く。)に対して、5区案では10220人となり、1630人減・14%減となるということです。
 7区案では11962人となり、112人増・1%増となるということです。
(なお、この特別区の事務についての現職員数と特別区職員数を直接に対比したデータは、パッケージ案に見当たらなかったため、独自に算出しました。作成方法については、後述します。)

 5区案の場合で話をすると、大阪市を特別区に分割して、中核市の職員数程度に職員を配置することにすれば、職員を14%程度削減できるとするのです。

 特別区の職員数を「同規模の中核市と同数程度の職員数」として決めることについて、パッケージ案では、その考え方を言葉を重ねて説明しています。(元データ 02-P4)
 ただ、一言に要約すれば、「特別区は中核市程度の権限を担うのだから、他の中核市と同数程度の職員数があればいいだろ」に尽きるようです。


 ただ、わたしは、この特別区の職員数を「同規模の中核市と同数程度の職員数」によって決めることに疑問を投げかけます。
 パッケージ案では、人員配置の方法について、現行の人員配置をベースに決める方法と他の中核市の職員数をベースに決める方法があるのだとしています。(元データ 02-P4)でも、わたしは、そんなことはどうでもいいのです。
 どんな方法で決めても良いのですが、その結果の職員配置で「現在大阪市が行っている住民サービスや行政事務を、質や精度を含めて同じ内容を行うことができるのか」が確認されていなければ、全く意味がありません。
 しかし、パッケージ案には、この特別区の職員体制で「現在大阪市が行っている住民サービスや行政事務がそのまま行えるか」についての議論は一切ありません。

 参考とした5市でも、住民サービスや行政事務の内容はそれぞれ異なるでしょう。その5市の職員数の「平均値」で職員数を決めた職員体制が、どのような住民サービスや行政事務を実現できるとしているのかは分かりません。
 ただ、「現在大阪市が行っている住民サービスや行政事務がそのまま行えるか」について一切考慮していないことは分かります。職員数を決める過程で、大阪市の住民サービスや行政事務については、一切参考にしていないからです。

 「現在大阪市が行っている住民サービスや行政事務」と特別区の職員体制を決めようとしている「『中核市5市平均の職員数』が前提としている住民サービスや行政事務」は、別物です。
 大阪市を5〜7の特別区へ分割するなら、一般的に考えれば、必要な職員数は増えるはずです。それに対して、「中核市5市平均の職員数」を基に特別区の職員体制を決めれば、職員数は減るのだそうです。

 中核市の職員体制を「効率的」と仮定して、特別区の職員体制を決めるのに当り、その効率性を取り込めないかと検討するというのなら、理解できます。
 そういう検討をするなら、「中核市5市平均」などという訳の分からないものではなく、特定の中核市を決めて、大阪市とその中核市の事務を注意深く比較していき、どこから、その差異が出ているのかを分析することになるのでしょう。
 差異が出ている原因が、特に理由が無いならば、その差異の解消に取り組んで効率化を図ればいいでしょう。でも、差異が出ている原因に合理的な理由があるなら、無条件に取り込む訳にはいきません。合理的な理由というのは、大阪市が比較した中核市が行っていない住民サービスを行っているとか、大阪市が、同じ住民サービス・行政事務でも、より精度や質の高い内容で行っている場合などです。
 パッケージ案の「『中核市5市平均の職員数』を基に特別区の職員体制を決める」というのは、どのような理由で差異が起こっているかの検討もせず、大阪市の事務と中核市の事務に差異があるなら、無条件に中核市の事務に合わせていくとするのと、同じことです。

 ひとつ例を挙げてみます。
 子ども手当のようなものを念頭として、対象者に申請を呼び掛ける事務を考えます。

(A市の場合)
 広報紙や掲示板を使用して、対象者に申請を行うように広報を行います。

(B市の場合)
 広報紙や掲示板を使用したお知らせの他に、対象者を特定して、申請を呼び掛けるお知らせ葉書を送ります。

(C市の場合)
 広報紙や掲示板を使用したお知らせの他に、対象者を特定して、申請を呼び掛ける書類を送ります。送る書類には申請書を同封し、市役所側で把握している情報で申請書に申請事項をプリントしておきます。申請者は、内容を確認して問題が無ければ、申請書に印鑑を押して送付すれば、申請が完了するようにします。

 このA市、B市、C市の3つのケースは、どれも同じ「申請の呼び掛け」という事務です。この「申請の呼び掛け」だけで経費や事務量を考えれば、C市と比較してA市のやり方は、経費も事務量も少ないでしょう。でも、A市がC市と比較して「効率的」かと問われると、それは違うと思うのです。
 A市、B市、C市のどのやり方が「正しい」ということはありません。そして、C市と比較してA市の経費や事務量が少ないとしても、それは「やってることが違う」から当然なのです。

 大阪市がC市の事務を行っていたとして、大阪市を特別区に分割した時の特別区に必要な職員数は、C市の事務をそのまま行うとして試算をしなければ、「コスト比較」や「特別区にした時、必要となる職員数」ではありません。
 大阪市がC市の事務を行っていたとして、特別区の職員数がA市の事務を前提に試算していたとしたら、それは「コスト比較」や「特別区にした時、必要となる職員数」ではなく、「全くの別物」なのです。

 「現在大阪市が行っている住民サービスや行政事務を、質や精度を含めて同じ内容でできるのか」を検討せず、「大阪市の現在の住民サービスや行政事務の内容を一切参考にせずに決めた」特別区の職員体制は、どう考えても「大阪市の現在の住民サービスや行政事務の内容」とは、全くの別物です。
 実際、ある新聞記事(元記事)では、このパッケージ案について、作成に関わった幹部職員が「市長や知事の意向に沿うように資料をまとめたので、相当無理な作りになっている。机の上で機械的に数字をはじいただけで、うまくいくかシミュレーションしたわけではない」と不備を認めたと伝えています。


 普通に考えれば、大阪市を5〜7の特別区へ分割するなら、必要な職員数は現在より増えるはずなのに、「全く別物」の基準で決めた職員体制によって職員数が現在より減るなら、そのことは結果として、どのように機能するのでしょうか?

 「全く別物」の基準で決めた職員体制による職員数は、「大阪市の現在の住民サービスや行政事務の内容」を5〜7の特別区で行う時の「必要な職員数」ではありません。
 でも、特別区には、「全く別物」の基準で決めた職員数しか与えられません。
 特別区の区役所は、「必要な職員数」に全然足りなくても、「全く別物」の基準で決めた職員数でやり繰りすることを迫られます。

 パッケージ案においては、「『中核市5市平均の職員数』を基に決めた職員数」を区役所での職員の所要数だと位置付けています。
 でも、この記事の前半で行った財源額とコスト(所要額)の議論に当てはめると、「『中核市5市平均の職員数』を基に決めた職員数」は、コスト(所要額)ではなく、パッケージ案と取り決めによって与えられる財源額(この場合は「経営資源として与えられる人材投入数」)であることが分かります。(パッケージ案は、特別区の職員数減を「所要数の減だから、コスト減=効果だ」として計上していますが、その実は、予算削減のような経営資源の削減でしかないのです。)

 「大阪市の現在の住民サービスや行政事務」に必要や職員数に対して、特別区に配置された職員数が足りないなら、「特別区への分割でコスト増が起きたのに、財源額が今まで通りで、お金が不足する場合」と結論は同じです。
 不足する職員数で、「大阪市の現在の住民サービスや行政事務の内容」を維持することはできませんから、市民は住民サービスの削減・廃止や行政事務の質の低下で、不足分を負担することになります。
 つまり、大阪市民にとっての住民サービスや行政事務が、現在と「別物」になるということです。


 大阪都構想のパッケージ案は直接には特別区設置協議会に提出するものですが、その後を考えれば、市民に対して、大阪都構想がどのようなものであるかを示すと共に、その効果とコストを示して、市民が大阪都構想の構想の是非を考えるための大事な情報です。
 でも、ここで見た限りでは、大阪市を特別区に分割することで、大阪市民がどの程度のコストを負担することになるのか、示さないつもりのようです。
 パッケージ案を報じる記事の中では、効果額の中に関連の薄いものを積み込んで、水増しの数字になっていることを指摘するものもありますが、コストについては、パッケージ案の記載内容を、そのまま報じるものが、ほとんどです。

 でも、大阪市を特別区に分割することで、大阪市民がどの程度のコストを負担するのかを試算した情報は、パッケージ案の中にはありません。特別区の所要額が普通に膨らむと、母数が大きいですから、コスト増もかなり大きなものになります。
 市民にとってのリスクは、効果額が水増しされていることなどよりも、きちんとしたコストが示されていないことの方が、ずっとずっと大きいのです。


 補足事項です。
 上の記事の中で、記事の整理のために、「後述する」としたことについて、補足事項として説明します。

【補足1】
 上の記事で「大阪市の事業を特別区で分割して行うことにした時の経費変化は、基本、変わらないか、増えるかです。増える場合は最高5〜7倍に増える場合もあります。」としました。そして、「24区役所を5〜7特別区に集約することの影響評価は、後述します。」としました。
 この点について、整理します。

 「大阪市の事業を特別区で分割して行うことにした時の経費変化は、基本、変わらないか、増えるかです。」というのは、少し雑な議論です。
 大阪市を特別区に分割するというのは、「市役所など大阪市全体のことを1ヶ所で行う事業を5〜7の特別区の区役所へ分割して、それぞれで行う」のと同時に、「現在の24区役所で行っている仕事を、5〜7の特別区の区役所で集約して行う」ことだからです。
 市役所で行う仕事を5〜7の特別区の区役所へ分割して行うと経費や仕事量は、一般的に「変わらないか、増えるか」だとしても、現在の24区役所で行っている仕事を、5〜7の特別区の区役所へ集約して行うと経費や仕事量は、一般的に「変わらないか、減るか」です。
 市役所の仕事を5〜7の特別区の区役所へ分割することで増える経費や仕事量と、現在の24区役所の仕事を5〜7の特別区の区役所へ集約することで減る経費や仕事量のどちらが大きいのかは、整理が必要です。

 まず、「市役所の仕事で特別区の区役所へ分割する仕事量」と「現在の24区役所の仕事で特別区の区役所へ集約する仕事量」のどちらが大きいのかを、従事者数をベースに考えてみます。(予算の支出額で比べるなら、過去、橋下市長が「区長の予算は○億円」とネタにしていたように、市役所側が圧倒的です。)

 まず、職員数の割合ですが、平成24年4月の大阪市の市長部局等職員数が13845人。(区役所職員数を含みます。)広域移管の職員数を補正すると、広域移管で府へ移すのが2053人、府から来るのが58人、差引11850人です。
 これに対して、パッケージ案に挙げられていた現区役所職員数を合計すると4912人。割合は42%。
 市役所側と区役所側で分けると、区役所側の方がやや少ないようです。

 次に、集約した時の効果割合(逆にいうと、分割した時の影響度合い)を考えます。
 前回記事の保健所や生活保護の事務分担の議論の中でも出てきていましたが、市役所や保健所(生活保護では緊急入院保護業務センターの例が挙がっていました。)が大阪市一括で事務を行うのは、大阪市一括で行うのが効率的な業務です。裏返しに、区役所で事務を行うのは、大阪市一括で行っても、それほど効率的ではない業務です。

 合わせて言うと、大阪市の事業を特別区に分割して行うとは、次のふたつを合わせて行うことです。

(1)従事者数のやや多い、分割して行うとかなり非効率な業務を1市役所から5〜7の特別区の区役所へ分割

(2)従事者数のやや少ない、集約してもそれほど効率の上がらない業務を3〜5の現行区役所から、1つの特別区の区役所へ集約

 (1)の分割の影響と(2)の集約の効果を比較するなら、(1)の分割の影響の方が大きいことは明らかでしょう。
 「大阪市の事業を特別区で分割して行うことにした時の経費変化は、基本、変わらないか、増えるかです。」という説明は、一部集約による効果が考えられるので、必ずしも正確ではありません。ただ、24区役所の集約による効果は、分割によるコスト増を覆すようなものには、なりそうにはありません。


 また、3〜5の現行区役所から特別区の区役所へ業務を集約する、いくらかの効果を台無しにしそうな話があります。

 24区役所から特別区への業務集約の効果は、業務全体を集約しなければ効果になりません。
 それなのに、パッケージ案では現在の24区役所に対応して、特別区の支所を配置するとしており、現在の区役所業務のうち、区役所と支所の事務分担を次のようにするとしています。(元データ 01-P24)
支所の事務.jpg

 人員配置の上で、支所を効率的に運用しようとすれば、事務精通者が必要な業務を支所の窓口業務から除外して、基礎的な知識だけで支所の窓口業務を行えるようにすることが必要です。そうすることで、支所に少人数の職員配置で幅広い範囲の窓口業務を行うことができ、支所の誰かが休暇を取ることがあっても、他の職員が補完することができます。

 支所の事務分担表を見ると、現在の24区役所の対市民の窓口業務の大半を支所で行うとしています。(更に凶悪なことには、支所の業務とした窓口業務は、区役所の業務から外してあります。)
 恐らくは、「特別区になって特別区の区役所は遠くなっても、支所で今までの区役所で行っていた手続きや相談はできるから、市民の利便性は低下しない」と言いたいのでしょう。

 でもこの事務分担のように、支所で「今までの区役所で行っていた手続きや相談ができる」ようにしようと思えば、支所に事務精通者の配置が必要です。事務精通者が精通する事務の範囲は当然狭いですから、1支所に配置を要する職員数も、多く必要になります。

 現在の区役所であれば、窓口業務と内部事務を同じ場所で行っていますから、窓口が暇ならば他の事務作業を行うことができますが、この事務分担のように支所で窓口業務、特別区の区役所で内部事務としてしまうと、窓口が暇な時、窓口要員は遊ばせておくことになります。
 特別区はそれぞれ3〜5の支所を、現在の24区の単位で配置しますから、事務精通者を配置しながら遊ばせてしまう窓口要員の総数は、馬鹿にならないでしょう。

 特別区になっても「支所で今までの区役所で行っていた手続きや相談ができる」から、市民の利便性は変わらないと言い訳をしたいのは分かりますが、当然、このような事務分担・職員配置は非効率です。
 区役所現場の人からすれば「支所にそんな職員を貼り付けようとすれば、区役所を特別区に集約する効果なんて吹っ飛ぶし、そもそもどうやれば、支所にそんな職員を貼り付けられるのか分からない」という話になるように思います。
 パッケージ案は、言い訳に使いたい支所の事務分担は明確に示しますが、区役所ごとの部門別の職員配置数まで細かく計算しながら、支所の職員数や運用イメージには一切触れていません。


 また、現在の区役所の対市民向け窓口事務を、特別区の区役所と切り離して支所に担当させる問題を、もう1点指摘しておきます。

 大阪市を特別区に分割する、ほとんど唯一の効果は「地域の実情に応じた施策展開ができる」です。(ただ、形式的にはそういう話が成立するとしても、40万人規模とか50万人規模の基礎自治体が、市民に身近な行政運営ができる規模だとは、わたしは全く思っていません。ニアイズベターを語るなら、規模が大き過ぎます。)
 そこには当然、「市民の意見に現在よりも丁寧に耳を傾けられる」という要素も含まれているはずです。

 その市民の意見が、最も直接的に市役所・区役所へ届けられる場のひとつが「窓口」ですが、その窓口対応から、これまでの企画担当だけでなく、区役所の内部事務担当すらも遠ざけてしまうというのです。
 果たして、特別区には、今までより、市民の声が届くようになるのでしょうか?


【補足2】
 上の記事の中で、現在の職員数と特別区職員数の対比について、現在の職員数11850人(広域移管の職員数を除く。)に対して、5区案では10220人となり、1630人減・14%減。7区案では11962人となり、112人増・1%増としました。
 この現在の職員数と特別区の職員数を直接対比したデータはパッケージ案に見当たらなかったため、独自に算出した数字です。
 パッケージ案の考え方に副うように整理したつもりですが、その算出の手順を、書いておきます。

 まず、この対比を行う上で、参考になる表がパッケージ案にふたつあります。表1(元データ 02-P32)と表2(元データ 02-P43)です。(とりあえず、7区案の表を挙げています。)

 特別区後の職員数というのは、「『中核市5市平均の職員数』を基に決めた職員数」である「配置数案(標準)」を指すと思われるので、特別区の職員数11531人と一部事務組合の431人を合わせた11962人としました。
 一部事務組合は、特別区の一部の業務を切り出して水平連携で事務を行うというものなので、特別区の職員数に加えました。

 これに対する現在の職員数とは、どの数字かというのが問題になります。
 ひとつのポイントとしては、市長部局等の平成24年4月職員数13845人に対し、特別区移行となる平成27年4月までの退職者1346人を「現在の職員数」に加えるか、除くかということです。
 考え方として、特別区移行前の退職者1346人を「現在の職員数」に加えて、特別区移行以前の退職者数1346人を特別区移行の「効果」に加えるのはおかしいのです。でも、ここでの数字は、パッケージ案がどの数字を元に増減の計算をして、効果の算出を行っているかと合わせる必要がありますので、その「元の数字」を特定する必要があります。

 「職員体制の再編による効果見込額」(元データ 08-P18)で、「7区案(試案1)の場合の最終効果 27280人〜28680人」とされ、「職員数▲1218〜▲2618」とされています。
 最終効果の「27280人〜28680人」とは最終的な職員数で、この職員数になると「▲1218〜▲2618」の削減効果が生まれるという訳です。
 27280人+2618人=29898人 28680人+1218人=29898人ですから、効果算定の元になる「現在の職員数」は府市全体で、29898人としていることが分かります。

 29898人とは、この表(元データ 02-P9)の現員H24年度の「府市職員総計 T+U+小中学校技能労務」の数字で、このうち大阪市の職員数は19520人です。
 大阪市の職員数19520人とは、表2(元データ 02-P43)のH24年4月現員数小計(学校園・消防・公営企業除く)の数字ですから、特別区の職員数の対比としては、市長部局等の平成24年4月職員数13845人が対比される数字となっていることが分かります。
 つまり、特別区移行となる平成27年4月までの退職者1346人を加えて「現在の職員数」としていることが確認できました。

 市長部局等の平成24年4月職員数13845人は、広域移管業務の職員数が差し引かれていませんから、表1(元データ 02-P32)から、広域への移管業務の2053人を差し引き、広域からの移管業務分58人を加え、11850人を「現在の職員数11850人(広域移管の職員数を除く。)」としました。
 なお、広域への移管業務従事者数として除外する人数は、統合効果削減後の2053人ではなく、統合効果削減前の2301人とし、11602人を「現在の職員数(広域移管の職員数を除く。)」とする方がより厳密です。


 また、5区案の場合の表1(元データ 試案3-02-P28)と表2(元データ 試案3-02-P39)はこちらです。

 特別区後の職員数は、特別区の職員数9789と一部事務組合の431人を合わせた10220人となります。


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posted by 結 at 22:41| Comment(0) | 概要 | 更新情報をチェックする
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