2013年03月08日

大阪都構想が嫌な訳(その2)

 「大阪都構想が嫌な訳(その1)」では、「大阪都構想は、『大阪市民という単位で一部の広域行政を決めるのを止め、大阪市民は大阪市以外の府民と何も違わないのに、大阪市民だけが広域行政経費の二重負担を(市民の意思に関係なく)ずっと続けていく』という制度なので嫌だ」という話をしました。
 それでも、「今までの住民サービスが変わらないなら別にいい」という方もいると思います。

 でも、わたしは、大阪都構想の(大阪市廃止後の)特別区では、「特別区の区民が望んでも、大阪市の時と同じ住民サービスを選択することはできない。」「身近な住民サービスは、量的・質的に低下する」と思っています。
 今回は、そのお話です。

 主な論点は、次の2つです。
〇(特別区全体の合計でも)特別区は、大阪市が身近な住民サービスに投入してきた予算額・財源額より、かなり少ない予算額・財源額しか持たないと危惧される。

〇仮に特別区全体の予算額・財源額として、大阪市が身近な住民サービスに投入してきた予算額・財源額と同等の額を与えられても、大阪市を複数の基礎自治体に分割した特別区では、身近な住民サービスは量的・質的に低下する。

 ではまず、「特別区は、少ない財源しか持たないと危惧される」からです。
*管理人注(2013.9.17)
 この点については、2013年8月に示されたパッケージ案で、現状予算による配分を基本とすることが示されたので、一旦削除します。
 その考え方によるならば、特別区が現状予算より財源上不足するのは、大阪市の現状年約300億円の財源不足分(この部分は、全て特別区が負い、府は一切負いません。)と、特別区移行によるコストアップ分となります。
 パッケージ案が、現状予算による配分と掛け離れた点が無いかは、今後精査です。
 なお、削除した本文は、この記事の文末に追記として掲載しています。


 次に「大阪市が身近な住民サービスに投入してきた財源額を特別区が与えられても、身近な住民サービスは量的・質的に低下する」です。

 大阪市を5〜7つの特別区に分割するのですから、現在の大阪市が投入してる財源額を特別区が持っていたとしても、スケールメリット喪失によるコスト上昇で「今までと同じ住民サービスを提供できなくなる」のは、当然です。
 実際、2012年9月の「大阪にふさわしい大都市制度推進協議会」でも、大阪市を特別区に分割することで200億〜800億円のコスト増が発生する(元データ)としています。(ただし、滅茶苦茶に雑な試算なので、試算の数字自体にはあまり信頼性はないと考えます。)

 では、大阪市を複数の特別区に分割することで、どのような「スケールメリット喪失によるコスト上昇」が考えられるのでしょうか?

〇物品の調達単価が上昇します。申請書などを印刷する時に、今まで1万枚で発注していたのが、2千枚になれば、単価が上がるのは当然です。

〇大阪市が7つの特別区になれば、7倍(に近い)調達が必要になるコストがあります。最も典型的なのが、行政電子システムです。
 大阪市(の身近な行政)全体でも、特別区でも、ほとんど同じ業務をするのですから、ほとんど同じ行政電子システムが必要です。現在の行政電子システムをそのまま、特別区で使うとして、7ヶ所に電算センターを設置して行政電子システムを稼動させ、法律改正などのプログラム修正を7ヶ所で行うのですから、コストは7倍(に近いもの)になります。

〇大阪市が7つの特別区になれば、事務量が(7倍までならなくても)増大する仕事は無数にあります。
 市議会が7つの区議会になって、区議会議員が増えるというのは、よく指摘されますが、別に議会だけでなく、教育委員会を始めとする行政委員会も同じように増えます。
 区議会が7つになるということは、職員の議会対応の仕事も区議が増える以上に増加しますし、法律改正などに伴う条例や規則の改正を7つの特別区でそれぞれするのですから、改正案を作り、議会に諮り、市民に周知するまでの仕事が当然増えます。
 行政電子システムのコストが増えると、上で挙げましたが、システム会社への委託費用だけでなく、システムを運用する電算センターの職員、プログラム修正の内容を決めて発注を行う職員なども、当然増えます。
 もっとありふれた事務の例を挙げると、「申請書などを印刷する時に単価が上がる」という例を出しましたが、申請書の設計をする作業も、申請書の発注量を決めて見積もりを取り入札にかける作業も、申請書の印刷の校正作業も、7つの特別区でするのですから、当然に増えます。

〇単純に言うと、大阪市全体でまとめてやった方が効率的な仕事を市役所で行い、現場で行う方が効果的な仕事(=まとめてもあまり効率の上がらない仕事)を区役所で行っているといえます。
大阪市を7つの特別区に分割するということは、大阪市役所で3千〜4千人で行っている仕事を、それぞれの特別区で行うことになります。
単純に行うなら、数万人の職員増が発生しますが、職員数は中核市並みに削減するのだといいます。これは職員数を3〜4割削減になります。(以前の記事「大阪都構想の『中核市並みの職員数』から見えるもの」参照)

〇大阪市役所で3千〜4千人で行っている仕事を7つの特別区で行いながら、職員数を減らそうとすれば、
・今までの仕事を思いっきり手を抜いて、少しでも手間を減らす
・外部に委託できる仕事は、お金が掛かっても委託する
・区役所で住民と向き合う仕事をしている職員を減らして、充当する
・住民サービスの一部を廃止して、その人員を充当する

 これらの対応を、総動員して着地点を探す作業になります。勿論、大阪市役所という専門家集団に支えられた精緻な行政も崩壊します。

〇大阪市役所で3千〜4千人で行っている仕事は、ひとつづつは、細分化された仕事なので、ひとつの仕事に7人も担当者がいない場合の方が多いと思われます。
人手が足りない以前の話として、大阪市役所で3千〜4千人で行っている仕事を一通り知っている人員を、恐らく7組も用意できません。7つの特別区は、人手不足の上に、促成栽培のスタッフで、大阪市役所で3千〜4千人で行っている仕事を行うことになります。(以前の記事「大阪市の本庁機能の分割を考える」参照)

 このように考えてくると、大阪市が身近な住民サービスに投入してきた財源額を特別区が持ったとしても、量的・質的に今までと同じ身近な住民サービスを、特別区が提供できるとは思えないのです。


 実は、大阪市を5〜7つの特別区に分割しても、「スケールメリット喪失によるコスト上昇」を回避する簡単な方法があります。大阪市役所で3千〜4千人で行っている仕事を、特別区に分割配置せず、市役所の看板を「一部事務組合・大阪市役所」とか「特別区連合・大阪市役所」に架け替えて、今まで通りの仕事をすれば、コスト上昇の大半を回避することができます。(橋下市長が時々強調する特別区同士の「事務の共同化」や「水平連携」とは、業務範囲を別にすれば、この手の手法を指すと思われます。)

 でも当たり前のことでが、この方法でコスト上昇の回避をすると、全特別区一律(大阪市一律)で仕事行う体制で、意思決定の大きな部分を「一部事務組合・大阪市役所」とか「特別区連合・大阪市役所」が負うのですから、特別区ごとの住民サービスの選択という、大阪市を特別区に分割するメリットの大半を失うことになります。

 更に悪いことに、「一部事務組合・大阪市役所」とか「特別区連合・大阪市役所」は意思決定の大きな部分を負うのに、この組織の統治は、全特別区の区長などによる共同管理となり、一元的な意思決定は失われ、市民に選出された区長も区議会も、責任を負いにくい組織となってしまいます。
 こういう組織は、市民の要望が届き難く、改革などは行われ難く、ガバナンスの乱れも引き起こし易い構造となります。
 はっきり言って、「一部事務組合・大阪市役所」とか「特別区連合・大阪市役所」を作って「スケールメリット喪失によるコスト上昇」を回避する位なら、大阪市長と大阪市議会の一元的な意思決定の下に大阪市役所を置く方が、絶対にマシです。

(この議論に関する以前の記事)
意思決定の一元化が、大切だったのでは?
大阪市が都区になると、今より市民の意思が反映しにくくなるかもしれないと思う理由
大阪市分割後も、住民基本台帳システムを共同運用する影響は(その1)
大阪市分割後も、住民基本台帳システムを共同運用する影響は(その2)


 このように、特別区は今の大阪市より少ない財源しか持たないのではないか、と危惧しますし、また、今までと同じ財源額を特別区が持っていたとしても、身近な住民サービスは悪化すると危惧します。
 それは、40万〜50万人規模の基礎自治体という、住民に近いとはとても言えない特別区で実現される「ニア・イズ・ベター」のメリットに見合うものとは思いません。

 大阪維新の会が設立された2010年4月以降、橋下市長の発言や関係会議の資料、維新のマニフェストなどに気をつけて見るようにしてきましたが、これらの危惧は解消されませんでした。
 逆に「中核市並みの財源と職員数だけあれば、中核市並みの住民サービスは実現される」「(中核市並みの職員数でも)特別区の持つ財源額の総額が、現在の大阪市が身近な住民サービスに投入している金額なら、大阪市の住民サービスは維持される」で終わってしまう乱暴な議論に、心配は深まるばかりです。

 だからわたしは、大阪都構想は大阪市民の住民サービスが低下しそうなのが心配で、嫌なのです。


(追記)2013.9.17
 2013年8月のパッケージ案の発表に伴い、上記記事から削除した部分を掲載します。

(以下、削除した本文)
 ではまず、「特別区は、少ない財源しか持たないと危惧される」からです。

 橋下市長や維新側からの、大阪都構想での特別区の財源についての説明には、2つの考え方があり、その時々でいずれかが顔を出します。
 2つの考え方とは、次のものです。
(1)大阪府と特別区に対する、大阪市の基礎自治体財源の配分は、大阪市から引き継ぐ業務に合わせて配分するだけ。
(2)特別区は、同規模の市と同程度の財源(市民向けの平易な表現の時は、予算。)を与えておけば十分だ。

※自治体の「予算額」と「一般財源ベース」の違いは、後日、参照用記事で説明します。(この記事からもリンクする予定です。)


 (1)の「業務に合わせて配分」は、その時々で「今までの大阪市と同じ配分をするだけ」など表現方法は変わりますが、「今までの大阪市と(住民サービスは)変わらない」と説明する時に使われます。
 (2)の「同規模の市と同程度の財源・予算」は、特別区が持つ予算額などを示す時に使われてきました。

 特別区がどの程度の予算を持つかについて、今までに聞いた話は「特別区の予算や財源配分の説明の変遷(参照用)」に整理してみましたが、いくつか簡単に挙げてみます。

 2010年6月の生野区での大阪維新の会のタウンミーティングでは、生野区長の裁量予算1億8千万円と比較して、「生野区の人口は13万8千人。同規模の市町村の市長なら380億円位の予算がある。自分たちで区長を選んで、380億円くらいの予算の使いみちを決めたらいいじゃないですか。」とぶち上げます。(発言を要約しました。元発言はコチラから。
 ただ、当時の大阪市の市民1人当たりの予算額は約60万円。生野区の人口13万8千人なら、生野区民には800億円以上の予算が投入されていることになりますから、380億円というのは、かなり控えめな数字です。

 2011年の知事・大阪市長ダブル選挙のマニフェスト別添「大阪都構想推進大綱」では次の表現になります。
--------------------------- 引用開始 ---------------------------
5、財源・人員体制問題(元データ
 政令指定都市を廃し、その内に特別自治区を設置することで懸念される財源・人員体制問題は、全て制度の構築で解決される。
 特別自治区には中核市並みの財源を保証する。現在大阪市が提供している住民サービス分の財源は特別自治区に保障する。
 特別自治区間の税収格差問題は、基礎自治体間の財政調整制度として現在唯一存在する東京都区財政調整制度を参考に創設する新たな大阪都区財政調整制度によって解決する。大阪市に交付される交付税、固定資産税、法人市民税、特別土地保有税等を財源とし、その約6割を特別自治区に配分すれば、各特別自治区は中核市並みの財源を有することになる。現在の大阪市役所体制が各区の財政調整を担っているが、より透明性の高いルールの下、各区民の意思がしっかりと反映する新たな大阪都区財政調整制度を創設する。
 各特別自治区の職員数は中核市の職員数を基本とするが、現在の大阪市の職員数で十分に賄うことが可能である。

--------------------------- 引用終了 ---------------------------

 特別区には中核市並みの財源を保障する、調整財源の約6割を配分すれば、中核市並みの財源を有することになるとし、特別区の職員数も、中核市の職員数を基本にするとしています。
 それなのに、「中核市並みの財源」より、ずっと額の大きい「現在、大阪市が提供している住民サービス分の財源は特別区に保障する」と、矛盾に満ちた表現になっています。

 中核市並みの財源配分では、大阪市が提供する住民サービス分の財源には、特別区全体で2千億円ほど足りません。
 この点を、「大阪市の既発公債をすべて大阪府に移すとして計算すれば、辻褄は合うんだ」というのですが、それなら、なぜ最初から「大阪市が提供する住民サービス分の財源を保障する」財源配分や職員数配置を記載しないのか、よく分かりません。
 ちなみに大阪都構想推進大綱には、「大阪市の既発公債をすべて大阪府に移す」という文言は、見当たりません。


 2012年9月に、大阪府・市と府議・市議が大阪都構想を協議する場となる「大阪にふさわしい大都市制度推進協議会」に、橋下市長が「あくまでもシミュレーションしてみただけ」と断って、財源配分案を提示しました。(「あくまでもシミュレーションしてみただけ」としかしていないので、財源配分についての見解はマニフェスト別添の大阪都構想推進大綱から変えたとは言えません。)

 詳細は「特別区の予算や財源配分の説明の変遷(参照用)」に譲りますが、ぱっと見の印象は、「大阪市から引き継ぐ業務に合わせて配分」に近いものになっていて、これまでの財源配分案より、数段マシです。
 でもよく見ると、「素人目に気付かれないように、大阪府への配分を膨らませたいのかなぁ」と思える部分や「中核市並みより大きな財源額を現在使ってるなんて無駄だから、特別区は行革努力で減らせばいいんだよ。中核市並みの財源があれば十分だろう」という考え方が垣間見えてしまうのです。

 総じて言うと、
〇特別区への財源配分の説明が、その時、その時で変わってしまうので、どの説明も結局信用できません。
〇「特別区には、(現在の大阪市よりかなり少ない)中核市並みの財源額を与えておけばよい。」という思想なので、中核市並みの財源配分をどのように体裁を整えて、大阪市民に押し付けようかになってると感じてしまいます。
〇そもそも、選挙前にマニフェスト別添の大阪都構想推進大綱で「現在大阪市が提供している住民サービス分の財源は特別自治区に保障する。」としている割には、橋下市長になってから、「大阪市民の住民サービスは贅沢だ」として他市並みを基準に住民サービスの廃止・削減をやりまくっているのですから、「現在大阪市が提供している住民サービス」をしっかり守るなど、言葉では取り繕っても、行動が裏切っています。

 ・・・という風に、特別区は、現在の大阪市が投入してるより、かなり少ない財源しか持たないんじゃないかなと、危惧してしまうのです。


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posted by 結 at 06:33| Comment(0) | 結論 | 更新情報をチェックする
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