2013年01月04日

大阪都構想で24区のままだと、行政コストが高くて無理なのか?

 前々回の記事「特別区の区割り案が色々と変」で、大阪市より小さな単位の「地域」の中で、一番大きな単位は現在の24区しかないので、「地域のことは地域で決める」という観点で大阪市を特別区に分割するなら、「現在の24区をそのまま特別区にする」という区割り案しかないとしました。
 そして、「特別区の単位が現在の24区ではダメ」とする理由として、行政コストが高くなってしまうことを挙げているとしました。

 今回の記事は、特別区を24区にすると行政コストが上がるのかを見ていきます。ただ同時に8〜9区の分割案(5区案や7区案も結局同じです。)でも、行政コストが上がるんじゃない?ということも見ていきます。
 ただし、先に結論を言っておくと、府市の協議会にきちんと行政コストがどの程度上がるか、ちゃんと評価できる資料は出ていないので、かなり感覚的な結論になります。


 まず、少し回り道の議論になりますが、過去に橋下市長(当時、知事)や大阪維新の会が主張していた「大阪市を分割しても、行政コストは増加せず、逆に大幅に削減できる」という議論を見ていきます。

 従前の橋下市長や大阪維新の会が「大阪市を8〜9の特別区にする」としていたのは、30万人規模が基礎自治体の「最適規模」だとしていたからです。

 「大阪市の260万人規模では市民の意見が届かない」と主張して、大阪市を特別区に分割するとしているのですから、30万人規模が「最適規模」とするならば、「市民の意見が基礎自治体に最も届きやすい」という意味での最適規模のはずですが、過去、大阪府である程度まとまって、大阪都構想の議論を行った大阪府自治制度研究会(2010年4月〜2011年1月)でも、大阪府議会設置で大阪都構想の議論を行った「大阪府議会大阪府域における新たな大都市制度検討協議会」(2011年7月〜9月)でも、「市民の意見が基礎自治体に最も届きやすい規模」についての議論は見当たりません。(普通に考えて、30万人規模の市より、5万人規模の市の方が「市民の意見が基礎自治体に届きやすい」でしょうから、この意味で30万人規模が最適というのは考えられません。)

 大阪府自治制度研究会(元ページ)の資料には「市町村の適正規模について」の項目(元データ)がありますが、ここで30万人規模を「最適」と説明しているのは、人口1人当たりの行政経費のみです。
 行政組織の専門性など、その他の指標も検討されていますが、自治体区分の最大規模「30万人以上」になっていて、10万人規模や20万人規模と「30万人以上」の比較はできても、30万人規模と「50万人以上」や260万人規模との比較をしようとはしていないのです。

 人口1人当たり行政経費(=予算額)で30万人規模を「最適」としている資料は次のものです。(元データ上)(元データ下

規模別行政経費(大阪府).jpg

規模別行政経費(全国).jpg

 資料内に書かれていますが、このデータから「人口1人当たりの行政経費からみれば、人口規模20〜30万人程度が最も低い」としています。ここから、人口1人当たり行政経費(=予算額)が30万円程度の、30万人規模の基礎自治体は効率的で、対して人口1人当たり行政経費(=予算額)が60万円程度の大阪市は、無駄がいっぱいだと展開される訳です。

 「30万人規模の基礎自治体が、260万人規模の大阪市より、効率的といえるか」は、このブログの主要な話題のひとつで、過去にとり上げています。(以前の記事「基礎自治体は、30万人規模がコスト的に最適といえるのか」「大阪市は本当に無駄が多いのか、ふたたび」参照)
 論点をいくつか挙げると、
〇人口1人当たり行政経費は、その経費でどれだけの行政サービスが提供されるかを評価していない。高い行政サービスを提供していれば、行政経費(=予算額)が大きくなるのは当たり前で、行政経費(=予算額)が小さいことが効率的な行政運営ができているとはいえない。
〇自治体は予算額の方が先にあるのだから、行政経費(=予算額)が小さいことを「効率的」と評価するのはおかしい。30万人規模の市が1人当たり30万円で実現している行政サービスを、例え大阪市が27万円で実現したとしても、60万円の予算があるなら、残った33万円を退蔵するのではなく、追加の行政サービスに充てるだろう。市民の行政ニーズは、いくらでもあるのだから。
〇基礎自治体は、個人だけでなく、法人からも税金を徴収し、法人に対しても行政サービスの提供を行う。それは、道路整備、上下水道のような基盤整備だったり、中小企業金融や技術開発支援だったりとさまざま。大阪市は、商業地域・工業地域を多く含み、域内の法人数は膨大。個人向けと法人向けを併せた行政サービスの予算額を、(法人を除いた)個人の人数だけで、人口1人当たり行政経費(=予算額)を計算すれば、法人割合の大きい、大阪市の数字が大きくなるのは当たり前。
 といったようなものです。

 ただ、こういった議論を待たず、橋下市政が「財源が不足する」として住民サービスを大幅な切り捨てを行う「市政改革プラン」を行ったことで、「大阪市を30万人規模に分割することで、大幅な行政経費の削減ができる」とする主張を、かなぐり捨てたと考えています。

 主な理由としては次の通りです。(以前の記事「大阪市の市政改革プランは、大阪都構想と矛盾しないのか?」参照)
〇3年後とする大阪都構想で、大阪市を30万人規模の特別区に分割し、(住民サービスの引下げを行わずに)大幅な行政経費の削減(=多額の財源捻出)を行うことができるなら、「財源が不足する」として住民サービスの切り捨てを行う必要はありません。(3年間なら、不用地売却代や基金の取崩しで十分しのげます。)

〇大阪市の規模が大き過ぎて非効率になっていて、大阪市の行政単位を小さくすることで数千億円単位の効率化ができるというのならば、大阪都構想を待たずとも、大阪市役所の本庁機能を分割して、ブロック単位に配置するだけで、住民サービスの引下げを行わずに、大きな効率化ができるはずです。もし、効率化できると思ってるのなら、なぜやらないのでしょう?

〇市政改革プランの住民サービス見直しの基本原則は、4政令市や府下市町村の住民サービスの水準に合わせるというものです。それがことごとく、住民サービスの大幅な削減・廃止になるということは、大阪市の住民サービスが「他市」よりもかなり(というか、相当)充実していることを示しています。


 ・・・と、上記の「人口1人当たり行政経費」の資料を挙げると、いっぱい注釈を付ける必要があるため、長々と説明してきましたが、「24区のまま特別区にすると、行政コストが上がるのか?」という話に戻します。

 実は、上で挙げた「人口1人当たり行政経費」の表から言うと、「24区のまま特別区にすると、行政コストが高くなってしまう」というのは、市民に理解が得られにくいと考えます。
 大阪市の24区を平均で1区10万人程度として、下の表の全国のデータの理解でいうと、「30万人以上」が32万円に対して、「20万人未満」が34万円、「10万人未満」だと36万円と、「30万人以上」に対して「10万人未満」は、1割程度コスト高という理解になります。
 けれど、大阪市の現状は概ね60万円ですから、ここでの考え方でいうと、「30万人以上」なら28万円の削減ができるのに、「10万人未満」だと24万円の削減に止まるということです。24万円の削減ではダメで、28万円の削減にしたいから、「24区のまま特別区にするのはダメ」というのは、果たして市民に受け入れられるのでしょうか?

 上の表の大阪府のデータだと、更に「行政コストが高くなる」と言えなくなります。コスト最低の「30万人未満」が293,093円、「30万人以上」が299,533円に対して、「10万人未満」が302,836円です。「30万人未満」と「10万人未満」の比較で3.3%の差、「30万人以上」と「10万人未満」の比較で1.1%の差、誤差程度の差しか、見られません。

 ただ、先に長々と説明したように、「人口1人当たり行政経費」は行政の効率性の指標とはならないと考えるので、この表で「30万人以上」と「10万人未満」の行政経費に大きな差がないことにはあまり意味がありません。
 260万人規模の大阪市で1人当たり60万円の予算を使っても、その費用なりの住民サービスを実現しているなら効率性で問題がないのです。逆に、「30万人以上」と「10万人未満」で1人当たり予算が同じ30万円だったとしても、実現される住民サービスが量的に「30万人以上」より「10万人未満」が劣るなら、やっぱり「10万人未満」はコスト高なのです。



 大阪市の特別区への分割コストに関する最新の資料は、大阪府市と府議・市議が集って協議を行う「大阪にふさわしい大都市制度推進協議会について」(大阪府の参照ページ)の第6回(2012年9月10日開催)に提出された「大阪府市再編による財政への影響」という資料です。(元データ

******************** 以下、資料の要約 ********************
 まず、この資料が示されます。(元データ
特別区再編によるコスト.jpg

 議会、行政委員会、「人事、財政等各局の総務企画部門」などを24区に設置すると交付税算定上の約800億円需要額が増加するとして、これが24区に再編する場合の理論上のコスト増だとします。
 しかし、住民窓口や図書館などは既に24ヶ所設置されており、消防本部や保健所は水平連携や共同化すればコスト増にならないなどを考慮すると、約200億円のコスト増と考えられる。

 ここから、200億円〜800億円のコスト増になるとするが、大阪市は、府内他都市と比較して、行政コストが1.3倍〜1.6倍大きく(元データ)、中核市を参考に効率的な人員配置(職員数の約5割の削減)など(元データ)行革努力を行えば、吸収できるだろう。(元データ
 だから、大阪市を特別区に分割することによるコスト増は、財政調整では考慮しない。(元データ
******************** 資料の要約、終わり ********************

 気付いた点に突っ込んでみましょう。
〇24区への分割時のコスト増は強調するために出しているのですが、議論の前提とするはずの8〜9区への分割時のコスト増の提示がないのは、変です。(24区への分割でコスト増なのですから、8〜9区でも当然コスト増なのですが。)

〇24区への分割によるコスト増を、交付税算定額の増加額を理論値だとし、それを最大額として、現状を考えて引下げを検討するという手法が採られています。
でも、交付税算定が想定する前提が「現状の大阪市の住民サービスの維持」ができるものなのか、確認できません。
「現状の大阪市の住民サービスの維持」が前提となっていない中で、コストの増減やどの程度増えるのかといった議論は、基本的に意味がありません。現実の増加額が800億円より遥かに大きい可能性さえ、十分にあります。
(ただし、800億円の経常経費の増というのは、経費全体として1割のコスト増で、相当巨額です。あれだけの住民サービスの削減を伴う市政改革プランも、年間削減規模は235億円に止まります。)

〇以前の記事「大阪市の本庁機能の分割を考える」で議論しましたが、本庁設置部門(総務・企画部門だけとは限らない。)を現状機能を維持して、24ヶ所(例え、8〜9ヶ所や7ヶ所・5ヶ所でも)へ配置することは不可能です。どの程度の行政機能低下を前提とするのかを明確にしないと、コスト評価はできないと思われます。

〇購入物の単価上昇や、行政電子システムの開発・運用・保守に代表される24ヶ所になると24倍必要になる経費がどのように考慮されているのかが、不明です。

〇消防や保健所で水平連携や共同化を「工夫」として挙げていますが、水平連携や共同化は「それぞれの特別区が独自に決める」ことを否定してしまうので、複数の特別区が水平連携で一体として事務を行う位なら、意思決定が一本化された大阪市のままで、一元的に事務を行う方が遥かにマシです。
水平連携や共同化を「工夫」として挙げるくらいなら、大阪市を特別区に分割するのかに立ち戻って、考え直した方がいいと思います。


〇「大阪市は、府内他都市と比較して、行政コストが1.3倍〜1.6倍大きい」として、この記事の前段で行ったのと同じ議論を持ち出しています。(前段の記事の数字が予算額だったのに対し、ここでは一般財源額を使用しているので、数字は少し違いますが。)
 橋下市長は、自分の市政ではこの「無駄の削減」には触れず、「財源は天から降ってこない」と言って、市民に対して市政改革プランなどで住民サービスの削減・廃止を押し付けますが、特別区ができて、橋下市長の責任から離れたら、大阪市と他都市との予算規模や財源規模の差は、「削減されるべき無駄」とされるようです。
 「大阪市と府内他都市との財源規模、予算規模」の違いを「行政コスト」という表現で行政効率の違いのように決め付けますが、橋下市長も「無駄解消」に取り組んでいない訳で、「行政効率の違い」というより「住民サービスの量・質の違い」と理解をした方が良いと思います。

〇今回の資料では、結局どの程度のコスト増になるかは明らかではありません(最大が800億ということも同意しません。)が、一定コスト増になるということは示したようです。
でも、コスト増は財源配分では考慮しないと表明してますから、特別区への分割によるコスト増は、名目的には「無駄の削減」、実質的には「特別区での住民サービスの削減」で対応することになります。


 さて、この記事のテーマに戻ります。「現在の24区をそのまま特別区にすると、行政コストは高くなるのか」です。

 「24区案は行政コストが高くなるからダメ」というのは、難しいのではないかと思います。
 直近の資料でも、大阪市と府内他都市の財源額を比較して、その差を行政効率の差だと決め付けていますから、5区案・7区案の場合のコスト増と24区案のコスト増を同じ物差しで計ると、5区案・7区案は妥当だが、24区案は妥当ではないという説明は、多分付かなくなります。24区案のコスト増が多少大きくなったとしても、「無駄の解消で吸収可能」という結論は変わらないからです。

 おそらく、コスト増で24区案を否定できなくなれば、次は「24区の規模では、中核市並み権限を負うのは無理だ」など、否定のための理屈が出てくるのかなと思いますが、「では特別区を中核市並みとするか自体を検討すべきだ」とか「水平連携で何とでもなるだろう」とか、反論のための理屈も色々考えられるのかなと思います。

 ただし、実際には、大阪市と府内他都市の財源額・予算額の差は、行政効率の差ではなく、住民サービスの量・質の差なので、行政コストの増は、住民サービスの削減で贖う必要があります。

 (大阪市を特別区へ分割した結果の)行政コスト増の住民サービスへの影響は小さいとは思いません。
 それでも、わたしは、「地域のことは地域で決める」「住民に身近な基礎自治体であって欲しい」として、現在の大阪市を分割して特別区にすることを望むのであれば、24区案に拘ることをお勧めします。
 24区案は確かにコスト増になり、住民サービスの質・量へ相当の影響があると思います。でも、5区案・7区案でも住民サービスの質・量へのかなりの影響はあるのです。
 5区案・7区案にして、住民サービスにかなりのコスト増を負いながら、40万人規模・50万人規模の「地域とも言えず」「住民に身近ともとても言えない」中途半端な基礎自治体を得るよりも、24区案にして、住民サービスへ相当なコスト増を負いながらでも、「地域のことは地域で決める」「住民に身近な基礎自治体であって欲しい」に多少とも近づく方がマシに思うからです。


 ただ、わたし自身は、今住んでいる区がひとつの基礎自治体になったとしても、住民サービスが悪くなる方が嫌なので、「現在の大阪市を分割して特別区にすること」のは反対です。(10万人規模の基礎自治体になったとして「どの住民サービスを止めるか」を選ぶことに少しだけ近づくより、「どの住民サービスを止めるか」なんて、そもそも選びたくないからです。)

 また、「大阪市を分割して、住民サービスが悪くなる」のが嫌なわたしから言わせて貰えば、「地域のことは地域で決める」「住民に身近な基礎自治体であって欲しい」と望むとしても、無理やり大阪市を特別区に分割するよりも、大阪市のまま、24区の権限強化の方策を考える「都市内分権」と言われる方法の方が、よほど希望に沿うと思うのです。
 多少荒削りな感はありますが、橋下市政の「公募区長制度」も、都市内分権の一種だったりします。


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posted by 結 at 02:48| Comment(0) | 概要 | 更新情報をチェックする
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