2012年10月10日

水道事業統合の統合効果が見当たらない

 前回は、「水道施設を府と市が別々に持ってるのは、非効率だ。統合すれば無駄が無くなり水道料金を下げられる。」と言ってたはずなのに、橋下市長が(市民向けではないとはいえ)「浄水場なんて、多くの市町村で持ってるのに、大阪市の施設だけ企業団に吸収されるのは、アンフェアだ。大阪市だって、今のままの方が安いままの方が安くて得だけど、それでも企業団へ差し出すと言ってるんだぞ」といった内容を言い出しました。もし初めて聞く話だとしたら、そういった状況も踏まえて大阪市の水道事業を大阪広域水道企業団(=旧大阪府水道部)と統合することの是非を考えてみませんか?・・・という話をしました。

 今回は、記事やニュースを見ててもよく分からない、水道事業統合協議で、具体的にどのような統合案が検討されているのか、その内容を見ていくことにしましょう。


 その前に、過去の経緯を整理しておきます。

〇まず、水道事業統合が必要だと主張される状況として、大阪府(現在は、企業団へ移管)と大阪市が、それぞれに浄水場を持っていて、実際の給水量よりも、過剰な給水能力(施設規模)となっています。
府市の給水能力.jpg
元資料は、こちら。大阪府議会大阪府域における新たな大都市制度検討協議会第1回協議会資料より)

〇このような中で、大阪府において水道事業の長期施設整備計画(25ヵ年5400億円)が立てたられましたが、大阪府も財政難の状況であり、府市の水道事業を統合することで、効率的な運営が行うことができないかという、機運が生まれました。

〇大阪府市の水道事業統合協議(平成20年9月〜平成22年1月)の中で、協議されたのは、次のような案ですが、実施には至りませんでした。(当時の案が見つけられなかったので、協議中に作成された「府市水道事業統合検証委員会検証結果報告書」を参考に整理。)

府案
市の柴島浄水場(の一部)を廃止し、不足分を府の村野浄水場から供給。
(今後25年間の総費用削減効果)合計 2775億円
事業費削減 2270億円
(基本計画1540億円減、7拡張事業300億円減、柴島浄水場更新費用430億円減)
人件費削減 775億円
土地売却  90億円
ただし、新規事業 380億円増(府200億円増 市160億円増)

市案
府の村野浄水場を廃止し、府南部地域へは市の浄水場から供給。府南部地域への送水管への投資の削減も図る。
(今後25年間の総費用削減効果)合計 2080億円
事業費削減 2460億円
ただし、新規事業 380億円増

〇その後、大阪府議会の大都市制度検討協議会(平成23年7月から9月)でも、水道事業は二重行政の代表例として挙げられ、大阪維新の会提出資料では、1745億円〜1872億円の削減効果が見込まれるとされました。
府議会削減効果見込.jpg
元資料は、コレ

〇なお、この時期から、柴島浄水場の立地が新大阪駅や阪急の駅に近いとして、廃止後の跡地開発の重要性が強調されるようになります。
 平成24年1月の第3回大阪府市統合本部会議で橋下市長は、次のように述べられています。
「柴島浄水場はまちづくりに使うということを設定してもらって、アセットのマネジメントをしていただきたい。大きなグランドデザインでいうと、柴島浄水場を浄水場のままおいておくのは、絶対に大阪のためにならないと思いますので。水道局で見ると、柴島は聖地だとなるんですけれども、全体の都市構造でみれば、柴島浄水場は、こんなところに浄水場をおいておく必要はないと思います。阪急も高架の工事もありますし。」
元資料は、コレ


 これまでの経緯はこんな所です。
 それでは、いよいよ、現在、検討が行われている平成24年8月10日の大阪市と企業団の第2回水道統合検討委員会に示された案について見ていきます。
(なお、協議の議事録は、コチラを参考にしています。)

 まず、これまでの水道事業統合の考え方に副った案であるケースA(「柴島浄水場を全廃し、廃止で大阪市域で不足する水を、企業団の浄水場から購入する」案)を見ていくことにします。
 また、用水単価は現行の大阪市が40円に対して企業団は78円のため、統合が大阪市側で大幅な単価増になることを避けるため、現行の企業団の会計と大阪市域向けの水道事業の会計をそれぞれ独立させる別会計方式です。

(事業費)
 平成24年から平成41年までの18年間で、大阪市は3浄水場に対して、909億円の施設更新計画を行っています。この施設更新費用は、柴島浄水場を廃止することで41億円削減され、868億円になります。

 しかし、柴島浄水場の施設撤去のためには、219億円が必要になります。
 また、柴島浄水場を廃止しても、大阪市内への配水には柴島浄水場内の配水池を使用する必要があるので、庭窪浄水場などからの送水管を新たに建設する必要があり、送配水ネットワークの再構築に314億円が必要になります。

 柴島浄水場跡地の売却額として330億円が見込まれますが、合計すると(868億円+219億円+314億円−330億円で)1071億円と、ケースAの柴島浄水場全廃案では、現行計画の909億円より事業費が162億円増えてしまいます。

 なお、現行企業団側の施設更新費用は2021億円で、柴島浄水場の廃止の有無に関わらず、変わりません。
事業費等.jpg

(人件費)
 浄水場の人員は、現行計画と比較して、浄水場廃止になる平成35年時点で54人の減、この見込みの最終年次となる平成42年時点で37人の減が見込まれます。
 また、管理部門統合による削減が平成25年から20人見込まれます。
 この結果、平成24年から平成41年までの18年間で、大阪市域部分で50億円の削減、現行企業団部分で4億円の削減が見込まれます。
(参考:資料1 資料2 資料3 資料4

(受水費)
 柴島浄水場を全廃する結果、大阪市域の浄水場では水の供給力が不足することになるので、現行企業団の浄水場から日量16万立方メートルの供給を受けることになります。
 この水の購入費用が、平成35年から41年までの7年間で319億円(年間45億円)の増になります。
 ただし、現行企業団側では、この319億円(年間45億円)は増収なり、物件費が53億円(年間8億円)増加します。
 大阪府全体では、企業団での物件費の増加分だけコスト増になるので、53億円(年間8億円)の増です。
(参考:資料1 資料2

(その他の経費)
 その他の経費として、平成24年から平成41年までの18年間で182億円の削減を見込んでいます。
 ただし、このうちの大半は、大阪市の水道会計から、議会経費などとして大阪市の一般会計に支払う一般会計分担金を支払わなくなるためです。(参考資料
 大阪市の水道事業が企業団へ移譲されたからといって、大阪市の議会経費が大幅に減少するわけではないので、この分は、大阪市の一般会計では減収になります。

 水道事業だけをみると、182億円のコスト減になります。しかし、大阪市の一般会計を含んだ大阪全体としてみると、コスト減はありません。(18年分として、大阪市の減収は180億円なので、正確には2億円のコスト減です。)

(支払利息)
 説明がないため詳細は不明ですが、支払い利息が153億円増えるそうです。
元資料はコレ

(全体として)
 上記の説明項目の増減を集約すると次のようになります。
ケースA経費増減.jpg

 単純に集計すると、大阪市域で402億円のコスト増、現行企業団で270億円の増収となり、差引132億円のコスト増になります。
 ただし、その他に上で説明しきれていない、物件費、市町村交付金、減価償却費の増減があるようで、それらを考慮すると、「詳細差引」の段で挙げた、大阪市域で358億円のコスト増、現行企業団で270億円の増収で、差引88億円のコスト増です。(元資料はコチラ

 また、大阪市の180億円の減収を考慮した、大阪府全体としての収支は、268億円のコスト増となります。

 結局、ケースAの「柴島浄水場を全廃し、廃止で大阪市域で不足する水を、企業団の浄水場から購入する」統合案では、大阪府全体では88億円のコスト増(大阪市の減収180億円分をコスト減と評価しないと、268億円のコスト増)となり、コスト増になるような水道事業統合に妥当性はありません。
 それでも、現行企業団側の会計は増収になるので、この案を推す声もあったようです。

 今回の検討資料の中で、このケースAの案は次のように評価されています。
〇用水供給事業(現行企業団側会計)としては、H35から7年間で計319億円の収益増。
〇市域水道事業(大阪市域部分会計)としては、収支が悪化するが、現行料金は維持。
元資料はコレ



 次に、ケースA以外の統合案として、ケースB(「柴島浄水場の上系と庭窪浄水場の一部、企業団・村野浄水場の一部を廃止する」案)を見ていくことにします。(詳細は、コレ
 また、用水単価は現行の大阪市が40円に対して企業団は78円のため、統合が大阪市側で大幅な単価増になることを避けるため、現行の企業団の会計と大阪市域向けの水道事業の会計をそれぞれ独立させる別会計方式です。。

 この案の特徴は、大阪市域の浄水場と、現行企業団の浄水場をバランスよく廃止して、供給能力のダウンサイジングをすることで、大阪市域の浄水場で大阪市域への給水を行い、現行企業団の浄水場で現行企業団の用水供給を、間に合わせる案ということです。

 しかし、この案には根本的な矛盾があります。
 この案の中に、大阪市と企業団の水道事業の事業統合といえる部分は(管理部門の統合以外)全くありません。大阪市の水道事業を、企業団から独立させたまま、その経営と事業資源を、大阪市から企業団へ無償譲渡するというだけです。
 この案の効果は、(人件費の各4億円の削減以外)大阪市水道局と大阪広域水道企業団として、それぞれ独立したまま、実現することが可能です。

 では、このケースBの効果を見ていきます。
(事業費)
 平成24年から平成41年までの18年間で、大阪市は3浄水場に対して、909億円の施設更新計画を行っています。この施設更新費用は、柴島浄水場上系などを廃止することで32億円削減され、877億円になります。

 しかし、柴島浄水場上系の施設撤去のためには、104億円が必要になります。
 また、柴島浄水場の一部廃止で供給力が低下するため、他地域の供給網を増強する必要があり、送配水ネットワークの再構築に98億円が必要になります。

 柴島浄水場上系跡地の売却額として160億円が見込まれますが、合計すると(877億円+104億円+98億円−160億円で)919億円と、ケースBの柴島浄水場上系廃止案では、現行計画の909億円より事業費が10億円増えてしまいます。

 なお、現行企業団側の施設更新費用は2021億円で、柴島浄水場などの廃止の有無に関わらず、変わりません。(村野浄水場の一部を廃止するのに、なぜ変わらない想定なのかは、不明です。)
事業費等.jpg

(人件費)
 浄水場の人員は、現行計画と比較して、柴島浄水場一部廃止になる平成34年時点で26人の減、この見込みの最終年次となる平成42年時点で17人の減が見込まれます。
 また、管理部門統合による削減が平成25年から20人見込まれます。
 この結果、平成24年から平成41年までの18年間で、大阪市域部分で38億円の削減、現行企業団部分で4億円の削減が見込まれます。(村野浄水場一部廃止による人件費削減の見込みが、なぜ無いのかは不明です。)
(参考:資料1 資料2 資料3 資料4

(受水費)
 大阪市域の浄水場で大阪市域への給水を行い、現行企業団の浄水場で現行企業団の用水供給を、間に合わせる案なので、受水費は発生しません。

(その他の経費)
 その他の経費として18年間で182億円の削減を見込んでいます。
 ただし、ケースAで説明の通り、この経費減のうち180億円は、大阪市の一般会計の減収によるものです。

 水道事業だけをみると、182億円のコスト減になります。しかし、大阪市の一般会計を含んだ大阪全体としてみると、2億円のコスト減に止まります。

(支払利息)
 説明がないため詳細は不明ですが、支払い利息が9億円増えるそうです。
元資料はコレ

(全体として)
 上記の説明項目の増減を集約すると次のようになります。
ケースB経費増減.jpg

 単純に集計すると、大阪市域で201億円のコスト減、現行企業団で4億円のコスト減となり、合計205億円のコスト増になります。
 ただし、その他に上で説明しきれていない、物件費、市町村交付金、減価償却費の増減があるようで、それらを考慮すると、「詳細差引」の段で挙げた、大阪市域で221億円のコスト減、現行企業団で4億円のコスト減で、差引225億円のコスト減です。(元資料はコチラ

 また、大阪市の180億円の減収を考慮した、大阪府全体としての収支は、45億円のコスト減となります。

 ケースBの「柴島浄水場の上系と庭窪浄水場の一部、企業団・村野浄水場の一部を廃止する」統合案では、現行企業団側で、なぜか村野浄水場の一部廃止の効果を一切計上しないので、管理部門統合による人件費削減4億円しか、変わらないことになっています。
 また、大阪市域部分での221億円の効果の多くが、大阪市の減収180億円によるもので、実質のコスト減は41億円に止まります。
 18年間で実質45億円の効果と、結局効果額はかなり限定的なこと。また、最初に述べた通り、この案は、実質統合は行っておらず、大阪市水道局と大阪広域水道企業団のままで、これらの効果の多くが生み出せることから、ケースAを否定してケースBの検討に入った時点で、なぜ統合するのかの最初に立ち戻って、考え直した方が良いと思います。
 221億円と捉えるにせよ、実質の41億円と捉えるにせよ、「統合効果」ではありません。

 今回の検討資料の中で、このケースBの案は次のように評価されています。
〇市域水道事業(大阪市域部分会計)としては、18年間で221億円の効果。
〇用水供給事業(現行企業団側会計)としては、18年間で計4億円の効果。定性的メリット(技術力の向上等)を強調。
元資料はコレ


 この2つの案だけで検討が集約されないと考えてか、大きく分けて、あと2つの案が提案されています。

 ひとつは、ケースBの実質事業統合なしで、会計統合を行うケースです。(ケースAの会計統合が無いとされてる訳じゃないですが、ケースBに絞ります。)
 用水単価は現行の大阪市が40円に対して企業団は78円ですが、会計統合を行うとは、この双方の単価を一本化して、57円にするということのようです。(挙げられている案は、5年間会計分離を行い、5年後に会計統合を行うとしています。)

 この場合、大阪市域部分は、現行40円の原価が57円に値上がりする訳ですから、大阪市民の水道料金を値上げしない想定の中では、赤字ぎりぎり・収支ボロボロになります。完全な赤字になるまでは「値上げ不要」と決め付け、「将来の値上げリスク有」の評価にしていますが、大阪市の水道事業も、企業団の水道事業も、一定の利益水準を確保して健全経営を行っていることを考えれば、会計統合で原価が上がれば「値上げ必要状態」にすぐに突入すると考えた方がいいでしょう。

 現行企業団部分の会計も78円から57円への引下げは、収益が悪化すると説明していますが、大阪市域部分の増収分で補填されるので、トータルとしての現行企業団の会計が悪化することはありません。(会計統合し、単価を平均化するとはそういうことです。)
 そして、現行企業団部分では、用水価格が21円も引下げになりますから、大阪市以外の市町村での水道料金はかなりの引下げができることになります。

 企業団側は、すぐの会計統合はしないとしていますが、会計分離を永続できるかなど分からないとし、長期的には会計統合を当然としています。
 会計統合に当たっては、値上げになるようなものにせず、企業団側原価の引下げで統合されることが望ましいと口では言っていますが、浄水場原価は、企業団側の方が5円程度安く、40円と78円の価格差は、遠方への送水コストから発生していると思われるので、普通、この差はなかなか縮まるものではありません。

 大阪市民は、大阪市の水道事業を水道企業団へ移譲するならば、当面会計統合はしないという話になっていても、長期的には会計統合され、水道料金が値上げになるリスクを負うと考えた方がよいように思います。
会計統合経営シミュレーション.jpg


 もうひとつは、ケースBの実質事業統合なしのケースで「大阪市域の水道事業で発現する統合メリット(18年間で計221億円)を43市町村で共有する」という案です。

 今回の検討資料の中で、このケースB(統合メリットを43市町村で共有)の案は次のように評価されています。
〇新たな選択肢の提案。
〇大阪市・42市町村の両方に定量メリットが発現できる。
元資料はコレ

 ケースBの整理で説明したように、ここで挙げられている221億円とは、そもそも「統合効果」ではありませんし、その多くを占める180億円は、大阪市の減収によって生まれているものです。
 大阪市の減収によって生まれた水道会計の余剰を、水道会計の中で大阪市民に還元するのではなく、「統合効果」ということにして、他市町村へ提供しようとするものです。
 企業団へ水道事業統合を依頼するのに、統合で何の利益も生まれないのでは、現行企業団を構成する市町村も賛成しにくいので、大阪市の減収で生まれる年10億円をお土産に付けたという感じです。


 橋下市長の従来の主張からすると、柴島浄水場全廃し、水道事業の実質統合を行うパターンAを推すはずですが、8月10日の第2回水道統合検討委員会で各市町村所有の浄水場(自己水)の廃止(又は企業団への移管)を求めて、話を引っ掻き回したのは、パターンAに流れそうなのを、実質統合なしのパターンBへ持っていくためだったようです。(パターンBのうち会計分離・統合メリット共有案)
 加えて、水道局職員をいっぱい移管させた外郭団体への業務委託を永続的に随意契約で行うように押し込むためというのもあるようです。


 どう見ても、水道事業の「統合効果」は生まれない。(無理に従来主張してたような事業統合をすると、大幅なコスト増になる。)
 橋下市長自身、事業統合を行わないパターンBの案に変わってしまい、今はただ、他市町村が経営の主体となっている大阪広域水道企業団へ、大阪市(民)の水道事業を無償譲渡することのみに、闇雲に突っ走っている。

 これだけ、今まで主張してきたことと違う結果が出てきたのですから、今の状況をきちんと大阪市民に説明をし、何のための水道事業統合だったのか、その原点に返って考え直す場面だと思うのですが、橋下市長も、大阪府市統合本部も、何が何でも、大阪市の水道事業を企業団へ移譲したいようです。

 橋下市長は、選挙前はあまり聞かなかった「府域一水道」になれば、メリットが出てくると主張し、だから、今、メリットが無くても、まず大阪市の水道事業を、企業団の下に置くべきだと主張しているようですが、その最大利益になるはずの大阪市と企業団の統合で統合効果がないのですから、「府域一水道」で効果が出るかなんて、信じられません。
 水道事業統合の効果なんて、「府域一水道」という、いつ実現するとも分からない話の先に置いておけば、責任を負わなくて済むというようにも見えます。


 大阪市民としては、今となっては、ただ、しっかりと知り、見つめることしか、既にできないのですが。



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posted by 結 at 05:52| Comment(0) | 広域行政 | 更新情報をチェックする
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