2012年09月14日

「水道事業統合で大阪市民は損を負うのだから、他市だって」と橋下市長が言い出した

 大阪都構想の話の中で、大阪府と大阪市の水道事業は、二重行政の無駄の象徴として語られてきました。

(大阪府の水道事業は、現在、大阪市を除く府下42市町村が運営する大阪広域水道企業団に移管されているので、正しくは「府の水道事業」ではないですが、事業の中身は大阪府水道部と同じものです。)

 現在、大阪府市の特別顧問で大阪府市統合本部会議に参画する上山信一氏(知事、大阪市長のダブル選挙時は、大阪維新の会政策特別顧問)は、知事・大阪市長のダブル選挙時、府と大阪市の水道事業を統合について、次のように説明します。(一部を抜粋。元記事はコチラ
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 人口減少や節水の浸透で大阪の水需要は減っている。府と大阪市を合わせた1日の給水量は、1994年からの15年で25%も減った。ところが、人員も設備能力もあまり減らされず、約2〜3割が余剰だ。

 府と市が別々に設備を維持し、投資していくのは非効率だ。経営統合したうえで民営化すべきだ。市の柴島浄水場など古くて、非効率な設備は廃止する。東京では、旧淀橋浄水場が新宿副都心に変わった。大阪でも、都心に近い淀川沿いにある柴島は、跡地の再開発を期待できる。

 府と市の間でも統合協議が行われてきた。その結果、今年4月、府は水道部を廃止し、大阪広域水道企業団を発足させ、大阪市を除く府内全ての市町村が参加した。大阪市だけが加わらなかったのは、統合による合理化を嫌がる労組に配慮したためと思われる。
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 このような認識の下、松井知事は、選挙時、次のように説明していました。(一部を抜粋。元記事はコチラ
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 府と大阪市の壁をなくして広域行政を一元化し、大阪の経済、医療、教育を再生させる。府と市の二重行政、税金の無駄遣い、スピード感のない行政運営を変えたい。

 大阪は失業率が高く、個人所得は低いままだ。なぜか。狭いエリアの中心に、府と大阪市の巨大な役所があるからだ。水道料金は、府の42市町村が一体化した企業団に大阪市が入れば、すぐに下げられる。平松邦夫市長は市民ではなく、市役所にいる人たちに気を使っているから、それは出来ない。
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 この大阪市と大阪広域水道企業団との水道事業統合についての協議は、橋下市長の当選後、始められていたのですが、2012年8月になって唐突に、次の記事が報じられました。
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「ほかもなくせ」橋下市長発言で結論出ず 水道事業統合
産経ニュースwest 2012.8.10 12:56
http://kiziosaka.seesaa.net/article/285886281.html

 大阪府の42市町村で構成する「大阪広域水道企業団」と、大阪市水道局の統合について協議する検討委員会の会合が10日開かれ、市水道局の柴島浄水場を全廃か一部廃止する統合案2案が検討された。橋下徹大阪市長は「柴島全廃は構わないが、ほかの市町村も自己水(独自の供給水)をなくす方向でやるべきだ」と主張、他の首長からは「話が急だ」と反発する声が上がり、結論は出なかった。

 この日示された案は、市の柴島浄水場を全廃、企業団の村野浄水場を縮小する内容のA案と、柴島浄水場を一部廃止して市の庭窪浄水場、村野浄水場を縮小する内容のB案。検討委では11月に最終的な統合形態を決め、来年2月の各市町村議会に大阪市と統合する規約変更案を提案する方向。
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 「市町村の自己水(独自供給水)って、何?」とこれだけだと、ちんぷんかんぷんな記事ですが、橋下市長のこの発言をきっかけに、水道事業統合の背景がいくつか報じられたので、今回はそれを見ていきましょう。

 丁寧な説明かなと思えたのは、関西テレビ「スーパーニュース アンカー」2012年9月7日放送分「金曜日のギモン!?水道の大阪府市統合はどうして難航?」という特集です。かいつまんでご紹介します。(カッコ書きは、わたしの補足です。)(放送内容の書き起こしはコチラ。 動画はコチラ。

〇各市町村は、独自の水源を元に浄水場で水を作っていて、これを「自己水」と言います。自己水は安く作れますが、これだけでは不足するので、大阪広域水道企業団から購入し、市町村はこの2系統の水で家庭に水を届けます。
(別の記事によると、大阪市を除く府内42市町村のうち、31市町村が「自己水」を保有。大阪市は自己水のみで市内の需要を賄えるため、大阪広域水道企業団からの購入はなく、企業団への参加もしていない。)

〇橋下市長は、大阪市の水道事業と大阪広域水道企業団の統合協議に当り、大阪市以外の市町村も、自己水(市町村保有の浄水場)を廃止して、企業団への一本化を主張。

〇大阪市以外の市町村では、自己水を止めて企業団からの水購入に切り替えると、コストが高くつくこと(水道料金の値上げに繋がります。)や、災害時などの市民のための水確保といった考え方もあり、反発する声が多い。

〇橋下市長は「そら自己水みんな持ってて、こっちの方が得だって言い出すと、『大阪市もそら今の方が安いままで得ですから』。自己水を他の市町村は、自分の所は今の方がいいから、今のままでいいんだって言い出すと、これはちょっと統合、進まないんじゃないのかなと思うんです。あとはトップの判断だと思うんですけどもね。」と、大阪市の自己水だけ、企業団に吸収されるのは、アンフェアだと主張。

〇結局、将来的には企業団への一本化を目指すことでは一致しましたが、具体的な工程はほとんど決まっていません。山積する課題を解決してひとつになるのは、当分先になりそうです。
(ちなみに、このニュース、これまで行われてきた、大阪府市の水道統合議論が、企業団(=大阪府水道部)と大阪市の水道事業だったことを、橋下市長の主張に合わせて、大阪市以外の市町村の自己水(=浄水場)まで統合することにすり替えていたりします。)


 また、他の記事でもアンカーの報道にない、興味深い内容があるので、挙げてみます。
〇大阪市の1立方メートル当たりの給水コストは、大阪市の約40円に対し、企業団は約80円。事務方の試算では(大阪市だけ別会計にして、他の市町村が一律に負っている市町村までの送水コストを大阪市だけ負わないことにすれば)統合後も大阪市域の料金は維持可能とされるが、市議会には水道料金の値上げにつながるという懸念がある。(元記事はコチラ

〇企業団加盟の市町村からは、大阪市の水道料金維持(のために、大阪市を特別扱いすること)に異論が出ている。(元記事はコチラ

〇企業団加盟の市町村からは、大阪市水道局職員1700人のうち600人を外郭団体へ転籍するだけでは、大阪市の加入による組織の肥大化を防ぐには不十分だとの不満が出ている。(元記事はコチラ


 上で紹介した9月7日放送分のアンカーでは、水道統合協議が難航していると報道していますが、次の記事の通り、8月24日の水道統合についての首長会議で一定の決着をしています。
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大阪市水道局と広域企業団 水道統合を確認
大阪日日 2012年8月26日
http://www.nnn.co.jp/dainichi/news/120826/20120826027.html

 大阪市水道局と大阪広域水道企業団の水道統合について話し合う、府内43市町村長の首長会議が24日、大阪市北区の大阪国際会議場で開かれ、両者を水道統合する方向性が確認され、具体的な議論は今後引き続き行うことで合意した。大阪市の橋下徹市長が求めていた、他市町村の水道統合を行う府域一水道の時期の設定については、他市町村の首長の反発もあり、府域一水道を目指す意志確認と今後協議を行うことを合意するにとどまった。

 大阪市水道局と企業団の水道統合協議は、10日に開かれた統合検討委員会で中間方向案がまとめられる予定だったが、大阪市が府域一水道での他市町村の自己水の扱いや時期設定について言及、委員会が紛糾し、統合の白紙化が懸念されていた。

 橋下市長は、首長会議でも「他市町村の水道統合についても、大阪市のケースと同じルールでフェアに行われるならいい」として、統合に伴う合理化での職員の扱いなどの統合条件に対し、他市町村の統合の場合を念頭に置いたものとするよう再考を求めた。

 府域一水道の時期設定についても議論され、他市町村側は将来的な府域一水道には理解を示すものの、本年度浄水場が稼働を始めた交野市などが難色を示し、時期の設定は見送られた。

 一方、統合条件の見直しについては人員削減などが盛り込まれていた統合検討委の中間報告案を棚上げし、大阪市の柴島浄水場の半分を廃止して統合する方針で合意するにとどまった。

 企業団の企業長を務める竹山修身堺市長は「統合の方向性におおむねの理解が得られた。統合にはちょっと時間がかかるのではないか」と述べ、2013年春の統合を目指していたスケジュールが遅れる見込みを示した。

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 大阪市以外の市町村の自己水の扱いは、従来の「検討するとしながら棚上げ状態」を改め、府域一水道を目指す意思確認と今後協議を行うことを合意。ただし、時期設定などの具体化は行いませんでした。
 ちょうど、8月に衆議院解散時期が問題になった時、当初民主党が「近い将来」としていたのが、党首会談で「近いうち」になったのと同じようなものと思います。

 そして、8月8日に元々検討することとしていた、市の柴島浄水場を全廃、企業団の村野浄水場を縮小する内容のA案と、柴島浄水場を一部廃止して市の庭窪浄水場、村野浄水場を縮小する内容のB案は、橋下市長の求めるB案となり、大阪市水道局職員の追加的な人員削減は回避したということのようです。

 わたしは、今回の橋下市長の自己水廃止の主張は、A案・B案の選択など統合条件で、橋下市長の主張を通すために、紛糾する議題をわざと投げ込んだと思うので、これで決着と理解します。


 さて、他市町村の自己水廃止の是非を議論するのは、この記事の趣旨ではありません。大阪市民にとっては、もっと気になる話が「ついでに」出てきてますから。

(1)大阪の浄水場って大阪府と大阪市だけが持ってて、府と市が、それぞれに巨大なインフラ施設を整備してるのが、無駄や二重行政やと言ってたんじゃないの?多くの市町村が浄水場を持ってるなら、大阪市の浄水場だけが目の敵にされてたのって、どう考えても、変やんか。

(2)「自己水持ってる方が得だって言い出すと、『大阪市もそら今の方が安いままで得ですから』」って、どういうこと?
 水道統合協議の話には、元々他市の自己水の話なんか出てきてないやん。そんなんなくても、大阪市と水道企業団の水道事業が統合されたら、無駄がいっぱい無くなって、水道料金も下げれるって話やったやん。大阪市民も得ばっかりやのに、平松市長はリストラを嫌がる組合に配慮して反対してただけって言うてたん、ちゃうの?「大阪市も、今の方が安いままで得」って、根本的に話が違うやん。

(3)大阪市と水道企業団の水道事業が統合されたら、無駄がいっぱい解消されて水道料金が下がるって言うてたやん。それやのに、何で「こんだけ水道料金が下がる」って話が、いっこも出えへんの?大阪市だけ特別扱いして、やっとこさ値上げを避けれる見込みって変すぎやん。

・・・と思う人って、少なくないと思うのです。


 実際、今のまま協議が進めば、大阪市民には、かなり不利な結果になると思います。

(1)橋下市長は、今までの府市の水道事業統合による二重行政解消で水道料金引下げを言ってたのを知らんぷりをして、府域一水道が実現したら水道料金引下げって、言い出しました。
 上の話でも分かるように、府域一水道は、なかなか実現するものではないです。
 しかも、企業団の水卸料金80円に対して、大阪市の給水コスト40円。もし、企業団が自己水廃止分の供給量の増加で、単価の引下げをするとして、80円を40円まで引き下げようとすると、今の供給量を2倍以上にする必要があります。でも、2倍の供給を行おうとすると、施設の増強が必要なので単価が半額になることはないし、第一、今回の協議で、柴島浄水場など、施設の大幅廃止をしようとしてるんです。
 府域一水道が実現したら、水道料金引下げって、「遠い未来の話なら、どんな約束をしても、また誤魔化せば大丈夫。」って話に思います。

(2)大阪市の給水コスト40円、企業団の水卸料金80円の中で、大阪市が企業団に参加しても水道料金の値上げを回避できる見込みなのは、大阪市分だけ別会計にするからだそうです。
 大阪市を別会計にして値上げを回避できるのは、企業団の水を利用する他市が一律に負担している送水コストを大阪市だけが負担しないからです。
 当然、上の記事でもあったように、大阪市にこのように特権的な待遇を与えて大阪市の水道料金を現状で維持することには、反発の声があります。そして、こういう反発は、時間が経過し、企業団参加時の経緯が風化していくと、どんどん強くなります。
 例えば10年後、「大阪市だけ特別な料金の計算方法を採って、割安にするのはおかしい。大阪市も、他市と同じコストを負担するべきだ」という声が上がった時、大阪市以外誰も反対せず、容易に値上げされることになるでしょう。


 大阪市以外の自己水の話も、大阪市の給水コストと企業団の水卸料金の大幅な差も、ずっと過去からあった話ですし、秘密にされていた訳でもありません。実際、水道統合協議について、このブログで取上げた時にも(少し数字が違いますが)触れています。(過去の記事1 記事2

 ただ、大阪府・大阪市の水道事業の二重行政の無駄を語る時、橋下市長や維新の会、そしてメディアも、これまでは触れることもなく、興味を持って調べている人以外は、知らなかっただけのことです。

 そして、大阪府・大阪市の水道事業は、二重行政で無駄だとされ、統合されれば薔薇色の未来と語られてきました。
 水道事業統合がされても何も問題がなく、無駄が減って水道料金が下がるだけと聞かされた人が、反対するはずもありません。大阪市長選で橋下市長が当選し、水道事業統合は、市民の信任を得たと語られることになります。
 勿論、実行の段階になれば、どう言い繕っても、現実は現実としてあり、問題は無くなってくれません。


 大阪都構想においては、大阪府域に、大阪府と大阪市という巨大な役所が二つあることが、問題で、大阪の発展を妨げ、巨大な無駄を生み出していると語られます。大阪府と大阪市が統合されれば、これらの問題は解消され、大阪が発展するための器を用意することができるのだと。
 さて、この話の中には、(大阪府・大阪市の水道事業の二重行政の無駄の話のように)大阪市民が知っていないといけない、語られていない話はないのでしょうか?


・・・もし、この記事を気に入っていただけましたら、お勧め記事のまとめ目次から、他の記事もどうぞ。
   大まかに大阪都構想のことを知りたい方は、まとめブログをご覧ください。
posted by 結 at 03:06| Comment(0) | 広域行政 | 更新情報をチェックする
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