2012年06月03日

大阪都構想は、大阪市分市案より本当にマシなのか?

 少し以前の記事になりますが、こういう報道がされたのを覚えているでしょうか?

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大阪市分割案 5市が再生団体転落…市試算
(2010年10月7日 読売新聞)

赤字100億円超は7市

橋下知事が掲げる「大阪市分割案」に基づき、同市を9市に分割すれば、7市が年間100億円以上の赤字となり、うち5市は財政破綻状態の「財政再生団体」に転落すると、大阪市が試算していることがわかった。梅田周辺など大企業が集中的に立地する地域の税収が、市の収入の大きな部分を担っているためで、市は「市を分割すれば、市民サービスの低下は避けられない」と批判している。これに対し、橋下知事は「大阪市を自治体に分けて独立する方が財政格差は埋まっていく」と反論している。

橋下知事は府市を解体・再編する「大阪都構想」に加え、最近は「大阪市を8〜9市に分割する」と分市案を唱えている。市は、知事派の市議が公表している9分割案を基に、分割後の各市の収支を2008年度決算ベースで試算。その結果、北・都島・旭区の統合市(589億円の黒字)と中央・西・浪速・天王寺区の統合市(1465億円の黒字)を除く7市で、市税や地方交付税などの歳入が年間122億〜230億円も不足すると判明した。

東住吉・平野区の統合市など5市では、赤字割合を示す「実質赤字比率」が20〜27・1%に上り、財政再生団体転落の基準(20%)以上になった。残る2市も、再生団体の一歩手前にあたる早期健全化団体の基準(11・25%)を上回った。

 分割で生じる各市間の財政格差について、橋下知事は「地方交付税制度などで是正できる」と主張。しかし、地方交付税は「あくまで標準的な行政を担保する制度」(総務省)で、支出分全額を保障する仕組みにはなっていないことから、市は「交付税での格差解消は不可能」と指摘した。

大阪都の場合ならば、都がいったん税収を徴収し、特別区に再配分する仕組みが想定されるが、分市案では都制度のような財政調整制度が使えず、市幹部は「財政状況が極度に悪化する恐れがある」としている。

 試算について橋下知事は6日、「大阪市が管轄していても財政格差はある。市役所に任せるから無駄が生じており、各地域に公選の首長を置いて財政調整した方が、競争が生じて向上する」と反論。「分市をした市長同士で協議会をつくり、(財源配分を)決めるやり方もある」と述べた。

 地方自治体財政健全化法では、財政再生団体になると、財政再生計画の策定が義務づけられ、国の管理下で市民サービスの大幅な見直しなどを余儀なくされる。現在は北海道夕張市のみが指定されている。
分市時財政格差(地図).jpg
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 経緯を振り返っておきましょう。
 2010年4月に当時の橋下知事が、大阪都構想を打ち出し、維新の会を結成。
 2010年8月末 橋下知事が、大阪市を小さな市に分割すれば、大阪都構想のような法改正が不要で、都構想の目指す府と市の役割の明確化など、目的が達せられるとして、大阪市分市案を提案。
 2010年9月 橋下知事・平松市長の意見交換会で、当時の平松大阪市長が「大阪市分市案は、分市後の各市に大幅な税収格差を生む」と指摘したが、橋下知事は「交付税制度で財政調整が図られるから問題ない」と主張。
 2010年10月7日 大阪市が、分市時の財政シュミレーションの結果を発表し、分割後9市中、7市が年間100億円以上の赤字、うち5市が財政破綻である財政再生団体となるという試算結果を公表。(上記の記事)
 2010年10月9日 大阪市分市案では、各市間の財政格差の調整が難しいとして、大阪市分市案を撤回。大阪都構想の一本化を発表。

 その後、橋下知事は次のように発言されています。
 「分市の場合には、新しい財政調整の仕組みが必要になりますけども、都構想の場合には、大阪市役所が今やってる財政調整のやり方を『都』がやるんで、まったく財政格差が生じないっていうことをはっきり打ち出すために、まあ、ちょっと、議論の過程をオープンに出したんですけどもね。」(2010年10月12日毎日放送「ちちんぷいぷい」より)

 ・・・といったような話で、大阪都構想は、上の記事のような批判に対して、各市間(大阪都構想では特別区間)の大幅な財政格差を発生させないものとして、改めて打ち出しました。

 その後、「大阪市を『適正規模』にするのなら、特別区のような中途半端な自治体にするのではなくて、なぜ分市でちゃんとした市にしないのか」の問いには、「財政格差を生み出さないため」としていたと思います。

 それでは、大阪市に住む住民にとって、大阪都構想は、大阪市分市案よりマシな内容になっているのかを、今回は見ていきたいと思います。

 まず、大阪市の分市シュミレーションの詳細は、当時大阪府で大阪都構想の検討を行っていた大阪府自治制度研究会の資料として(大阪市からの回答資料として)公開されています。
元資料のHP)(オリジナルはコレ
大阪市分市シュミレーション.jpg

 これに対して、大阪都構想の場合の試算は、次のように行います。
 元データとしては、総務省公表の平成20年度決算カードを用います。
元資料のHP)(オリジナルはコレ
大阪市決算カード平成20年度.jpg
 一般財源ベースの歳入額は、総額の「歳入一般財源等 870,166,234千円」の記載しかありませんので、歳入の各項目から、内訳を次のように整理します。

(A)個人市民税・軽自動車税・市たばこ税 1668億円
(B)法人市民税・固定資産税       4240億円
(C)事業所税・都市計画税         800億円
(D)地方譲与税・交付金          723億円
(E)地方交付税・臨時財政対策債      425億円
(F)その他一般財源            845億円
(一般財源合計)             8701億円

 大阪都のなった際、都と特別区の間での基礎自治体財源の配分について示されているのが、知事・市長ダブル選挙マニフェスト別添の「大阪都構想推進大綱」の次の部分です。(オリジナルはコレ
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5、財源・人員体制問題
 政令指定都市を廃し、その内に特別自治区を設置することで懸念される財源・人員体制問題は、全て制度の構築で解決される。
 特別自治区には中核市並みの財源を保証する。現在大阪市が提供している住民サービス分の財源は特別自治区に保障する。
 特別自治区間の税収格差問題は、基礎自治体間の財政調整制度として現在唯一存在する東京都区財政調整制度を参考に創設する新たな大阪都区財政調整制度によって解決する。大阪市に交付される交付税、固定資産税、法人市民税、特別土地保有税等を財源とし、その約6割を特別自治区に配分すれば、各特別自治区は中核市並みの財源を有することになる。現在の大阪市役所体制が各区の財政調整を担っているが、より透明性の高いルールの下、各区民の意思がしっかりと反映する新たな大阪都区財政調整制度を創設する。
 各特別自治区の職員数は中核市の職員数を基本とするが、現在の大阪市の職員数で十分に賄うことが可能である。
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 「大阪市に交付される交付税、固定資産税、法人市民税、特別土地保有税等を財源とし、その約6割を特別自治区に配分」ですから、(B)と(E)は調整財源ということで良いでしょう。

 問題は、「特別土地保有税等」の「等」をどのように理解するかで、具体的には「(C)事業所税・都市計画税」の取扱いです。(なお、特別土地保有税は、平成20年度の税収は無いようです。)
 「(C)事業所税・都市計画税」は、市町村税でありながら、東京都では「都税」(調整財源に含まない)の扱いをしているためか、大阪府議会の大都市制度検討協議会での財源配分シュミレーションでは、調整財源ではなく、まるごと「都」の財源に移管されていました。
 ただその後、大阪市議会の大都市・税財政制度特別委員会で維新の会が示した財源配分シュミレーションでは、事業所税・都市計画税の項目がなくなっており調整財源の総額から内訳を推定すると、調整財源に含むことにしたようです。
 「特別土地保有税等」の「等」とは、事業所税・都市計画税を指すようですが、後から「事業所税・都市計画税は調整財源しないよ。あくまでも『都』の財源だよ」という主張も可能にする意図と思われます。

 ここでは一番ありそうな想定として「(C)事業所税・都市計画税」は調整財源に含むとして考えます。

 そうすると、大阪市の基礎自治体財源の配分は、次のようになります。

(注)大阪市議会の大都市・税財政制度特別委員会で維新の会が示した財源配分シュミレーションでは、平成21年度決算ベースとして(D)地方譲与税・交付金、(F)その他一般財源のうち、296億円を「都」へ移管としていますが、試算を行う平成20年度決算ベースでの相当額が不明なことから、この部分は無視します。(ざっくり言うと、特別区の財源を約300億円過大に見込むことになります。)

特別区の直接の財源(合計 3236億円)
(A)個人市民税・軽自動車税・市たばこ税 1668億円
(D)地方譲与税・交付金          723億円
(F)その他一般財源            845億円

調整財源(合計 5465億円)
(B)法人市民税・固定資産税       4240億円
(C)事業所税・都市計画税         800億円
(E)地方交付税・臨時財政対策債      425億円

 調整財源の特別区への配分率は「約6割」ということですから、60%として計算すると、特別区全体の財源額は、次の通りになります。

3236億円+5464億円×60%=6514億円

 次に、この6514億円を、特別区の間で財政格差が生じないように配分するには、どうすればいいかを考えます。
 上記記事などでの議論では「財政格差」とは財政需要(表の欄名では「所要税等」)と比較して、歳入がアンバランスになっていないかを見ているので、単純に言うと特別区全体の財源額を財政需要に比例して配分すれば、「財政格差が生じていない」ことになります。
 大阪都になった時の財源配分をこの比率で行うと仮定します。

 上記の分市案の1市〜9市を特別区に見立てて、分市時の歳入額と大阪都構想になった時の歳入額を比較した表が次のものです。
分市都構想歳入比較.jpg

 財政需要に比例して財源配分を行っていますから、特別区の間での財政格差は生じません。
 しかし、全ての特別区で赤字となり、赤字幅も拡大します。黒字だった5市、6市を除くと、実質赤字比率は全て30%以上の赤字となり、指標としては「財政再生団体」相当です。5市、6市も(財政格差はないのですから)実質の赤字の状況は同じです。
 基礎自治体用の財源の63%を調整財源にし、そのうち4割を「都」へ移管するとは、そういうことです。

 大阪市分市案で指摘された「分割後の基礎自治体」間の財政格差は、大阪都構想では、解消する方法はあるようです。(実際に解消するのかは、配分方法が確定しないと分かりません。)
 ただ、本当の問題である、大阪市分市案での「分割後9市中、7市が年間100億円以上の赤字、うち5市が財政破綻である財政再生団体」という試算は、大阪都構想では「9特別区が1区を除き年間200億円以上の赤字(1区のみ176億円)で、全て財政破綻状態」となり、状況は更に悪化します。

 ただ、自治体は財政破綻したからといって、会社と違って倒産してなくなるということはないので、財政改革を進めることで対応することになります。
 橋下市政の今回の市政改革プランが、年間250億円規模の歳出削減ですから、この10倍規模で住民サービスの削減を行っていけば、財政赤字をなんとかすることができます。(ただし家計を例にすると、毎月10万円の節約は、毎月1万円の節約の10倍の痛みで済まないことは、容易に想像できます。)
 市名売却で名をはせた泉佐野市程度では済まなくても、財政再生団体になった夕張市並みを覚悟すれば、大丈夫です。

 しかし、ひとつ疑問が湧いてきます。
 「大阪市は大き過ぎるから、住民の意思が反映できる小さな基礎自治体にしたい。そのためであれば、財政破綻レベルの財政赤字も、どんな住民サービスカットも覚悟する」という決意をされる方がいらっしゃるのは、別にいいのです。(わたしは嫌なので、巻き込んで欲しくないのですが。)
 ただそうだったとして、「分割後の基礎自治体」間に財政格差があっても赤字幅が少しでも少ない、分市案でいいんじゃないですか?
 大阪都構想を選んで、大阪市分市案の時より「分割後の基礎自治体」の赤字幅を大幅に拡大させるような、選択をする必要はないでしょう。

 大阪都構想は、大阪市分市案の区間格差を解消する可能性はあります。でも大阪都構想は、大阪市分市案の「分割後の基礎自治体」の赤字は悪化させるだけで、解決する道筋は何も示していないようです。


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posted by 結 at 03:59| Comment(0) | 財務 | 更新情報をチェックする
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