2012年04月20日

橋下市政の「お金が足りないから、住民サービスを引下げ」を考える

 前回記事で一覧にした、大幅な住民サービスの引下げを伴う大阪市改革PTの施策・事業の見直し(主に削減や廃止)の必要な理由として、次のような資料を挙げます。(オリジナルはコレ

s-通常収支の推移.jpg

 市長選前、平松前市長は「大阪府と比べて、大阪市の財政状況は必ずしも悪いものではなく、順調に改善が進んでいる」としていたのに、橋下市長になって「お金が足りないから、住民サービスを引下げ」と言われると、面食らいます。
 まして、この資料が示す「一般会計の通常収支」が一部の収入を除外したものと聞くと、本当にお金が足りないの?と思ってしまいます。
 ・・・ということで、自分なりに調べてみました。

 まず、次の2点を整理します。
〇「大阪府と比べて、大阪市の財政状況は必ずしも悪いものではなく、順調に改善が進んでいる」という話と「お金が足りないから、住民サービスを引下げ」って、矛盾しないの?
〇年500億円の「一般会計の通常収支」の不足って、本当にお金が足りないの?

 平松前市長が語っていた「大阪府と比べて、大阪市の財政状況は必ずしも悪いものではなく、順調に改善が進んでいる」とは、主に市債の発行残高の推移と実質公債費比率の状況などです。

 これらの現状は次の通りです。(大阪府と対比する時は、一般会計と特別会計の合計額を示されることが多いですが、今は一般会計の議論なので、一般会計の市債残高です。)
s-一般会計市債残高推移.jpg
s-実質公債費比率の推移.jpg

 まず、市債残高は、臨時財政対策債を含めると、横ばいないし漸増といったところです。臨時財政対策債を除くと漸減ですが、どちらを指標として捉えるかは、人により意見のあるところでしょう。(特別会計を合わせた市債残高は、臨時財政対策債を含めても漸減です。)
 実質公債費比率とは、ざっくりというと自治体の収入に占める公債償還費の割合です。18%を超えると公債発行に国や府県の許可が必要になり、25%を超えると、一部目的の公債発行が制限されます。10%前後を推移する大阪市は、特に問題はないといえます。

 このふたつの指標が示していることは、「大阪市が借金返済に追われて、首が回らない」状態ではないということです。
 それに対して、「一般会計の通常収支」が不足とは、税収や地方交付税など毎年の収入で行政に必要な支出を賄おうとした時に不足が発生するということです。

 自治体の毎年の収入には、公債発行による収入(借金)も含まれます。だから、「現状の借金の状況が、返済に窮してるような状態でないならば、借金を増やして収入不足を解消するのではダメなの?という疑問が出てきます。
 この疑問には、次の2点でダメなのかなと思っています。
〇公債発行の目的には、制限が設けられています。基本的には、学校や道路などの建設費用などを賄うために発行するもの(公共事業など将来に渡って便益を発生する支出は、公債で賄って長い期間で返済すればいいという考え方)などで、収入が足りないから借金で賄う(赤字公債)のは、原則としてダメです。
 ただ、法律でダメと言っても、裏技は色々あるのでしょうが。(大阪府が行っていた減債基金からの借り入れとか、積立不足とか。)

〇そもそも借金できる余力があるからといって、「毎年の支出を毎年の収入で賄えないから、借金で賄えばいい」ということにはならないでしょう。
 どのような期間、どのような方法で解消していくかは十分に考える必要がありますが、支出を収入で賄えない状況(収支不足)は、解消していく必要があります。


 大阪市の収支不足解消は、別に橋下市長が新たに取り上げた問題ではなく、過去から継続して取り組みがされてきた問題です。
 上記の「年間500億円の収支不足」として挙げた内容にしても、平松市政当時から、認識され取り組まれている問題です。
 平松市政当時(平成23年度予算時)の中期見通しはコレ。(下記の表はコレ
中期的な財政収支の推移(23年度予算版).jpg

 橋下市政になっての上記の「年間500億円の収支不足」の基となる平成24年2月の中期見通しはコレ。(下記の表はコレ
今後の収支概算_粗い試算(平成24年2月版).jpg

 平松市政当時のものと基本は大きな差異はなく、公債費の抑制や都市整備事業基金の増などで、平成30年度までの累積収支不足額が1200億円の不足から900億円の不足に減ったのが、進んだ点です。

 平松市政当時の収支不足解消の対応と、橋下市政の違いを概観するなら、平松市政では(自治体の貯金に当る)基金や土地の売却代金を当面の間、活用しながら、平成30年度に向けて緩やかに改革を行い、住民サービスへの影響をできるだけ避けるように努力されていたのに対して、橋下市政では、できるだけ短期間での解消に取り組み、住民サービスへの影響を省みない(というか、積極的に「他都市並み」への引下げを選択している)点でしょうか?(橋下市政でも、収支不足に対する基金などの活用は変わりません。)
 結局、期間と改革対象の違いでしかないのです。


 では次に、橋下市政で取り組もうとしている「年間500億円の収支不足の解消」(改革PT試案は、最終の平成26年度で288億円規模の削減)が、大阪市政の行政改革でどの程度の規模なのか過去の行政改革を振り返ってみましょう。

 大阪市は平成14年に財政非常事態宣言を出し、その後ずっと行財政改革に取り組んできていますが、比較的資料の見つけ出し易かった平成18年度から22年度の「大阪市政改革マニフェストに基づく新しい行財政改革計画(平成18年3月策定)」を取り上げてみます。

 同計画によると平成17年度当時の行財政改革を必要とする認識は、次のようなものです。
 「大阪市においても、平成14年11月に財政非常事態宣言がなされ、公共事業の抑制や工事コストの削減、職員数の削減などに取り組んできましたが、平成16年度決算では、市税収入が8年振りに前年度決算を上回ったものの、生活保護費をはじめとする義務的経費が増となったことなどにより、財政の硬直度を示す経常収支比率が過去最悪の103.6%となりました。
 市税収入については、基幹税目である固定資産税・都市計画税が地価の下落による低迷が続くなど、今後も当分の間低水準で推移することが見込まれるとともに、増嵩していくことが確実な公債費や扶助費といった経常経費の状況を鑑みれば、本市財政は今後、一層厳しい状況となることが見込まれます。
 昨年4月に算定した収支概算では、先行き不透明な地方財政対策を一定確保し、既に決定している歳出削減方針や歳入確保策を織り込んだとしても、平成20年度には約800億円の収支不足が生じる見込みであり、また、基金を全額取り崩したとしても、同年度までの累積赤字が約1400億円と見込まれ、『準用財政再建団体』への転落も想定されるなど、本市財政は危機的な状況に陥っています。」

 何とも悲壮感漂う財政状況の認識で、この認識の下、人件費や経常的施策経費の2割削減など、平成22年度までに年間2287億円の歳出削減を行う目標を立てました。これを達成すれば、基金から繰入金も無くし収支不足の解消を図れる予定でした。
行財政改革計画(平成18年3月)の目標と達成状況.jpg

 この行財政改革計画は関市政、平松市政の下で実行され、平成22年度の最終年次には、2287億円の削減目標に対して2719億円の削減が達成され、当初目標を大幅に上回る成果となりました。

 しかし、平成22年度時点で行った中期的な財政収支の見通しでは、生活保護費などの扶助費の大幅な増加などにより財政収支はそれでも悪化。蓄積基金からの繰入や土地売却代金などを含めても、平成30年度までの収支不足額は累計2700億円となり、年平均300億円の歳出削減が必要という状況でした。

 これに対して、平成23年度までに収支改善を行い(蓄積基金からの繰入や土地売却代金を用いた場合の)平成30年度までの収支不足額の累計を2700億円から1200億円にまで改善(公表資料はコレ)し、平成24年度の平松市政下での予算編成では、更なる収支改善を目指していたものです。(公表資料はコレ

 この間、世間では橋下府政での財政再建が盛んに喧伝されました。しかし、実際に行われた改革規模は、橋下府政下で平成20〜22年度の累計3054億円と比較して、大阪市政での平成18〜22年度の累計8961億円と引けを取るものではありません。大阪市政での行財政改革は住民への影響をできるだけ小さくするよう配慮されたため、誰かが困って騒ぐこともなく、あまりメディアなどでも注目されず、市民の認識は少ないかもしれませんが。
 今回の改革PT試案により、廃止・削減が検討されている住民サービスは、これまでの大規模な行財政改革の中でも、住民への影響をできるだけ小さなものにするように努力し、守られてきたものです。
 「収入に不足があるから、住民サービスを削るよ」と市長が言うだけで、市民は納得していいのでしょうか?


 橋下市政では、現状500億円程度の収支不足があるからと、290億円程度の改革案を示しており、その多くが住民サービスの削減・廃止です。
 橋下市長は、この改革案について「家計と同じで、収入が減れば支出を絞る」と言われたようです。でも、橋下市長お得意の例えの「民間企業であれば」こんな話は通用するのでしょうか?民間企業に例えるなら「原価が上がったのだから、値上げするのは当然だ」と居直っているようなものでしょう。今回の改革PT試案に「企業努力」は見えてこないのです。

 橋下市長は、選挙前、平松前市長とテレビに出演された際、行政改革の成果を強調する平松前市長に「無駄がいっぱいの大阪市役所で、行政改革をしたといっても成果などと言えない」といったようなことを、言い放っていました。
 関元市長のままなら良かったが、組合に推された平松市長になって改革は止まってしまったという発言も覚えています。

 今度は、橋下市長が行政改革に取り組み、行政手腕を見せる番になりました。今までの大言壮語からすれば、たった500億円の収支不足なんて、市民に何も感じさせずに、片付けちゃってくださいよ。
 500億円の収支不足で、290億円の住民サービス削減なんて、これ以外の改革は最大でも210億円しかできないって言ってるようじゃないですか。(もし、他の改革で210億円以上の削減ができるのならば、収支不足を理由とした290億円の住民サービス削減は不要です。他の改革で210億円以上の改革を行い、住民サービス削減でねん出した290億円を収支不足以外に充てるなら、市民に対して誠実な説明を行っていないことになります。)

 橋下市長の市長マニフェストでは、財政改革として「人件費を1年以内に約1割、将来的に約3割以上削減することで、約1200億円の財源をねん出する」としています。
 大阪市の人件費は2300億円程度ですから、「1200億円の財源ねん出」というのは分かりかねますが、人件費2300億円を3割削減すれば、690億円になり、それだけで約500億円の収支不足は解消します。

 今回の改革PT試案では、多くの施設を廃止し売却を示唆していますが、それらの売却収入を収支改善にフィードバックして、住民サービスの削減を少しでも減らそうとする努力すら見えません。

 また、今回の改革PT試案では、区民センターやスポーツセンター、屋内プールなどを大阪都への移行を前提に24から9へ削減するとしていますが、その前提であるはずの500億円の収支不足は、10年後まで示していながら、僅か3年後の大阪都への移行が想定に含まれていません。

 松井知事は、府市統合で4000億円の財源がねん出できるとしています。
 大阪府も、大阪市と同様に651億円の収支不足があり、今年度は蓄積基金の取り崩しで乗り切るが、将来的には大阪市との重複事業の見直しで財源を生み出す方針と発言されています。

 もし、松井知事が言うように府市統合で多額の財源ねん出ができるなら、今示している「500億円の収支不足」で住民サービスの削減を受け入れる必要など無くなります。
 もし、このブログで主張するように、都制移行で行政コストが大幅に上昇し、移行経費も数百億円、数千億円と掛かるなら、たった「500億円の収支不足」で「市民に痛みを」と言ってるような状況では、大阪都構想の実現には、もっと大幅な「市民に痛みを」が必要になってしまいます。今回の改革案以前の話として、正しい情報を示したうえで、「大阪都への移行を本当に望むのか」をきちんと問う必要があるでしょう。

 今回の改革PT試案は、建設費28億円の区民センターを年間6800万円の運営経費を節約するために廃止しよう、建設費25億円のスポーツセンターを年間3600万円の運営経費を節約するために廃止しようと言ってるようなものが多数含まれています。
 個々の改善効果は僅かで、でも、再び取り戻すのは多額の費用が掛かり、ほとんど無理というものが少なくないのです。
 わたしたちは、今回の改革PT試案について、その必要性を厳しく問い、納得できるまで問い続けなければ、失うものは、けして小さくありません。


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   大まかに大阪都構想のことを知りたい方は、まとめブログをご覧ください。
posted by 結 at 04:19| Comment(0) | 市政 | 更新情報をチェックする
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