2011年12月19日

大阪市民の広域行政経費の二重負担

 12月14日の産経ニュースで、次の記事がありました。

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【激動!橋下維新】「金も口も出さない」 関空や本四道路への出資やめる
2011.12.14 10:14

 大阪市の橋下徹次期市長は13日、政令市の大阪市としては、今後、本州四国連絡高速道路や関西空港など「広域行政への出資はやめる」と述べた。

 大阪府も同様の出資をしていることから、「市民税からも府民税からも出資している。大阪市民は2重の負担になっている」と指摘。「政令市は負担しない。そのかわり口も出さない。松井一郎知事におまかせする」とした。

 市は、旧本州四国連絡橋公団の建設費償還などを引き継いだ日本高速道路保有・債務返済機構に対し、毎年約8億4千万円を出資。

 国は当初、出資期間を平成24年度までとしていたが、期間を延長して追加出資するよう地元の10府県市に要請、自治体側は反発していた。この問題について橋下氏は同日、「追加出資はしない」と述べ、市の従来方針を踏襲する考えを明らかにした。

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 注目するのは、次の点です。
〇政令市の大阪市としては、今後、本州四国連絡高速道路や関西空港など「広域行政への出資はやめる」
〇大阪府も同様の出資をしていることから、「市民税からも府民税からも出資している。大阪市民は2重の負担になっている」
〇「政令市は負担しない。そのかわり口も出さない。松井一郎知事におまかせする」

 関西国際空港などへの出資の是非は微妙な点もありますが、橋下氏のこの発言の要旨には、概ね賛成です。
 政令市の市民が広域行政経費の二重負担状態になっている点は、このブログで強く主張する点で、メディアや首長、議員さんなどが、ほぼ語らない中、橋下氏からこの発言が出たことに驚いています。
 だからこそ、つっこみます。府市統合本部へ集約するという「広域行政」へ大阪市が経費負担をするのは、二重負担じゃないの?大阪都構想は、大阪市民にとって、もっと二重負担じゃないの?・・・と。
 政令指定都市制度などを概観しながら、「大阪市民の広域行政経費の二重負担」について整理してみます。

 府県の業務と市町村の業務は、大半が法律で決められています。そして、府県の業務のための財源として、住民は府県税を負担し、市町村の業務のための財源として、市町村税を負担します。
(注1 病院、地域交通、図書館など、府県、市町村のどちらでもできる業務もあります。これらの業務を指して「二重行政」の指摘をする方もいますが、政令市制度とは、関係ありません。)
(注2 維新の会のいう「広域行政」は、法律上の府県の業務とは、かなりの差異があります。府県の業務の一部分に、市町村の業務やどちらとも決まっていない業務の中の好きな部分だけを加えて、「広域で担うべき」としているものです。逆に、府県の業務のいらない部分を「基礎自治体の業務」に割り振り、「基礎自治体へ大きな権限を与える」としています。)

 政令指定都市制度に限らず、政令市・中核市・特例市はいずれも、市が府県の業務の一部を担う制度です。ただし、政令市・中核市・特例市は府県の業務の一部を担当しますが、府県の業務のための財源である府県税は移管されません。(政令市・中核市・特例市が府県の業務を引き受けたことに対して、財源措置が全くのゼロとまでは言えませんが、業務量に見合うものではありません。以下の議論では、簡略化のため財源措置ゼロとして説明します。)
 だから、政令市・中核市・特例市の市民は、府県の業務のために、府県へ府県税を支払いながら、府県から行政サービスの一部を受けず、市の身近な行政のための財源の一部を割いて、市から府県の行政サービスの一部を受けます。
 つまり、政令市・中核市・特例市の市民は、現在も、府県の業務(=広域行政)の経費の一部を二重に負担しています。

 広域行政経費の二重負担という観点でいえば、府県の業務だけ移管し、財源をちゃんと移管しない政令市・中核市・特例市の制度は、変な制度です。
 では広域行政経費を二重に負担してまで、市民が政令市・中核市・特例市を選択することは、合理的にはありえないのでしょうか?
 いいえ、一定の条件が成り立つなら、市民が政令市・中核市・特例市を選択するのが合理的となるケースはありえます。(というか、以下のケースしか、わたしは思いつきませんでした。)

 もし、政令市・中核市・特例市が、府県から移管された業務を府県と同じ経費をかけて実施するのだとしたら、市民は府県から受けられるはずの行政サービスを捨てて、市からその行政サービスを受けるので、市民としては2倍の経費を負担したことになります。
 でも、市が、実施の方法、重点のかけ方、実施の時期などを住民のニーズにピッタリと合わせて行政サービスの実施を行い、府がサービスの提供をするよりも、市民が2倍の満足を得るなら、合理的といえます。

 こんな風にいうと実感が湧かないと思うので、具体例を挙げてみます。
 道路補修は、府県の業務です。任せておけば、ちゃんとやってもらえるはずです。でも、予算が無いとかで、なかなか進まず、地域の住民は不満がいっぱいです。
 市に移管されたことで、住民の要望が強いことを受けて、他の予算を削ってでも、市は道路補修を進めました。住民は大満足です。(あくまでも例です。財政状況などは、府県、市町村などで様々で、府県が担当していた方がうまく進むケースはいくらでも、あります。)

 とりあえず、府県から受けられるはずの行政サービスを捨てて、身近な行政サービスの予算を割いてでも、府県の行政サービスの一部を市から受けることが、合理的なケースが「あり得る」ということは言えそうです。
 でも、政令市・中核市・特例市の市民にとって、広域行政経費の二重負担が合理的であるためには、具体例で挙げたようなことが、移管される業務全般で成り立つ必要があるので、結構大変なことです。
 政令市・中核市・特例市になることが市民の利益であるためには、府県の行政サービスが余程ダメでなければ、市役所は(府県よりも)かなりレベルの高い行政サービスの提供が必要なことが分かります。

 だから、この関係をきちんと考えるなら、政令市・中核市・特例市の市役所は、府県の業務の一部を引き受ける分だけ余分なコストを負担しても、満足できるだけのレベルの高い行政サービスを提供できているか、それとも、府県の業務は府県に任せ、その分の財源を身近な行政サービスの充実に充てた方がよいのかを市民に問い続け、政令市・中核市・特例市に相応しい、(府県よりも)ずっとレベルの高い行政サービスを維持しなければなりません。
 逆に、政令市・中核市・特例市の市民は、一般市での府県の行政サービスがどんなものかをきちんと知り、政令市・中核市・特例市に相応しい、レベルの高い行政サービスを受けているか、確認しなければいけません。もし、十分にレベルが高いと思わないならば、一般市になって府県の業務は府県へ任せ、身近な行政をもっと充実させることを求めるべきです。


 政令市・中核市・特例市のあり方をこのように捉えると、二重行政批判や二重行政の解消とは、どういう意味になるのでしょうか?
 政令市・中核市・特例市が引き受けた府県の業務を、その業務の財源をセットにして、府県に任せて一体で行えば、経費は両方の経費を合わせたよりも、少しだけ安くなるよ、そして、政令市・中核市・特例市の市民は、府県から府県の一般レベルの行政サービスを受けることができるよ・・・ということです。

 でもコレ変じゃないですか?
 政令市・中核市・特例市の市民は、満足度の高い行政サービスを受けるために、府県から受けられるはずの行政サービスを捨てて、身近な行政サービスの財源の一部を割いてまで、府県の行政サービスの一部を市から受けることを選んだはずなのです。
 経費をちょびっと減らすために府県から元通りの行政サービスを受けるなら(しかも、経費は身近な行政サービスを削って捻出した市の財源で賄うなら、)政令市・中核市・特例市なんて、やらない方がマシですよね。

 「政令市・中核市・特例市なんて、いらない。府県の行政サービスは普通に府県から受けるから、身近な行政サービスに予算をかけて充実させて欲しい」という意見があるかもしれないことは、分かります。
 「政令市・中核市・特例市になって、府県の行政サービスの一部を市が引き受けて、レベルの高い行政サービスが提供されることを期待する。その代わり、府県から受けられるはずの行政サービスを捨てて、身近な行政サービスのための財源の一部を府県から引き受けた行政サービスのために割く。」という意見も、「本当に、それだけレベルの高い行政サービスができるの?」という疑問は湧きつつも、おかしいとまでは思いません。

 でも、「二重行政の解消」とか「府市一元化」とか、格好のいい言い方をしても、「他の府県民と同じ行政サービスを受けるために、府県税を他の府県民と同じように払ったうえに、身近な行政サービスのための財源を割いて、二重に経費を負担する」という、広域行政経費の二重負担を、当たり前のように語られるのには、わたしは理解ができません。


 さて、話を戻して、府市統合本部へ集約するという「広域行政」へ大阪市が経費負担をするのは、二重負担じゃないの?大阪都構想は、大阪市民にとって、もっと二重負担じゃないの?という話です。

 府市統合本部での広域行政の調整は、次のようなスタンスだと受取っています。
〇府市が府市統合本部で取り上げる「広域行政」を一体で行っていく。
〇「広域行政」は、府全体の利益に適うよう実施する。
〇一体で行うに当り、大阪市も応分の経費を負担する。(今まで並か、今まで以上か)

 このようなスタンスとして考えると、大阪市民として「広域行政の行政サービス」を「府市一元化」の結果として受けるのと、大阪府民として大阪府から受けるのとの違いが、全く分かりません。
 広域の行政サービスを、大阪府から受けるのと同じサービスを受けるだけであれば、身近な行政のための市の財源を割いて、大阪市が経費を負担する意味が分かりません。
 府市統合本部へ集約するという「広域行政」へ大阪市が経費負担をするのは、大阪市民にとって、広域行政経費のまったくの二重負担だと思います。

 大阪都構想を、同じ視点で整理すると次のようになります。
〇「広域行政」を都知事に一元化する。(府民の受ける「広域の行政サービス」は基本的に同じ)
〇特別区の住民となる大阪市民(及び堺市民)は、府県税を負担したうえに、市町村税の一部(多分3〜4割程度)を都の財源に移管し、広域行政経費として負担する。(特別区以外の市町村の住民は、広域行政経費は府県税の負担のみ)
〇大阪市民が市町村税の一部を移管することで負担する広域行政経費は、現状の負担額よりかなり多い。
〇大阪都実現後は、特別区の住民が市町村税の一部を広域行政経費として負担するか否か(特別区のままでいるか、一般の市になって市町村税から広域行政経費の負担を止めるか)を、自分たちだけで選択することはできない。特別区の住民が特別区でなくなるためには、大阪府全体の賛同で決める必要がある。

 大阪市民にとって、この選択を行う妥当性を、わたしには見つけられません。


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posted by 結 at 01:59| Comment(0) | 概要 | 更新情報をチェックする
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