2011年10月18日

100の制度変更には100の議論と100通りの選択を

 大阪府・市の水道事業統合協議の話を覚えているでしょうか?主に2008年から2009年にかけて、1年以上の協議の末に昨年初めに決裂した協議のことです。
 その間、多くの議論が重ねられ、その議論の内容は広く公開され、新聞やTVのニュースでも大きく何度も取り上げられました。

 みんなが納得できる結論を見出せなかったことは残念ですが、そのために行われた議論やメディアでの報道が大袈裟だったとは思いません。
 大阪府民850万人に水を提供する浄水場の経営には、それだけの重要性がありますし、長年をかけて積み上げられた府民・市民にとっての巨大で重要な資産であることを思えば、そのような議論や報道は必要なことだったのだと思います。

 この水道事業など、大阪市が行う事業や公共施設などの経営について、どうするか。大阪都構想推進大綱(案)では、次のように示されています。
--------------------------- 引用開始 ---------------------------
3.その他の機構等
 大阪都庁の外部に以下の機構等を置く。

(1)地方独立行政法人大阪病院機構
 大阪全域の医療需要への適切な対応や医師確保のため、公的病院を一体的に経営する。

(2)大阪都公立大学法人
 公立大学法人大阪府立大学、公立大学法人大阪市立大学を一体的に経営する。

(3)大阪広域水道企業団
 大阪広域水道企業団に大阪市水道局を統合し、大阪全域で上水に関する事業を行う。

(4)国民健康保険組合、介護保険組合
 府民生活の安全保障のため、市町村単位ではなく大阪全域で一体として健康保険組合、介護保険組合を運営する。

(5)大阪港務局
 大阪府港湾局及び大阪市港湾局が運営している港湾を一体的に運営する。

(6)地方独立行政法人大阪学術振興機構
 大阪府、大阪市、堺市が運営している美術館、動物園を含む博物館、図書館、体育館を一体的に運営する。
--------------------------- 引用終了 ---------------------------
 これだけです。

 ここから主に分かるのは、次の点と思います。
〇大阪府・大阪市(一部、堺市も。)の、これらの事業・施設の運営を、一体で行う。
〇主に独立行政法人や一部事務組合など外部組織の運営に委ねる。
〇大阪府・大阪市・堺市のこれらの事業・施設を運営する機関・組織は、都(=大阪府)の管轄下に置く。(それでも、その運営にかかる経費だけは、基礎自治体財源に分担を求めると思います。)

 なお、大阪府議会の大都市制度検討協議会で大阪維新の会が、工程について示した資料の中で「法改正等を待たずとも可能なものは、府市再編に先行して一元化」としていますから、これらの多くは、大阪都の実現を待たずに、府知事選・大阪市長選で維新の会が勝てば、府民・市民の信任を得たとして、実施に移すと思われます。(大阪維新の会が、過半数を持つわけではない大阪市議会では、揉めると思いますが。)

 上記の水道事業の話は「大阪広域水道企業団に大阪市水道局を統合し、大阪全域で上水に関する事業を行う。」の1行になってしまいました。市立病院に対する「大阪全域の医療需要への適切な対応や医師確保のため、公的病院を一体的に経営する。」や図書館などに対する「大阪府、大阪市、堺市が運営している美術館、動物園を含む博物館、図書館、体育館を一体的に運営する。」も、なかなかに強烈です。
 大阪都構想が、大阪府・大阪市という、自治体の大きなあり方だけでなく、身の回りの行政サービスの大きな制度変更をいっぱい含んでいて、その制度変更に対しても、信任を求められていることが分かります。

 全部の事業について論じられるだけ知る訳ではありませんが、「大阪広域水道企業団に大阪市水道局を統合し、大阪全域で上水に関する事業を行う。」とされた水道事業については、以前に記事にしたこともあり、大阪市民として気になる点があるので挙げてみます。

〇府市水道統合協議時、府水道の原価は1立方メートル当り82円(卸売価格88円10銭)、市水道の原価は64円。なお、府水道は昨年10円10銭の値下げを行い、卸売価格を78円としている。なお、この値下げについて、協議の中では、双方の確認とならなかった。(大阪府から大阪市を納得させる値下げ根拠の提示はなかった。)
なお、府水道は今年4月に府下市町村(大阪市を除く)に移譲され、大阪広域水道企業団へ移行している。ただし、以下での説明では大阪広域水道企業団も、特に必要な場面以外「府水道」の呼称を使用する。

〇府市水道統合協議時、大阪府・大阪市の水道施設を有効活用することで3000億円程度の設備更新費用を削減でき、府水道で約10円の値下げができると見込まれていた。
なお、最新の大阪府議会の大都市制度検討協議会の資料では水道事業の統合で、大阪市の柴島浄水場の売却益(320億円)を含め、1700億円〜1900億円程度の削減効果を見込んでいる。

〇府市水道協議は、大阪府から水の供給を受ける市町村からの反対で頓挫したとされている。受水市町村の反対理由として大きなものは次のようなもの。
・大阪府が水道卸売価格を改定する場合には、受水市町村は意見を述べることができたが、統合後に大阪市が実質的な価格決定をするのでは、意見反映ができなくなる。(市町村の価格決定への関与の低下)
・統合後に大阪市が実質的な供給元となるのでは、非常時に、大阪市民よりも優先して水道供給を受けられる保証がない。(なお現状、非常時に備えるとして、府水道よりもコストの高い浄水場を維持している市町村もある。)(供給の安定性低下)

 これらから、次のように考えます。
〇府市水道の統合効果は、先の府水道10円10銭の値下げで折り込み済みの可能性が高く、追加の統合効果を見込めるかについては、疑問がある。

〇府水道を78円、市水道を64円として、平成22年度の給水量、府水道536百万立方メートル、市水道394百万立方メートルで平均すると、統合後の卸売価格は72円程度が見込まれる。大阪市内は8円程度の水道原価の値上げ、大阪市以外は6円程度の水道原価の値下がりとなる。

〇府下市町村は、過去の水道統合に対して「市町村の価格決定関与の低下」や「供給安定性の低下」を問題とした。都構想で示された水道統合では、これらの問題は大阪市側に発生する。
現状、大阪市は水道の原価を含め、市民の水道料金を100%決定することができるが、統合後は、大阪広域水道企業団の卸売価格決定に大きく影響を受けることになる。企業団へ特別区全体から数名の代表を出せても、現状の100%決定とは比較にならない。(市の価格決定への関与の低下)
現状、非常時となっても、大阪市は大阪市所有の浄水場は大阪市民へ供給できるが、統合後は、企業団の供給決定に委ねることになる。(供給の安定性低下)

〇参考としてですが、都構想で示される水道統合では、大阪府と大阪市以外が保有する浄水場(自己水源)が無視されますが、自己水源を有する市町村は少なくありません。吹田市では約50%を自己水源で賄っています。大阪広域水道企業団は、府水道の受け皿として設けられただけであり、企業団を構成する市町村が、市町村保有の自己水源を企業団へ統合した訳ではありません。企業団を構成する市町村も、まず自己水源で水の需要を賄い、不足する部分を企業団から購入しているだけです。
だから、自市の水需要を自己水源のみで賄える大阪市が大阪広域水道企業団へ参加する理由はなく、大阪市だけが大阪広域水道企業団へ自己水源である浄水場を供出し、水需要の全量を企業団から供給を受けるべきという主張は、かなり奇妙に思われるのです。

 なお、水道料金の値上げは回避できるという意見に対しては、次の点を指摘しておきます。
〇「大阪市民の水道料金のみ別設定にし、特別に割引料金にする」という話がでるかもしれません。これに対しては、2点の指摘をしておきます。
1点目、過去20年程度の行政の歴史は、過去の経緯による一部住民に対する特別扱いを否定する歴史でした。今は大阪市民が特別料金を受けられても、10年後、20年後に「なぜ大阪市民だけが」という議論になる可能性は、高いと思います。水道事業は20〜30年単位(いえ、もっと長期でしょう。)で運営を行うものであり、大阪市民は水道料金の価格維持に大きな不安定要因を抱え込むことになります。
2点目、特別料金を大阪維新の会が主張したとしても、現在、大阪広域水道企業団を運営するのは、府下市町村であり、大阪維新の会が決められるものではありません。空手形の可能性が高いです。

〇「大阪市に残される各戸への給水部門が合理化を徹底することで、値上げは回避できる」という話がでるかもしれません。これに対しては、3点を指摘しておきます。
1点目、現状、何の根拠もないと思われます。
2点目、給水部門を合理化しコストダウンを行ったとしても、その成果は市民へ還元されるべきものです。水道統合による値上がり分を、給水部門のコストダウンで相殺したとすると、市民は受けられるべき値下げを受けることができなかったということで、やっぱり統合による値上がり分は、市民の負担なのです。
3点目、このような無理な要因で、給水部門がコストダウンを求める時、長期的な検査・保守のコストを軽視することを危惧します。大阪市内の水道管は老朽化が進んでおり、一部で漏水事故も起こっています。水道管の確認・検査や、更新のためのコストが削られるなどがあると、市民には大きなマイナスとなります。

〇大阪府議会の大都市制度検討協議会の資料では水道事業の統合で、大阪市の柴島浄水場の売却益320億円を削減効果と見込んでいますが、柴島浄水場の土地は現在も大阪市民の資産ですから、市民の資産の売却額を統合効果に計上することは、おかしいと思われます。


 と、長々と書いてしまいましたが、水道事業の統合だけで、わたしが気付くだけでも、これだけの論点があります。
 わたしは、大阪維新の会の主張する水道事業統合に反対する立場で論点を挙げましたが、これが論点の全てだとは、思いません。すべての論点が整理される中で、市民がどのような結論を求めるのかは、わたしには分かりません。
 ただ、ここで挙げた論点を放置して「大阪広域水道企業団に大阪市水道局を統合し、大阪全域で上水に関する事業を行う。」で済ませてはいけないのだと思うのです。その議論が、たとえ大変であっても、大阪市民260万人の水を供給する水道事業というのは、それだけ大切なものだと思います。

 市民病院について「地方独立行政法人大阪病院機構が、大阪全域の医療需要への適切な対応や医師確保のため、公的病院を一体的に経営する。」とされていますが、それで大阪市民の医療体制は、現状とどのように変わるのでしょうか?それは、市民に開かれた場で十分な議論が尽くされたのちに、決める必要があることのように思います。
 ちなみに、市民病院を地方独立行政法人へ移行することで、税金投入が減ることを期待される方もいるかもしれませんが、既に地方独立行政法人へ移行された府立病院への府からの交付金は、大阪市が病院会計へ税金を投入している金額よりも多いです。もし、期待を持たれるなら、十分な調査と議論が必要なように思います。

 図書館(や多分、体育施設も)について、「地方独立行政法人大阪学術振興機構が、大阪府、大阪市、堺市が運営している美術館、動物園を含む博物館、図書館、体育館を一体的に運営する。」とされていますが、図書館は、本当に市民が期待するように運営されるのでしょうか?
 都構想への期待の中で、特別区の単位で行政サービスを決められると期待される方は、そのサービスの中に図書館などは含まれないのでしょうか?都所管の地方独立行政法人では、現在の大阪市よりも遥かに住民の意見が届きにくくなる可能性が高いです。橋下知事は、図書館が24区にあることを区民会議で批判をされていたようです。図書館が特別区に1館となり、3分の2の地域図書館が廃館になっても、それはあなたの期待する姿なのでしょうか?
 都構想への期待の中で、「中央図書館が二つ」のような「二重行政」(と橋下知事が呼ぶもの)の解消を期待される方は、地方独立行政法人が一体運営するなら、それでいいのでしょうか。「中央図書館が二つ」を無駄と思われるのならば、どちらかを廃館にするのでなく、所管を地方独立行政法人に移すだけでは、運営コストの削減はほとんど見込めません。そんな話で良かったのでしょうか?

 大阪都構想では、大阪市の保有・運営する事業や施設を、都所管の外郭団体などへ移管するのだとしています。そして、今回の選挙で勝てば、信任されたのだとして、どんどん、進めるのだと。

 わたしは、これらのひとつを取り上げても、市民にとって、とても大切なことだと思います。それは、どうするかも分からないまま、一括りにして「信任して」というような話ではないのだと思うのです。

 やっとこの記事のタイトルに辿り着きました。
 100の制度変更を行うなら、例え100の議論となっても、ひとつずつを丁寧に議論し、一括りでの賛否ではなく、ひとつずつに単に賛否だけではない、よい解決策を見出して欲しいと思うのです。

(追記)
 上で例に挙げた大阪市の水道事業の統合について、大阪維新の会市長マニフェストでは次のように書かれていました。

 1.改革編では、「大阪市水道局を大阪広域水道企業団に統合させ、府域全域のワン水道を実現することで、施設、人員を統合整理し、合理化を図ります。これにより、経費の削減を行い、水道料金の値下げを行います。」

 3.広域インフラ編では、次の通りです。

 府域一水道を実現し、安くておいしい水を届けます。
@ 大阪市水道局を大阪広域水道事業団に統合し、大阪全域で上水事業を一本化。事業を効率化することにより水道料金の値下げを目指します。
A 浄水場の適正配置を検討し、不要不急の浄水場を廃止・売却し、跡地を有効活用します。


 やっぱり、浄水事業の統合と一部浄水場の廃止という、過去の統合協議時の内容までの話のようなので、やっぱり疑問は、疑問のままです。
 

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posted by 結 at 23:09| Comment(0) | 概要 | 更新情報をチェックする
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