2011年02月28日

大阪市は本当に無駄が多いのか、ふたたび

 「自治体の人口1人当たり歳出額は、30万人規模を底にU字を描くから、30万人の市が最も効率的な規模だ。」「大阪市の1人当たり歳出額は、他の政令市と比較して突出して多く、その多い分、大阪市は予算を無駄にしている。」という議論について、過去の記事「基礎自治体は、30万人規模がコスト的に最適といえるのか」「大阪市は無駄が多いという話、肝心な点が分からない」で取り上げました。結論としては、「行政サービスの内容を比較せずに効率的とか無駄とか決め付けるのは、無理があるのではないか。」までしか、言えませんでしたが。

 最近、ツイッターで大阪維新の会の府議さんと「基礎自治体は30万人規模がコスト的に最適といえるのか」について、お話する機会がありました。府議さんの論点は、次のようなものです。(表現はわたしなりに整理をしています。)
○政令市とその他の市の比較では政令市が高次の都市経営を担うことによる差もあるが、政令市を除くデータでも、1人当たり歳出額が10万人から30万人で底になり、50万人規模になると30万人規模より大きくなることから、10万人から30万人が都市の規模としてコスト的に優れているといえる。
大阪市の無駄01.jpg
○統計データは歳出額であるが、地方交付税不交付団体を除けば、行政サービスは一定水準なので、行政コストの比較として捉えることができる。
○規模が大きくなるとコストが上がるのは、組織が大きくなると組織を動かすだけに必要な人員が必要になるから。
○大阪市が現状行っている行政サービスは手厚いものであるが、それは大阪市がこれまでは地方交付税の不交付団体だったからできたこと。地方交付税の交付団体となった以上、維持することは困難。

 この話へのわたしの反論は、次のようなものです。
○地方交付税交付団体の行政サービスが一定として、歳出額を一定の行政サービスに対するコストと捉えるならば、人口40万人規模以上で歳出額が増えることはない。
 地方交付税の算定の中で人口規模を反映する段階補正は、規模が大きくなるほど補正の係数が小さくなるので、1人当たりの行政サービスが一定ならば、自治体の規模が大きくなるほど基準財政需要額は小さくなる。
 もしも規模が大きくなることでコストが上がると仮定しても、交付税計算に反映されない以上、そのための収入が確保されないので歳出額が増えることはない。(例えコストが上がっても、独自サービス部分を削るだけなので、歳出額から確認することはできない。)
 よって、1人当たり歳出額が、40万人規模以上で30万人規模よりも大きいことは、30万人規模がコスト的に優れていることを示してはいない。
○40万人規模以上で1人当たり歳出額が増えている理由は、様々な推測ができるが、一番単純には、30万人規模より40万人規模以上の方が中核市の比率が高いと考えられるから、担当する業務範囲が広がることで歳出額が増えているのではないか・・ということが挙げられる。
○大阪市の現状の手厚い行政サービスは地方交付税不交付団体だったからできたことで、地方交付税交付団体となった以上は維持できないとするのは、大阪市が交付団体となったのが平成6年度からという現状と、あまりにも乖離がある。(あまり、行政サービスの維持の困難性を強調されると、維持するつもりがないのかと受け取ってしまいます。)


 と、この話を再度ブログを取り上げたのは、市の歳出額を地方交付税の基準財政需要額と関連させて捉えると、以前よりもう少し議論を進められるかもと考えたからです。

 ここからは、担当する業務範囲が同じで比較し易い政令指定都市の比較で話を進めます。(数字は、平成20年度決算を使用しています。)
大阪市の無駄03.jpg

 一番上の「1人当たり歳出額」が、大阪維新の会のマニフェストでも取り上げられている数字です。大阪維新の会のマニフェストでは、この比較から「大阪市が名古屋市なみの経費で行政サービスを提供できるようにすれば4500億円の財源が生まれます。これが成長戦略の原資になります。」としています。

 これに基準財政需要を、ひとつの物差しとして利用してみましょう。一般財源に占める基準財政需要の比率で、1人当たり歳出額を基準財政需要に対応する部分と、独自サービスに対応する部分に分けたのが表の下の部分です。(厳密にいうと、基準財政需要の方が国の負担金などが加算される割合が高いので、この表は本来よりも基準財政需要部分が小さめに、独自需要部分が大きめの数字になっています。)

 注目していただきたいのは、大阪市の1人当たり基準財政需要相当の歳出額44.4万円です。名古屋市の1人当たり全歳出額に近く、横浜市の1人当たり全歳出額を上回ります。
 基準財政需要とは、国が必要と認めた行政サービスを国が標準的とする単価で実施した場合の所要額です。大阪市の基準財政需要相当の歳出額だけで、横浜市の全歳出額を上回るということは、大阪市の効率が悪いという理由では絶対に起こらず、国が必要と認めた行政サービスだけでも、人口1人当たりでは大阪市は横浜市や名古屋市よりも、ずっと多くの行政サービスを提供していることが分かります。

 なぜ、このようなことが起こるのでしょうか?
 ひとつには、市民が貧乏だったら基準財政需要額は増えます。生活保護や児童福祉法・老人福祉法・障害者福祉法などの適用対象者が人口比で多いと、1人当たりの歳出額は必然的に増える訳です。生活保護の対象者が大阪市で多いことを考えれば、要因のひとつであることは確かでしょう。

 もうひとつとして、道路や橋などの社会資本、図書館や学校などの行政施設が充実していると、基準財政需要額は増えます。
 単純な例で考えるために、基準財政需要がすべて道路の長さだけで決まることにしてみましょう。
 A市で人口1人当たり1kmの道路を維持してることで1人30万円の予算、B市では人口1人当たり2kmの道路を維持してるから1人60万円の予算という例です。B市では過去からずっと、社会資本の充実に投資を続けてきた結果、その維持のために多くの予算を持つことを国からも認められているということです。

 別の見方もできます。A市で人口1人当たり1kmの道路、B市では人口1人当たり2kmの道路を維持してるとして、B市は市域の半分が住宅地で半分が無人の商業地域だったというのもありえます。
 住宅地だけで比較するとA市もB市も人口1人当たり1kmだけど、B市は無人の商業地域を抱えているので、人口1人当たりにすると2倍になるということです。商業地域には人が住んでいなくても法人の事務所や店舗があって、法人も税金を払っているのですから、単純に人口1人当たりにするのは、おかしい訳です。ただ、法人を人口に加えて計算するということは一般にされないので、商業地域や工業地域の割合が高いと、自然に人口1人当たりの行政サービスの量は、大きくなってしまいます。

 この点を考慮すると、大阪市>名古屋市>横浜市というのも理解しやすいのではないでしょうか。横浜市は東京のベッドタウン的な性格もあるため、人口規模が大きい割りには、商業地域・工業地域は大きくありません。中京地域の中核都市である名古屋市や京阪神地域の中核都市である大阪市は、人口に比して法人向けの行政サービスの量は、どうしても大きくなります。

 わたしは、大阪市の行政サービスの大きさは、過去から社会資本や行政施設への投資を続けてきたことと、商業地域などの割合が高いことの両方の要因があるように考えています。

 では、過去の社会資本・行政施設への投資が、今の豊かな行政サービスを支えているとして、ピーク時と比較して税収が落ちた大阪市は、今の行政サービスを維持できないのでしょうか?実際、バブル期には7700億円ほどあった税収が、ここ数年は6000億円〜6500億円程度とピークより2割ほど減少しています。

 でもこれが、なかなか単純にはいえません。
 今より税収が2割落ち込んだとして、基準財政需要部分は地方交付税で補填されるので小さくなる訳ではありません。独自需要の17.7万円が2割減って、約3.5万円の減少になるだけです。そして、3.5万円の予算が足りなくなるからといって、すぐにその分の行政サービスを削ることもありません。なんとかして、予算を圧縮してサービスを削らずに3.5万円を節約しようとします。
 この時、17.7万円から2割を節約しようとすると大変ですが、予算全体で見ると61.5万円から3.5万円を節約すれば良い訳です。約6%、削れない部分も多いので、削れる部分はもっと削減率を上げる必要がありますが、それでも17.7万円から節約するよりも、かなりマシです。
 大阪市は、平成16年の財政非常事態宣言以来、この削減努力を続けてきたのだといえます。

 話を戻して、大阪市の予算に無駄が多いのかです。
 大阪市が61万円で、名古屋市が44万円。大阪市は名古屋市より、1人17万円も無駄な支出をしているというのは、無茶な議論ということは確認できたように思います。
 「大阪市が名古屋市なみの経費で行政サービスを提供できるようにすれば4500億円の財源が生まれます。これが成長戦略の原資になります。」とは、現状の大阪市の基準財政需要を3割削ることを意味しており、大阪市の道路や橋などの社会資本や学校や図書館などの行政施設を3割ほどぶち壊し、生活保護や老人や障害者などの福祉対象者の3割ほどを市外に追い出すことで達成できることだからです。

 けれども、大阪市の行政サービスの提供が効率的か非効率かは、とても重要です。歳出額を按分して基準財政需要相当44.4万円、独自需要相当17.7万円としたのは、基準財政需要対応の行政サービスを国が定めたコストで提供できた場合です。もし、2割も効率が悪ければ、基準財政需要相当に53.3万円もかかることになり、独自需要相当には、半分の8.2万円しか残りません。逆に1割効率がよければ、基準財政需要相当は40万円で済むことになり、独自需要相当に21.5万円を充てることができます。

 こういう机上論はともかく、大阪市の現状の行政サービスが手厚いのであれば、それはそれなりには効率的に行政運営がされているということなのだと思います。そして、税収が苦しい中、経費削減で行政サービスを維持しようとしている努力には、罵声よりも、せめて声援を贈りたいと思います。


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posted by 結 at 04:14| Comment(0) | 財務 | 更新情報をチェックする
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