2011年02月08日

大阪維新の会マニフェスト雑感(その3)

 今回は、前回の「府市の二重行政解消などで職員数を3割以上削減し、4500億円の財源を生み出す」の続きで、後段の「4500億円の財源を生み出す」についてです。

 これは、マニフェスト本文の文章ではありません。マニフェスト本文には、「大阪市役所の行政改革断行」という項目で、「橋下府政が行った改革と同レベルの職員給与体系の徹底的見直し」など行政改革の徹底を行うという文章はありますが、具体的にどれだけの削減効果を生み出すかは書かれていません。
 そのため新聞記事にする際、資料編に挙げられた「4500億円の財源を生み出す」という記述を使用したのでしょう。

 マニフェスト(資料編)では次のように記載されています。
--------------------------
大阪都構想は、成長戦略を実現する手段です。広域行政を一元化。司令官を1人にして成長戦略を展開します。二重行政を解消し、生み出した財源を成長戦略の原資にします。

以下は人口一人当たりの行政経費の比較表です。

大阪府  288068円
大阪市  597572円
府市計  885640円

東京都  434533円
23区  343300円
都23区計767833円

府市計−都23区計
     117807円

 仮に、東京都制と全く同じ仕組みにして行政サービスを提供すれば1人当たり117807円安上がりになり、大阪市の人口を260万人とすると3063億円の財源が生まれます。

大阪市  614957円
横浜市  377970円
名古屋市 445370円

 また、大阪市が名古屋市なみの経費で行政サービスを提供できるようにすれば4500億円の財源が生まれます。
 これが成長戦略の原資となります。
--------------------------

 あくまでも資料編の記述なので、マニフェストの達成を約束したものとは、言わないでしょう。見方によっては、単に期待を煽ってるだけで、何も約束したものではないといえます。

 それでもわたしは、新聞で取り上げられたように、名古屋市なみ行政経費とすることで4500億円の財源捻出という部分を取り上げます。
 理由としては、この政令指定都市の予算比較は、(大阪維新の会の基本的な思想やこれからの具体的政治指針とされる)上山信一著「大阪維新」でも、大阪市予算に無駄がある根拠として挙げられているもので、以前からタウンミーティングなどでも、繰り返し語られているものだからです。(わたしの聞いたタウンミーティングでは、横浜市と比較されていましたが。)
 以前このブログで、大阪維新の会大阪市会議員候補の坂本尚之氏と意見交換をさせていただいた際も、無駄排除による予算捻出方法として、事業別に他の指定都市と予算額を比較して削減率を決定し、それに基づき予算編成をさせる。これによって決まった特別区の所要額を基準に、市税の配分率を決定すると説明されていました。上記の「名古屋市なみ」と同じ考え方です。
 参照:「大阪維新の会・大阪市会議員候補さんとの意見交換の続き(その3)

 では、上記の考え方で4500億円を生み出し、成長戦略の原資に当てるとは、どういったことを意味するのでしょうか?

 大阪維新の会マニフェストの本文「優しい大阪」で「特別区は、現在大阪市が提供している住民サービスの全て(敬老パス制度を含む)を提供します。」と記載しています。

 また加えて「公立中学の完全給食の実施」「乳幼児医療費助成を中学生まで無償化」「待機児童の解消」などが景気良く並べられていますが、これらはあくまでも「取り組みも可能になります。」というだけで特別区の取り組み次第という意味ですから、「全て提供します」の部分とは違って、何も約束していないと解釈した方が良いのでしょう。

 「名古屋市なみで4500億円を生み出し、成長戦略へ」と「大阪市の現在の住民サービス全て提供」とは、様々な意味で矛盾します。

 まず、「名古屋市なみで4500億円を生み出す」という考え方は、以前の記事「大阪市は無駄が多いという話、肝心な点が分からない」で整理を行いましたが、大阪市が多くの予算を掛けながら実現している行政サービスと、名古屋市や横浜市の行政サービスが全く同等ということを前提としています。しかし、何人かの大阪維新の会の議員さんなどに質問をしたところでは、この1人当たり行政経費の差が、行政サービスの差の影響か、大阪市の無駄の影響か、具体的な確認は行われていないようでした。(無駄の例くらいは挙げていただきましたが。)

 様々な困難を乗り越え(一般にこの部分で不可能に近いです。)て、名古屋市と全く同じ業務体制と行政サービス内容にすることができれば、理論的には名古屋市なみの行政経費にして4500億円を生み出せることになります。
 しかし、大阪市も名古屋市も、それぞれに独自サービスの提供に努めてきており、名古屋市と行政サービス内容を同じにしてしまったのでは「大阪市の現在の住民サービス全て提供」はできません。
 種類の差だけでなく、大阪市の方が豊かな予算で実施していることを考えれば、行政サービスを量的にも削減しなければならない可能性が高いと考えます。

 大阪維新の会の方のお話を聞いていると、他都市で行われている行政サービスが大阪市民に適用されるなら、大阪市の現状と比較して行政サービスがどれ程削減されたとしても、「行政サービスの低下はない」と主張されることがあります。
 マニフェストの「特別区は、現在大阪市が提供している住民サービスの全て(敬老パス制度を含む)を提供します。」の部分が、勝手にそのような理解だと主張するものであったり、選挙向けのお題目であったりしないか、とても心配します。

 次の矛盾点として、「大阪市が名古屋市なみの経費で行政サービスを提供できるようにすれば4500億円の財源が生まる。これが成長戦略の原資となる。」としている訳ですが、これは大阪市の行政改革で成長戦略の財源を捻出するとしているだけです。
 二重行政の解消、都市制度の改編などによる、大阪府、大阪市、堺市での統合効果は、計上されていません。前回記事で、職員削減でも二重行政解消でどの程度の効果を出すかは、何も書かれていないことを示しました。
 二重行政の解消は、大きく謳われる割に、どの程度の効果を挙げようとするかは、あまり触れたくないようです。

 ちなみに、二重行政解消の効果は、上記の東京都との比較の3063億円だとする考え方もあるかもしれませんが、次の理由からその解釈を採りません。
 東京都の3063億円が二重行政解消の効果で、名古屋市との4500億円が行政改革の効果だとしたら、生み出される財源は7563億円のはずです。でも、この後の説明になりますが、金額として巨額すぎてこのような想定はありえません。
 どちらかといえば、東京都の3063億円が二重行政解消の効果と行政改革の効果を合わせたものと理解した方が妥当性が高いです。でもそうすると、二重行政解消の効果と行政改革の効果を合わせた方が、名古屋市比較の行政改革だけの効果より小さいという矛盾がでてしまいます。だから、この解釈も採れません。(東京都、大阪市、名古屋市の行政サービスが同等という前提が矛盾を引き起こすのですが、この前提を外すと他都市比較で財源捻出額を出す前提そのものを崩してしまうので、できません。)

 次の矛盾点としては、行政サービスの低下なしで生み出される財源として、4500億円というのは、あまりにも巨額すぎるのです。
 この数字の根拠は、上の説明の通り、大阪市の1人当たり行政経費を名古屋市なみにできたらということです。ですから、大阪市の予算の組み換えだけで行えるとしているものです。
 巨額すぎると感じる一つの理由としては、マニフェストを見る限り、財源を生み出すとする行政改革の内容の大半は、職員の削減や給与カットなど人件費に関わるものです。大阪市予算のうち、人件費は約2600億円です。(二重行政解消による職員の3割削減など示されていないことは、前回記事で示したとおりですが)多分無理と思う前提として人員3割カット、給料1割カットを想定しても、節約できるのは約1000億円です。人件費以外の支出を行政サービスを一切カットせずに削減し、3500億円捻出できる理由をわたしはマニフェストから読み取ることができませんでした。

 巨額すぎると感じるもうひとつの理由としては、大阪市の予算の中で財源捻出できないと思われる項目がかなり大きいからです。
 ひとつは、公債費=借金の返済で、2000億円あります。
 もうひとつは、生活保護費です。生活保護費は大きく抑えられる項目と思われそうですが、その大半は受給者へ支給するお金ですから、節減できる経費の部分は小さいと思われます。また、受給者を減らせば財源が生まれると思われそうですが(これはまた別の記事にしますが)生活保護費用の大半は国が負担しているので、受給者を減らしても国からのお金が減るだけで、ほとんど財源にはなりません。この生活保護費が3000億円です。
 他にも、このように財源捻出対象にできない項目はあると思いますが、とりあえず金額の大きなこの2つにします。
 大阪市の予算1兆5000億円のうち5000億円を差し引くと1兆円。この1兆円から、半額近い4500億円を引いても、行政サービスは今まで通りだとはとても信じられないのです。

 マニフェストの形式的な解釈として、本文の「大阪市の現在の住民サービス全て提供」と資料編の「名古屋市なみで4500億円を生み出し、成長戦略へ」が矛盾するなら、本文の「大阪市の現在の住民サービス全て提供」が優先するはずです。
 でも、「大阪市の現在の住民サービス全て提供」は(ずっと確認したかったのに、確認ができず)マニフェストになって初めて見た話、「名古屋市なみで4500億円を生み出し、成長戦略へ」は大阪都構想が目指す、大阪のグランドデザインの根幹。わたしは「名古屋市なみで4500億円を生み出し、成長戦略へ」が優先することを、とても心配します。(東京のような都税制度を採れば、予算で4500億円=税収で2000億円弱は、普通に都へ吸い上げることができます。)

 また、区長公選制のメリットとして、区民が欲しい行政を選択できると大阪維新の会の方は強調されます。(行政選択自体は、現在も大阪市の単位でできることになっているんですけどね。)
 でも、行政の選択って、何かを求めるためには、今あるサービスの何かを止めなければならなくて、何を止めるのかが、一番難しいのです。現状、十分に機能していないのは、結局、止めるサービスを選べないからだと思っています。
 それでもって、上記の4500億円の経費削減です。これだけ経費をギリギリに絞った状態で、特別区って何か止めることのできるサービスなんて残ってるんでしょうか?区長公選制のメリットとして高らかに掲げる行政選択を、本当に機能させようと思ってるのでしょうか?
 なんか、お題目だけになってしまうようようで、心配です。


追記

 気になる点があって、上記の東京都と大阪府の人口一人当たりの行政経費の比較を自分でもう一度行ってみました。
 使用したデータは、総務省の地方財政状況調査関係資料の決算カード平成20年度分で、平成20年度の歳出合計と平成21年3月31日の住民基本台帳人口です。

大阪府  309520円(288068円)
大阪市  614957円(597572円)
府市計  924477円(885640円)

東京都  550775円(434533円)
23区  357764円(343300円)
都23区計908539円(767833円)

府市計−都23区計
      15938円(117807円)
()内は、マニフェストの数字を再掲

 マニフェストのデータと同じデータを出そうとしただけで、随分と違う数字が出てきてしまいました。これだと、大阪府と東京都でほとんど差がないということになってしまいます。

 本題はここからで、東京都は、23区の固定資産税・法人市民税などの都の取り分45%については、本来、市が行う業務を「大都市事務」として都が行う経費に充てていると主張しています。(東京都財務局「都財政が直面する課題」
 この東京都が、45%として得ている税収は約1兆円。東京都の歳出額は税収の約2倍ですから、行政経費のうち約2兆円を、23区の代わりに都が支出しているとしているのです。
 そこで、歳出額のうち2兆円を、東京都から引いて、23区に足した上で再計算した結果が次の通りです。

大阪府  309520円
大阪市  614957円
府市計  924477円

東京都  391390円
23区  593699円
都23区計985089円

府市計−都23区計
     ▲60613円

 結果が逆転してしまいました。

 更に加えると、橋下知事は、大阪市内で大阪府が担当する業務は、たったの2ミリだと語ります。人によっては、大阪府は、大阪市内には教員の給料と警察の経費しか支出していないといいます。実際、先日、大阪府が打ち出した中学給食導入の300億円の補助金、大阪市は適用除外です。
 そうすると、大阪府の309520円って単純平均ですから、大阪府の歳出のうち大阪市域への支出の割合が小さいとすれば、大阪市民にとっての大阪府の行政経費はもっと小さいと考えた方が良さそうです。

 この結果を以って、東京都制と全く同じ仕組みにして行政サービスを提供すれば、今より行政経費が高くなると言うつもりはありません。東京と大阪で行政サービスが同等という前提にそもそも無理があるからです。

 ただ、こういう数字で数千億円を生み出せると掲げるマニフェストを、わたしはあまり、信じたくはありません。


追記の追記

 「追記」で、東京都と大阪府の人口一人当たりの行政経費比較の数字が、わたしの積算と大阪維新の会マニフェストで違っていた件ですが、大阪維新の会のマニフェストでは、この部分について積立金などの一部の支出を除いた歳出額を使用しているようです。
 つまり、政令市の比較で使用している大阪市614957円が何も除外しない額で、東京都との比較で使用している大阪市597572円が一部を除いた額です。どちらも同じ年度の1人当たり歳出額です。
 それなりに理屈はあるのでしょうが、東京都との比較と政令市比較で、違う数字を使用する必然性があるとは思えませんし、東京都との比較は、この一部を除くことで結果が7倍以上も変わってしまいますから、恣意的な数字の使い方という印象は否めません。

 また、歳出額のどの部分を比較するかのわずかな解釈の違いで、結果が7倍以上も変わってしまうような数字を使用して、数千億円の予算を生み出せると主張されていることの危うさも、改めて感じました。


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posted by 結 at 04:48| Comment(4) | 概要 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「特別区は現在大阪市が提供している住民サービスの全てを提供する」
ということは、現在の堺市域もその対象になるわけですね。
それひとつとってみても膨大な経費がかかると思います。
また、このケースと逆に、
「現在堺市で提供されていて大阪市で提供されていない住民サービス」
についてはどういう扱いになるのでしょうか。
引き続き堺市域のみで実施ということであれば不公平が生じますし、かといって全て大阪市の住民サービスに合わせてしまうとなると堺市域の住民からは不満が出ることも予想されます。
仮に都区域を更に拡張した場合も同じことの繰り返しが生じます(マニフェストには堺市以外の隣接市についての扱いが明記されていませんが、結局どうなったんでしょうか。何か新たな情報があれば知りたいです)。
もめた挙げ句に収拾がつかなくなってしまうかもしれませんね。
公債費の件、とっても重要なのに明らかにされてませんし。
不利な情報は出したくないということでしょうけど、それはアンフェアですね。

こんな先行き不安なことをするくらいなら、いっそのこと現在の大阪府知事・大阪市長・堺市長の上に公選のポストを新たに制定したほうがよさそうに思えます。
そこに座った人が大阪府の広域行政を含めた最高責任者ということで。
「大阪総監督」とでも命名しましょうか。。。
但し、市町村の合併や分割に関する権限は与えないなど、いくつかの条件はつけないといけませんけど。
Posted by どんごろす at 2011年02月09日 02:20
どんごろすさんへ

 行政サービスの選択は、元々特別区の役割だから、大阪市の行政サービスを全て提供できる予算額を特別区に付与すれば、その後は特別区の選択になるという組み立てと思います。それ以上の約束は、マニフェストの中の自己矛盾となってしまいます。
 ただ、分割のコストアップを無視して、現状費用の3割カットをした上で、「大阪市が提供している住民サービスの全てを提供」できる予算を与えている・・・みたいな話をするんじゃないかと疑っているのはあります。

 「大阪総監督」なんて、橋下知事が一番求めてそうに思いますけど。
Posted by 結 at 2011年02月10日 04:38
橋下代表へ。
詳細は読んでいませんがよく理解できていません。
何か、詳細は選挙が終わってから指示して作製させるらいしい。信用・信頼して欲しいとのこと?白紙委任して欲しいとのこと? それは無理。目茶苦茶。アナタはそんなに信頼も信用もないことを分かっていないみたいですね。人気だけはあるみたい、それはね、吉本興業さん・太田プロそして何故か毎日放送さんがバックについているからですよね。公平であるべき毎日放送さんが、、、?ゴマすり・贔屓の引き倒し・コンプライアンスに当たらないか他人事ながら心配。
Posted by 横井 at 2011年02月10日 21:04
横井さんへ

橋下代表は、最近は、特別法制定のための住民投票があるから、今度の選挙で大阪都構想を決めるとか思わず、まず過半数の議席を取らせて、設計図を作らせてと言ってるようです。
設計図なんて、府知事なんだから、いつでも作れたはずの欺瞞。設計図を作るのに、選挙の結果が必要といいながら、設計図を議会で議決するのに、選挙の判断を不要とする欺瞞。何より、今度の選挙は、大阪都構想の是非を問うているのに、設計図を作っていいかを問うているだけですよと誤魔化してる欺瞞。

どこへ連れてかれるか分からないまま、白紙委任を求められても、困りますね。
Posted by 結 at 2011年02月12日 06:03
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