2011年01月02日

基礎自治体は、30万人規模がコスト的に最適といえるのか

 大阪都構想で二重行政解消が期待されることが多いが、実は都区に分割することでスケールメリットを失うコストの方が大きいのではないかということと、コスト増の部分だけ都区は負うので、都区が担う身近な行政サービスが低下するのではないかということ述べました。
 これに対する橋下知事や大阪維新の会の方の反論として、次の2点を想定しました。
○大阪市の行政は、無駄が大変に多いので、都区に分割しても、無駄を省くことで行政サービスの低下が防ぐことができる。
○スケールメリットというが、基礎自治体のコスト的な最適規模は30万人規模であり、都区に分割することでコスト増が起きることはない。逆にコスト減が期待できる。

 前々回の「大阪市は無駄が多い」に続き、今回は「30万人規模がコスト的に最適か」です。

 まず、この点について、大阪府の自治制度研究会で、次のような資料で説明されています。
 効率的な行政経費の観点として、府内市町村の人口1人当たりの行政経費は、人口区分別に次のようになっているとします。

人口区分      歳出額(人口1人当たり)
政令市       537,331
30万人以上   299,533
30万人未満   293,093
20万人未満   316,999
10万人未満   302,836
5万人未満    310,886
 人口1人当たり行政経費は人口規模20〜30万人が最も低い。
 資料上はここまでですが、議論としては、行政経費は自治体の規模に対してU字となり、20〜30万人が最も市の規模として効率的だという説明になるわけです。

 それでもって、この論によると、大阪市を分割して30万人規模の自治体にすると、自治体経営が効率的となり、(住民サービスを落とすことなく)より小さな行政経費にすることが可能になると主張されることになります。

 正直なところ、なんとも乱暴な議論です。
 人口規模別に一人当たり歳出額に傾向があるとして(何しろ、平均値をいくつかならべただけですから、本当に相関関係があるかも、十分にはいえない。)、それがどういう理由でそうなったのか、何も(実証的な)分析がされていません。
 府自治研究会では、経費の種類別の資料がいくつも出されていたりしますが、ただ数字を並べているだけで、理由の分析に繋がるようなものにはなっていないようでした。委員さんのひとりが、「これ一つ質問なのですが、考えられるのはいわゆる混雑費用みたいなものが発生して、それで最適規模が規模の経済性を打ち消すようなことになっているのでしょうか。その違いがなぜかというのは興味がありました。」と発言されていて、誰も答えずに放置になっていただけです。

 この論と矛盾する分かりやすい例を挙げると、生活保護費が大阪市では上記行政経費の10万円程度を占めますが、30万人程度の規模の市だと2万5千円程度。この論によれば、大阪市を分割すると生活保護受給者が4分の1に激減すると言ってる訳ですが、普通ありえないように思います。

 もうひとつ、この議論が乱暴だと思うのは、提供される行政サービスの内容を何も検討していないことです。
 例えば、支出目的別の数字を使うと分かりやすいのですが、一人当たりの児童福祉費は大阪市46500円に対して、30万人規模の市だと37000円程度。この論では、実現されている行政サービスは同一と仮定しているので、大阪市は9500円を無駄にしていると結論付けている訳です。
 普通、この数字を解釈すると、大阪市は児童福祉に手厚い支出を行っていて、9500円分充実した行政が行われている。もし、大阪市がスケールメリットを享受していて、30万人規模の市と同じサービスをするだけなら、37000円よりももう少し安く提供できるとしたら、行政サービスの差は9500円より、もっと広がることになります。

 市民にとって大切なのは、どんな行政サービスが結果として提供されるかですから、こんな議論だけで、「大阪市を分割すると行政サービスを下げることなく行政経費を安くできる。」なんて信用できるはずもありません。
 実際、ちょっと想像してみると、具体的に市を分割してコストが変わる点って、わたしはコストが上がるものしか思いつかないのです。

 そして、この議論でヘンだなと思うのは、ここで扱ってる数字が、必要コストではなく、歳出の実額だということ。
 この議論だと、人口150万人の自治体が一人当たり50万円の歳出をしているとして、市を分割して30万人規模にすると一人当たり30万円の歳出になるとしているわけです。
 でも、この自治体は分割しても一人当たり50万円の歳出ができる財源を持っているはずなので、30万円しか歳出しない理由が分からない。分割すると税収が4割減になるいうことなのでしょうか?
 多分こういうと、「行政コストが50万円から30万円に減って20万円残るから、もっと行政を充実できるんだよ。」という人が出てきそうですが、それだと市の規模を30万人にしても歳出額は50万円で変わらないことになり、この論は破綻します。

 結局、政令市の一人当たり行政経費54万円(大阪市は61万5千円)に対して、30万人規模の市だと行政経費30万円だとして、その差の理由が、行政効率なのか、行政サービスの内容なのか、その違いは自治体規模に起因しているのか、そういうことが分析されていないと、全く意味がないと考えます。

追記

 少し余談となりますが、自治体規模が大きくなるにつれて、人口一人当たり歳出額(資料は、歳出額を示しているだけで行政コストを示してはいません。)がU字になる理由について、他にどんな解釈ができるか考えてみました。こういう解釈もできるという例です。

 次のように考えます。
○同じ行政サービスを提供するために必要なコストは、(スケールメリットが働き)自治体の規模が大きくなるに従って小さくなる。
○自治体の規模が大きくなると、産業・商業地域を含む場合が多く、その規模も大きくなる傾向がある。産業・商業地域は、法人からの税収をもたらすと共に、その税収の一部を産業・商業地域を維持・振興するための支出に充てる必要もある。自治体の税収と歳出は、居住人口で割ると、(法人からの税収と支出が加わるため、)大きくなる。このため、自治体の規模が大きくなると、人口一人当たりの歳出額=財政力は大きくなる傾向がある。

 この2点を表にすると次のようになります。
自治体規模U字説明案.jpg

 表の左側で、必要コストが財政力を上回る時は、差額が地方交付税として交付されるので、必要コストが歳出額となります。
 表の右側で、財政力が必要コストを上回る時は、最低限の行政サービスに加えて、財政力で提供可能な限り行政サービスを提供しようとするので、財政力が歳出額となります。
 結果として、歳出額は表の左側では右下がり、表の右側では右上がりのU字を描くことになります。
 こんな解釈だって、十分に可能です。


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posted by 結 at 06:30| Comment(6) | 財務 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
30万くらいになると、府県に依存しなくてもかなりの業務が出来、今はこれが中核市として指定されています。高槻市とか宮崎市など。衛星都市で大きなランクや地方の県庁所在レベル。大阪市は市域に京都市や札幌のように熊が出る山地などなく、これを人口で切り分ける必要などない。30万以上になるとコストがかかる部分としては独自の公共交通や、保健所など府県がやることを負担するからで、コストがかかるというより役割がのしかかると言うべきで、ムダではない。
 大阪都とか市の分割にする理由は見あたらないと思います
Posted by 山中鹿次 at 2011年01月04日 21:56
山中鹿次さんへ

コメントありがとうございます。
確かに、市の規模が大きくなるにつれて、業務の幅が広がって、費用が大きくなる面ってありますね。そういったことを忘れた振りして議論する方って、「プロじゃないの!」と突っ込みたくなります。

ただ、すこし注意をしておきたいのは、(大阪都構想では、都区の業務を一般の市より広げようという話があるので、直接関わらないかもしれませんが、)「業務の範囲を一般市(または特例市)の範囲に絞り込めば、30万人規模のコストでできるだろう。」といった議論が出てきそうなこと。それだけじゃない理由もしっかりあると思ってます。中核市、政令市の業務範囲の広がりにも一部の理由はあるかもしれませんが、例えば政令市は10万人単位で行政区を置いて丁寧な行政を行っていることもあるのだと思います。
ちゃんとひとつづつの行政サービスの質と量を比較する視点を、大切にしたいです。
Posted by 結 at 2011年01月05日 01:56
30万都市との比較を通して気になったことをひとつ。
分割の結果、ほとんどが住宅密集地ばかりになってしまった区はどうするのでしょうか。
特例市や中核市が持っているような中心市街地を形成しようにも、未利用地が少なすぎて困難だと思います。
同じ理由で、自主財源を増やそうとしても、企業や大学などの施設を誘致するという手段もとれません。
たとえ住民の総意で、日本一いやらしい街をめざして大風俗街やカジノ街を造ろうとしても、場所がなければ何もできませんし。
既存の住宅地を片っ端からぶっこわすのなら別でしょうが、容易に同意が得られるとは思えません。

特例市や中核市レベルになると、規模の差はあれどこもそれなりに人・モノ・金が集まる中心市街地を持っており、大阪府下の市もこの例外ではありません(そのかわり、多くは田園地帯や山地も抱えておりますが)。
大阪市を単純に分割した場合、確かに田舎はないけれど、産業がよりいっそう高度に集約できるポイントが全ての区に造れるわけではないという弱点があると思います。
ひとつの巨大都市としてオフィス・工業地帯・繁華街・住宅地等々がその都市計画によって配置されてきたわけで、その歴史を無視していきなり8分割しても、やはり無理が生じてしまうでしょう。
繁華街やオフィス街を持っている区、あるいは埋め立て地などの空き地がある区だけが稼げる自治体となりうるというのでは、なんとも不公平な話でもありますし。
Posted by どんごろす at 2011年01月05日 21:35
どんごろすさんへ

 そういう話が問題になった時だけは、地域の振興や開発は、政令市と違って都=府が行うから心配しなくていいという話になるのでしょう。
 でも、そのまま信じられる話なら、府下の市町村が産業振興などの心配などしなくていいはずだけど、どこの市も頑張ってますよね。都政移行後に、同じ話が問題になったら、今度は「自分の区を発展させるは、自分たちでも努力しないと。どこの市でもやってることだ。」といった話になるのだと思います。

 大阪市全体が一体の市域として機能しているものを、無理やり分割すれば、無理が出てくるのは当然で、都区の行政は丸投げするつもりの橋下知事がそういったことを考えているはずもない。
 大阪市民の「自己責任」が問われる事項のひとつなのだと思います。
Posted by 結 at 2011年01月07日 05:01
30万人が最適かどうかがわからないという点はよくわかりました。疑問点はもしスケールメリットを追求するのでしたら、大阪府全体を大阪市にすればよいと思います。それがだめな理由はありますでしょうか?
Posted by Toshi at 2011年01月17日 10:51
Toshiさんへ

 コメントありがとうございます。
 府全体をひとつの市とした時、スケールメリットの働く事業もあれば、そうでない事業もあるでしょうし、全体でどうなると言える知識はありません。
 ただ、それ以前の話として、それぞれの市や町に愛着を持たれている方は多いでしょうし、小さな自治体が大きな自治体へ統合されることを不安に思われる方も多いと思うので、そういう統合が各市の市民・町民に合意されるのは、かなり難しいように思います。
 わたしの浅薄な知識より、府下でも、いくつもの市町村合併が頓挫したようですから、それらについての意見を検索されるとより具体的な情報が得られると思います。

 市町村合併といった方法でなく、スケールメリットを探す方策というのはあるのだと思います。大阪府などが、旗振り役になると色々できることもあるように思います。
 ただ、維新の会の府議さんとツイッターでのお話の時に、そういう話題を振ってみましたが、思いもしないことのようでした。まあ、別に府の利益になることではないので、積極的に汗をかくようなことではないのでしょう。
Posted by 結 at 2011年01月18日 05:18
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