2010年12月29日

大阪市は無駄が多いという話、肝心な点が分からない

 前回、大阪都構想で二重行政解消が期待されることが多いが、実は都区に分割することでスケールメリットを失うコストの方が大きいのではないかということと、コスト増の部分だけ都区は負うので、都区が担う身近な行政サービスが低下するのではないかということ述べました。
 これに対する橋下知事や大阪維新の会の方の反論として、次の2点を想定します。
○大阪市の行政は、無駄が大変に多いので、都区に分割しても、無駄を省くことで行政サービスの低下を防ぐことができる。
○スケールメリットというが、基礎自治体のコスト的な最適規模は30万人規模であり、都区に分割することでコスト増が起きることはない。逆にコスト減が期待できる。

 このうち、今回は「大阪市は無駄が多い」を取り上げます。

 大阪市の行政に無駄が多いという議論は、タウンミーティングでも聞きましたが、他都市との行政経費や職員数の比較で語られます。大阪市の人口1人当たり歳出額が63.2万円に対して、横浜市は36.8万円。大阪市は、横浜市の1.7倍も高コストで無駄にしている。というものです。(数字は、後述の村上氏の論文から使用)

 でもわたしは、この議論はかなりヘンだと思っています。
 大阪市の無駄を無くして、横浜市並みの36.8万円まで落とし、26.4万円を捻出したとします。他の条件がなければ、この26.4万円を投入して大阪市で、多くの要望が出されている様々な行政サービスを新たに行うことができます。
 では、無駄を無くした後の大阪市の予算はいくらなのでしょうか?63.2万円です。今までの行政サービスの経費は36.8万円になりましたが、新たな行政サービスを26.4万円行うので、予算全体としては、63.2万円で変わりません。(勿論、提供される行政サービスの内容は、大きく変わっています。)

 無駄を無くした後で、他都市との行政経費を比較するとどうなるのでしょう。
 やっぱり、大阪市は63.2万円、横浜市は36.8万円であり、大阪市は横浜市の1.7倍も高コストです。
 では、大阪市の63.2万円を36.8万円に再度圧縮できるでしょうか?普通に考えれば、無理です。
 では、現在の大阪市は、圧縮する前と圧縮した後のどちらに近い?そして、その根拠は?

 無理な思い込みをしていないなら、大阪市の1人当たり行政経費が63.2万円で、横浜市が36.8万円なら、普通は、大阪市は横浜市より、財政的に豊かだと理解をする数字だと思います。行政に対する要望は無限にあり、財政的に可能であれば、自治体はできるだけ実現しようとするからです。
 ただ、そうやって可能な限り要望を取り込んだ後に不況などで税収が落ちてくると、財政は苦しくなります。大阪市は平成16年に財政非常事態宣言を行い、(行政サービスの維持に努めつつ)予算圧縮に努めているようです。

 村上弘氏の論文から数字を引いてくると、2006年度の人口1人当たり歳出額は、大阪市63.2万円、横浜市36.8万円、名古屋市45.7万円です。この差を行政が効率的かの指標とするのは、実現している行政サービスが全く同じということが前提となります。
 この前提は乱暴すぎるので、少しだけ丁寧にすると、大まかに次の3つの理由から、その差が説明できるように思います。
(1)行政サービスの実現方法が非効率(または、無駄・不要な行政サービスが提供されている)
(2)経費を掛けて質の高い行政サービスが提供されている(または、他市が提供していない独自の行政サービスが多くある)
(3)地理的差異や過去の行政結果の差異など

 (3)は置いておくとして、(1)と(2)がどの程度の割合になっているかを、示した資料をわたしは知りません。これが無駄が多いかの肝心な点なのに。
(ただ、上山信一著「大阪維新」の中で「大阪市は無駄が多く平松市長の登場で、改革は頓挫してしまった。」とされていることに対して、現実には職員数をみると上山氏の提示する職員減をすでに終わらせていることを、以前の記事「大阪都構想で、市役所の職員は何人を適正とみているのだろう」で確認しました。)

 役所なんてものは、様々な無駄を抱えているものですから、大阪市役所の無駄な事務の例を挙げることは、色々できるのでしょう。でも、大阪市役所にだけ無駄がいっぱいあって、大阪市役所以外の役所に無駄が少しもないなんて、わたしは信じません。
 ですから、大阪市役所の無駄な事務の例を挙げても、それは他市よりも無駄な事務の割合が多いことを説明したことにはならないと考えます。

 1人当たり行政経費の差をすべて、行政の無駄と断じ、他都市なみに行政経費を削減しても、現状の行政サービスは低下しないという説明は、あまりにも乱暴すぎます。もし、そういった議論をしようとするのであれば、他都市との行政経費の差がどんな理由で発生し、どの程度の差を生じさせているかを分析し、その解消によって、行政サービスへ影響を与えないことを、説明される必要があります。

 もう少し言うと、例え他都市にも同様の無駄・非効率があったとしても、無駄は少しでもなくなった方が良いのです。ですから、他都市との比較といった、実際の行政サービスがどのように変わるか、全く分からないような議論よりも、「こういった点をこのように改善し、これだけの予算を削減する。だから、都区分割によってコスト増になっても、行政サービスの低下は起きない。」という議論を望みます。

 少し余談となりますが、そういった例が、大阪維新の会の具体的政治指針とされる上山信一著「大阪維新」で挙げられています。
 大阪市のゴミ収集は、たいへん非効率的で、高コストなのだそうです。その主な理由として、小型のゴミ収集車を多数使用していて、路地の奥まで入って、各戸の前までゴミを収集に行くからなのだそうです。上山氏は、この例を過剰サービス(それは、過剰人員、過剰コストにも繋がります。)の代表として挙げ、解消されるべきとしています。(当然、過剰サービスの解消をしても、行政サービスの低下とは評価しません。)

 わたしは、この例を、優先性はあまり高くないが質の高い行政サービスが提供されていると考えます。ゴミ集積場所までゴミを捨てに行くことは重視しませんが、家の前がゴミ集積場所になるのは嫌だからです。(自分の家の前ではないかもしれませんが、誰かの家の前がゴミ集積場所になります。)
 だから、都区分割のコスト増を埋め合わせるひとつとして、ゴミ収集の各戸回収が廃止されるなら、わたしは行政サービスの低下と評価します。
 また、ゴミ収集の各戸回収は、優先度の高い行政サービスとは思わないので、廃止の議論はあってもいいと思いますが、廃止の場合は、削減された予算をより優先度の高い行政サービスに振り向けることを望みます。(行政サービスの選択の中でなら、廃止はありかもと思うということです。)

 中身が全く分からない数字の議論ではなく、このような実際の行政サービスの議論であることを望みます。

追記

 余談となりますが、大阪市の職員数の多さについても、少し整理します。
 村上弘氏の論文から数字を引いてくると、2006年度の人口1人当たり歳出額は、大阪市63.2万円、横浜市36.8万円、名古屋市45.7万円で、2002年の人口千人当たり職員数(普通会計)は、大阪市12.3人、横浜市6.5人、名古屋市9.5人となっており、この職員数も、大阪市役所の事務に無駄が多いとして説明されるようです。

 ただ、歳出額を千人当たりに直して、歳出額を職員数で割ると、職員1人当たり歳出額は大阪市5138万円、横浜市5662万円、名古屋市4811万円と、差がほとんどなくなることが分かります。つまり、大阪市の職員数の多さは、豊かな予算で多くの事業・丁寧な事業を行おうとすると、比例して多くの職員が必要になることを示しているに過ぎないようです。


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posted by 結 at 00:40| Comment(4) | 財務 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>また、ゴミ収集の各戸回収は、優先度の高い行政サービスとは思わないので、廃止の議論はあってもいいと思いますが、廃止の場合は、削減された予算をより優先度の高い行政サービスに振り向けることを望みます。

もうそんなこと言っていられる状態ではないんですよ。
大阪は5兆円、国も800兆円の借金を抱えています。
行政サービスや公務員の人件費をカットしていかなければ、日本は立ち行かなくなってしまいまうんですよ。
いい加減に目を覚ましてください。
Posted by サクラ at 2010年12月30日 03:44
 コメントありがとうございます。

 市町村の身近な行政サービスをカットして、大阪府や国の借金返済に充てるべきというのは、大阪都構想にもない考え方なので、お考えの全体像は掴みかねるのですが、ご容赦ください。
 国と地方自治体は、全く別の組織ですから、国の借金と市町村の行政サービスを結びつけるお話はよく分かりません。地方自治体は、地方交付税の大幅な削減を受け入れて、国の財政状況を助けるべきというお話なのかもしれませんが、このブログではそこまで話を広げての議論は行いません。

 大阪府の5兆円の借金を減らしていくためであれば、府の行政サービス削減に理解を示すべきというお話になるのだと思います。そのことについては、十分に練られた府の行政サービスカットであれば、理解すべきと思います。
 ただ、大阪府の借金を返すために、大阪府下の市町村の中で、大阪市民や堺市民だけが身近な行政サービスを削って、大阪府を支援するべきとは思いません。あくまでも、府民全体で負うべきものと思います。

 大阪市民として、大阪市の財政状況が苦しいということで、優先度の低い行政サービスの一部を整理するという話は、きちんと受け止める話です。
 ただ、ここでの議論は、大阪都構想では、身近な行政サービスは下がらない(その中身の一部として、ゴミ回収の各戸回収を止めても、行政サービスは下がったと考えないので、説明もしない。)としていることについて、ゴミ回収の各戸回収を止めるなら、行政サービスは下がった評価しますよ。市を分割するために、行政サービス低下を知らぬ顔で押し付けないでくださいよというお話をしています。

 大阪府や大阪市の膨大な借金を心配するなら、大阪都政への膨大な移行経費(多分、百億円単位では済みません。)や、大阪市を都区へ分割することで発生するコスト増(記事の通り、膨大な金額になるはずです。)からも目を背けずに、しっかりと評価されることを望みます。
 大阪都構想は、大阪府が大阪市や堺市の税・財源を自由にできることで大きなお金を動かし易くはなりますが、都庁・都区全体の行政コストは逆に大きくなると考えます。(主に行政コストの増える都区に、その分の予算を与えないとして、辻褄を合わせているだけと考えます。)
Posted by 結 at 2010年12月30日 05:14
私も結さんと同意見。
大阪都に移行するまでの費用は、それは途方もない金額になります。

サクラさんの意見は、ほんとにある意味一般的でいかに「大阪都」になることがムダがなくなるかという幻想を一般市民に与えているかの指針になりそうです。
その一方で知事は1700億円、大阪市の関電株の売却で用意しちゃえ〜とあっさりと言っちゃいます。(関電株も言いかえれば大阪市民の財産なのに。大阪府で用意すれば^^;)
大阪都になれば一人の知事で途方もない金額を自由にできる・・・これってほんとに冷静に考えないと大阪が終わってしまいそうな気がしちゃいます。
地道に「大阪都構想」がなんたるかを一般市民も知るべき時だとほんとに思います。
コワイですね。
Posted by 北区民 at 2010年12月30日 18:08
北区民さんへ

 賛同ありがとうございます。
 「二重行政の無駄がなくなるから、大阪都構想に賛成」という声はよく聞きますが、何が減るの?どのくらい減るの?まず、答えられる方はいないのだろうなと思います。まして、移行経費や大阪市分割のコストなんて、想像もつかないというか、嫌なことだから考えないようにしてるというか。でも、現実はやってくるし、誰かが不都合な点をきれいに解消してくれる訳でもないので、良い点、悪い点、目を背けずに考えて欲しいし、分からなければ、答えを求めて欲しいです。
 なんか、橋下知事の考えてる大型事業って、全部大阪市の財布のようですね。市民が嫌だと思っても、知事と府議会がやると言ったら、市の財布で1000億円単位の工事をどんどんやってしまうよと言ってるのだと言う事も気づいて欲しいです。
 「成長戦略を作ったから、成長するわけじゃない。」大阪府自治制度研究会の議事録の一節です。知ってるはずなのに、忘れたふりをしてるのでしょうか?
Posted by 結 at 2010年12月31日 03:16
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