2010年12月06日

村上弘「『大阪都』の基礎研究−橋下知事による大阪市の廃止構想−」を読もう(その6)

5 大阪の発展のために大阪都が必要か?(下)

 大阪都構想は、それ自体が目的になってしまってはならず、あくまでも大阪発展のための諸政策を推進する手段であるはずだが、大阪都でなけれは推進できない政策とは、具体的にどんな政策なのか。
 維新の会のHPでは、次のように書いている。
「4.大阪の潜在可能性を顕在化させ成長戦略を策定する。
 5.アジアの拠点都市に足る都市インフラ(道路、空港、鉄道、港湾等)を整備する。」
 4.は抽象的だが、5.は検討作業の手がかりになる。
 これらの都市インフラ整備を中心に、大阪都による政策の可能性を、他の情報も参考に少し具体的に描き、検討してみよう。

 大阪都になることで、政策課題の種類により、改善を期待できるか、できないか、図表4として、整理してみた。(港湾に関しては検討できていない。また、他の見落している政策もあるかもしれない。)

政策推進のために大阪都が必要か.jpg

 図表4での整理によれば、大阪発展のための政策を進める上で、大阪都(大阪市の廃止)の効用がそれなりにあるかもしれないのは、4項目だけだ。それも、「大阪府は常に正しく、大阪市の異論は府が抑えるべきだ。」という前提のもとで、ようやく言えるレベルである。
 また、仮にこの4項目の政策について大阪都への一元化が好ましいとしても、次回述べる他の考慮要因もあるので、これだけで大阪市の廃止を十分に正当化できないことを断っておく。

 第1に、経済界から建設の要望が強い高速道路の「淀川左岸線(延伸部)」は、ベイエリアと京都・滋賀を結ぶために役立つ。しかし、大阪市は3000億円といわれる建設費に対する自己負担等を理由に慎重な態度をとってきた。
 ただ、ベイエリアを州都と目論む関西州構想は、他府県の反対もあって進まず、ベイエリアはすでに関空や兵庫県とは高速道路で繋がれていて、京都も少し迂回すれば繋がっていることを考えると、この「淀川左岸線(延伸部)」の必要性は低下した可能性がある。

 第2に、企業誘致のための大幅減税や財政補助を府が行おうとするが、市が同調しない場合である。
 これは、判断が難しい。市税の減免も不可欠ならば、大阪都への一元化が好ましいことになるだろう。しかし、市税の減免が本当に不可欠か、減税が企業の立地にとって決定的な要因なのか、府だけの減税では効果がないといえるのか、などを検討する必要がある。
 また、大阪都への一元化が好ましいといえるのは、「府が行おうとするが、市が同調しない場合」であるが、合理的で「採算」の取れる減税であれば、「大阪市が拒む」とすることが、あまり考えられない。

 第3に、橋下知事は、WTCビルに府庁の移転を主張しているが、府議会や世論からは交通の便の悪さや移転経費を理由に反対も強い。これは大阪府の案件だが、大阪都を作り、大阪市を廃止すれば、都心一等地の市役所跡地を再開発したり、売却したりできる。
 しかしこれは、自治体庁舎の望ましい立地条件の判断の問題であって、大阪都導入の目的になってはならない。
 また、WTCに府と市の庁舎が移転すれば、周辺地域の開発の引き金になるという論理も、どの程度の研究予測に基づいているのだろうか。

 第4に、上の3点に比べて、関西空港への鉄道の高速化は、ビジネス都市の国際的な立地条件を左右する課題である。
 空港鉄道と連結する地下鉄新線の建設には、大阪市の協力も必要だが、市内交通面での必要性は高くないので、次回述べるように、財源を府が相当負担する必要がある。
 なお、関西空港への鉄道の高速化は、途中停車駅の多いJRの「関空快速」を準ノンストップ化する方法もあり、比較検討が望まれる。

 上の4項目以外の大阪についての政策課題は、従来のような府と市の分担・協力で進められるだろう。たとえば、観光・企業誘致の宣伝活動についても、上海万博に府・市の共同出資で「大阪館」を出展し、知事と市長が揃って訪問し、効率よくPRしている。

 最後に、別の問題を指摘しておきたい。
 以上のうち第4の空港鉄道のような大阪にとっての戦略的な政策は、橋下知事のもとでは、実はあまり推進されていないのではないか。
 政策推進のために大阪都が不可欠だという論理に従えば、政策着手は大阪都の創設後ということになるが、大阪の発展を願うなら、現行制度のままででもできる部分から重点政策に取り組んでいくべきだろう。


 参考として、コンパクトシティに関する議論を加える。
 21世紀に入って、世界的に都市政策や都市計画のキーワードになっているのが、「コンパクトシティ」である。
 これは、都市の携帯を拡散させず、様々な機能がコンパクトに集積した都市を目指すというモデルで、(1)公共交通をりようしやすくして自動車による環境負荷を抑え、(2)都市の中心部の居住人口を回復し、(3)歴史的資源などを活用して観光客にも魅力的な都心を整備し、(1)〜(3)により、(4)衰退してきた中心市街地を活性化し、また、(5)高齢者など多くの人にとって便利な、歩いて暮らせる街づくりを進め、(6)郊外の自然環境を保全し、(7)郊外の開発に伴う非効率な公共投資を抑えるなど、多くの効用が期待されている。

 日本では、青森、富山などの地方の中都市の取り組みが注目されているが、大阪市は面積で見ると、まさにコンパクトシティの条件を備えている。市域が狭いゆえに、殺風景な都心部や市域の人口減少に危機感を持ち、景観や環境など都市の魅力の向上や人口増加策を進めてきた。こうした21世紀型の都市政策は、大阪都のような広域自治体が得意とするところではあるまい。

 個性のない都市は、魅力も小さい。大阪都は1000万規模の人口と財政力を誇りにできても、巨大すぎて地域の個性、文化や魅力を磨くには不適当だ。
 そもそも、大阪市が廃止されれば、大阪市内の人口、商店街、観光客、大学などが減っているか、犯罪が増えているか等の統計は目立たなくなるし、たとえ認識されたとしても、大阪市というまとまりを持って、真剣に対策に取り組む主体(自治体)が存在しなくなる。旧大阪市に置かれた特別区の連合体で取り組むしかないが、現在よりかなり力不足になるだろう。


 この記事での紹介は、コンパクトな紹介を試みるため、元の論文にある精緻さに欠けます。また、わたしのヘマで、元の論文とズレの出ている部分もあるかもしれません。
 もし、この紹介の論文について、興味をお持ちいただけたなら、こちらから元論文をどうぞ。
posted by 結 at 01:11| Comment(2) | 概要 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
橋下知事が大阪市長選挙に出馬する前提は、
大阪府議会と大阪・堺両市議会で過半数獲得だとか。

普通の発想では、逆だと思います。
過半数を取れれば、誰が市長になろうと、
都構想は進めれるわけです。
だからこそ、
明確な都構想を示して欲しいと主張しているのです。
過半数が取れなかったら、責任を取って、
市長になって、議案を提案するべきです。

でも、そうなれば、大阪は大混乱になりますが、
Posted by minato at 2010年12月06日 22:36
minatoさんへ

 橋下知事の大阪市長選の出馬の前提は、府議会・大阪・堺市議会の過半数獲得ですか。情報ありがとうございます。

 でも、「出馬する」といった訳でもないのに、報道がかしましいですね。出馬の可能性を否定しないなんて、今までと言ってること同じじゃないですか。まして、統一地方選での維新の会の完全勝利が前提なら、もうどうでもいいって感じです。
 なんか、市議会選挙が思わしくないから、「僕を大阪市長にしたいなら、市議会選挙で応援してね。」といった宣伝がしたかったのかなと、邪推したくなります。

 大阪市議会選で、維新の会が負けた時の、橋下知事の市長選出馬は、正直勘弁です。名古屋市や阿久根市の再現になりますよ。
 維新の会が負けた時は、公言している通り、ひいてくださいな。
Posted by 結 at 2010年12月07日 02:28
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