2010年11月24日

村上弘「『大阪都』の基礎研究−橋下知事による大阪市の廃止構想−」を読もう(その2)

2 指定都市制度と東京都制

 「大阪都」構想は有力な指定都市である大阪市を廃止し、東京都と類似した都制に移行しようとする。大阪都を論じるためには、指定都市と都制(都区制度)という2種類の制度について、基本的な事項を押さえておく必要がある。

 指定都市とは、大都市自治体である市に一般より大きな権限を委ねる制度である。
 大都市に一般の市より広い権限を認めるべきだという論理の根拠は、大きく分けると2つある。
(1)大都市自治体は、行政能力が高い。これは、大都市の経済力から得られる税収や、自治体行政機構の規模・能力を指している。
(2)「大都市特有の行政需要」がある。大都市がもつ中心地機能、人口や諸活動の規模・密度の高さのゆえに、経済政策、都市再開発、地下鉄や鉄道、高次の文化施設、住宅整備、環境保全、生活保護など様々な政策が大規模に必要になる。

 他に、住民との関係では、府県の事務権限が指定都市に移譲され、指定都市に区役所が設置されるために、行政サービスが(論理的には)迅速かつきめ細やかになるというメリットも重要である。

 指定都市が一般市を超えて特別に認められる権限は、児童福祉、社会福祉、食品衛生、都市計画、土地区画整理事業など19の分野で、通常は都道府県が担当する事務の全部又は一部を担当する。それに加えて、国道や府県道の管理の一部などの府県事務が移譲されている。
 それに劣らず指定都市にとって有利なのは、一般の市と違い、府県を介さずに、直接国と交渉でき、一般の市であれば都道府県知事の指示、許認可を受けるべき事項であっても、政令で定める場合には、それが必要でないことだ。
 つまり、知事が権限を行使できる機会が、指定都市に対しては減るということになる。

 続いて東京都制(都区制度)について見ていくと、東京都の強みは、他の道府県よりも大きな権限・財源を国との関係で配分されていることではない。国との関係において、都・道・府・県の間に原則として、区別はない。
 都が特別なのは、むしろ基礎自治体との関係で、権限・財源を都に集中できることである。都は、特別区の区域においては、都道府県の役割に加えて、基礎自治体の役割の一部も担当することになっている。特別区の側から見ると、一般の市町村よりも権限が縮小されることになる。
 また、特別区は一般の市が有する財源のかなりの部分を都に吸収され、かつ、国から地方交付金を受けない代わりに、都から特別区財政調整交付金を交付される。これによって、都への財政的な依存が起こる可能性がある。

 特別区を基礎自治体として位置づけると、市町村と比べても、なお権限が弱いという問題が浮かび上がるだろう。また、東京都を広域自治体と見なすと、23区区域を一体として捉える基礎自治体が存在しないという問題点が指摘される。

 東京の制度を参考に考えると、大阪都のもとで、大阪市(や堺市?)の立場と役割は、現状よりも極めて弱められてしまう。
(1)指定都市としての地位は失われ、府県に準じた高次の権限や、国と直接交渉できる地位を失う。
(2)一般市と比べても、旧大阪市域に設置される特別区は、権限、財政の2つの面でより弱い立場になる。
(3)特別区に分割されるので、都市域全体を運営してきた大阪市等の総合性やまとまり、自己決定権が失われてしまう。
(4)大阪市等が築いてきた施設や資産のかなりの部分は、都の所有に移るだろう。

 こうした4つのデメリットに対して、どんなメリットがあるのか。
 唯一考えられるメリットは、大阪市が都に併合され消滅することで、大阪全体が(そして大阪市域が)超飛躍的に発展するという論理だが、そんなことがありうるのか。
 後の5、6節での検討によれば、この政策上のメリットはあったとしても小さく、府と大阪市が分立していても工夫により達成できる。
 逆に、政策や地方自治に関するデメリットが、4つのデメリットに加えて発生し、深刻である。

 大阪府下に住む人々も、大阪市に対して不公平感を覚えるかもしれないが、上のような過酷な処遇を大阪市に与えてフェアと言えるだろうか。
 また、大阪都知事への権力の集中が何を生み出すかも考えてみる必要がある。先に紹介した大阪維新の会のHPでは、市町村合併の強力な推進が示唆されていることを見落としてはならない。

 なお、東京の発展は、おそらく都制の故ではなく、東京が首都でかつ日本最大の都市であることによる。
 横浜、名古屋、福岡などの市と、それを含む県が、それぞれの市を廃止解体すれば、より発展すると主張する人はいないだろう。
 大阪についても、同じではないか。


 この記事での紹介は、コンパクトな紹介を試みるため、元の論文にある精緻さに欠けます。また、わたしのヘマで、元の論文とズレの出ている部分もあるかもしれません。
 もし、この紹介の論文について、興味をお持ちいただけたなら、こちらから元論文をどうぞ。
posted by 結 at 02:23| Comment(0) | 概要 | 更新情報をチェックする
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