2010年11月22日

村上弘「『大阪都』の基礎研究−橋下知事による大阪市の廃止構想−」を読もう(その1)

1 はじめに − 「大阪都」構想

 大阪府の橋下知事は、大阪府と大阪市を再編する「大阪都」構想を打ち出し、政治団体「大阪維新の会」を設立した。当面、2011年春の統一地方選挙で、府議会と大阪・堺市議会の過半数を獲得することを目指している。
 知事は、「大阪市役所と府庁を解体し、一からつくり直す」などと説明しているが、首長や議会の選挙区、担当する事務の内容なども、現在の大阪府を基本に決められるはずで、「大阪府による大阪市の吸収合併」または「大阪市の廃止」に他ならない。

 府と市は多少の対立はあるにせよ、ともに都市や地域の整備を努めてきたように見える。今日の大阪で府・市にそれほど決定的な対立と「二重行政」があり、本当に政令指定都市や地方分権の理念に反するような大阪市廃止を断行するべきなのだろうか。
 この論文は、「大阪都」構想に対して、地方自治論などの視点から、幅広く、事実やデータに基づいて、検討を加えてみたい。

 まず、「大阪維新の会」のHPの文章をみると、トップページで「競争力と成長」を重視し、「大阪の潜在可能性を実現させる」という方向性が示され、「広域自治体と基礎自治体の役割と責任を明確にし、大阪府域の再編、そして大都市自治制度の実現を目指します。」という部分が、大阪都構想ということになる。

 これを具体化したものとして、「政策」のなかの「大阪再生マスタープラン」を見てみる。
 明快な部分は、大阪の危機を強調したうえでの、政策上の目標設定であり、「アジアの拠点都市に足る都市インフラ(道路、空港、鉄道、港湾等)の整備」ということになる。
 「強い広域自治体と優しい基礎自治体で大阪府域を再編する」との制度改革の理念も明快である。とはいえ、この役割分担論は、地方自治法の考え方とは、かなり違う。
 広域自治体(大阪都)は福祉、文化、環境等に責任を負わず、優しくなくてよいのか、また、基礎自治体(大阪市ほか)は産業基盤や都市開発によって地域を強くする役割を否定されるのか、という疑問を持つ人も多いだろう。
 しかし、この「強い広域自治体」と「優しい基礎自治体」という表現こそ、大阪都構想の核心であり、大阪市などが持つ高次の権限を大阪府=大阪都が吸収し一元化することを示している。つまり、大阪都の公式目的がなによりも産業基盤整備の一元的推進にあることが、率直に示されている。
 大阪都構想の進め方については、一元的リーダーシップ観が特徴的で、複数の主体が議論し、相互調整していくリベラルな多元民主主義の考え方とは、一線を画している。

 これに対して曖昧なのは、まずは「大阪の成長戦略」で、「大阪の潜在可能性を顕在化させ成長戦略を策定する」という政策は抽象的で、本論文では他の情報源を元に、多少の考察をすることしかできない。
 また、肝心の地方自治制度の再編の具体内容も曖昧だ。
 HPの「大阪府域の再編」から次のように読み解いていみる。(HPの原文を略します。)
○グレーター大阪(大阪大都市圏)を大阪府と一元化する。つまり、大阪大都市圏に大阪府=大阪都以外の有力な自治体の存在を許さない。
○大阪市などを廃止して区に変える。大阪市は、いくつかの区に分解することになる。
○都区は東京都の特別区よりも権限と財源を有する基礎的自治体である。(ただし、一般市より限定された権限・財源しか持たない。)
○大阪都の特別区は、現在の東京都制と同じく、公選による首長と公選による議員からなる議会を持ち、地方自治体としての機構を持つ。
○平成の合併の際に、大阪府下で進まなかった市町村合併を進める(という意味だろう。)
 以上のように解読するなら、ほぼ東京都をモデルにした制度設計と理解してよいだろう。

 マスコミは「大阪都」、「大阪府の再編」という表現を用いることが多いが、本来、「大阪都(大阪市等の廃止)」と報道されてしかるべきところを、それが回避されているのは、知事のイメージ先行戦略の成功、マスコミの解説力の低さ、あるいは大阪市側の対応の弱さの反映と見るべきかもしれない。

 地域主権という美しいイメージで宣伝されてきた道州制が、府県の廃止による州央集権、市町村の無理な再合併に繋がるなどデメリットが認識され、世論調査では反対多数の状況となってきた。
 大阪都についても、その実態の認識とメリット、デメリットの評価を進め、大阪の発展をよりデメリットを抑えて進める方策を探ることが、望ましいのではないか。

 「大阪都」構想の意味を理解するためには、それが、府と大阪市(や堺市?)との制度的関係において、次の3種類の変化をもたらすと考えるとよい。
(1)大阪市がもつ指定都市としての高次の権限を、都=府が吸収する。
(2)大阪市を廃止し、いくつかの特別区または市に分割(解体)する。
(3)大阪市が蓄積してきた資産や税源の一定部分を、都=府が獲得する。

 それでも、大阪都の本質をどう理解するかは、賛成論、反対論の間で、正反対になる。
 知事側は、大阪都は大阪府域の再編であり、大阪府と大阪市を解体して、一から新たに作ると説明する。これによって、「大都市自治制度の実現を目指します」と主張をしている。
 大阪市など反対する側は、大阪都を、府による大阪市の吸収合併、府の集権化に他ならないと受け止めるだろう。
 両者の論争に判断を下すためには、レトリックではなく、大阪都の制度設計、知事の意図、大阪市と大阪府のこれまでの実績、大阪に必要な政策の推進体制、役割分担と権力一元化の是非、大都市自治体の適正規模についての国際比較などの情報を整理・分析する必要がある。
 この論文では、そうした作業を進めていきたい。

 この論文で得られた結論を先に書いておこう。
 仮に、大阪の一元的な開発のために必要な権限に限って、「(1)大阪市がもつ指定都市としての高次の権限を、都=府が吸収する。」が一部必要だったとしても(筆者は検討の結果、必要と考えないが。)、さらに「(2)大阪市を廃止し、いくつかの特別区または市に分割(解体)する。」、「(3)大阪市が蓄積してきた資産や税源の一定部分を、都=府が獲得する。」まで進んで大阪市自体を廃絶する必要は、全くないと思われる。
 むしろ、それは地方分権の時代に逆行する大阪府=都への集権化である。また、日本の大都市が採用している政令指定都市制度や、海外の大都市の自治制度を調べても、戦時体制下で導入された東京都制とそれをモデルにする大阪都は異例で、地方自治にとってマイナスである。

 なお、以上の検討をもとに、比較的ニュートラルに定義するとすれば、「大阪都構想とは、大阪府の区域に大都市圏に対応した大阪都を設け、これが大阪市等の都市基盤整備等に関する権限を吸収し、大阪市等は廃止して権限の限られた特別区に分割するという、府市再編の構想である。」ということになるだろう。


 この記事での紹介は、コンパクトな紹介を試みるため、元の論文にある精緻さに欠けます。また、わたしのヘマで、元の論文とズレの出ている部分もあるかもしれません。
 もし、この紹介の論文について、興味をお持ちいただけたなら、こちらから元論文をどうぞ。
posted by 結 at 04:27| Comment(4) | 概要 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
あなたは大阪市職員(労組)か、大阪市が存在することで甘い汁を吸い続けている団体(もしくは個人)のどちらかですか?
何を血眼になって正義感振りかざしているのか・・・
Posted by 通りすがりの者ですが at 2010年11月22日 23:20
通りすがりの者さんへ

このような「削除、一般化」したレッテルを貼ってしまうことが、日本の政治を真剣に考えなくすると思いますよ。
議論しあっていることを否定することの恐ろしさに、みんなが気付かないと、民主主義は終わります。
できれば、議論に加わって下さい。
Posted by minato at 2010年11月23日 19:08
仮に、疑問を持ったり反対したりしているのが大阪市職員労組や市と関係の深い団体だけだったなら、大阪都構想に対して既に国を動かさんばかりの大きな賛同のうねりが起きていてもおかしくないはずなんですが。
大阪から数百km離れた当地では、そういう話はいっさい伝わってきていません。
この話は大阪ローカルでおさまるものではなく、地方分権や地域主権といった全国共通の問題にも深く関わっているはずなんですがね。
ついこの間、知事と片山総務相が互いに話し合ったということだけは聞きましたけど。
Posted by どんごろす at 2010年11月24日 00:11
通りすがりの者ですがさんへ

 コメントありがとうございます。
 あなたは、大阪維新の会の方ですかと、切り返させていただくのが、いいのでしょうか。
 大阪市役所の回し者のレッテル貼りのコメントをいただけるなんて、小さな個人のブログのつぶやきが、少しでもメッセージになっていると実感できて、勇気がでます。

 ただ残念ながら、わたしは、お尋ねの対象には、どれも該当しません。ご期待に副えず申し訳ありません。
 それでもわたしは、「大阪市民のために頑張ってる」なんてつもりは全くなく、自分の身の回りの行政サービスが低下して損するのはイヤだから、色々と知りたい・考えたいと思っているだけの、私利私欲のひとなのは確かです。
 きっと、通りすがりの者ですがさんの方が、正義の人ですよ。

 あと、大阪府職員が例示の中に入っていないということは、大阪維新の会を支援される方でも、「大阪府庁の解体」というのは、そんな風に受け止められてるということなのですね。参考になりました。

 なお、このブログは、コメントはコテハンでの書き込みをお願いしています。コメント削除などになる場合もあります。ご協力をお願いいたします。

 minatoさん&どんごろすさんへ

 応援ありがとうございます。
Posted by 結 at 2010年11月24日 01:16