2010年10月11日

大阪市分割案は、ディベートに勝って、現実に負けた

(大阪市長)市税収入と歳出額が、こう。A区は市税収入がこんなにある。ところが、C区になると歳出額がこれだけある。これだけのアンバランスがある区を、大阪市が一つであったから、今、予算的にやれてるわけですよね。
(大阪府知事)例えば、基礎自治体、都道府県、全国の中で税収格差ありますよね。この調整は、今の日本ではどういう制度で調整していますか。
(大阪市長)知りません。大阪市の話を。
(大阪府知事)いやいや、まず自治体の中で税収と支出、みんな差がありますよ。東京都では60倍です。これは東京都の財政調整制度で均衡を図っています。日本全国でも、例えば地域主権戦略会議の事務局長、ニセコ町と東京都の港区などと比べれば、とんでもない税収格差ありますよね。
(大阪市長)はい。
(大阪府知事)東京都は別としても、この市町村関係の税収格差について、よく平松市長は市内のことを言われていますけれども、日本全国はどうやって財政調整を図っているかご存じですか。
(大阪市長)交付税。
(大阪府知事)ですからこれも、いざとなれば、大阪市がやらなくても交付税という制度で財政調整を図られるんです。もう自動的に市に・・・。
(大阪市長)自動的に本当に足りない部分を出すということですよね。それで、もう一つ。
(大阪府知事)ちょっと、ごめんなさい。その交付税制度について、要は分市しても、平松市長はよくこの間、24区の格差、格差と言われますが、国の交付税制度で財政調整が図られるということについてはどう思われますか。
(大阪市長)例えば交付税制度とおっしゃいますけれども、今、大阪市が国に対して訴えております、生活保護行政によって交付税の措置不足が生じているということはご存じですか。
(大阪府知事)それは大阪市内のことだけじゃなくて、全国の制度が悪いわけであって、だけれども、各市町村、基礎自治体、その財源保障の部分で不足があったとしても、その交付税制度の中で自治体というものは運営されているということはご存じですか。
(大阪市長)はい。ですから、その交付税というものがこれだけ差があるところで、十分に措置される保障はどこにもないということを言っているだけです。制度はあるし、もともと日本の公会計というものが、足らずは国がだしてくれる。だから、行政の末端に行けばいくほどいいかげんな仕事をしたり、あるいは中央は中央でいいかげんな仕事をしたりということが続いていたわけじゃないですか。地方分権制度というのは、そういう関与をどれだけ減らすかということであると私は思っているんですが。
(大阪府知事)ですから、そこは、例えば格差の問題を言われても、格差の是正は交付税制度を使うこともできるし、例えば東京都制度などでも財政調整の制度があります。あとは、先ほど平松市長が言われた、国が関与するのがいいのか、都道府県が関与するのがいいのか、市が、大阪市役所が関与することがいいのか、どれがいいのかという問題であって、格差は幾らでも是正はできますのでね。
(大阪市長)これが、維新の会の坂井さんがホームページに・・・・
(大阪府知事)この表の最大の欠陥は、交付税の算定が収入のところにないじゃないですか。
(大阪市長)違うんですよ。これは交付税とかいうよりも、今の現状をお出ししているだけなんですよ。だから、今、現状はこうですよということをまずは認識していただいて、それで、例えばB市の場合は、500億ぐらい収入が多くなる。そうすると、ここには一切交付金がおりないということになるんですか。
(大阪府知事)そうです。だから、市長が財政の格差の問題で分市案を否定しているのであれば、分市をやっても財政調整の制度は幾らでもできますよ。この表でも問題なのは、ここに交付税の収入額なんてことが全然入っていませんから、全国の自治体にも収入が少なくて支出が多い自治体って山ほどあるわけです。でも、そこは財政調整が入って、何とか自治体運営している。それがまだ不十分かもわかりませんけども。ですから、分市の話をするときに、財政格差の話というのは制度で、制度をつくれば、実際に財政調整を図っている制度は山ほどあるわけですから。まず、ここが市長との認識の違いなのかな。財政格差という問題は、幾らでも知恵を出して財政格差を調整する制度、実際に東京都は六十何倍も格差があるにもかかわらず運営しているわけですからね。


 少し長い引用になりましたが、9月9日の大阪府知事と大阪市長との意見交換会の発言からの抜粋です。(一部、冗長な部分を編集しています。)
 このように、橋下知事はディベートとして平松市長を圧倒し、「分市でどんなに財政格差が出ても、交付税制度が財源保障をしているし、不十分な点があっても幾らでも知恵を出して財政格差を調整する制度を設けることができる。」と言い放ちました。
 それから1ヶ月、大阪市から交付税を含めた分市後の財政試算が公表され、数日で「各市間の財政格差の調整が難しい」などとして、分市案は撤回されることになりました。
 橋下知事は、大嘘を言っていたのでしょうか。

 大阪市が発表した分市後の財政試算は、数字としては初めて出るものですが、予想されたものとそれ程、違いのないものです。(5市の財政再建団体落ちは、具体的試算として提示されると、かなり衝撃的ですが。)橋下知事も、大よその把握はしていたでしょうし、意見交換会での発言とも、別に矛盾はしていないのです。

 維新の会の方が、交付税制度と関係して、分市後の行政サービスを語る時、ナショナルミニマムなサービスと上乗せのサービスという言い方をされていました。交付税で保障しているのがミニマムなサービス(=夕張市でも保障されている行政サービス)で、大阪市の行政サービスは、ミニマムなサービスに、たっぷりと上乗せの行政サービスを加えたものです。

 大阪市の試算は、大阪市の現行行政サービスの維持を前提としたものですが、大阪都構想を提案された当初から(つまり、8月末に大阪市分市案を提案されるずっと以前から、)橋下知事が「大阪市の現行行政サービスが維持される。」という発言をされるのは、聞いたことがありません。
 上記の意見交換会の発言も、現行行政サービスの維持ではなく、ミニマムなサービス(=夕張市なみの行政サービス)として読めば、全く矛盾はありません。大阪都構想や大阪市分市案の発想からいえば、上乗せのサービスがどんな水準になるかなんて、分市後の(市民が選んだ)市長が頑張ることなのでしょう。

 ただ、財政試算の発表から一日経った府議会での答弁から、ややトーンが変わってきて、大阪市の現行行政サービスを前提とするかのような発言となったのは、ミニマムなサービス(=夕張市でも保障されている行政サービス)が保障されているからいいだろうというスタンスが、事実を突きつけられた時、支持者にも理解を得られなかったからでしょう。
 「大阪市の現行行政サービスが維持されるか。」と問われたら、大阪市分市案は撤回せざるをえません。ただ、一本化された「大阪都構想案」も、「大阪市の現行行政サービスが維持されるか。」には、何も答えてはくれないのですが。

 今回、現行行政サービスが維持されないことが明らかになって大阪市分市案が撤回されたのは、選挙の前ということもあるように思います。統一地方選挙が終わり、「大阪維新の会の意見が、大阪府民・大阪市民を代表している。」と語るようになった時、どうなるのかは、わたしには分かりません。

 それから、大阪市からの反論として、区間格差の試算が出されたのは、それが唯一の問題だからでしょうか?わたしは、そうは、思いません。
 「大阪都構想」は内容を想定しようもないけど、大阪市分市案なら、ある程度の制度設計が想定できる。その想定が多少とも可能な大阪市分市案の中で、一番、指摘し易い問題点が区間格差だった。そんな風に思っています。

 弁舌も爽やかに、誰が聞いても素晴らしいことしかないように語られる大阪都構想。弁論大会であれば、多分、優勝できるのだと思います。
 でも、草原の目の前の地面を掘ってみたら、地雷が出てきた。これで地雷は避けられたからと、鼻歌交じりに草原に歩き出すのも一つの選択です。
 でもわたしは、ここが地雷原ではないか、ちゃんと調べながら歩いていきたい。

 大阪都構想も、様々な立場のひとが、十分な時間をとって、検証できるように提案されること、切に願います。


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posted by 結 at 01:05| Comment(5) | 概要 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 いつも、この問題に関するブログの記事、論点をわかりやすく整理していただいていて、読むのが楽しみです。ありがとうございます。
 
 やっと、議論がもとの状態に戻って、都構想の問題点に集中できるようになりました。ほんと、この1月半ほどの間、荒唐無稽な議論(都構想も十分荒唐無稽と思ってますが)につき合わされ、維新の会の人たち自身にとっても、選挙に向けてのタイムロスになったのではないでしょうか。
 ただ、交付税制度などの、従来、一般市民にはなじみのない地方制度に関する議論が、多少なりとも新聞をはじめ、ブログやツイッター等での話題になった、考えるきっかけとなった、という意味では、よく言われる橋下さんの功罪の功の部分と言えなくもないのかなと思います。
 
 確かに、橋下さんは福島の補欠選挙のときにも、財政が厳しく、すべてのことはできない、教育か、敬老パスか、生活保護か、何を選ぶかは区民の方が選挙で区長を選んで決めればいい。と言うようなことを言っていたと思います。現行の行政サービスを維持するとは言ってなかったような記憶があります。大阪市の試算が矛盾だらけと批判するのも、分割された新しい市がどんな施策を実施するか、あるいは住民が何を望むかをまったく考慮に入れてないとでも言いたいのかも知れません。
 
 さて、大阪都構想に戻るのですが、今、世間の注目は財源調整に向いているので、その辺の話題が引き続き議論されそうに思います。もうよくご存知のとおり、都が市(特別区)からかなりの税源を取り上げてそのうちの55%を再分配する仕組みです(詳しくは辻市議の資料がいちばんわかりやすい)。つまり、大阪市民にとっては、都税に移るうちの45%はすでに巻き上げられた上に、再分配される分についても、当然隣接10市も含めた特別区全体で分配されるため、財源が周辺市へ流れていくことは明白で、現行の行政サービスは確実に低下することを前提に考えないといけません。
 結さんもいつかブログでおっしゃってましたが、橋下さんはそれぐらいのマイナスなんて、大阪全体の舵取りが一本化されることでその100倍も1000倍も取り返せるとでも言うのでしょうか。それが、カジノだとか、阪神高速道路淀川左岸線延伸、関空リニアなどの大型公共投資なのでしょうか。よくよく考えてみれば、橋下さんがこれら以外に具体の政策を語ったことがあったでしょうか。おそらく一般市民にとっていちばん身近な生活行政については、基礎自治体の仕事として特別区にまかせ、どうなろうが文句を言わせないために何を重視するかは選挙で選んだ区長が決めればいい。それが民意だ。こんな風に考えてるのが今の都構想のように思います。
 
 維新の会の府会議員の方が、橋下知事は、議論をぶち上げ、自分が間違っていると思えばすぐに修正する。それが従来の政治家にはないいいところ…みたいなことをどこかで言ってたような気がしますが、今回の分市論撤回もその文脈で言えばすばらしい決断と賞賛するのでしょうか。議論を混乱させたことについて真摯に反省する姿勢がないと、これから交わされる都構想についての議論も、まともなことを言ってくるとは到底思えないと考えてしまうのは私だけでしょうか。
Posted by bafuken at 2010年10月11日 06:22
bafukenさんと同様のいけんです。従来の政治家にないいいところ‥なんて無責任極まりないです。維新の会の府会議員は筋を通すべきです。
住吉区のある何軒かの家には、維新の会の府会議員のポスターと自民党の市会議員のポスターが一緒に貼られています。たしか、自民党を離党した府会議員は、自民党の市会議員が都構想に反対するから、政策実現のため維新の会に合流したはずです。政策実現には、維新の会の市会議員を増やさないといけないのに、自分の支持者が自民の市会議員を支持することを許していては、政策実現が泣きますよ。
やっぱり、選挙のための移籍ですね!
テレビは特集でも組んで、指摘すべきだと思いますよ。
Posted by minato at 2010年10月11日 18:01
bafukenさん

コメントありがとうございます。概ね同意です。
ただ、わたしは、今回の分市案撤回は、少し残念に思っている面もあります。
ひとつは、区間格差を除けば、大阪都構想よりも分市案の方が、都税制度がなくや業務分担が法律に副うなど、マシな面も多いからです。
また、都構想も分市案も、大きな点では違いませんから、都構想の認識が進み易いとか、分市案との違いを明らかにすることで、都構想の内容がもう少し浮き彫りになることを期待していました。その点では残念です。

それと一番気になっているのは、本来、橋下知事の意向から外れる分市案を出さざるを得なかった大阪都構想の問題点が、まだ明らかになっていないことです。その問題が隠れたまま、進んでいくことには、強い懸念を覚えます。

何にせよ、これで議論の対象が絞られ、内容が明らかになって、議論が進むことを強く望みます。
逆に、分市案で内容が明らかになったことで、撤回せざるを得なくなった轍を踏むまいと、大阪都構想について、何も内容の情報を出さなくなるような事態の推移となることを、強く心配します。


minatoさんへ

コメントありがとうございます。
お腹立ちの気持ちは分かりますが、個々の議員の行動について、あまり述べるべき意見は持っていません。橋下知事や維新の会HPのスローガン以上の意見が、議員個人の意見として聞こえてこない限り、数合わせとして以上に捉えようがないのです。
ただ、議員の振る舞いをどのように評価するかは、区民が決めることです。逆に、区民の側も、投票などの結果によっては、識見が問われているともいえるのだと思います。
Posted by 結 at 2010年10月12日 01:06
はじめまして。
大阪市分市案は、大阪都構想に対する周辺市民からの批判をかわすのが主な目的のような気がします。
大阪府民でなくなってからかなり年数が経っているので今のリアルな状況はわかりかねますが、都構想に勝手に入れられた周辺市の住民からの賛成の声が全くといっていいほど聞こえてきませんので。
摂津・八尾の両市長があのような発言をされたのも、やはり市民から都構想に対する賛成意見よりも疑問の声のほうが明らかに多いからなのではないでしょうか。
周辺市のなかには山や丘陵地や農地を比較的多く抱えている市もあり、それらが果たして大阪都の一員になりたがるのか、私は疑問に思っているのですが。
そういう市は独自路線でいったほうが、自らの特性を活かしたまちづくりがすすめられますし、ほぼ全域が市街地化可能な状況でないと、強い中心部としての機能を果たしづらいと思うのですが。
Posted by どんごろす at 2010年10月12日 01:57
 コメントありがとうございます。

 橋下知事は、都構想でも、7月には、都区域を大阪市・堺市に当面絞り込むような発言をされていたので、周辺市民の批判というのはないように思います。都構想を目指していた考え方から言えば、都区域を大阪市だけに限定しても、知事には分市案より望ましいはずと、思っています。

 周辺市の市民の支持・不支持は、正直分かりません。大阪市民も、別に元々大阪都構想を望んでいた訳ではなりませんが、人気知事が動いた選挙結果はあの通りですから。
 それに、都に入れと言われれば、市長の反応は当然あんなものです。市民と市長は、必ずしもイコールではありません。

 ただ、分市案など対象区域を大阪市に絞ってきていることに、商業地域の集積などは関係あると思います。橋下知事いわく、「大阪市以外は、まんじゅうの皮」だそうです。
 ただ、まんじゅうの餡と言われても、大阪市民としては、市民のことなんて見てないように思えて、嬉しくもありませんが。
Posted by 結 at 2010年10月13日 02:07