このブログでは、地方行政・財政の話を扱いながら、地方交付税の話には、あまり触れてきませんでした。
地方交付税制度とは、基準財政需要額(その自治体が最低必要な行政サービスを行うのに必要な予算額。すっごく細かい積み上げで計算します。)から、標準的な税収の75%を引いた額が国から交付されるという制度です。これによって、自治体は、必ず最低限の行政サービスを行う予算を持っていて、標準的な税収の25%+α(標準より税率を上げて、税収を得ている分など)を独自の行政サービスのために使えることになります。ただし、額面通り、全額くれないケースもあるので、過信は禁物です。
大事な話なのに、今まで触れてこなかったのは、概要くらいは何となく分かっても、基準財政需要額の積み上げとかが、滅茶苦茶複雑で、大阪都構想などで状況が変わったとして、交付額がどうなるかとか、全然検討がつかないからです。
でも、今回は、大阪都構想と地方交付税の話になります。
最近、ツイッターで、大阪都構想について、2点興味深いお話を伺いました。(表現は、かなり編集しています。)
ひとつは、大阪都案は、都と都区の業務を自由に分けられる点がメリットだが、デメリットとして交付税が減ってしまう。大阪市分割案では、(主に分割後の新市で)交付税が増えるメリットがあるということ。(記事末に、注あり)
もうひとつは、大阪都構想は、大阪府の財政再建を解決するための分析と検討から始まった。ただ、今は財政再建は主目的からは外れて、更に大きな目的を目指している。でも、大阪府の財政が危機的という認識は、今もある。
この話から、2つのことをイメージしました。
ひとつは、大阪市分市案は、府の財政再建と矛盾しないのだろうかということです。
単純に考えると、税収は増えないのに、大阪市の広域業務が府側で増えるので、財政的にはより苦しくなりそうです。でも、府の財政再建から始まった話なら、今は主目的から外れてても、府の財政再建と矛盾する案は、できるだけ避けたいはずです。
それで、府の財政再建と矛盾しないと考える方法はないかということで、次のように考えました。
○大阪市の広域業務が、大阪府に移管されても、その分の交付税も大阪市から移転されるので、業務に見合った財源は確保される。
○大阪市の広域業務の移管は、市町村合併時と同じような統合効果が期待できるので、多少なりと経費を安く上げて、財源をひねり出せるかもしれない。
○橋下知事は、ちちんぷいぷい出演時に、広域業務で大阪府と大阪市を併せれば、職員をもっと減らすことができて、財源を生み出すことができると力説されていた。
○大阪市の広域業務の移管時に、職員の移管をできるだけ抑えれば、大阪府で大幅なリストラを行ったのと、実質的に同様の効果を挙げることができる。
効果の規模は、以前の記事の試算で、大阪市の広域業務の割合を5%としました。多少の幅をみて、予算額の10%=1500億円とすると、効果は100億円〜300億円程度を想像します。
また、財政再建が意識されているのだとしたら、大阪市民は、広域業務の移管で行政サービスが低下しないか、中身がどうなるか、十分注意は払った方がよいように思います。
二つ目は、大阪市分割案がどうやって出てきたかを想像してみました。ただ、基準財政需要額がどのように動くとか、全く分からないので、以下は、全くのよた話です。
大阪都構想では、府と各市を統合すると、府と各市をばらばらに計算した時より、基準財政需要額は小幅ですが小さくなります。(って、ことにしておいて。)逆に、都区に、基準財政需要額を基準として、予算措置をしようとすると、大阪市、堺市を分割したことから、各市をばらばらに計算した時より、基準財政需要額は、小幅ですが大きくなります。
割合が小幅といっても、大阪府と11市の総予算は5兆円を超えますし、分割される大阪市・堺市の総予算も1兆8千億円になります。それぞれ、1%動くだけでも、500億円と200億円です。
全体の基準財政需要額が減る中で、都区へ配分する基準財政需要額が増えますから、大阪府は、大幅な減収を抱え込むこととなります。
大阪市から何千億円か、予算を移転できることを期待していたのに、大阪府の予算が大幅な減収になってしまうというのでは、目も当てられません。
周辺9市、堺市と、順に外して再試算をしてみますが、元凶は大阪市の分割なので、思わしい結果が出ません。
最終的に、大阪府と大阪市のみとなっていた大阪都案から、都区を市として独立させ、都区の財政調整措置を、国の交付税制度に任せることで、大阪府の使える交付税額の減収を防ぐ案が、大阪市分割案になったというのが、このお話です。
橋下知事が、大阪市分割案を発表した時に、「法改正の必要がなく、(都区が直接)地方交付税を受けられるメリットがある」と話されたそうです。符合しませんか。
まあ、全くのよた話で、細部はいろいろ矛盾があうはずですが、何故、大阪都構想(の都税制度導入)で、財源が潤うはずの大阪府が、いきなり大阪都構想で、減収に悩む話となってしまうのでしょうか?
都税制度が語られるとき、唯一の例となるのは、東京都です。
でも、東京都は、財源が法外に豊かで、地方交付税も、余裕で不交付団体です。そんな東京都だからこそ、都税制度で45%抜いても、基準財政需要額を十分満たす財源配分を行えるのです。
対して、大阪府と大阪市は、共に地方交付税の交付を受けています。大阪府と大阪市が合併しても、大阪市を分割した都区へ、基準財政需要額に基づく予算配分をしようとすると、大阪市の予算が右から左へ行ってしまうだけで、抜きようがないのではということです。まして、分割で、需要額が膨らんでしまっては、手に負えなくなる。
繰り返しますが、この話はよた話です。多分、いろいろとアラもあるに違いありません。ですから、他の記事でも、この話は、前提としません。
それでも、こんな方向からの捉え方もあってもいいかなと、記事にしてみました。
でも実際、大阪都構想を考える時、交付税がどうなるかって、重要なファクターのひとつのはずです。でも、このことについての議論って、わたしは聞いたことがありません。語れる材料を持っている人が、限られていて、その人が情報を出さないからなのでしょう。
こういう重要なファクターについて語られぬまま、統一選挙に向かって時間だけが進んでいく、大阪都構想についての議論。このような状況を「残念」とは、最早いいません。このような状況を、わたしは「恐怖」します。
(注)
誤解があるといけないので、追記します。
「大阪市分割案では、(主に分割後の新市で)交付税が増えるメリットがあるということ。」と書きましたが、分割後新市の交付税が総額で増えるとは、技術上の誤差に近いもので、それで都区や新市が豊かになるといった「増える」ではないと考えます。市町村に平成の大合併があったのは、(三位一体改革による交付税全体の削減などもあり、)財政上、合併しないと市町村が立ち行かなくなったためです。市を分割した方が、財政上有利であれば、合併する市などありません。
ここでの話は、普通の市町村合併であれば、業務統合の効果の方が大きく問題にされない、小さな技術上の増減が、(統合される業務量が小さく、分割される業務量が大きな)大阪都構想では、間に挟まれる大阪府には、大きな問題になったのかもしれないということです。
ちなみに、分市後に交付税額が多い市とは、業務量が多いのに財源に乏しく、独自事業のための財源に乏しい市のことなので、行政サービスがどの程度低下するか、十分注意を払った方よい市ということになります。
・・・もし、この記事を気に入っていただけましたら、目次から、他の記事もどうぞ。
大まかに大阪都構想のことを知りたい方は、まとめブログをご覧ください。
措置不足という言葉を聞くことがあると思いますが、マニュアルどおりに算定した額がそのまま国からもらええるというものではなく、国においても限られた財源を全国の自治体に配分するに当たって、それなりの按分方法や、場合によってはさじ加減というものがあるかもしれません。柳本市議のブログでも触れられていたように、やってみないとわからないというのが結論なのではないでしょうか。
いずれにせよ、交付税の問題ひとつをとってみても、こんなに不確実なままで、ましてや整理するべき課題はほかにも山積みなのに、結さんが試みられているような、地に足をつけた議論が、維新の会からまったくされないままに選挙に突入していきそうな雰囲気です。
大阪都構想とか市分割論で、いちばん傷つき、取り返しのつかないダメージを負わされるのは大阪市民です。どうか、イメージやムードに流された投票行動の結果、こんなはずじゃなかったのに、とならないように、結さんがされているような、冷静で具体的な議論がもっと世間に注目されたらと願っています。
そうでなければ、この議論までは、なかなか大変かもしれません。「記事で情報を。」としたのは、巷の都税化の議論や大阪市分割案の提案に当たって、重要な影響を与える情報なのに、そういう情報提供をしようとされてないように思えたからです。
大阪都構想に賛成であれ、反対であれ、自分の周りの行政(基礎も広域も)がどのようになるか、実感できるところまで、食い下がって、質問を続けることしかないようです。
そうしなければ、なかなか、スローガンと「大枠」と呼ぶ情報以外、教えてくれなさそうです。
そして、賛成であれ、反対であれ、納得できるまで自分で知ってから、選ぶ責任を市民ひとりずつが負ってますから。(橋下知事って、こういうところ、甘やかしてはくれなさそうです。)
単純には、「交付税額」=「基準需要額」−「基準収入」ですが、肝はこの「基準」で、需要額と収入額の算定方法は、国が決める費用(基準)単価によって計算されるので、該当県(市)の実経費は考慮されなかったと思います。極端に言えば、費用単価として数えられる事務(事業)をやっていようがなかろうが、交付税には影響されなかったはずです。
ですので、広域行政事務が府と市のどちらしようが、互いの交付税額は変らないのではないでしょうか。
そこで、今回の「分市」について考えてみると(「大阪都」の方は詳細がわからないので・・)
A市をB市とC市に分けると仮定して、B=黒字、C=赤字の場合(←大阪市にはこのパターンが多い?)、B市=交付税なし、C市=交付税が交付される形となります。
A市一つであった場合は、Bの黒字分でCの赤字分を補って、トータル赤字分の交付税が交付される形であるため、B+C>Aとなり、結果的に「分市」の場合はトータルで見ると交付税が増えるということになると思います。実際には、おっしゃるとおり計算は複雑で、詳細な条件設定がなければ不可能だと思いますので、橋下知事の発言も大まかにこのレベルかと思います。
いずれにせよ平松市長が言われていたように、交付税が交付されれば潤沢となるわけでもなく、各市(区)間での格差問題が新たには生じるので、大阪市が一本で調整していた運営しているよりも、円滑になるとは思えません。
一方の大阪府においては、トータルの交付税が増えたにしても、府財政には関係ないどころか、大阪市が行ってきた広域行政事務を府がする必要が出てくるはずなので、府財政面から見てもメリットはありません。
なので、「分市」という方針の場合には、橋下知事は、大阪市を「弱体化」することが目的と言われても仕方がないですね。
最初の「大阪都構想」の方も、総務大臣が片山氏に代わって、法制定や改正による実行は、より難しくなってくるのではないでしょうか・・
「区長公選制」などのまやかしで、こんなにメリットがない構想について、府民(市民)に具体的に説明されることなく、選挙対策のみを着々と進める「維新の会」に、市民として「怒り」を覚えます。
まず、広域行政の交付税額ですが、需要額が実単価でなく基準単価なのは、同意です。ただ、例えば、道路管理について、等級別の管理距離に基準単価を掛けて需要額を出しているとすれば、道路の管理が、市から府へ移れば、需要額も府に移ると理解をしています。
分市案では、収入の移転がないので、広域業務が移転すれば、それに伴う交付税がそのまま移転すると考えます。ということで、府に収入的メリットはあると考えます。
・・・・ここが、頂いたコメントとの意見の分かれ目になってしまいますね。
知事・市長の意見交換会で、特別支援学校の話の中で、基準財政需要もセットなら支援学校を筆引き受けるという話が出ていたと思います。
ただ、広域業務の移転に分市は不要ですから、この点に拘る意図については、同意です。
具体的な説明のないことに、府民・市民がもっと怒りをもって知事や維新の会に当たりたいです。
ここも、その小さな一歩になれればいいなと思っています。
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/osaka/news/20101007-OYT8T00086.htm
ほぼ予測どおりの結果だと思いますが、それを受けての橋下さんのコメントがあいかわらずその場しのぎの行き当たりばったりであきれてしまいます。
財政調整するということは分市ではなく都制度にするということでしょうか。また、調整するほうが競争が生まれるってどういう認識なのでしょう。挙句の果てに首長同士で協議会を作って財源配分を決めるって、今まで自治体間の水平連携を散々否定してきたはずなのに。
自分の言ってることが支離滅裂なことに気づいてないのでしょうか。もう末期的かもしれません。
最近、メディアの論調も、「笛吹き男」のコラムのように、やっと冷静に見つめる姿勢が出てきたように思います。議会の場での議論が低調なのもその一因かもしれません。
それにしても、維新の会が考えてる市を9分割する案って、初めて世間に出たような気がしますが、人口30万人に固執しているからか、平野区は分割してしまうことになっているのが気になる。平野区民の方はどう思われるのでしょう?
いずれにせよ、本当に大阪市を9つに分割して、それぞれの市がたちゆくような制度を作るのは、現実的にはほぼ不可能に近いと思います。企業や住民を強制移住させてアンバラを強制的に調整するとかしない限りムリですよ。
ただ、黒字・赤字とは何なのかとか、黒字と赤字を足すと900億の黒字になるとか、歳出全部を足しても1兆円に達しないとか、多分、いろいろな前提が付いてるはずですが、その点が全く語られていないことが、気になります。
府が独自試算とか言ってるので、どうでもいいところへ議論が行ってしまわないことを願います。(この辺は、次の記事で書きます。)
今は、市役所は区間格差を強調してますが、区間格差が明確でない大阪都案(ただ、区間格差がない保証は、どこにもありません。)なら良い訳ではないはずです。区間格差は、このままだと問題になりますが、それが解決すればOKになるような本質の問題ではないのですから。
読売新聞の記事を読むと、橋下知事の対策案は、支離滅裂ですね。分市して財源調整など、分市ができないと言ってると思うのですが。
そういうことが、批判されない現状を憂います。