2015年11月05日

大阪都構想って「損」

 大阪府知事・市長ダブル選挙の時期となり、また大阪都構想が取り沙汰されていますが、維新が「二重行政解消するのは、大阪都構想か、大阪会議か」みたいに、部分の議論に誘導するので、全体像の話があまり出てきません。

 でも大阪都構想の損得は、全体で考える必要があるので、そういう話をしてみます。
〇「簡単に」ではなく、ある程度まとまった記事としては「大阪都構想を、きちんと考えてみる」を見てみてください。
〇大阪都構想がどういう制度かという話は、「大阪都構想って、こういうこと」をどうぞ。

 大阪都構想の基本のひとつは、「(府と市が)別々にするより(府が)まとめてする方が効率的」ということです。わたしも、これに則って話をします。

 ただ、大阪都構想は「府と市を併せて、ひとつにする」のではなくて、「府と市を併せて、6つにする」(大阪府+5特別区)ものです。
 大阪市の年1兆7千億円の予算規模のうち、4千億円部分を大阪府と統合して、1兆3千億円部分を5つの特別区に分割します。(元データ 元サイト
 なので、「府と市を併せて、ひとつにする」のとは、色々と違ってきます。

 また「別々にするより、まとめてする方が効率的」という話、理論の話と具体化した設計図では、なかなか一緒になりません。そこも切り分けて、考えます。

01大阪都構想メリット_デメリット.jpg

・・・で、大阪都構想の損得を、簡単に全体的にみると、この表になります。プラスが「青」、マイナスが「赤」です。
 後は、この表の補足説明です。


 まず、「理論」の方から見ます。

●【行政コスト】【行政レベル(専門性)】

 広域側は、コストは削減できて、行政レベルも向上します。
 特別区側は、大阪市一体で行っていた事務を分割して、5つの特別区でそれぞれ行うのですから、コストは増加し、行政レベルは低下します。

 問題は、広域側のプラスと特別区側のマイナスのどちらが大きいかですが、基本的には、規模も1兆3千億円と大きく、分割数も5分割と多い、特別区側のマイナスの方が大きくなります。つまり、大阪都構想は全体としては、「行政の無駄を無くす」のではなく「行政の無駄を作る」のです。
 また、広域側のプラスは大阪府民全体で享受しますが、特別区側のマイナスは、大阪市民だけで負うことになります。

 この説明をした時の維新の方の反論として、「特別区は大阪市を5つに分割するのではなく、24区を5つに統合するから効率的になるんだ」というのがありますが、この点についての整理は「(論点5)特別区の行政サービスは低下する」を参照下さい。


●【その他】の「大阪市民の府の経費負担が不平等」

 一般に、市税を市に支払って、市から基礎自治のサービスを受け、府税を大阪府に支払って、大阪府から広域のサービスを受けます。
 政令市、中核市、特例市は、府の仕事の一部を政令市等が引き受ける制度ですが、府税の一部は貰えません。(権限だけの移管で、財源は移管しない)(地方交付税で多少補填されます)
 つまり、市が府の仕事を引き受けて、市の単位で決めたいなら、市税を割いて(基礎自治のサービスを削って)やりなさいという考え方です。

 大阪都構想は、大阪市が行っている府の仕事を、大阪市の財源とセットで府に集約するという制度です。
 そのため、大阪都構想の実現後、大阪市民は、大阪府から他の府民と同じように府の広域サービスを受けるだけなのに(=市の単位で決めることはできないのに)、「府税+市税の4分の1」を大阪府に納め、「市税の4分の3」で基礎自治のサービスを受けることになります。(大阪市民以外は、基本的に市税全部で基礎自治のサービスを受けます。)(詳しくは「(論点4)大阪市民だけが、市税を割いて余分に府財政を負担する」参照)


 次に「具体案(協定書案)」の方です。
 つまり、理論であったプラス面は、設計図の具体化に当たって、どう実現が見込まれているか?マイナス面は、どの程度と試算をし、マイナス回避にどのような手が打たれているかです。

●広域側の【行政コスト】【行政レベル(専門性)】

 まず、年40億円程度の行政コストの削減については、「僅か」としました。

 年40億円程度というのは、長期財政推計の平成45年度効果額229億円を、次の表のように分割した時の「府市統合に関係」の効果額です。(分類の考え方などは「(論点1)二重行政の無駄解消って、どれくらい?」を参照)

04効果額分類の集計表.jpg

 また、「僅か」としたのは、府市の統合規模は、大阪市の4千億円の事業部分に大阪府の一般会計予算2兆7千億円の一部(おそらく数千億円規模)を統合するのですから、「二重行政の無駄」など無くても数百億円の統合効果(=コスト削減)くらいはありそうなものだからです。

 次に「行政レベル(専門性)」の向上の「期待できず」です。

 まず「統合効果」というものを考えてみます。
 「府10」「市10」の事業を行っているなら、府の事業規模を20に拡大して実施した方が、コストを削減し、行政レベルも上がるという考え方です。もちろん、この効果を実現するには、府の事業を、一体のものとして合理的に拡大し、コストも必要最小限に、しっかり絞り込む必要があります。単に、府の組織の隣に、市の組織を並べて、今まで通りの仕事をするだけでは、当然、たいした統合効果は実現されません。

 そして府市の事業の一元化を普通に実現したとして、「凄い行政」になるかというと、大したことは無いと考えます。
 大阪都構想が主張する広域一元化というのは、政令市がない府県では既に実現されているものです。
 つまり近隣でいうと、政令市のある大阪府、京都府、兵庫県の体制から、奈良県、和歌山県、滋賀県、三重県の体制へ移るだけのことです。
 大阪都構想実現後の大阪府が、彼らが語るような「凄い広域行政」を行うには、単に府市の事業を一元化して規模を大きくするだけでなく、「凄い組織」に生まれ変わらせる必要があります。

 つまり、2つの組織 < 一元化 <<< 「凄い組織」になるよう工夫をした一元化 な訳です。

 では、具体案(協定書案)では、どうなっているのでしょうか。
 府市統合本部会議の資料まで広げると、大学、病院など事業部門や外部組織(AB項目と呼ばれています)について、少し検討したものがありますが、肝心の府庁本体に統合される予算4千億円、職員2千人部分について、どういうものにするのか、協定書案に具体的な記述はありません。

 そこで、統合後の予算や職員数をどのように試算しているかで、統合後の検討状況を推し量ってみます。

 予算額は、事業部門や外部組織(AB項目)で多少の精査・削減(=これが年40億円)していますが、それ以外は「府の予算額+市の予算額=統合後の府の予算額」です。

 職員数は、「府の職員数+精査後の市の職員数=統合後の府の職員数」です。
 「精査後の市の職員数」とは、現行数2243人から「府の削減計画と同等の効率化で286人削減(このうち、管理部門を中心に重複部分170人を当初から削減)」と「技能労務関係のアウトソーシングによる見直し593人削減」です。
 アウトソーシングは統合効果ではありませんし、市からの移行人員に対して府の削減計画(10年間、年1.6%減)を適用するのも統合効果ではありません。かろうじて「管理部門を中心に重複部分170人を当初から削減」が統合効果として評価できる程度です。

 統合後の予算や職員数の試算から見えてくるのは、「府市の事業を統合し、一体の事業として合理的に編成し、コストを必要最小限に絞り込む」ような一体化した事業の姿は、全く描けていないということです。この試算は「府の組織の隣に、市の組織を並べて、府と市の組織が同じ場所で、今まで通りの仕事をするだけ」の方に近いです。

 つまり、協定書案は、次のような評価しかできません。
 2つの組織 < 協定書案 < 一元化 <<< 「凄い組織」になるよう工夫をした一元化

 これでは、「行政レベル(専門性)」の向上は「期待できず」としか評価できませんし、行政コストの削減が、年40億円程度と「僅か」なのも当然です。
(参照:「(補1)大阪都構想の統合効果が悲し過ぎる」


●特別区側の【行政コスト】

 橋下氏らは、次の長期財政推計を使って、「特別区がちゃんとやっていけると確認した、住民サービスが低下することはない」と説明します。
 メリット・デメリット整理の表では、特別区側の具体案の「行政コスト」を「不明(全体の試算なし)」としました。なぜ、「全体の試算なし」なのかをご説明します。

02特別区の長期財政推計.jpg
元データ 元サイト

 長期財政推計の表の下の表は、上の表のH33までの赤字期間を、土地を売ったり、基金を取り崩したりして、遣り繰りが可能ということと、土地を売ったりして遣り繰りした後の累積値を示してるだけなので、とりあえず関係ありません。
 上の表がどういう試算でできているか、H45だけに着目して、見ていきます。
 H45の300億円の黒字のうち、財政収支推計Aが121億円、再編効果・コストBが179億円です。
 Aの財政収支推計121億円は、大阪都構想と関係なく、現在のままでも121億円の黒字が見込まれているということなので、大阪都構想の試算とは関係がありません。つまりBの再編効果・コスト、179億円が肝心です。
 179億円の内訳は統合効果・改革効果150億円、特別区再編による職員減67億円、そこから差し引く特別区再編によるコスト増が38億円です。(元データ 元サイト


 特別区側の【行政コスト】の増減は、特別区再編による職員減67億円、特別区再編によるコスト増38億円の部分です。
 特別区再編による職員減67億円の試算も、全く無茶(参照「大阪市一体の事務を5つに分割して実施すると、所要人員が減るという試算の背景」)なのですが、ここでは「特別区再編によるコスト増38億円」の話をします。

03コスト内訳.jpg
財政シミュレーション(元データ 元サイト
長期財政推計(元データ 元サイト 合計分の 元データ 元サイト

 この表は長期財政推計の明細から抜き出したものです。長期財政推計は協定書案をまとめた2014年7月のもの。それと、協定書案をまとめる前のパッケージ案(2013年8月発表)から作成した財政シミュレーション(2014年1月)の数字もセットで並べました。

 コスト試算の細目は、「システム運用経費」「ビル賃料(庁舎費用)」「議員報酬等」の3項目と分かります。パッケージ案の時は、この3項目の増加額だけでなく、変更前の現行支出額も資料にありました。「システム運用経費」「ビル賃料」「議員報酬等」の変更前の現行支出額の合計は120億円です。

 つまり、ざっくり言うと、コスト増試算38億円も、現行支出額120億円に対する増加額なのです。(32%増)(かなりざっくりな説明です。注釈は「(論点6)特別区のコスト試算は杜撰」を参照。)

 特別区全体の予算規模は1兆3千億円。「特別区再編による職員減」の試算は別にするため、人件費部分を除くと、概ね1兆2000億円。
 1兆2000億円のうち「システム運用経費」「ビル賃料(庁舎費用)」「議員報酬等」の3項目120億円について、5つの特別区に分割した時のコストを試算すると38億円増の158億円になった。
 だから、現行支出額1兆2000億円は、特別区再編後1兆2038億円になる。
・・・というのが、この「特別区再編によるコスト増38億円」です。

 でも変じゃありませんか?
 現行支出額1兆2000億円のうち、試算したのは3項目120億円部分だけです。3項目以外の支出の大半を試算せずに「コストの増減はない」と決め付けてしまってるのです。試算した3項目120億円は3割も増加してるのに。

 現行支出額の大半を、試算なしで「コストの増減はない」と決め付ければ、試算上は大幅なコスト増は出てきませんが、これでは全体の試算が無いのと同じです。そのため、「不明」としました。
 そして、全体試算が不明の中で、試算した3項目120億円について32%増という数字が出ているのは、大半を試算していない1兆2千億円のうちの何割かの部分が32%とかのコスト増になってもおかしくないということなので、とても危険なことです。
(参照「(論点6)特別区のコスト試算は杜撰」


●特別区側の【行政レベル(専門性)】

 特別区側は、大阪市一体で行っていた事務を分割して、5つの特別区でそれぞれ行うのですから、行政レベルは低下します。
 特に、市役所・本庁から特別区に分割配置される概ね4千人の事務は、単純に特別区に分割すると、今までの事務の引継ぎも困難で、著しい行政レベル(専門性)の低下が危惧されます。

 協定書案で、この点についての議論はほぼ無く、何の対策もなく、単純に分割するのみです。
(一部、一部事務組合へ移行しますが、この対策としては、一部過ぎます)
(参照「(論点5)特別区の行政サービスは低下する」)


●特別区側の【民意反映】

 理論だけで言えば「近くなる」ですが、特別区の規模が大き過ぎ、「住民の意思反映ができているか」についての指標の整理すら、全く行っていない現状では、「評価できず」としかできません。
(参照「(論点3)特別区になると、住民の意思が反映されるようになるの?」)


●【まとめ】 

 大阪都構想は、理論上でさえ、プラスよりマイナスの方が大きい、基本的に大阪市民に損を押し付ける構造の制度です。
 具体案(協定書案)は、プラス面を活かすものになっておらず、マイナス面は、無視して、問題ないかのように説明上糊塗しているため、何の対策もないままです。

05維新の説明部分.jpg

 このため、大阪府知事・市長ダブル選挙で、維新候補が大阪都構想を推すに当たっては、この部分だけを、ひたすら抽象的に素晴らしいんだと、これをやるしかないんだと、推すことになります。

「次に提案する具体案は、住民投票に掛けた今の協定書案ではない、見直しを行い、バージョンアップするから、問題なくなるのだ」というのは、どうでしょうか?
 次の点で、今、維新候補が言う「見直し」では、ここで挙げたマイナス面や問題の解消が期待できないと考えます。
〇松井氏が挙げる見直し点が、「区割り」「区名」といったもので、ここで挙げる問題とは掛け離れていること。
〇ここで挙げたマイナス面や問題の解消を図ろうとすれば、協定書案の抜本的な見直しが必要になりますが、それには、住民投票で市民に賛成を求めた協定書案が抜本的・構造的問題を抱える案であったことを認める必要があります。維新候補の主張は、そのような立場に立っていません。
〇4年掛けて、こんな具体案(協定書案)しか作れなかった方々が、「作り直したら、今の案の様々な問題を解消した素晴らしい具体案を作れる」という根拠が、そもそも、ありません。
posted by 結 at 03:49| Comment(0) | 概要 | 更新情報をチェックする

2015年11月14日

水道事業統合は、維新・メディアのいう「二重行政」を象徴している

 大阪府知事・市長ダブル選、真っ只中の2015年11月13日の記事として、産経が「【ダブル選課題を追う】老朽化は水道管ではなく…ふし(府市)あわせ代表作『水道事業』」(直リンク)という記事を出しました。

 記事の要旨としては、
「水道管が老朽化で破裂し、浸水被害を起こした。水道管の取り換え工事は順次進めているものの、予算が限られていて、なかなか進まない。
そんな現状の打開策として、府市の水道事業を統合して効率化する検討が始まったが、府市の対立や議会の反対で頓挫したまま。老朽化しているのは水道管だけでなく、組織自体。変える時期にきている」
・・・といったもの。

 でも、色々ヘンだなぁと思うところがあるので、事実の確認と整理をしてみます。

 2008年〜2010年1月にかけて行われた、大阪府市の水道事業統合協議では、次の2案が協議されました。事務レベルでは協議が行き詰まり、当時の橋下知事が市案を丸呑みする形で府市合意となりましたが、府水道のユーザーである府下市町村の合意を得られず、実施に至りませんでした。
〇府案(市の柴島浄水場を廃止し、不足分を府の村野浄水場から供給)では、25年間で2775億円の費用削減
〇市案(府の村野浄水場を廃止し、府南部地域へは市の浄水場から供給。府南部地域への送水管への投資の削減も図る)では、25年間で2080億円の費用削減

 前回の知事・市長ダブル選前に、府議会の大都市制度検討協議会(平成23年7月から9月)の提出資料で、大阪維新の会は水道事業を二重行政の代表例と挙げ、「府案」に沿った統合案で1745億円〜1872億円の削減効果が見込まれるとしました。
01二重行政モデルケース(水道事業)府協議会維新資料201107.jpg
元データ 元サイト

 また、前回の知事・市長ダブル選中、松井知事は次のように説明していました。
--------------------------- 引用開始 ---------------------------
 府と大阪市の壁をなくして広域行政を一元化し、大阪の経済、医療、教育を再生させる。府と市の二重行政、税金の無駄遣い、スピード感のない行政運営を変えたい。

 大阪は失業率が高く、個人所得は低いままだ。なぜか。狭いエリアの中心に、府と大阪市の巨大な役所があるからだ。水道料金は、府の42市町村が一体化した企業団に大阪市が入れば、すぐに下げられる。平松邦夫市長は市民ではなく、市役所にいる人たちに気を使っているから、それは出来ない。
(中略)
 府と大阪市の各4兆円の財布を一元化すれば、5%削っても4千億円の財源ができる。府と大阪市を解体して新しい役所をつくる。

(「大阪府知事選・大阪市長選 大阪のかたち問う 知事選7氏が立候補」朝日新聞デジタル 2011年11月11日より一部抜粋)(元記事
--------------------------- 引用終了 ---------------------------


 ところが橋下市長が当選後、2012年になり、大阪市水道局と大阪広域水道企業団との協議が始まると、効果額などで、全く違う数字がでてきます。
 2012年8月に具体的な統合案とその試算が示され、コスト試算は次の通りになります。

02統合メリット(大阪府域(大阪市域除く))201208.jpg
元データ

03統合メリット(大阪市域)201208.jpg
元データ

 ケースA(柴島全廃)が、それまで水道事業統合と語られていた府案(市の柴島浄水場を廃止し、不足分を府の村野浄水場から供給)ベースにしたものです。
 この場合、企業団側(大阪府域(大阪市域を除く))のコスト減が18年間で270億円、大阪市側のコスト増が18年間で358億円(300億円の土地を330億円で売って、330億円の収入と計算した場合の数字。通常の30億円の利益と計算した場合、686億円のコスト増)。
 企業団側のコスト減を、大阪市側のコスト増が上回り、トータルでコスト増となります。

 大阪市水道局と水道企業団との統合で、大きなコスト削減ができるとしてきたのに、実際に詳しく計算してみたら、コスト増で、大阪市民だけがコスト増をかぶるという結果になりました。

 さすがにこの案では進められないので、橋下市長が主導する形で、ケースB(柴島上系廃止)が統合案として採用されることになりました。
 ただ、このケースB(柴島上系廃止)とは、大阪市の浄水場と企業団の浄水場を、それぞれ余剰分だけ廃止する案で、大阪市と企業団で水のやり取りはありません。つまり、今まで通りに大阪市の浄水場が大阪市内に水を供給し、企業団の浄水場が大阪市以外に水を供給する案ですから、基本的に統合効果などあるはずもないのです。

 18年間で企業団側で4億円のコスト減、大阪市側で221億円のコスト減となっていますが、大阪市側のコスト減の多くを占める「その他経費の減」のうち180億円は、大阪市の水道会計が、大阪市の一般会計に支払っている分担金(年間10億円)で、大阪市の一般会計からみれば減収です。これを除くと、18年間で41億円のコスト減しかないことになります。

 18年間で41億円、年間約2億円のコスト削減というのは、水道会計として「大きい・小さい」は、どうなのでしょうか?
 大阪市の水道事業中期経営計画のページをみると、年間経費を平成10年の802億円から平成21年には629億円まで、年間173億円の削減を行い、今後5年間でまた数十億円の削減を図るとしています。
 年間2億円というのは、毎年の経営努力の中で、完全に埋没してしまう数字です。


 元々、莫大な統合効果が生まれると説明してきた水道統合案が、実はコスト増になる代物で、だから、そういう事業統合は止めて、
〇今まで通りに「大阪市の浄水場が大阪市内に水供給、企業団の浄水場が大阪市外に水供給」のままにする。ただ、大阪市の水道事業を企業団に無償譲渡して、大阪市の経営から企業団の経営に変える。統合効果はほぼない。
 ・・・という結果になったのですから、そういう説明を橋下市長もメディアも、きちんと説明すべきところです。

 でも、橋下市長は「コスト削減220億円」だけをひたすら強調し、メディアも「大阪市と企業団の水道統合素案了承 コスト削減メリット220億円」(直リンク)と煽りました。


 メディア報道で、水道統合案の実情をきちんと説明しているのを見たのは、市議会で、橋下市長の水道統合案が否決された(2013年5月21日)後に出された次のものくらいです。
--------------------------- 引用開始 ---------------------------
メッキ剥がれた大義…コスト削減、近道は水道場廃止

 府内42市町村が運営する大阪広域水道企業団と大阪市水道局が持っている浄水施設の処理能力は1日476万立方メートル。これに対し、平成42年度の水需要は約280万立方メートル。危機管理のために若干の余裕を持たせても約3分の1の施設は不要になる。企業団と市の施設をトータルで考えて効率化を図るとともに、一体的な運用で人件費の削減や緊急時の対応をスムーズに進めようというのが、水道統合の狙いだ。

 一見もっともらしいのだが、一番古い大阪市の柴島浄水場を全廃すると新たな送水管の整備などで逆にコスト増になってしまう。このため、企業団が持っている村野浄水場(枚方市)なども一部廃止することにした結果、わざわざ統合して水を融通しなくても、大阪市と企業団がそれぞれ管内の水需要をまかないながら施設を削減できる計画ができあがってしまった。

 統合に伴う大阪市のコスト削減額とされた221億円も不思議な数字だ。その使い方をめぐって議論が紛糾し、最終的に大阪市域の水道事業で活用することにされたが、削減額のうち180億円は大阪市の一般会計に支払っている分担金で、一般会計からみれば減収になる。これを除くと削減メリットは18年間でわずか41億円。この中には柴島浄水場の土地の一部を104億円かけて整備し、160億円で売却する計画も含まれている。思うような売却ができなければ、たちまち赤字だ。

 大阪市の水道料金を安く維持するため会計は分離したまま、基本的な供給体制も変わらないのでは、何のために統合するのか分からない。「(少なくとも)不利益はない。2つを1つにまとめること自体がメリット」(橋下氏)というだけでは、市議会も市民も納得させることはできない。「民営化すれば万事OK」という安易な発想も困る。橋下氏が大阪府知事だった当時から掲げる「府域一水道」というスローガンを貫くのであれば、より詳細な将来像を描くことが必要だ。

(「【西論】挫折した橋下維新 しばらく“引退”し足元の大阪改革、議論からやり直せ 編集長・近藤真史」産経 2013年06月04日より一部抜粋)(元記事 直リンク
--------------------------- 引用終了 ---------------------------

 でも、この説明は、市議会で議論されてる時に報じられて意味があるのであって、市議会で否決された後になって説明するのでは、遅過ぎます。


 水道事業統合は、橋下維新の「二重行政解消」として捉えた時、かなり典型的なものです。
 不十分な根拠で、「凄い統合効果がある」「水道料金は、企業団に入れば、すぐ下げられる」と煽り立て、「平松市長が市役所にいる人たちに気をつかっているから、出来ないんだ」と決め付けます。
 なのに詳しい試算をして、以前の説明と全く異なる結果が出ても、そのことをきちんと説明せず、変わり果てた微々たる数字を、十数年累計で過大に見せ、あくまでも「凄い統合効果がある」と言い張るのです。

 水道事業統合は、メディア報道の「二重行政解消」として捉えた時にも、かなり典型的です。
 「二重行政解消」の実態が無くなっていることを知りながら、そのことは説明せずに、橋下市長のコメントや役所の報道発表の垂れ流しをするだけ。

 さて今回の産経の「【ダブル選課題を追う】老朽化は水道管ではなく…ふし(府市)あわせ代表作『水道事業』」(直リンク)という記事。
 水道事業統合を捉えて、「『府市(ふし)あわせ』の象徴ともいえる事業になった」とか、「そんな現状の打開策として、府と市の水道事業を統合して効率化する検討が本格化したのは、8年前のことだ」とか煽るのですが、「【西論】挫折した橋下維新 しばらく“引退”し足元の大阪改革、議論からやり直せ 編集長・近藤真史」(直リンク)の記事で、統合効果など示せていないと知ってることは明らかです。
 【ダブル選課題を追う】として、今更、ありもしないと分かっている水道事業の統合効果を振りかざして「『府市(ふし)あわせ』の象徴ともいえる事業になった」などと記事にするのは、読者を騙してミスリードしようとする政治的意図があるとしか、思えないのですが。


(追記)
 水道事業統合は過去の話という面が強いですが、今話題に上がっている「二重行政解消」についても、似たところがあります。
 例えば、「港湾」は、府の一般会計46億円(第1部+第2部H23 元データ 元サイト)、市の一般会計343億円(第1部+第2部H23 元データ 元サイト)に対して、都構想の長期財政推計に見込まれている効果額は5400万円に過ぎません。(元データ 元サイト

 そして市港湾局の2005年と2010年(H22)を比較した経費削減額は、203億円(元データ 元サイト)とのことです。

posted by 結 at 04:29| Comment(0) | 広域行政 | 更新情報をチェックする
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