2015年03月05日

(論点2)広域行政一元化で、大阪が成長するの?

 大阪都構想では「大阪市が政令市で、都道府県に近い権限を持っていることで、大阪府内の広域行政が大阪府と大阪市に分断され、大阪の発展を妨げている。大阪府内の広域行政が、大阪府に一元化されれば、東京と並ぶ世界的都市に発展する」と主張しています。

 なんとかして、それらしく説明しようとするのを、数年に渡って何度も繰り返し聞きましたが、裏付けとなる論拠は見当たりませんでした。
 ですから、単純に言ってしまうと、この話は、明確な論拠が無くても、橋下氏らの主張を信じるのか、それとも信じないのか、で終わってしまいます。

 ・・・という話でも何なので、わたしなりに整理をしてみます。


 大阪府への広域行政の一元化が「良いのか悪いのか」で単純に言ってしまうと、大阪府庁が大阪府全域の仕事をしようとしてるなら、大阪市と調整をしながらするより、大阪府だけで決められる方が、大阪府庁としては仕事をし易い・・・という程度の意味で「良い」と思います。

 ただ、大阪府への広域行政の一元化が「良い」として、「その効果がどの程度なのか?」「そのために、どういったコスト(犠牲)が発生するのか」が問題です。

 まず、「どの程度の効果なのか?」です。
 そうは言っても、細かな数字の話は無理なので「東京と並ぶ世界的都市に発展」と「府民が気付かない程度」に大別してみましょう。

 大阪府の予算規模で見ると、大阪都構想実現後に、大阪市から大阪府へ移管される事務の規模は、予算額で約4千億円、財源規模で約2300億円です。
大阪府の予算 2兆7800億円→3兆1800億円(14%増)
大阪府の財源 1兆7600億円→1兆9900億円(13%増)
(ただし大阪府内全体では、大阪市の規模が減になるので、差引ゼロです)

 数字は大きいのですが、大阪府全体では増減無しの中で、大阪府庁がこの程度大きくなったからといって、「東京と並ぶ世界的都市に発展」というのは、何とも大袈裟です。
 だから、この一元化が「大阪の発展」に繋がるには、1+1=2ではない、1+1を10にも100にもする行政組織の革新的な変革が必要です。しかも、物凄く効果的だと分かるようなものが。
 ・・・でも、そんなものは見当たらないのです。

 もし大阪府庁が、大阪府全体の広域行政を必死に実現しようとしてるなら、この機会に、大阪府全体として実現しようとする政策を、行政組織の姿を、その財政的裏付けを、各部門が次々と打ち出してくるはずです。それですらも「行政組織の革新的な変革」でなく、ただの大阪府全体の広域行政体に過ぎません。

 もし大阪都構想が看板通りなら、ただの大阪府全体の広域行政体ではない、「強くて豊かな大阪」を実現するための広域行政体の設計図が、そこには示されているはずです。

 でも、法定協議会での協定書作成の議論の中で示されているのは、大阪市の1929事務のうち、253事務を大阪府に移管するということだけです。

 しかも、前回「(論点1)二重行政の無駄解消って、どれくらい?」で指摘した「通常の類似事業統合の統合効果の捻出にも失敗してる」のは、大阪市から移管されてくる253事務を取り込んだ、大阪府を一体とした政策の姿も、各部局の行政組織の姿も、描けていないということです。
 ただの「大阪府全体の広域行政体」の絵姿も、描けていないのです。

 それでも大阪都構想を実現すれば、大阪市の253事務は移管されます。時間を掛ければ、ただの「大阪府全体の広域行政体」程度にはなるのでしょう。
 でも、それは、近畿2府4県の中で、政令市を抱えて広域行政が分断された大阪府、京都府、兵庫県のグループから、今も広域行政が一元化されている奈良県、滋賀県、和歌山県のグループに移る程度でしかありません。

(注)大阪府の中で大阪市は巨大過ぎ、特殊だと喧伝されますが、人口の割合でいうと、大阪府887万人のうち、大阪市266万人(30%)、兵庫県566万人のうち、神戸市155万人(27%)、京都府259万人のうち、京都市142万人(55%)と、特別というほどでもないようです。

 「大阪市の広域行政が移管されて、少し大きな大阪府庁になるよ」ということしか示せていない、現在の大阪都構想案に「広域行政一元化で、大阪が成長」のような期待は抱けません。


 次に「広域行政一元化のコスト(犠牲)は?」です。

 まず、コストというよりも、確認しておいた方が良いこと。

 「大阪都構想って、こういうこと」でも説明しましたが、政令市、中核市、特例市というのは、府税の移管も無いのに、市税を割いてまで府県の業務の一部を引き受ける制度です。
062政令市等の権限と財源.jpg

 これは、財源の移管無しで引き受けても、府県が行うより、市で行った方が市民に良い行政サービスが行えるということで成り立ちます。
(大阪都構想でも、中核市並みの業務を担当する特別区は、府県の業務をいっぱい担当しますから、その部分は「府で行うより、区で行う方が区民に良いサービスが行える」という考え方に成り立ちます)

 橋下氏は「大阪市がやってた事業を大阪府が行うことになるだけで、何も変わらない」と主張しますが、本当に変わらないのかは、確認が要るのだと思います。

 例えば、
〇国道・府道の管理って、大阪市の仕事内容も、大阪府の仕事内容も、本当に同じないのでしょうか?道路の傷み具合の点検も、傷みが見つかった後の補修までの期間も、清掃の頻度も、街頭や植樹の配置も。
〇大阪府の病院って、専門性の高い医療機関のみを設置してて、地域医療の総合病院は市町村任せのようです。そんな中で十三市民病院って、どんな風に運営されるのでしょう?
・・・みたいなこと。市民に関係しそうなことは、それぞれにです。

 大阪市のサービスと大阪府のサービスの比較って、ずっと気にしてたのですが、見当たりません。
 でも、「大阪市がやってた事業を大阪府がやる」と決めるなら、その前に、どう違うのか位は、確認しとかなきゃですよね。


 「広域行政一元化のコスト(犠牲)は?」の2番目です。

 広域行政の一元化というのは、結局、「大阪府が、大阪市との調整無しで、大阪市域の広域行政を自由に決められること」です。
 でも、大阪市からの広域の権限の移管に当たっては、権限と(市税など市の)財源をセットで移管するとしていますから、広域行政の一元化を財源面で言うと「大阪府が、大阪市(大阪市民の代表)との調整無しで、大阪市民の(市税などの)市財源を使えるようにすること」だと言えます。

 橋下氏は、移管される広域権限は、大阪市がやっても大阪府がやっても何も変わらないと主張するのですが、何も変わらないなら、広域行政の一元化には何の意味も無いことになるので、当然、大阪府の視点で、どういう事業を実施するのか、組み替えていくことになります。

 橋下氏らが、広域行政一元化の必要性を訴える代表例に、淀川左岸線延伸部(北区豊崎(新御堂筋)と門真ジャンクションを結ぶ、自動車専用道路。大深度にトンネルを掘って建設する計画)となにわ筋線の建設があります。(参考記事

 でも、どちらも問題になっていたのは財政負担の問題です。大阪府の立場で、ぶっちゃけて言ってしまうと「いかにして、大阪市に財政負担を呑ませるか」が問題だった訳です。
 確かに大阪都構想は、大阪市の市税などの財源を大阪府が握りますから、この問題を解消します。

 ただ、淀川左岸線延伸部を取り上げてみると、地中深くにトンネルを掘って、北区と門真を結ぶ高速道路を、数千億円掛けて建設するという話で、大阪市の財政負担も1千億円単位になります。
 市内をただ通過するだけの道路を作るために、巨額の財政支出をする位なら、大阪市民にもっと直接還元される施策を求めるという市民は当然いるでしょう。そして、そういった声も無視できない大阪市は苦慮することになります。
 大阪府なら、一部住民(大阪市民のこと)のことなど気にせず、大阪府全体の視点で財政支出を行えるのです。

 (大阪市民も支払っている)府税を、大阪府が大阪府全体の視点で、使途を決めるならそれでいいのですが、大阪市民の市税を大阪府全体の行政の費用負担に充てようとするなら、「協議や調整なんて、面倒で時間が掛かるだけだ」と投げ出さず、大阪市民の代表とちゃんと協議・調整し、(府民の一員というだけでなく)大阪市民という単位でも、負担に見合った利益になるように、ちゃんと刷り合わせることは必要なのだと思います。
 そうでないと、大阪市民は、身近な行政に充てる財源を削って、府税を余分に負担させられてるだけになってしまいます。

 広域行政一元化は、ともかくとして、大阪市民に市財源でその財政負担を強いるのは、あまり正当性のない負担のように思います。


 広域行政の一元化を実現しようとすると、財源面で、大阪市民に市財源での負担を強いることは、どうしようもないのでしょうか?
 そんなことはありません。大阪市が一体で中核市に移行すれば、政令市の権限は大阪府に一元化されます。(そんなこと希望する政令市は無かったので、手続きの整備は必要になります)

 2006年に堺市が中核市から政令市になりました。大阪市の中核市移行って、これを逆にするだけのことですから、地方自治制度として言えば、大阪都構想などよりも、よほど自然な形で広域行政の一元化を実現できます。
 中核市から政令市になる時、府からの権限移管とセットで府税の移管など無いのですから、政令市から中核市になって、市から府へ権限移管するからといって、市税の移管などありません。

 まとめです。
 広域行政の一元化が悪いこととは思いませんが、過度の期待をすることとも思いません。
 少なくとも、「大阪市の広域行政が移管されて、少し大きな大阪府庁になるよ」ということしか示せていない、現在の大阪都構想案に「広域行政一元化で、大阪が成長」のような期待は抱けません

 広域行政一元化は、ともかくとして、大阪市民に市財源で、その財政負担を強いるのは、あまり正当性のない負担のように思います。
 そんな財政負担を大阪市民に強いなくても、広域行政の一元化なら、大阪市の中核市移行で十分に実現できます。


【大阪都構想のまとめ記事】

大阪都構想って、こういうこと

論点1:二重行政の無駄解消って、どれくらい?
論点2:広域行政一元化で、大阪が成長するの?
論点3:特別区になると、住民の意思が反映されるようになるの?
論点4:大阪市民だけが、市税を割いて余分に府財政を負担する
論点5:特別区の行政サービスは低下する
論点6:特別区のコスト試算は杜撰

総論:大阪都構想のメリット・デメリットを見てみたら


過去記事の整理:大阪都構想の議論のかけら
〇橋下氏街頭演説 こういう大阪都構想の説明はいけないと思う・再び(ミニ版)
〇大阪都構想の「事業配分に沿った財源配分」が、大阪市民に損だと思う3つの理由
〇協定書の大阪都構想が出来が悪いのは、こんな所
〇橋下氏の「2200億円は、大阪市域外には流れない。特別会計で管理する。都区協議会がチェックする」に矛盾と思うこと
〇特別区の区議数を、現在の大阪市議と同じ86人にしたのは妥当か?
〇大阪都構想を知るには、協定書を読めばいいのか?

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2015年03月17日

(論点3)特別区になると、住民の意思が反映されるようになるの?

 大阪都構想では「270万人規模の大阪市は巨大過ぎ、市長と住民の距離が遠過ぎて、行政に住民の意思が反映されない。大阪市より規模の小さな特別区にすることで、自治体運営に、住民の意思が反映され、地域ニーズを反映したきめ細やかな住民サービスができるようになる」と主張されます。

 果たして、そうなのでしょうか?

 まず、大阪都構想の協定書案は「自治体運営に住民の意思が反映されるように」は設計されていません。特に配慮もされていないというのが、一番近いです。

 更に、そもそも「自治体が巨大過ぎて、住民の意思が反映できない」ということ自体が、発言者の感覚的な決め付けなのに、そこに矛盾まで出てくる始末です。

 それはどういうことなのか、この記事では見ていきます。

 まず、大阪都構想については、橋下氏がその主張を始めた2010年以降、次の4回に渡って、様々な検討がされています。(主に、表舞台の有識者や議員さんよりも、事務局となる府市の職員さんの手によって、膨大な資料が作成されました) 

(1)大阪府自治制度研究会 2010年4月〜2011年1月(大阪府に設置された、有識者による研究会)
(2)大阪府域における新たな大都市制度検討協議会 2011年7月〜2011年9月(大阪府議会に設置された協議会。維新と共産のみ参加)
(3)大阪にふさわしい大都市制度推進協議会 2012年4月〜2013年1月(知事、市長、府議会議員、市議会議員参加の協議会)
(4)大阪府・大阪市特別区設置協議会 2013年2月〜 (いわゆる「法定協議会」)

 これだけ検討を重ねながら、「住民の意思反映のための、基礎自治体の最適規模」も、「住民の意思反映が可能な、基礎自治体の限界規模」も、一度も検討されたことはありません。
 それどころか、「住民の意思反映ができているか」についての指標の整理すら行ったことが無いので、30万人規模の特別区の話が出ても、70万人規模の特別区の話が出ても、「住民の意思反映に適切な規模か」も「巨大過ぎて、住民の意思反映ができていないことはないか」も、客観的な議論はできません。

 ちなみに、特別区の最適規模の議論は(1)の大阪府自治制度研究会でだけ、検討され、主に「人口1人当たり行政経費が最も小さい(=最も効率的)」という理由で、30万人規模が最適とされました。
 ただ、その後、(4)の大阪府・大阪市特別区設置協議会で、7区案(37万人規模)は、5区案(52万人規模)より「コストが割高だ」として否定されました。(参照:5区案による30万人規模最適の否定は「こんな試算、やらない方がマシ」を示す

 話を戻します。
 「住民の意思反映ができているか」の指標すらないのですから、特別区の規模については、ひたすら、感覚的な議論が交わされることになるのですが、それも、いつの間にか変わっているようなのです。

 2010年当時、橋下氏が30万人規模の特別区を主張していた時は、次のように発言していました。
「僕は色んな市町村長と話をしましたが、共通していうのはこの言葉、『50万人を超えたら、もう住民のみなさまの顔が見えなくなる』、みんな言ってます」(大阪維新の会 生野区タウンミーティング 2010.06.22より。元記事
 つまり、住民の意思反映を考えたなら、50万人規模が限界と主張していたのです。

 2013年の堺市長選では、情勢が不利になる中で「(堺市を特別区に)分けるなら2つ、分けなければ1つ」みたいな説明になっていきますが、選挙戦に突入する前は、橋下氏は人口84万人の堺市について「基礎自治体は50万人が限界だ。『40万人ずつ二つに割る』と逃げずに表現すべきだ」と主張していたと報じられています。(元記事

 でも、協定書案で示されているのは、南区69万人、北区63万人、東区58万人です。
 橋下氏の「基礎自治体は50万人が限界だ」という説からすると、限界を超えていることになります。

 身近というには巨大な特別区になっている協定書案のため、説明には工夫が要るようで、現状、次のような展開の説明になっていると理解しています。
(1)270万人規模の大阪市は、巨大で住民の意思が反映できない。
(2)5つの特別区は、現状の大阪市より住民に身近だ。
(3)住民に身近な特別区は、住民の意思が反映され、地域ニーズを反映したきめ細やかな住民サービスができる

 (2)の「大阪市より住民に身近」を、(3)で「住民に身近な特別区」にしてしまうのです。

 次のような例に当てはめると、ポイントが分かり易いと思います。
(1)270万本に1本しか当たりのない宝くじでは、「全然、当たる気がしない」でしょう。
(2)(賞金を減らして)当たりを5本にしたら、当たりが1本の時より当たり易くなります。
(3)当たり5本になって、当たり易くなった宝くじに、きっと満足頂けます。

 言葉だけ聞くと、それらしく聞こえますが、「当たり1本より、5本の方が当たり易い」は正しくても、「当たり5本なら、当たり易いと感じて貰える」訳ではありません。
 270万本に当たりくじ1本で「全然、当たる気がしない」と不満な人は、270万本に当たりくじ5本でも「全然、当たる気がしない」と思うでしょう。

 わたし自身は、大阪市政に全く市民の声が届いていないとは思わないですし、60万人規模とかの特別区になって、すっごく住民の意思が反映されるとも、思っていません。
 わたしが望む住民サービスのためには、260万人規模か60万人規模かより、財政力だったり、専門性も含めた行政組織の厚みだったり、市民のために心を砕いてくれる市長さんだったりが大事だと思ってるので、財政力を削り、行政組織も全然期待できなくなる特別区への移行は、マイナスだとしか思いません。
 でも、それはわたしの感じ方で、あなたは違う感じ方なのかもしれません。

 大阪都構想は、住民の意思反映ができるように(=自治体の規模が大き過ぎたりしないように)十分に配慮して、特別区の設計をしている訳ではありません。
 それでも、あなたは「巨大過ぎる大阪市」に不満で、大阪都構想の実現で「特別区の自治体運営に、住民の意思が反映される」ことを期待するのかもしれません。でも、それなら、「大阪市より近い」とかではなく、あなたの望む「住民に近い自治体運営」が本当に実現されるのか、確かめるのは、大事なことです。
 「子供部屋が欲しい」と家の建て替えをするのに、子供部屋の無い設計図での建て替えでは、意味が無いのですから。

 橋下氏らのタウンミーティングで大阪都構想の説明をする時、東京の23区を比較に出しますが、「市税を大阪府の税金にしてしまうような特殊な制度」を除けば、大阪都構想の特別区の設計で参考にされているのは、豊中市、高槻市、東大阪市、尼崎市、西宮市の5市です。
 南区69万人、北区63万人、東区58万人を超える巨大な市は、大阪府内には大阪市と堺市しかありません。
 だから、50万人超の規模の特別区で、あなたの望む「住民に近い自治体運営」が実現できるなら、大阪市・堺市以外では、大阪都構想が理想とする「自治体運営に、住民の意思が反映され、地域ニーズを反映したきめ細やかな住民サービス」は、既にどこでも実現されている「はず」です。

 大阪市の市外には、あなたが理想とする市役所の姿が、限りなく広がっていますか?

(追記)
ジャーナリストの吉富有冶さんが、この記事と同じテーマをまとめていたのが、興味深かったので、ご紹介しておきます。
連載企画「大阪都構想を考える」その5
住民にやさしい基礎自治体 〜「ニアイズベター」という名の言葉のマジック

(追記2)2015.04.05
 大阪都構想の協定書案では、現行24区役所の内部事務は、特別区の区役所へ集約しますが、現行の24区役所の場所に、市民への窓口対応を行う支所を置くとしています。
 これは「今の区役所の場所で、今まで通り申請などができるから、遠い特別区の区役所まで市民が行く必要はない」と説明するためですが、「住民に近い自治体運営」には大きなマイナス面があります。
 窓口事務は、職員が市民の声を直接聞く機会としても大切なのですが、支所に窓口事務だけを切り離すことによって、特別区の区役所の職員が、市民の声に直接接する機会を大幅に減らしてしまうのです。
 大阪都構想の協定書案は、特別区の「住民に近い自治体運営」を強調するのですが、市民の声を届き易くするための制度設計には、かなり無頓着です。


【大阪都構想のまとめ記事】

大阪都構想って、こういうこと

論点1:二重行政の無駄解消って、どれくらい?
論点2:広域行政一元化で、大阪が成長するの?
論点3:特別区になると、住民の意思が反映されるようになるの?
論点4:大阪市民だけが、市税を割いて余分に府財政を負担する
論点5:特別区の行政サービスは低下する
論点6:特別区のコスト試算は杜撰

総論:大阪都構想のメリット・デメリットを見てみたら


過去記事の整理:大阪都構想の議論のかけら
〇橋下氏街頭演説 こういう大阪都構想の説明はいけないと思う・再び(ミニ版)
〇大阪都構想の「事業配分に沿った財源配分」が、大阪市民に損だと思う3つの理由
〇協定書の大阪都構想が出来が悪いのは、こんな所
〇橋下氏の「2200億円は、大阪市域外には流れない。特別会計で管理する。都区協議会がチェックする」に矛盾と思うこと
〇特別区の区議数を、現在の大阪市議と同じ86人にしたのは妥当か?
〇大阪都構想を知るには、協定書を読めばいいのか?

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2015年03月30日

(論点4)大阪市民だけが、市税を割いて余分に府財政を負担する

 冒頭は、以前の記事「大阪都構想って、こういうこと」の繰り返しになりますが、大事なことなので、もう一度書きます。

 まずは、普通の市町村の話です。
 府県の権限と市町村の権限(=担当する業務)は、法律で決められています。
 普通に市の業務だけ行う「一般市」に対して、政令市、中核市、特例市は、それぞれの市域で、一般の市の業務に加えて、府県の業務の一部を担当します。

01政令市等の権限と財源+東京都.jpg

 政令市、中核市、特例市は、府県の業務の一部を担当するのに、府税(の一部)は移管されてなくて、市税を府県の業務の財源に充てます。(国からの地方交付税が、多少補填してくれますが)

 このことについて、法定協議会の前身の協議会で、橋下市長が端的な指摘をしています。
「大阪市民は、市役所を通じて広域のことを決めようとするから、市税で負担することになるんだ。大阪市民は、府税も払っているからダブル負担だ。市役所を通じて、口出ししようとするから、責任も負わなきゃいけないことになる」(要約済みです。元の発言

 これに対して、大阪都構想は「政令市・大阪市の行っている仕事のうち、広域行政部分を大阪府に移管し、残りを特別区が担当する」(基礎と広域の権限整理)というものです。
 広域行政部分の大阪府への移管に当たっては「事務と財源をセットで移管」としています。

 歳出規模で大阪市1兆7千億円のうち、4千億円部分(財源で2255億円部分)を大阪府に移管します。(H23年度で試算)
 この結果、政令市である大阪市から、特別区は中核市並みへと業務範囲が縮小し、府税と市税の配分は、特別区が市税の概ね4分の3、大阪府が「府税+概ね市税の4分の1」になります。

02特別区の権限と財源+東京都.jpg

 大阪都構想の特別区は、府県業務の担当もあって、中核市に近いのに、財源は市税の4分の3しか持たない結果になりました。
 東京都の特別区と比較しても、権限と財源の関係が、かなり違うことが分かります。

 東京都の場合、「市町村業務を東京都が引き受けるから、市税の一部を東京都が使う」
 大阪都構想の場合、「府県の仕事を大阪府が引き受けるから、市税の一部を大阪府が使う」
・・・というように制度設計の考え方が違うためです。


 特別区は、概ね4分の3の市税しか持ちませんが、自由な住民サービスに使える財源は、更に減ってしまいます。

 一般の市町村は、「法律で決められた業務」と「自治体が自由に決めた住民サービス」を次の配分で、行います。
標準税等(大雑把には市税のこと)の75%・・法律で決められた業務
標準税等の25%・・・自由な住民サービス

 大阪都構想の特別区については、法律で決められた業務に充てる割合(算入率)が85%とされています。(元データ 元サイト
 そのため、特別区は次の配分になります。
標準税等の85%・・・法律で決められた業務
標準税等の15%・・・自由な住民サービス

 自由な住民サービスに使えるのは、一般の市町村が25%に対して、特別区は15%です。25%と15%の差だけで、特別区は4割も少ないことになります。

 特別区設置協議会資料で、特別区の裁量経費(自由な住民サービスの財源額)の試算があった(元データ 元サイト)ので、できるだけ同じ方法で現在の大阪市の試算もしてみました。

05裁量経費試算.jpg
「現在の大阪市」の一般財源額(元データ 元サイト
「現在の大阪市」の基準財政需要額と臨時財政対策債(元データ 元サイト

 現在の大阪市の自由な住民サービスに使える財源額(裁量経費)が2361億円に対し、特別区になった時が1233億円と、ほぼ半減してしまっていることが分かります。


 大阪都構想の結果、市税の4分の1が大阪府へ移管されることについて、橋下氏がどう説明しているかというと、「今まで大阪市役所が担当してきた仕事を、大阪府庁に担当させるだけなので、何も変わらない」です。

 大阪都構想が実現した直後はそうですが、そこから、だんだん事業の組み替えが始まりますから、「何もかわらない」ことはありません。

 既発市債の償還に充てる財源でさえ、毎年少しずつ減っていき、大阪府が新たに行う公共事業の府債償還の財源に、だんだんと置き換わります。
 大阪府が新たに公債を発行して行う公共事業は、「大阪市民のため」ではなく、「大阪府全体の利益のため」に行うことになります。

 元々、大阪市が政令市になったのは「その方が、大阪市民のニーズに適った事業実施ができる」と考えるからです。(特別区の中核市並みの権限設定も、同じ考え方です)
 そして、大阪都構想で広域行政の一元化を言い出してるのは「その方が、大阪府全体の広域行政としてプラスになる」と考えているからです。
 大阪市が担ってきた広域行政を、大阪府へ移管して同じはずはないですし、同じなら大阪都構想を実施する必要もありません。

 それは、どちらが良い・悪いではありません。
 ただ、なぜ大阪市民は、大阪都構想の実現後、大阪府が大阪市域で、府県が行うべき仕事をするからといって、本来、身近な行政のための市税を割いて、その費用を負担しなければならないのでしょうか?


 大阪都構想の矛盾は、「大阪市が、広域行政の権限を持つべきではない」としながら、「(大阪市民の単位で決定するから負担してきた)市財源での広域行政の財政負担を、大阪市民の単位で決定するのを止めても、大阪市民に負担させ続ける」ことです。
 二重行政解消を謳いながら、大阪市民の広域行政経費の二重負担は、より固定化するのです。(「より固定化する」とは、大阪市民の意思で、広域行政に充てる市税を減らして、身近な行政を充実させる選択もできなくなるということです)

 大阪府が、大阪市域で、府県が行うべき仕事をするというのなら、大阪市民が支払っている府税で、行えばいいのです。

 以前大阪市が発表していた大阪市域内税収の内訳によると、平成20年度の大阪府税は7550億円、大阪市税は6708億円です。(元データ 元サイト

 これを基に、大阪府内の府税と市町村税の税収を、大阪市内と大阪市外に分けて整理すると、次のようになります。
大阪市域内 市税47% 府税53%
大阪市以外 市税64% 府税36%

 また、平成20年度の大阪府の税収は、総額1兆2800億円(元データ 元サイト)ですから、大阪市域の府税が7550億円ということは、59%を占めることになります。

 大阪市域内の地方税の半分を府税として支払い、人口割合3割の大阪市地域が府税総額の約6割を支える。

 勿論これは、都市構造などを反映した税制度の結果であって、大阪市域が過重な府税を負担している訳ではありません。
 でも、大阪府が、大阪市域で、府県の行うべき仕事するなら、この府税で十分じゃないですか?
 大阪市民は、47%の市税から更に12%分を割いて、府政を支えなければならないのでしょうか?
 大阪市民から徴収した府税は、どこに行ってしまってるのでしょうか?


 大阪都構想が実現したとして、10年後、20年後、財源不足で身近な住民サービスを諦めさせられることは、きっとあります。(今でもあることですから)
 その時、「中核市と変わらない特別区のはずなのに、自分達で支払った市税全部の使いみちを、なぜ自分達で決められないの?」と、嘆きたくもなるでしょう。

 「過去に政令市だったことが罪なんだ。不平等な制度でも仕方ないんだ」で納得できますか?
 もしできないなら「市民が自分で決めたことだから」が全てになります。

 なぜ、この制度を選んだのか?
 その時、あなたは説明ができますか?


【大阪都構想のまとめ記事】

大阪都構想って、こういうこと

論点1:二重行政の無駄解消って、どれくらい?
論点2:広域行政一元化で、大阪が成長するの?
論点3:特別区になると、住民の意思が反映されるようになるの?
論点4:大阪市民だけが、市税を割いて余分に府財政を負担する
論点5:特別区の行政サービスは低下する
論点6:特別区のコスト試算は杜撰

総論:大阪都構想のメリット・デメリットを見てみたら


過去記事の整理:大阪都構想の議論のかけら
〇橋下氏街頭演説 こういう大阪都構想の説明はいけないと思う・再び(ミニ版)
〇大阪都構想の「事業配分に沿った財源配分」が、大阪市民に損だと思う3つの理由
〇協定書の大阪都構想が出来が悪いのは、こんな所
〇橋下氏の「2200億円は、大阪市域外には流れない。特別会計で管理する。都区協議会がチェックする」に矛盾と思うこと
〇特別区の区議数を、現在の大阪市議と同じ86人にしたのは妥当か?
〇大阪都構想を知るには、協定書を読めばいいのか?

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