2014年11月03日

橋下氏街頭演説 こういう大阪都構想の説明はいけないと思う・再び

 ネットで、橋下市長が「(大阪都構想は)大阪府民に大阪市の借金を背負わす(というものな)んだ」と、タウンミーティングで説明しているという話を聞きました。
 わたしが知っている大阪都構想の内容と、随分違う話だったので、実際に橋下市長がしている話を、どのタウンミーティングか教えてもらい、動画で聞いてみました。

 2014年10月25日ダイエー長吉店前のタウンミーティングでの橋下市長の次の説明の部分だと思われます。(動画(1時間3分頃から) MP3

--------------------------- 引用開始 ---------------------------

 二重行政やら何やらでホントに無駄遣いやって、みなさんの借金額見てもらいましょうか、ちょっと。

 これ見てください。今までの自民党、民主党、公明党、共産党の政治の結果、さっき言いました平野区民のみなさんは、日本で一番の借金持ちだと、東京都民と比べてみてください、なぜ大阪市民だけ、こんなに借金増えたのか?
 大阪府の借金、大阪市の借金がダブルで皆さんの肩に乗ってくるからです。八尾市民とか、豊中市民は、ここまで増えていません。八尾市、豊中市はね、借金の額、これぐらいだから。

 ところが、大阪市民のみなさんは、こんな借金をやってる。大阪府も、こんな借金やってる。東京都民、こんだけですよ。一人当たりの借金、こんな違う、3倍も違うんです。そらそうですよ、大阪市民は270万人で、ありとあらゆるものを担いでるんです。市立大学、市立病院、港、高速道路、それからその地下鉄まで、なんで地下鉄を270万人で負担しなきゃいけないんですか?
 東京都民は、何でこんなに一人当たりの負担が少ないか、1300万東京都民で神輿を担いでるからです。東京は、港も高速道路も地下鉄も大学も病院も、1300万人でみんな担ぐ訳です。だからね、一人当たりの負担が軽くなる。

 ところが大阪は、かつての大正時代の大大阪を引きずって、大阪市民270万人で全部背負うから、一人当たりの借金がこんなに増える。
 大阪都構想は、さっきも言いました、二重行政を無くすために、知事と市長の間で仕事の役割分担をやってる。そして市民の皆さんにとっては、市民と府民で負担を分かち合おうというのが、大阪都構想なんです。今まで大阪市民だけで背負ってたものを、880万人大阪府民で、背負いなおしましょうということも、大阪都構想なんですね。

 色々言いましたけどもね、みなさん、大阪都構想というのは、単純な話、今やってる維新の政治を、誰が知事になろうが、市長になろうが、二重行政は絶対に止める、大阪市内の無駄遣いは止める、大阪市民だけに借金を負わせることは止めて、880万人全体で背負いなおす。これをね、誰がなっても、必ず今やってることを、継続させてやっていこう、継続していこう、これが大阪都構想。

 そして以前の、自民党、民主党、公明党、共産党の政治のように、大阪府庁、大阪市役所がバラバラなことをやって、全ての借金を大阪市民に背負わせるような、こんな馬鹿げた大阪の政治から、おさらばしましょうというのが、大阪都構想なんです。

--------------------------- 引用終了 ---------------------------

 これに続けて、次のように橋下市長は語ります。(長いので要約します。原文はコチラ
〇もうここに、設計図ができてる訳ですから、イエスが出ればね、今言った僕の話がね、実現できる訳です。
〇市議会議員も、僕も知事もね、市民の皆さんと僕ら、違いなんてありませんよ。そんな能力的に。
〇ところが、維新の会以外の市議会議員が、何て言ってるか。「俺たちは、市民が判断できないことを判断してやるんだ。市民にこんな難しいことは分からないから、市議会議員様が判断するんだ」と言ってるんです。市民を馬鹿にするにも程がありますよ。
〇この大阪都構想の問題は、(協定書の紙束を指して)こんな中身を議論する話じゃ、ありませんし、市議会議員だって、こんな中身、分かっちゃいませんよ。
〇判断していただくのは、今までの大阪の政治に決別するのか、新しい大阪の政治を目指すのか。


 要点を挙げてみます。
〇大阪市民だけ、こんなに借金が多いのは、市立大学、市立病院、港、高速道路、それからその地下鉄まで、大阪市民は270万人で、ありとあらゆるものを担いでるから。
東京都民は、港も高速道路も地下鉄も大学も病院も、1300万東京都民で神輿を担いでるから一人当たりの負担が軽くなる。
〇大阪都構想は、二重行政を無くす為に知事と市長の間で仕事の役割分担をやり、市民にとっては、市民と府民で負担を分かち合い、今まで大阪市民だけで背負ってたものを、880万人大阪府民で、背負いなおしましょうということ。

〇野党の市会議員は「市民には、こんな難しいこと分からないから、市議会議員が判断するんだ」と言ってるが、市民を馬鹿にしてる。協定書の中身なんて、市会議員だって、分かっちゃいない。
〇大阪都構想の問題は、分厚い協定書の中身を議論する話じゃない。判断するのは、今までの大阪の政治に決別するか、新しい大阪の政治を目指すかだ。


 (上記の部分を含め)タウンミーティングでの橋下氏らの説明には、ほとんど行単位で「違うだろう」とか「比較がおかしいだろう」とか、色々とつっ込みたいことがありますが、この記事での話題は、絞ります。


 上記の演説の部分で、大阪都構想の制度説明として「大阪都構想は、二重行政を無くす為に知事と市長の間で仕事の役割分担をやり、市民にとっては、市民と府民で負担を分かち合い、今まで大阪市民だけで背負ってたものを、880万人大阪府民で、背負い直すもの」と説明しています。
 大阪都構想が、「二重行政の無駄を無くすと言えるものになっているか」を別にすれば「知事と市長の間で仕事の役割分担をするもの」というのは、そうだと思います。
 でも、大阪都構想が「市民にとっては、市民と府民で負担を分かち合い、今まで大阪市民だけで背負ってたものを、880万人大阪府民で、背負い直すもの」なのかというと、わたしが知っている大阪都構想の資料の内容とは、大分違います。


 この点について、わたしが知っている大阪都構想の資料の内容を挙げてみます。

 昨年2013年8月に特別区設置協議会(=法定協)で示されたパッケージ案と呼ばれる資料で、大阪都構想の概要を次のように示しています。(元データ パ04-P6 元サイト)(今年2014年7月の協定書時点では、この資料が見当たらなかったので、パッケージ案のものを挙げます。)
01大阪都構想実現後の歳出区分.jpg

 大阪市が現在行っている2145事務のうち、広域の事業だとして253事務を大阪府が移管を受け、住民に身近な事務だとして1913事務を特別区が担当するとしています。
 これをお金の話にすると、大阪市が現在約1兆7千億円で行っている事務のうち、広域の事業だとして約4千億円部分を大阪府に移管し、約1兆3千億円部分を特別区が担当するということです。

 「今まで大阪市民だけで背負ってた大阪市内の広域の事業を、880万人大阪府民で、背負い直す」のは、この大阪府に移管される4千億円部分のことですが、「背負い直す負担」が4千億円なのかというと、ちょっと違います。
 4千億円部分の事業が大阪府に移管されると、特定財源や(事業相当分の)地方交付税などが、事務の移管に伴って自動的に移動します。これは当然のことです。
 事業移管に伴って特定財源や地方交付税だけで移動されない部分、表で言うと「1634億円」の負担部分が、上記の橋下市長の演説で「市民と府民で負担を分かち合い、880万人大阪府民で、背負い直す」負担部分と言えます。


 では、表では大阪府が「財源不足になる」としている1634億円を、どのように賄うか整理しているのが、次の表です。(こちらは、今年2014年7月の協定書時点での資料があったので、法定協で協定書案を議論した時の資料です。)(元データ 7/18-P27 元サイト
02大阪都構想実現後の財源配分.jpg

 上の表が、特定財源を含む歳出額全体だったのに対して、この表は、特定財源を除いた一般財源ベースと呼ばれる数字です。
 そのため、大阪市全体の歳出額1兆7千億円は、特定財源を除くと8450億円で、広域の事業として大阪府に移管される4千億円部分は、特定財源を除くと2288億円、身近な事業として特別区が担当する1兆3千億円部分は、特定財源を除くと6173億円に変わっています。

 上の表で、大阪府への広域事業の移動に伴って自動的に移動する一般財源621億円は、この表では「地方交付税の移転」「地方譲与税・宝くじ等」「府税」を合計した779億円。
 「財源不足になる」とする1634億円は、この表では「財政調整財源」「都市計画税・事業所税」を合計した1509億円です。
(上の表がH23年度に対し、この表はH24年度のため、数字が少し変わっています)

 この表は、大阪市全体の事業8450億円(一般財源ベース)のうち、大阪府が2288億円部分、特別区が6173億円部分を担当し、大阪市の市税などの財源8450億円を大阪府に2288億円、特別区に6173億円を割り振ることで賄うことを示しています。

 つまり、大阪市の広域事業4千億円部分を大阪府に移管することで、(自動的に財源移管がされず)大阪府に必要になるを1634億円(H24では1509億円)をどのように負担するのかというと、
 大阪市の市町村税である「財政調整財源(固定資産税、法人市民税、特別土地保有税)」「都市計画税・事業所税」と大阪市分の地方交付税の何割か(調整財源では23%)を、大阪府の財源に移管することで、大阪市の広域事業移管で必要になる1634億円(H24では1509億円)に充てると示しているのです。


 大阪市から大阪府へ移管する事業等の財政負担がどうなるかについて、この表の「大阪府 ◆公債費(投資的経費相当分) 676億円」部分を取り上げて、第16回特別区設置協議会(=法定協)(2014年7月18日開催 維新委員のみで行われたもの)の中で、かなり端的な質疑がされています。(元データ 議P10 元サイト

--------------------------- 引用開始 ---------------------------
(紀田委員)
 公債費の償還についてなんです。発行済みの既発債については、大阪府が3、特別区が7の割合で負担するというふうにあるんですけども、この大阪府の3の内容は、税源配分であったり、財政調整財源であったりするところから負担されるものであって、ちょっと言葉を選ばずに言うと、要するに大阪市民が借りた公債費を、大阪市以外の府民の負担で返すようなものではないと、既に現在、大阪市の収入の範囲内が、大阪府に移転するので、その移転した分の中から返すという理解だと思うんですけど、これで、その理解でよろしいですか。

(浅田会長)
 手向部長。

(府市大都市局手向制度企画担当部長)
 先生がおっしゃったとおりで、基本的に既発債の大阪市分について、今回、広域の負担分という形で広域に移転しますが、その必要な財源は、制度上、移転する財源及び財政調整財源でもって賄えるという形になります。

(浅田会長)
 紀田委員。

(紀田委員)
 わかりました。
 それであれば、全くおかしなことはないと思います。むしろ当然こんな数字になるんだと思います。
--------------------------- 引用終了 ---------------------------


 大阪都構想では、大阪市から広域の事業だとして大阪府へ移管される4千億円部分についての負担を、大阪府民全体でなく、大阪市民の市税などの市町村財源で負担し続ける財政構造なのですが、大阪府へ移管・一元化されることで、4千億円部分についての所要経費が大きく圧縮され、大阪市民の負担が長期的には、解消・軽減されることは期待できるのでしょうか?

 わたしは2つの理由で、無いと思っています。
〇大阪都構想の効果額が乏しい・ほとんど無いという指摘がされていますが、これは20年後となる平成45年度までの長期財政推計を行っても、大阪市の広域事業だとして4千億円部分を大阪府へ移管・一元化しても、所要経費の圧縮があまり・ほとんど見込めないということです。

〇更に、協定書では調整財源を特別区に配分する指標として、「概ね基準財政需要額+(調整財源を除く)税収等の15%」としています。(以前の記事「大阪都構想協定書(案)の税源配分・財源調整を見てみた」参照)
 これは、大阪市の財源から、大阪府への移管財源を除くと、この程度の配分になるということなのですが、「概ね基準財政需要額+(調整財源を除く)税収等の15%」という指標では、大阪府に移管された広域事業の所要経費がどれ程、減っても、特別区への財源配分は増えないのです。
 つまり協定書の財政調整の指標自体が、大阪府への移管事業の所要財源が例え減少しても、大阪市民は現状まま負担し続けるとする内容になっているのです。


 橋下市長は、タウンミーティングで「大阪都構想は、二重行政を無くす為に知事と市長の間で仕事の役割分担をやり、市民にとっては、市民と府民で負担を分かち合い、今まで大阪市民だけで背負ってたものを、880万人大阪府民で、背負いなおしましょうということ」と説明します。
 でも、特別区設置協議会(=法定協)での資料をみる限り、「大阪都構想は、知事と市長の間で仕事の役割分担をやり(二重行政の無駄の解消があることは示されていない。)、今まで大阪市民だけで背負ってきた負担は、知事の役割分担になっても、大阪市民だけで背負い続けましょう」という内容です。

 大阪都構想で、広域行政だとして大阪市から大阪府へ移管する事務・事業の経費を、260万大阪市民で負担するのか、860万大阪府民で負担するのかは、制度設計の大きな根幹のひとつです。

 大阪都構想がよく分からないと言われている中で、制度の根幹について、都合よく捻じ曲げて、事実と異なる説明を行うのは、大きな問題だと思います。

 橋下市長はタウンミーティングの中で、「野党の市会議員は『市民には、こんな難しいこと分からないから、市議会議員が判断するんだ』と言ってるが、市民を馬鹿にしてる」と主張するのですが、特別区設置協議会での資料や議論など市民は知らないだろうと、制度の根幹を都合よく捻じ曲げ、事実と異なる説明をするのは、余程、市民を馬鹿にしたことだと思います。

 橋下市長はタウンミーティングで、協定書など読む必要はなく、今までの大阪の政治に決別するか、新しい大阪の政治を目指すかを判断すればいいと主張します。

 でも、彼らに都合の良い話ばかりで煽り立て、噓の説明までするセールスマンの説明だけを聞いて、商品がどんなものかも知らず、契約書の内容も知らず、売買契約を結んで幸せになる方法を、わたしは知りません。


 この記事の内容は、2014年3月の橋下氏の出直し市長選での演説について指摘した「橋下氏街頭演説 こういう大阪都構想の説明はいけないと思う」と、概ね同じ内容です。
 ただ、大事なことなので、2度書きました。


(追記1)
 記事で書きましたが、大阪都構想は「大阪市全体の事業8450億円(一般財源ベース)のうち、大阪府が2288億円部分、特別区が6173億円部分を担当し、大阪市全体の財源8450億円を大阪府に2288億円、特別区に6173億円を割り振ることで賄う」とするものです。
 「事業の配分に沿って、財源を配分するだけだから、いいじゃないか」という意見もあるのかな?と思います。

 わたしはこの点について、次の3点から、これでは大阪市民としては駄目だと思っています。

(1)「事業配分に沿った財源配分」は保証されていない

 昨年2013年8月に示されたパッケージ案では、「事業配分に沿った財源配分」は明確に打ち出されていました。
 2014年7月の協定書案を提示する中でも、長期財政推計は「事業配分に沿った財源配分」で作成されています。
 ただ、肝心の協定書案の税源配分・財政調整の部分は、特別区に対して明確に「事業配分に沿った財源配分」を保証する内容になっておらず、大阪府の裁量による部分がかなり大きいのです。(以前の記事「大阪都構想協定書(案)の税源配分・財源調整を見てみた」参照)
 何しろ、調整財源の配分率の明記もなく、地方交付税の特別区への配分となるはずの財政調整交付金加算額の算定方法も何も明記してないのですから。

 「大阪府が『事業配分に沿った財源配分』をするつもりって話で、いいじゃないか?」という主張もありそうですが、それなら協定書でしっかりと、解釈の余地なく、明記して約束すれば良いのです。
 協定書に明記をしないのは「そうでないこともできるようにするため」だと、大きな影響を受ける大阪市民としては考えざるを得ません。


(2)大阪市民の単位で何も決められないのに、大阪市民の市財源で負担するのはおかしい

 この演説の中で橋下市長が語っている「大阪市民は270万人で、ありとあらゆるものを担いでるんです。市立大学、市立病院、港、高速道路、それからその地下鉄まで、なんで270万人で負担しなきゃいけないんですか?」「今まで大阪市民だけで背負ってたものを、880万人大阪府民で、背負いなおしましょう」の部分は、一方の意見として、有りだと思います。(ただ、大阪都構想はそうなっていないだけで)

 この点について、橋下市長が、特別区設置協議会の前身の大阪にふさわしい大都市制度推進協議会で、もう少し詳しく話していたことがあります。(元データ 元サイト

「大阪市民が大阪全体のことに対して口を出すのは、大阪市議会や大阪市役所を通じてではなく、大阪市内選出の大阪府議会議員や大阪府知事に口を出して、物事決めてもらったらいい訳じゃないですか。(中略)大阪府議会、大阪府知事ってものを選んでおきながら、大阪全体のことに関して、また市民の代表ってことで市議会や市長が出てくるってのは、おかしいって言ってる訳です。(中略)それから、淀川左岸線の延伸部のところですけどね、これは大問題ですよ。(中略)財源はどうするんですか。これ、大阪市の方で財源を負担して、市民税で負担する。更に、大阪市民は府民税も負担しています。そうすると、大阪市民以外と大阪市民は完全に不公平になりますね。ダブルで積算される訳ですから。(中略)淀川左岸線の延伸部は、もし、大阪全体の仕事だと、今までの大阪市役所の言い分では、これは通過道路だから、これは大阪全体の広域行政の話であれば、これは広域行政体で全部、財源を持ってもらわなければいけません。大阪市民は府民税も払ってる訳ですから。
 ですから、権限で口を出すということは、財源も責任も負うことになることですからね。僕は、口を出すな、口を出すなと言ってる訳ではなくて、あらぬ口を出したら、責任も負わなきゃいけない。」

 言い方はともかくとして、考え方はそれなりに理解できる話に思います。

 わたしは「大阪市役所が大阪市域の広域行政を負うべきだ」とも「負うべきでない」とも思いません。どちらの考え方もあると思っています。
 だから「大阪市の単位で、大阪市域の一部の広域行政をどうするか決めるから、大阪市民は、府税で広域行政経費を負担するのに加えて、市税の一部でも広域行政経費を負担する」という考え方も分かりますし、「大阪市民も、大阪市以外の府民と同じように、府知事・府議会を通じて(大阪市域を含む)大阪府全体の広域行政をどうするか決めればいい。その代わり、広域行政経費は府税のみ負担し、市税で広域行政経費は負担しない。」という考え方も分かります。

 でも、今の大阪都構想の制度設計のように 「大阪市民は、大阪市の単位で大阪市域の広域行政を決めるのを止め、大阪市以外の府民と同じように、府知事・府議会を通じて(大阪市域を含む)大阪府全体の広域行政をどうするか決めることにする。でも、大阪市民は、府税で広域行政経費を負担するのに加え、今まで通りに市税でも広域行政経費を負担する」というのは、やはりおかしいと思うのです。


(3)特別区が担当する6173億円部分は、6173億円の財源配分で賄えないと思う

 大阪都構想の一端を簡単に言うと「大阪市の行う年間1兆7千億円の事務事業のうち、4千億円部分を大阪府に移管・統合し、1兆3千億円部分を、5つの特別区で分割して実施する」というものです。

 大阪府へ4千億円部分を移管・統合して「行政の無駄を無くす」が強調されます(ただ、実際に無駄の解消はほとんど示されていませんが。)が、一体で運営される1兆3千億円部分を5つの組織で分割して実施することによるコスト増の方は、ほとんど無視されています。

 大阪都構想で主にコスト増を発生させるのは、「現在、一体で運営される1兆3千億円部分の事務事業を5つの組織(特別区)で分割して実施」の部分です。
 「特別区が担当する6173億円部分(一般財源ベース)を、6173億円の財源配分で賄う」というのは、事務事業の特別区への分割で発生するコスト増は、全て、身近な住民サービスの原資を削って特別区が負うことを示しているのです。

 この記事で取り上げているダイエー長吉店前のタウンミーティングの中で、松井知事は大阪都構想への移行で「お金が出てくるので、行政サービスが低下することはありません。サービスは充実できます」「マイナスは一切ありません」と強調します。
 これは、協定書とセットで示された長期財政推計(元データ 元サイト)で、今後の財政運営は、大阪府も各特別区も黒字になると示されてることに基づきます。

 ここで問題にしている「1兆3千億円部分を5つの特別区で分割して実施する」ことによる、毎年のコスト増は、年間20億円(元データ P61)だとしており、年間20億円程度なら、他の市政改革による経費節減で賄えるとしています。
(2014年7月にダウンロードした資料ではリンクの通り、ランニングコストは年間約20億円だったのですが、この記事のアップ時に確認すると、いつの間にか資料が更新され、「一時保護所運営費4億円が追加されて、約25億円になっていました。(元データ)この記事は、7月時資料に沿って説明を続けます)

 でもね、変なんです。
 「5つの特別区で分割して実施する」というのは、今まで大阪市一体で行ってきた事務を、特別区という新しい体制で一から事務体制を作って、事務を行うということです。
 今まで1兆3000億円で行ってきた事務事業を、一から事務体制を作った5つの特別区で必要になる経費を試算し、5区分合計したら、1兆3020億円になると試算されたというのです。
 一から事務体制を作った結果必要となる経費の試算が、0.15%増ってどれだけ精度の高い試算なのかって話です。

 こんな種類の経費試算で、1%以下の増減なんて、試算誤差を考えたら出てくるはずがありません。実際、積算の数字を見ても、10%の精度があれば良いくらいのもので、1%の精度の数字など無理です。

 では、なぜ20億円という数字が出てくるのでしょうか?
 長期財政推計(その元となったパッケージ案も同様。)では、5つの特別区に分割することによる(ランニングコストの)コスト増は、システム運用経費、ビル賃料、議員報酬類のみを試算対象にします。
 この3項目の現行支出額は、(パッケージ案の資料から読み取ったところでは)年間120億円です。支出の120億円部分が、5つの特別区に分割で20億円増になるという試算をしたということです。これなら試算精度としても理解できます。

 でも、歳出のうち120億円部分というのでは、歳出全体の1%部分に過ぎません。人員体制の試算(かなり無理な試算なので信用できません。)を人件費の試算と捉えても、概ね歳出全体の1割程度です。
 1兆3千億円の事務事業を5つの特別区で分割して実施するとしているのに、その支出の9割部分については、何の試算もせずに「増減無し」として、年間のコスト増は20億円だとするのです。
 粗い試算でも、それぞれの項目では数十%のコスト増になるという結果が出ているのに。

 大阪都構想のコスト増の多くは、大阪市の事務事業1兆3千億円部分を5つの特別区で分割することで発生します。
 現在、支出の大半について、何の試算もしないまま「増減なし」と決め付けて、特別区が赤字になることはないと吹聴しています。

 でも実際にどれだけのコスト増が発生するのかは、何も把握されていないし、試算された項目の増加率をみる限り、巨額のコスト増が発生し、特別区の財政が酷いことになることは、普通に予想されます。

(以下の以前の記事を参照ください。)
〇大阪都構想財政シミュレーション(その4) 家を建てるなら見積もりは取りたいよ
〇(補2)児童相談所と一時保護所にみるコスト試算の精度
〇大阪都構想財政シミュレーション(その3) 今のサービス維持に必要な職員数が知りたいのに

「システム運用経費、ビル賃料、議員報酬類」3項目がパッケージ案の年間55億円増から、長期財政推計で年間20億円増になったことについての評価は、次の記事を参照ください。
〇長期財政推計になって、変わったこと、変わらないこと(その2)


(追記2)協定書を読めばいいのか?

 記事本論の結びで「都合の良い話ばかりで煽り立て、噓の説明までするセールスマンの説明だけを聞いて、商品がどんなものかも知らず、契約書の内容も知らず、売買契約を結んで幸せになる方法を、わたしは知りません」と書きました。
 では、契約内容を知るために、大阪都構想の「設計図」と呼ばれる、特別区設置協定書を読めばいいのでしょうか?
 実は、ここがなかなか難しいのです。解決策の提示にはなりませんが、大阪都構想の設計図となる内容の資料がどこにあるのかだけでも、書きとめておきます。

 橋下市長は、「1000頁もある協定書なんて読む必要がない」といった発言をしていますが、協定書は、資産や事業の割り振りを書き並べて別紙が分厚いだけで、本文は冒頭の18ページに過ぎません。だから読むのが無理といた量では全くありません。(多少、読みにくい文章ですが。)
 ただ、協定書は、「大都市地域における特別区の設置に関する法律」が定める8項目についての記載をしただけなので、大阪都構想の設計図という観点でいうと「断片」でしかないのです。肝心で重要ですが、これだけ読んでも大阪都構想がどういうものかは分かりません。

特別区設置協定書
http://www.pref.osaka.lg.jp/daitoshiseido/hoteikyo/kyouteisho.html
ただ、実際に見るなら、こちらの頁がお勧め
http://www.pref.osaka.lg.jp/daitoshiseido/hoteikyo/17hoteikyo.html

 大阪都構想の設計図に最も近いものは、昨年2013年8月9日の第6回特別区設置協議会でしめされたパッケージ案だと思います。協定書のベースになっている「試案3」の資料だけでいいです。9分冊になっていて、合計で概ね270ページあります。

大阪における大都市制度の制度設計(パッケージ案)【試案3(5区 北区・中央区分離)】
http://www.pref.osaka.lg.jp/daitoshiseido/hoteikyo/06hoteikyo-shiryo04.html

 ただ、パッケージ案は昨年の資料であり、その後、追加・修正がされています。これをまとめたものが、無いため、特別区設置協議会の2013年12月、2014年1月開催分の追加・修正資料、それから協定書案がまとめられた2014年7月開催分の追加・修正資料を併せて見る必要があります。
 協定書や長期財政推計にしても、その根拠部分はパッケージ案の資料を必要とするのですから、昨年のパッケージ案資料を最新状態にしたものを出してくれれば、こんな苦労はないのですが、協定書を理解するために、その根拠となる資料を分かり易く提示するという意識は無いようです。

大阪府・大阪市特別区設置協議会
http://www.pref.osaka.lg.jp/daitoshiseido/hoteikyo/
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