前回の「長期財政推計になって、変わったこと、変わらないこと(その1)」では、「パッケージ案に基づいた昨年の財政シミュレーションと違って、長期財政推計の財政調整は協定書の記述に基づかないから、協定書からは長期財政推計の数字は出てこないよ」といった話をしました。
今回は、効果額や再編コストが、昨年の財政シミュレーションと今回の長期財政推計で、どのように変わっているか、数字の変化を見ていきます。
本論に入る前に、ひとつ整理です。
「長期財政推計は協定書に基づくものといえないのに、『効果額や再編コストが昨年と多少変わった』について見て行くことに意味はあるのでしょうか?」

長期財政推計の総括的部分のH45部分を抽出した表です。(長期財政推計のデータ元、元サイトは上記の通りですが、長期財政推計を基にした「特別区計」はコチラから)
「長期財政推計の財政調整は協定書の記述に基づかない」というのは、この表の「歳入イ 財政調整交付金・目的税交付金」欄の数字のことです。
この記事が採り上げる「効果額や再編コスト」は、「再編効果・コストB」欄の数字のことです。
「歳入イ 財政調整交付金・目的税交付金」は重要で、特別区の財政状況に決定的な影響を与えますが、「再編効果・コストB」へ直接の影響は与えません。ですから、効果額や再編コストの話は、財政調整の問題とは切り離して議論できます。
勿論、効果額や再編コストにも、パッケージ案当時から指摘してきた様々な問題があるのですが。
それでは本論です。
まず、効果額と再編コストの比較をしたものです。

パッケージ案(データ元 元サイト 1/17資01-P20)
長期財政推計(データ元 元サイト)
長期財政推計の特別区計(元サイト)
大阪都構想との「関係項目」「無関係」の別は、以前の記事「大阪都構想財政シミュレーション(その2) 関係ない効果額を分けてみた」の区分と同様にしました。「大阪都構想財政シミュレーション(その2) 関係ない効果額を分けてみた」で特に断りを入れたもの(「職員体制の再編」の区分)を除き、以前の記事「大阪都構想パッケージ案の効果額仕分け」の<大阪都構想効果額仕分け>の表に拠ります。
まず、全体を表す一番目の表を見ると、AB項目等(事業統合、経営形態変更、大阪市政改革などの効果額。要するに「職員体制の再編」以外の効果額)が227億円→168億円と▲58億円のように、かなりの効果額の減少がみられ、全体の効果額を示す「差引効果額」は307億円→229億円(▲78億円)と、たった1年で25%減になってしまいました。
項目の内訳を見ると、変動額の大きいのは特別区側で、
特別区・AB項目等の無関係分 69億円減
特別区・「職員体制の再編」の関係項目分 24億円減
特別区・再編コスト 14億円減(コスト減なので14億円のプラス効果)
の3項目です。分かるだけでも、その内容を見ていきます。
〇特別区・AB項目等の無関係分 69億円減

特別区のAB項目等の無関係分を、内訳の各事業で比較すると、効果額が次々と減少したり、無くなっていたりしていることが分かります。
財政シミュレーションと長期財政推計の、ここでの大きな違いは、財政シミュレーションが「平成26年度以降発生分」なのに対して、長期財政推計は「平成27年度以降発生分」と、1年のズレがあることです。
「特別区のAB項目等の無関係分」というのは、要するに大阪都構想と無関係な市政改革効果ということですから、大阪都構想の実現と関係なく平成26年度にも実施されていきます。
分かり易い例でいうと、敬老パスの15億円というのは、今年8月から実施された「利用1回につき50円徴収」による財政負担の削減分のことです。
平成26年度に実施が確定になると、長期財政見込み〔粗い試算〕に反映されるので、「今後新たに発生する効果額」ではなくなり、減額されるのです。
「大阪都構想の効果額だ!」と言って、大阪都構想と無関係な効果額をいっぱい積み込んでいるために、大阪都構想を実施するかどうかと無関係に、どんどん実施されていって、「大阪都構想が実施されたら、今後これだけの効果額があるぞ!」と主張している数字から、ボロボロと抜け落ちているのです。
少し補足したいのが、地下鉄の15億円減少です。
本来、「地下鉄」というのは、地下鉄民営化効果のことです。地下鉄民営化効果額165億円には、一般会計繰出金71億円(平成23年度当時)の削減が含まれていますが、地下鉄民営化実施と無関係に平成27年度には12億円へと59億円の削減が行われるようです。15億円の減少とは、その一部のようです。(参照:地下鉄民営化効果額の整理)
〇特別区・「職員体制の再編」の関係項目分 24億円減

特別区の「職員体制の再編」の効果額が、91億円→67億円(▲24億円)と26%減です。
「粗い試算との重複効果を控除」の10億円減は、AB項目等と同じです。(大阪都構想実現と関係なく)平成26年度中に市政改革として職員(又は人件費)の10億円削減の実施が確定され、長期財政見込み〔粗い試算〕に反映されるので、「今後新たに発生する効果額」ではなくなり、減額されるのです。
大阪都構想の「関係項目分」とした中から、大阪都構想と関係無く、市政改革効果が発生したことになりますが、「職員体制の再編」関係は大阪都構想の関係・無関係の区分が困難で、特別区分は区分をせずに、全額を大阪都構想の「関係項目分」に分類しています。
そのため、大阪都構想の「関係項目分」とした中から、大阪都構想と関係の無く実現することで、無関係分と明確になる部分が出てきました。
「再任用活用による効果額」が28億円→14億円(▲14億円)と半減してしまった理由は、説明が見当たらないため、不明です。
〇特別区・再編コスト 14億円減(コスト減なので14億円のプラス効果)
財政シミュレーション時と長期財政推計の特別区の再編コストを並べてみると、次のようになります。

大きく動いた理由は次の2点です。
●特別区設置で発生する庁舎面積の不足を、財政シミュレーション時の「民間ビルを借りて賄う」から、長期財政推計では「不足分の庁舎を新築する」に切り替えたことです。
そのため、長期財政推計では、イニシャライズコストの庁舎関係費用が大幅に増え、ランニングコストの庁舎関係費用が減少しました。
●「各特別区に新たに必要となる経費」とは主に議員報酬・政務活動費などのことです。財政シミュレーションの元となるパッケージ案では、近隣中核5市の平均で議員数・報酬・政務活動費を試算し、区議を243人(現行の大阪市議86人より大幅増)としていました(元データ 元サイト パ07-P8)が、協定書の取りまとめに当り、区議を86人(現行の大阪市議と同数)にすることにしました。(議員報酬は現行より削減)
そのため、長期財政推計では「各特別区に新たに必要となる経費」が無くなり、逆に2億円のコスト減となりました。
それぞれについて、もう少し整理します。
●「民間ビルの賃貸」から「不足面積の庁舎新築」への変更
上の表から「ランニングコストが減少」としましたが、毎年の再編コストとして捉えると少し違ってきます。

H45年度=長期財政推計の最終年度の数字ですが、17年目ですから、「都構想の実現初期」ではなく「平年ベース」でいいはずです。
このH45年度になっても、(主に庁舎関係の)イニシャルコストが24億円発生しています。17年目にもなったら、イニシャルコストとランニングコストを区分する意味合いはあまり無いように思います。
「新庁舎建設経費」は公債償還費と思われ、年度により上下しますが、H45年度の23億円は、極端に多い年でも少ない年でもありません。
イニシャルコストとランニングコストの合計で捉え、イニシャルコストを全額庁舎関係費用とすると、庁舎関係費用は、財政シミュレーション時が16億円、長期財政推計では18.8億円です。年度による上下を考えると、庁舎関係費用は、この変更であまり変わっていないと捉えるのが良いと思います。
コストだけを考えればということで、コスト以外の差異は様々に発生しますが。
●区議数を243人から86人への変更
上の表のH45年度の再編コストの比較で分かる通り、再編コストの減少額14億円に対して、「各特別区に新たに必要となる経費」(議員報酬など)の減少額が19.7億円ですから、再編コストの削減の大半が、区議数を243人から86人に変更したのが主な理由と分かります。
この区議数の削減は、第15回特別区設置協議会(2014年7月9日開催)で提案、決定されたもので、提案者の提案理由は次の3つです。(データ元 元サイト)
(1)大阪市の2000以上の事務事業を、現在86人でチェックしているのだから、特別区ができても、大阪市域の1600の事業を同じ人数でチェックできない訳がない。
(2)議会コストを増やすのは、極力避けるべき。
(3)特別区の議員定数は、各特別区で決めればいい。
(2)と(3)は、86人の妥当性というよりも、単に「区議を増やしたくない」「区議が増える責任を負いたくない」と言ってるだけです。
(1)も、表面的に聞くとそれらしいですが、特別区ができると、それぞれの区議会で1600の事業のチェックをするのです。規模は小さくなるとはいえ、「大阪市の2000以上の事務事業を86人でチェックしているのだから、湾岸区では12人で1600の事務事業をチェックできるのは当然だ」というのは、普通、無理があるでしょう。(参照「市議86人でできても、区議総数86人ではできないと思う」)
5つの特別区の区議の数と人口規模は次の通りです。(元記事)

また、全国の市議会の平均市議数は次の通りです。(データ元 元サイト)(「大阪都構想の場合」欄は、こちらで付け足しました。)

他の市の平均市議数と比較してみると、(人口規模からみた)それぞれ特別区の区議数が、少な過ぎることがよく分かります。
結局、「大阪市を5つの特別区にすることで、区議の数が3倍近くに増える」というのは、「都合が悪い」ので、実際に区議会がちゃんと機能するのか無視して「区議数を86人にする」と決めたとしか思えません。
この長期財政推計の基となるコスト試算で、5つの特別区で担当する1兆3千億円分の事業の(歳出額割合で)約9割について、「5つの特別区で分割して実施した際に、どの程度増加(または減少)するか」の試算をすることなく、「5つの特別区で分割して実施しても、所要経費は変わらない」とコスト試算をしているのと同じです。
(一般に、一体で行う事務事業を、5ヶ所で分割して行えば、所要経費は増加しますが、1兆3千億円が数%増加するだけで、「特別区で180億円の効果額」とか言ってるような、この長期財政推計は、大赤字になります)
長期財政推計での再編コストの減少は、主に「区議数を243人から86人へ変更」したことによるものですが、合理的な変更とは評価できません。
この記事で次の整理もしておきます。
このブログでは、財政シミュレーションについて、次の記事をアップしています。
〇大阪都構想財政シミュレーションを見てみた(その1)
〇大阪都構想財政シミュレーション(その2) 関係ない効果額を分けてみた
〇大阪都構想財政シミュレーション(その3) 今のサービス維持に必要な職員数が知りたいのに
〇大阪都構想財政シミュレーション(その4) 家を建てるなら見積もりは取りたいよ
〇(補1)大阪都構想の統合効果が悲し過ぎる
〇(補2)児童相談所と一時保護所にみるコスト試算の精度
このうち、おまけの(補1)(補2)を除き、(その1)〜(その4)について、財政シミュレーションから長期財政推計への変更で、どのような影響があったか、整理しておきます。
〇大阪都構想財政シミュレーションを見てみた(その1)
〇大阪都構想財政シミュレーション(その2) 関係ない効果額を分けてみた
この2つの記事については、今回の数十億円の変更、それも主に「大阪都構想と無関係な市政改革の効果額が、大阪都構想の実現と無関係に実施され、今後発生する効果額から外れていった」というのでは、大勢に影響はありません。
ただ、微妙にあちこちの数字か変わると思われるので、更新版を今後アップしていきます。
〇大阪都構想財政シミュレーション(その3) 今のサービス維持に必要な職員数が知りたいのに
この記事の大意は「近隣中核5市の(住民1人当り)平均職員数で、特別区の職員数を決めると、50万人規模の5区案で約15%の職員数の削減をできるとしているが、これは特別区が担当するとしてる(現行の大阪市の)業務と近隣中核5市の業務内容の比較をしておらず、問題がある。大阪市を5つの特別区に分割して自治体の規模を小さくすると、スケールメリットが失われるから一般には職員数は増加するのに、削減した職員数で、実際に事務が行えるかの、検討もしていない」というものです。
長期財政推計には、財政シミュレーションの基になったパッケージ案の「職員体制」(データ元 元サイト)のような、職員配置の詳しい説明資料はありません。

(元データ12/6シ-P61 元サイト)
(元データ 元サイト)
ただ、長期財政推計は、特段の変更がなければ、概ねパッケージ案の考え方を踏襲していますし、この表で平成45年度の特別区の職員数を比較しても、10916人→10892人(▲24人)ですから、特に変更はされていないと思われます。
ですから、財政シミュレーションから長期財政推計への変更で、記事内容への影響は見られません。
なお記事冒頭の「大阪都構想パッケージ案は、大阪市の基礎自治体業務を5つの特別区に分割することで、職員数を平成25年度の12866人から10916人へと1950人削減し、91億円の効果額を上げるとしています。」は、
表の通り「大阪都構想後の職員体制は、大阪市の基礎自治体業務を5つの特別区に分割することで、職員数を平成26年度の12828人から10892人へと1936人削減し、67億円の効果額を上げるとしています。」に変わりました。
〇大阪都構想財政シミュレーション(その4) 家を建てるなら見積もりは取りたいよ
この記事の大意は「特別区のコスト試算で、特別区歳出額1兆3千億円の90%部分について、『大阪市の基礎自治体事務を5つの特別区に分割した後の運営経費』を試算せず、どんなコスト増が発生するか全然分かっていないのは、大きなリスク要因。コスト試算を行った1%部分(システム運営経費、ビル賃料、議員報酬等)は5割増しの試算結果になっているのに」というものです。
長期財政推計になっても、「特別区のコスト試算で、特別区歳出額1兆3千億円の90%部分について、『大阪市の基礎自治体事務を5つの特別区に分割した後の運営経費』を試算せず、どんなコスト増が発生するか全然分かっていない」ことは変わらず、財政シミュレーションから長期財政推計への変更で、記事内容への影響は見られません。
コスト試算を行った1%部分(システム運営経費、ビル賃料、議員報酬等)については、
財政シミュレーション時
現行支出額120億円→特別区分割後175億円(55億円増 46%増)
長期財政推計(H45年度)
現行支出額120億円→特別区分割後158億円(38億円増 32%増)
と、「コスト試算を行った1%部分(システム運営経費、ビル賃料、議員報酬等)は、区議総数を86人に止めるという無理な想定をしても、3割増しの試算結果になっているのに」
・・・となります。