2014年09月29日

長期財政推計になって、変わったこと、変わらないこと(その1)

 第17回特別区設置協議会(2014年7月23日開催)で、大阪都構想の特別区設置協定書(案)が示されると共に、各特別区の長期財政推計[粗い試算](元データ 元サイト)が示されました。
 この各特別区の長期財政推計[粗い試算]は、第10回特別区設置協議会(2013年12月6日開催)で、パッケージ案ベースのものとして示された財政シミュレーション(元データ 元サイト)を、協定書(案)ベース(?)に更新したものです。
(併せて、「シミュレーション」という確実性の期待されそうな呼称を、「財政推計」という「天気予報並みに外れても責任負わないよ」な呼称に変えてしまいました。)

 各特別区の長期財政推計[粗い試算]が、以前の財政シミュレーションと、どういう点が変わったのか?変わっていないのか?見ていきます。

 また、各特別区の長期財政推計[粗い試算]には、以前の財政シミュレーションと条件を合わせた「その1」と、地下鉄・市バス・一般廃棄物収集の民営化が行われない場合の「その2」がありますが、ここでは「その1」を使って見ていくことにします。


 最初に言ってしまうと、長期財政推計になって、効果額も再編コストも、それなりに変化がありますが、「大きな影響があるか?」というと、それ程とは思いません。
 そこで今回は、効果額や再編コストの直接の数字ではないところで、大事かなと思う点を挙げてみます。


(1)協定書からは、長期財政推計の数字は出てこない

 一番本質的な話だと思いますが、協定書の税源配分・財政調整の記述から、長期財政推計が前提とする財政調整の特別区への配分額は出てきません。だから、長期財政推計は、協定書の示す姿とは言い難いものになりました。

 パッケージ案ベースの財政シミュレーションは、大阪府と特別区の事務配分に沿った財源配分にすると明確にし、3税(固定資産税、法人市民税、特別土地保有税)+地方交付税の76%を配分するものとして、財政シミュレーションは作成されていました。

 長期財政推計では、財政調整は「3税+地方交付税(臨時財政対策債を含む)をH24年度決算に基づく試算値(特別区77%)で配分」(元データ 元サイト 財政推計P35)とされていますが、協定書では3税を調整財源とし、配分割合は、特別区設置の日までに大阪府知事と大阪市長で調整するとしている(元データ 協定書P9)のみです。

 協定書と長期財政推計で調整財源の種類がそもそも合ってませんし、(まだ決められていない)配分割合を仮に置くのだとしても、協定書に記述に沿って、試算の条件を明らかにしながら、配分割合や加算額を設定するのでなければ、協定書に沿った長期財政推計だとは言えません。

 長期財政推計の「3税+地方交付税(臨時財政対策債を含む)をH24年度決算に基づく試算値(特別区77%)で配分」に合うように、財政調整する「つもり」なんだと説明されそうですが、協定書の記述に合っていません(3税で所要額を埋めるなら、当然3税の配分割合が地方交付税の配分割合より大きくなる。)し、協定書での文書での約束を避けて、口約束だけしかしない「つもり」をアテにして、わたしたちの身近な行政を委ねる訳にはいかないのです。

 協定書の税源配分・財政調整の記述は曖昧で、この記述からどのような財政調整になるか、一意に決まりません。(現在の大阪市長と結託した)府知事・府議会が恣意的に運用すれば、長期財政推計の前提に合わせた財源配分もできると思われますが、知事が替わって「そんな『つもり』など知らない」と言えば、全然違う財源配分に、いくらでもなってしまいます。協定書できちんと約束していないのですから。

 パッケージ案ベースの財政シミュレーションは、パッケージ案に基づく設計図の一部と言えるものでした。
 それに対して、協定書に基づくとは言えない長期財政推計は、「もしかして、うまくいったら、こんな風になるかもしれないね」というイメージ図に後退してしまいました。

 協定書の税源配分・財政調整の記述は曖昧さや長期財政推計との関係は、前回の記事「大阪都構想協定書(案)の税源配分・財源調整を見てみた」で詳しく説明していますので、ご参照ください。


(2)収支不足は大阪都構想と関係なく解消する

 橋下市長が、出直し市長選で強調してみせた次の3色グラフ。
維新グラフ_再編効果と現状維持を比較(積算).jpg

 「現状維持、莫大な借金、都構想が実現しないと平成45年までに、約2323億円の赤字。」という説明が、波紋・反発を呼びました。

 このブログでも以前の記事「大阪都構想財政シミュレーション(その2) 関係ない効果額を分けてみた」で、このグラフを取り上げました。

 ところで、この3色グラフの赤い部分にあたる収支不足額が、財政シミュレーション時と、長期財政推計で、次のように大きく変わりました。
赤字累積額比較.jpg
財政シミュレーション(元データ 元サイト
長期財政推計(元データ 集計データ

 財政シミュレーションでは「平成34年度以降、ある程度赤字額は収まるが、毎年数十億円程度の赤字がずっと続く」というものでした。
 それに対して、長期財政推計では「平成35年度には黒字に転換し、その後安定して黒字が続く」に変わりました。

 長期財政推計の数字を3色グラフ風にすると、次のようになります。
三色グラフ.jpg

 収支不足額の見込額の変更は、大阪都構想と直接関係するものではありませんが、出直し市長選で市長(候補)と知事が、大看板で説明していたにしては、たった数ヶ月で大きく変わってしまったものです。

 収支不足が大阪都構想と何の関係も無いと誰の目にも明らかになりましたから、「都構想を実現しないと、莫大な借金がたまるぞ」のような脅迫めいた話でなく、冷静にメリット・デメリットを比較して、大阪市民が判断できることを望みます。


(3)特別区の規模の差が大きい

 第14回特別区設置協議会(2014年7月3日開催)で区割り案の変更が提案され、従来の5区分離案の区割りから次のように変更されました。
〇B区(現在の湾岸区)から、住之江区の東部を分割し、南区へ編入。
〇B区(現在の湾岸区)から、福島区を北区へ編入。

 その結果、各特別区の規模は、
北区 63万人
湾岸区 34万人
東区 58万人
南区 69万人
中央区 42万人
 と、なりました。

 これに対するひとつの指摘は、北区63万人、南区69万人という巨大な特別区は、大阪都構想が標榜したニア・イズ・ベター(基礎自治体を住民に身近な規模にして、身近な行政への住民の意思反映を図る)の実現になるのかという点があります。
 ただ、ここでは、特別区の規模の差の方に着目してみます。

 現在の区割り決定に当たり、7区案が駄目だとされたのは、7区案では黒字転換が難しいということでした。
 これは、パッケージ案でのコスト試算では、歳出の大半の部分について規模比例(規模によるコスト差が発生しない)だとしているのですが、職員数に関しては、45万人規模より30万人規模では(同一規模当り)約17%の割り増しが必要だとして、5区案より7区案の職員数を割り増しして試算したため(元データ 元サイト パ試1-02P15)でした。

 湾岸区の34万人と南区の69万人では、2倍の差があり、当然、行政効率にもかなりの差が出てきます。

 湾岸区の34万人というのは完全に7区案の規模ですから、職員数の割り増しが必要なはずです。
 パッケージ案に基づく財政シミュレーションと違い、長期財政推計では、試算の根拠は碌に示されていませんから、十分な確認はできませんが、「特別区の概要」の数字(元サイト)を見ると、(十分かどうかは別にして)湾岸区に職員数の割り増しがされている風です。
区別職員数.jpg

 特別区の規模差による行政効率の格差は、パッケージ案の検討では想定していない、やっかいな問題を引き起こします。

 元々、財政調整は、区民1人当りの財政規模の均衡をひとつの基準にしてきましたが、特別区の規模で歴然とした行政効率の格差があると、それでは中々合意できなくなってくるのです。

 協定書についての野党勉強会の中で、財政調整を担う大阪府・特別区協議会(一般に都区協議会と言われるもの)で、協議が中々まとまらないだろうと指摘されていました。

 その典型になりそうなのが、規模による行政効率の格差で、大規模区である南区、北区、東区は区民1人当りが同水準であるように求めるでしょうし、湾岸区、中央区は、実際の行政効率を反映した小規模区への割り増しを求めるでしょう。
 どちらにとっても重要なことですし、どちらが正しいというのはありませんから、中々まとまりそうに思いません。

 難しいからこそ、当事者間の利害対立が起きる前に方向性の整理をしておいた方がよいのですが、大阪府は関係ないからなのか、適当に特別区間で対立しておいて貰った方が、大阪府としては都合が良いのか、その整理は見当たりません。

 そもそも、湾岸区の職員数の割り増し自体、配置数から推測しているだけで、本当に行っているのか、どういう基準でどの程度の割り増しとしているのか、といったことは、何も示されていません。
 だから、本当に小規模区がちゃんと運営できるのかも、確認もできません。


 次回は、長期財政推計になって、効果額や再編コストがどのように変わっているか、数字の変化を見ていくことにします。
posted by 結 at 04:34| Comment(0) | 協定書 | 更新情報をチェックする
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